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熊本県宇城市・不知火町(うきし・しらぬいまち)。デコボンを代表とする柑橘類やぶどうなどの果樹栽培が盛んで、昔ながらの白壁の建物が残る町です。
来年の春、この町に古民家を活用した宿がオープンします。今回募集するのは、宿に併設されるカフェレストランで調理を担当する人です。
いま決まっているのは、地元のフルーツをふんだんに使ったメニューをつくりたい、という点のみ。
料理のジャンルや営業形態については、来てくれる人のスキルや興味に合わせて、一緒に考えたいとのこと。来年のオープンに向けて、お店の土台づくりから関わることになります。
都会での経験を土台に、料理人として地方で新たなスタートを切りたい。農家と直接関われる環境で料理をしたい。そんな人には、チャレンジしがいのある仕事だと思います。
また、補助金申請やイベントの企画など、プロジェクト全体を裏方としてサポートしていくプロジェクトアシスタントも併せて募集しています。
目指すのは、不知火町のなかでも海に面した松合(まつあい)という集落。熊本空港からは、南へ車で40分ほど。
車を降りると、前方には海、後方は段々畑の果樹園が広がっている。町並みは、港町らしい路地と白壁の建物が並ぶ、ゆったりとした雰囲気。
今回、宿とカフェレストランになる予定なのが、メイン通りに面している「天満屋」という古民家。
もともとは醤油蔵として使われていたそうで、中に入ると大きな醤油樽も残っていた。
ここで話を聞かせてもらったのは、坂本さん。「まっちゃ活かそう会」という、地域のまちづくり団体の会長として、長年活動をしてきた方だ。
「この天満屋は、昭和の初めまで醤油蔵として営業していました。松合は、江戸時代にお酒づくりが始まり、その後は醤油づくりに切り替えつつ、長いこと醸造が盛んな地域だったんです」
熊本城に最も近かったことから、明治までは肥後随一の漁港としても知られていたそう。
白壁の立派な建物の数々を見ても、その繁栄ぶりがうかがえる。
「今では醸造も漁業も衰退してしまって、お店もほとんどなくなってしまいました。昔は醤油屋さんや呉服屋さんが通りにたくさんあってね。残っている建物も、多くは空き家なんです」
いまの強みは果樹栽培。なんでも、デコポンの品種のひとつである「不知火」発祥の地なのだとか。
過去には醸造と漁業で栄えた歴史もあるし、その面影を残す町並みは「資源」とも言える。
「これだけいいものを持っているこのまちを、もっと外の人にも知ってもらいたい。そんな思いから、20年ほどいろんな活動をしてきました」
景観を維持するため、補助金を活用して白壁を塗り直したり、町を楽しみながら歩いて回れるように案内板を立てたり。
月に一回、通り沿いで果物などの産品を販売する朝市は、約20年間にわたって継続してきた。
今回の宿づくりは、坂本さんたちが続けてきたまちづくりの新たな一歩。
築120年ほどの天満屋を再生し、このまちに訪れる人を気持ちよく迎え入れたい。そんな思いからプロジェクトがスタートした。
中心メンバーには、地元の若手農家も加わったそう。
「若い人が関わってくれるようになったのがね…すごくありがたいなと思っているんです。やっぱり新しいことは若い人の視点で進めていくのがいいじゃないですか」
「あそこができたから俺もやってみようかなって、いろんな人が松合でチャレンジするきっかけになるような場所にしていきたいですね」
続けて話を聞いたのは、坂本さんとともにプロジェクトを進めている内山さん。
松合で果樹農家を営みながら、宿の事業主体であるon the soilという会社を立ち上げて活動している。
小さいときから、ずっと松合で過ごしてきたという内山さん。宿のプロジェクトに参画したのは、地元の小学校が昨年閉校したことがきっかけだったという。
「それまでは、自分の農業だけをがんばればいいって思ってたんです。でも、自分が通っていた小学校が本当になくなっちゃうと、やっぱり寂しい気持ちが湧いてきて…。このままだと松合から人がどんどんいなくなっちゃうんじゃないかって思ったんですよね」
「自分になにかやれることがあるなら、チャレンジしてみたい。それでプロジェクトを引っ張っていくことを決意しました」
昨年から本格的に関わり始めたものの、コロナ禍もあり、古民家の改修は一旦ストップせざるを得なかった。
それでもできるところから始めようと、on the soilのホームページやPR動画を作成したり、夜市イベントを企画したり。一歩ずつ、できることから形にしている。
今年から改修工事も動き出し、現在は設計の検討段階。来年の春オープンに向けて、準備を進めているところだ。
とはいえ、まち並みのほかには目立ったお店も今はない状態。オープンに向けて、人を呼ぶ工夫もさらに必要な気がします。
「そうなんです。ただ、松合って熊本から天草方面へ観光に行く人にとっては通り道にあるんですよ。コロナ前までは、個人でまち歩きをする人もいたし、団体バスが来たりすることもありました」
「今後は人も戻ってくると思うし、そもそも存在自体を知らない人も多い。食と宿泊の拠点ができたら、通り道じゃなく、松合を目指して来てくれる人も増えると思うんです」
たとえば、坂本さんをはじめ地域の人がまち歩きのガイドをしているので、まち歩きとセットでPRしたら興味を持ってくれる人がいるかもしれない。
朝市や夜市など、まち並み以外のコンテンツも企画しているところなので、どうしたら行ってみたくなるか、外の人の視点を活かす余白はたくさんある。
「客室は2〜3部屋で、1階をカフェかレストランにする予定です。設計はギリギリまで粘ろうと思っているので、来てくれる人の意見も聞きながらキッチンや店内のつくりを詰めていきたいと思っています」
「ポテンシャルはある地域なので、昔の人たちが残してくれたものをちゃんと活かしていけたら、外からも人が訪れるような場所になると思う。そのためにどうしたらいいか、一緒に考えていきたいですね」
カフェレストランになる1階は、道路に面していて外からもよく見える。宿の顔になるような場所だ。
醤油蔵だった雰囲気を活かしつつ、メニューには地元産のフルーツを贅沢に使っていきたいとのこと。
どんなフルーツがとれるのか、プロジェクトメンバーの野村さんに聞いてみる。
「僕は、この近くでのむちゃん農園っていう果樹農園を経営しています。デコポンや温州みかん、シャインマスカットや巨峰など、柑橘類やぶどう類を全部で20種類くらいつくっていて」
温暖な気候に、ほどよい斜面の山と、適度な海風。松合は、果樹栽培に適した条件が整っている地域なのだそう。
「春はでこぽんや河内晩柑(かわちばんかん)の時期で、夏頃はシャインマスカットや巨峰。秋からは温州みかんが実り始めて、冬にはまた柑橘類がたくさんできてくる、というサイクルですね。1年を通してなにかしらが旬を迎えているような感じです」
「内山さんも僕も果樹農家なので、カフェレストランで使うフルーツはいいものが提供できます。メニューも、農家ならではの知識と来てくれる人のアイデアを活かして、どんなものをつくるか一緒に考えていきたいですね」
「持ってきたんでどうぞ!」と渡してもらったのは、大玉のデコポン。その場で剥いて一口食べると、甘みがしっかりとあって、みずみずしい食べ心地。名前の通り、皮がぽこっと突き出た姿もかわいらしい。
たとえば、季節のフルーツを使ったパフェやアイスクリームなど、スイーツメニューは間違いない。
フレンチやイタリアンの料理に使うこともできそうだし、デコポンの皮を器代わりしたら、見た目にも楽しい。今回入る人の経験や技術に合わせて、さまざまなメニューが考えられる。
また、野村さんたちをはじめ生産者との距離が近いので、お客さんに収穫体験をしてもらってお店で調理したり、生産者の話を聞きながら一緒に食事を楽しんだり。いろいろな楽しみ方ができる場所にできそうだ。
「僕は東京の中央卸売市場で働いたあと、地元に帰ってきたんです。松合に戻ってきて夕日を見たときに、こんなにきれいな場所だったんだって、あらためて感じて」
「だからこそ魅力を伝えたいし、いろんな人に来てもらいたい。そういう欲で動いてるんです。頭のなかでは、賑わう松合の様子がもう浮かんでるんですよ。カップルがこうやって、腕回したりしてね」
冗談を言いながら楽しそうに、ときに真剣に。ふたりは町の未来を語ってくれる。
食に関わる人も、おふたりのようにまちを知るところから始まると思う。その上で、このまちにあるものをどう活かすのか、開拓者のような気持ちで一緒に考えてほしい。
「フルーツはもちろん、魚介類もおいしいです。イノシシもいて、ジビエで使うこともできると思う。1からお店をつくるのは大変ですが、そのぶん決まりごとも少ないので、いろんなことができる環境ですよ」
それに続けて、隣で聞いていた内山さん。
「この宿とお店をきっかけに、ほかの空き家でも新しいチャレンジが始まってほしいと思っていて。だから、まさにここがスタートなんです」
「どう活かすか、それだけだと思うので。好奇心旺盛に、一緒に面白がって動いてくれる人と出会いたいです」
松合からの帰り道、この一年間プロジェクトを支えてきた小野さんにも話を聞かせてもらった。
小野さんは古民家を活用したまちづくり活動を支援するNOTEという会社のスタッフ。
今回募集するプロジェクトアシスタントは、小野さんと同じような立場からプロジェクトを支えることになる。
昨年は、HP制作や動画撮影のプロデュースをしたり、夜市のイベントを提案したり。補助金申請などの裏方を中心に、事業に伴走してきたんだそう。
「内山さんと野村さん、最初に会ったときは本当に自分たちでやれるのかって、不安も大きかったんだと思うんです」
「でもHPをつくったり、PRの動画を撮影したり、会社を立ち上げたり。俺たちでやるんだ!っていう実感が積み重なっていくなかで、ふたりともどんどん目が輝いていくなあと思いました。一緒にワクワクしながら事業を進めることができるのは、私もとても楽しいですね」
小野さんは、どんな人に来てほしいですか。
「そうですね…シェフもアシスタントも、地域の人を巻き込んでいける人がいいと、私は思うんです。わかんないことをわかんないって言える人。飾らずに、素直な気持ちで精一杯がんばれる人だったら、力を貸してもらえると思います」
「松合の人って、すれ違うとみんな挨拶してくれるんですよ。たとえば、挨拶を返したら立ち話が始まって仲良くなっちゃった、みたいなコミュニケーションが好きな人だったら、より楽しめるんじゃないかな」
松合の人たちも、伴走する人も、まだはっきりと見えない行き先をじっと見据えながら、懸命に進む姿が印象的でした。
一緒に悩み、前へ進んで、面白がる。その先に、思い描く風景が待っているのだと思います。
(2021/4/8 取材 稲本琢仙)
※撮影時はマスクを外していただきました。