求人 NEW

木を挽いて
半径35キロの
未来をつくる

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

「地方で生きていくと、自分たちの未来を、自分たちの手で掴み取ることができるんです。都市型だと社会システムがすごく大きくて、なかなかコントロールできない。だけどここは、地域の人たちと一緒にどうしたら地域が持続的に成り立つかを考えて、その一翼を担いながら生きていける。それって最大の豊かさなんじゃないかと思うんです」

そう話すのは、有限会社きたもっくの福嶋さん。

群馬県北軽井沢で、全国にファンの多いキャンプ場「スウィートグラス」や、森との関わりをテーマとしたフィールド「ルオムの森」などを運営するきたもっく。

ほかにも薪ストーブの販売や自伐型林業、建築、そして養蜂など、幅広く山を活用した事業を展開しています。

今回は、今年から始動した地域資源活用事業部「あさまのぶんぶんファクトリー」に新しくできる製材所で働く人を募集します。あわせて、薪ストーブの施工スタッフやシステムエンジニアなども募集中。

森に生えるさまざまな種類の木に触れる仕事です。木が好きな人にはたまらない環境だと思います。

 

浅間山を望みながら緩やかな山道を登っていくと、心地いい林のなかに「あさまのぶんぶんファクトリー」が見えてきた。

東京からだと渋谷駅から北軽井沢までの直通バスで4時間ほど。

10月の初めにもかかわらず、すでに山の木々はわずかに紅葉しはじめている。

事前にメールで「寒いので温かい格好で来てください」と言われていたものの、この日の北軽井沢は季節外れの温かさ。

「あついですね!」

そう言いながら、半袖姿で出迎えてくれたのは福嶋淳平さん。地域資源活用事業部を取りまとめている。

きたもっくは淳平さんの父・誠さんが創業した会社。いまから26年前、牧草地に一本ずつ木を植えるところからスタートした。

12年前まで、事業はグリーンシーズンのキャンプ運営のみ。

その後、浅間山麓の冬の寒さを武器に変えようと、薪ストーブを体験できるコテージを始めたことで、冬キャンプの火付け役になった。それにともない、薪ストーブ事業「あさまストーブ」をスタートすることに。

順調に薪ストーブを売り上げるにつれて、今度は大量の薪が必要になっていった。そこから薪の製造販売、さらには自社で山林を買い取り、自伐型林業を始めるなど、目の前の課題を解決するなかで事業を広げてきた。

「当時、僕は薪事業の専任だったんですけど、原木を見ていると、これ薪にするにはもったいないよねっていう木がたくさん出てくるんですよ。それを何かに使えないかと思って、脇に積んでおいたんです」

明確な使い道があったわけではない木を貯め込む淳平さんに、社内から批判の声もあったそう。

「でもこれは僕の癖(へき)ですかね。俺は薪屋だけど、薪屋じゃない!と。この木は資源であって、この地域の山を含めた資源をどう有効活用するかは、我々の手にかかっていると思ったんです」

そして、これまでの事業をまとめる形で地域資源活用事業部「あさまのぶんぶんファクトリー」を発足した。

コンセプトは、「山から始まる産業革命」。

木を育て、蜂を飼い、集めた原木で薪や家具、さらには住宅もつくる。

環境に負荷のかかる輸送コストを減らすため、半径35kmのエネルギー自給経済圏を設定し、地域内で循環できる事業のあり方を模索し続けている。

山に眠る資源を活用し、山と人との豊かな関係構築を目指す。既存事業で足りないところは、新しく立ち上げる。

その一つが製材所だ。

「新しくできる製材所では、針葉樹も広葉樹も挽くことになります。我々は家具、建築、そして薪と、自社で木材の出口をたくさん持っているので、木を見てからその木にあった用途に製材することができるんです。まさに適材適所で」

一般的な製材所では分業化が進み、建材・家具材・土木材それぞれに特化した製材所に分かれていることがほとんど。そのため、原木が製材所に入ってきた段階で用途が決まっていることも少なくないそう。

「林業から加工・販売に加えて製材をやることによって何ができるかというと、建築チームや木工チームからこういう木目の材がほしいとか、この現場にハマるこういう形の板がほしいといった、具体的なオーダーがきたときに応えられる。山で木を見てからほしい木を伐りだすこともできます」

 

そんな製材所で働くことになるのが中川さん。

現在は11月の製材所のオープンに向けて準備を進めている。

今年2月にきたもっくに入社するまでは、大阪でギターの職人をしていた。

「ずっと木と音とか、自然と音の関係性に興味があったんですけど、それを置き去りにして、ひたすらお客さんの要望に合わせてギターをつくっていることに矛盾というか、少し違和感を覚えていたんです」

そんななか、きたもっくが運営する「ルオムの森」に訪れた。

ルオムというのはフィンランド語で「自然に従う生き方」という意味。きたもっくの企業理念でもある。

「まず浅間山を見て、この場所が好きになりました。しばらく滞在していると、スタッフの人たちが季節や天気の変化に合わせて、まさに自然に従いながら臨機応変に働いているのが見えてきて。私もそういうことを体現しながら働きたいと思って入社しました」

現在は、これまでの木工経験を活かして建材の加工や、内装家具を製作している。

自宅では木版画をする奥さまと一緒に、工房の設営を計画中とのこと。

製材所では具体的にどんなことをするのだろう。

「林業チームから丸太を受け取って、建築や家具の案件に合わせて製材し、さらに乾燥させていくのが主な仕事です。いまは最近始動した乾燥機で、樹種ごとに最適な温度や湿度のデータを取りながら、乾燥のノウハウを蓄積しています」

木工の経験はあるものの、製材は未経験の中川さん。これから近くの製材所で研修をしながら、製材の基礎を学んでいくそう。

新しく入る人も、ほかの製材所で一定期間研修してから働くことになる。

「僕と一緒に技術を身に着けながら稼働させていきます。すこし時間がかかっても、木に興味があるとか、自然の変化を感じながらものづくりしたいとかいう人が来れば、着実につくっていけるのかなと思っています」

製材の経験はなくとも、木工や建築の経験、木の種類や特徴の知識があると、活かせる場面はたくさんありそうだ。

「昔から宮大工さんは、立木の状態での日のあたる方角を判別して、その向きに合わせて柱をつくっていたんですね。我々もそういう視点を持ちながら、丸太をどう挽いたら、どういう木目でどういう用途に適した材ができるか、木の将来を見据えて自分で判断して製材していくことになります」

目の前の丸太は柱に適しているのか、外壁材がいいのか、テーブルの天板がいいのか。はたまた、ほかの用途が最適なのか。

使い道がたくさんあるからこそ、それを見極める製材師の役割が重要になってくる。

そんなやりがいとともに、大変なこともあるそう。

横で聞いていた淳平さんが「たとえば」と話し始める。

「製材所で起こりうることとして、ナラの原木を挽いてみたら、フローリング材にするにはもったいない良い材だから家具にしようと。それで家具材を挽くと、フローリング用のナラがないぞってなるんです。そうすると納期が迫ってきて、ぎりぎりで原木を調達して製材する。もしかすると、追加でナラを調達できなくて、やっぱり最初の木をフローリング材にする、なんてこともあるかもしれません(笑)」

続けて、中川さん。

「そういうことを柔軟にやっていくのは大変で。この照明もそんな感じでつくりました」

そう言って見せてくれたのは、薪でできた照明。

「見た目はシンプルですけど、一度にぱっとつくれるものじゃなくて。どうつくるか考えたり、試してみたりしていると、多少時間はかかるんです。そうすると、ほかのやりたいことが、ないがしろになることもありますね」

「製材するときも、スタッフ4人くらいがそれぞれこう挽いたほうがいいって言ってきて、落としどころに悩むとか(笑)。そんなことがしょっちゅうあると思います」

やりたいことにあふれて大変って、とても前向きな悩みですね。

「アイデアも個性も豊かな人たちが集まっているので、やりがいはありますね」

会議で決めたことが、翌日には別のアイデアによってひっくり返ることもよくある。そういう不確実さも前向きに楽しめるといいのかもしれない。

 

最後に話を聞いた石田さんも、木を見るとアイデアがあふれてくる方。

現在は建築木材チームのリーダーで、アルバイトや外注スタッフを含めた10人ほどのチームをまとめている。

「この木なら、この部分は角材にして、ここらへんは天板とかがいいかもしれない」

貯木場で丸太を見る石田さんは少年のように生き生きとしていて、仕事を楽しんでいるのが伝わってくる。

群馬・富岡に生まれ、晴れの日は畑に出て、雨の日は家で竹ひごを編むような農家で育った。

実家では当たり前だった季節や天気にあわせて働く感覚を求めて、林業や木工などを経験したのち、きたもっくへ入社。

「なんだかんだ12年くらいここにいるんですけど。自分がそんなに長く働いている感覚がないんですよ。ナチュラルな状態でいられる心地よさもあるし、新しいことをやっていく会社なので、好奇心が刺激されて面白いんです」

「ただ、冬の寒さは厳しいですね」

近年、雪は少なくなったものの、1月下旬には気温がマイナス15℃まで下がることも。

「冬に塗装しようと思うと、ペンキが塗った端から凍っていくんです(笑)」

水道は凍結することもあるし、地面が凍るので建物も建てられなくなる。

でも、寒いからこそ火のありがたみを感じ、温かさが豊かさになる。きっと春がくる喜びもひとしおだろう。

「働きにくるっていうよりも、そういう寒さも含めて、自然のなかで自分がどう生きていくのかを考えて暮らしたいっていう人に来てもらえたらうれしいですね」

取材後、淳平さんに製材所の完成予定地を見せてもらう。

「実はここにできる製材所での最初の仕事はもう決まっているんです」

なんですか?

「うちのスタッフがこの地域の山で採れた広葉樹で家を建てるので、その材料を製材してもらいます」

ほかにも淳平さん含めて数軒、スタッフの家を建てる計画が進んでいるそう。

「今回来る人も、ぜひいつか自分の好きな木を山から伐ってきて、好きな木目が出るように製材して、自分の家を建ててほしいですね」

半径35キロの自給経済圏には、ちゃんと自分たちも含まれている。

未来をつくる豊かさと楽しさを感じられる環境だと思います。

(2021/10/4 取材 堀上駿)

※撮影時はマスクを外していただきました。

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