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国立公園に暮らし
自然とともにある
旅館のあり方を模索する

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

「この葉っぱ、マイヅルソウっていうんですけど、わたしはすごいきれいだなって思っていて。形といい、光沢といい。ここだけ切り取って眺めたい」

植物のことや生きもののこと。楽しそうに教えてくれるのは、九重星生(くじゅうほっしょう)ホテル代表の安部さん。

ここは大分県九重町。九州本土でもっとも高い山々、くじゅう連山がそびえるまちです。

一帯にはさまざまな高山植物や動物が生息し、「阿蘇くじゅう国立公園」の豊かな自然環境が広がっています。

九重星生ホテルは、安部さんのお母さんが26歳のとき、閉鎖されていた山小屋を購入したところからはじまりました。建築士のお父さんと力を合わせ、建て替え・増築を繰り返して現在の形に。安部さん自身も、幼いころからよく宿の仕事を手伝っていたといいます。

目指すのは、自然と人の架け橋になる宿。

この地を訪れ、自然に触れるなかで、そのおもしろさやかけがえのなさを感じてほしい。そのためにも、日常を離れてゆったりとくつろげる時間をお客さんに過ごしてもらいたい。さまざまな工夫を重ねながら、宿としてのレベルアップを図っているところです。

今回はここで働く人を募集します。フロントや予約対応、館内の清掃などを行うスタッフに加えて、調理スタッフも来てくれたらうれしい、とのこと。

宿という業態だからこそ、自然と人とのあいだで担える役割があると思います。

 

九重星生ホテルへは、大分空港や熊本空港から車で1時間半ほど。福岡空港からも2時間ほどの位置にある。

公共交通はあまり整っていないものの、車さえあれば各方面に出かけやすい立地だ。ほどよく人の社会から離れた国立公園のなかに、静かに佇んでいる。

ホテルに到着すると、代表の安部さんがさっそく外へ連れ出してくれた。

宿から遊歩道でつながっているタデ原湿原。取材に訪ねたゴールデンウィーク明けは人影もまばらで、あちこちから鳥の声だけが響いてくる。

「写真を撮るとき、鳥の声も写ったらいいのにって思いません? 草花は少しわかるようになってきたので、今度は鳥に詳しくなりたいと思っていて」

このあたりで生まれ育った安部さん。大学進学を機に上京し、システムエンジニアとして7年間上場企業に勤めたあと、地元に戻ってきた。

以前は自然にまったく興味がなかったという。

「身近すぎて見向きもしなかったんでしょうね。この自然の美しさは、興味を持たなければ見えてこないと思います。わたしもそうだったように」

帰ってきた当初は、一人ぽつんと取り残されたような感覚。

国立公園ならではの規制もあり、宿の屋根の色ひとつ変えるのにも申請が必要など、窮屈に感じることも多かった。

それでも、時を重ねるごとによさが見えてきた。

「自然学校やビジターセンターのスタッフ、登山ガイド、地域の人たちと知り合ううちに、自然の魅力に気づいていきました。それに国立公園だからこそ、過度に開発されなかった側面もあります」

一緒に山に登ったり、スタッフへのレクチャーや館内でのイベントを企画してもらったり。

また、生物多様性をテーマとした絵本『ココノエのこえ』を役場職員の方が企画・出版するなど、地域内に想いをともにできる仲間も増えている。

こうした出会いの一つひとつが、安部さんの原動力、そして地域の未来に向けた希望へとつながっているという。

「このコロナ禍でも、お互いに励まし合い、支え合いながらやってきて、少しずつ方向性が見えてきたところで。それはやっぱり、自然とともに生きながら、どう持続可能な地域をつくっていけるかっていうことだと思うんです」

最近力を入れている取り組みのひとつが、サステナブルツーリズム。

宿泊費の一部を協力金として地域の自然保護活動に寄付するというものだ。

たとえば、このタデ原湿原は、毎年3月に枯れた草木を焼き払う「野焼き」によって草原を維持しているという。

野焼きをやめると、景観が失われるだけでなく、草原の生きものたちの住処も失われてしまう。ただ、人手と予算の問題から、年々継続がむずかしくなりつつあるらしい。

こういった地域共有の自然資源や景観を守っていくために、サステナブルツーリズムの協力金を活用。お客さんに対しても使い道を丁寧に伝えることで、循環づくりの一部に関わってもらえるような工夫を重ねている。

「自然が守られているからこそ、この環境を求めて人が来てくださり、宿や観光の事業も成り立ちます。自然の循環をつくることは、わたしたちが生きていくためにも必要なことなんです」

「最近は再生可能エネルギーがもてはやされていますけど、工事による環境への影響だったり、耐用年数が経ってからの廃棄処分の問題だったり。本当の意味での持続可能ってどういうことなのかを、みんなで考えたくて。その意識を、スタッフだけでなく、お客さんとも共有できるような宿にしていけたらと思っています」

自然と人の架け橋になりたい。

その想いは、今回募集する人にも持っていてもらいたいもの。

ただ、ガイドをやりたい、というようなモチベーションで来ると、すれ違いが起きると思う。「あくまでも旅館業の立場で、宿づくりへの想いを持ったスタッフを募集したい」と安部さん。

「一昨年の10連休だったゴールデンウィークに、宿泊料をグッと値上げしたんです。お客さんの受け入れ人数を絞って、ああよかったって心からの満足と、できるならば感動して帰ってもらいたい。そう考えると、改善したい部分がまだまだあります」

一部の客室を洋風にリノベーションしたり、星空観察のためのウッドデッキテラスをつくったりと、厳しいコロナ禍の休館中にも設備面に投資。

そのほか、フロントの対応や接客、掃除など。

ソフトの面でも、この2年間の変化は大きい。価格に見合うサービスを提供できるように、仕事の進め方から細部への意識まで、今まさに少しずつ変わっていこうとしている。

「べったりした接客やサービスは目指していなくて。お客さまがキョロキョロってしてるときに気がつけるかとか、働く人同士でも、何かしてもらったら『ありがとう』と言葉にして伝えるとか。細かなことの積み重ねが大事だと思っています」

料理なら、とにかく量を出してお腹いっぱいにさせるのではなく、地のものや旬の食材を取り入れて、ほどよい満足感を味わえるものを目指したい。

あとは各部屋に設置する冊子を工夫したり、日々の写真を展示したり。自然のことについても、押し付けではなく、お客さんが自ら関心を持って知りたくなるような、ほどよい距離感で伝えていくことも必要かもしれない。

「今こんな花が咲いていてきれいなんです、ぜひ行ってみてください!ってお伝えするとか。トイレ掃除だって、楽しくはないけれど、きれいな状態で使っていただきたいから頑張るとか。人を喜ばせることが自分の喜びになる人がいいですね」

「それから、今働いている人たちはみんな慎重派で。わたしとしては、あまりブレてもだめだけど、“やってみないことには”っていう気持ちがある。これやってみませんか?って、人の懐に飛び込みつつ、どんどん行動する人が来てくれるとうれしいです」

社員は現在10名。40〜50代の長年勤めているメンバーが中心で、寮に住み込みで働いている人がほとんど。

 

4月に入社した福田さんは、前職で旅行会社の営業を担当していた方。九重星生ホテルにもよく足を運んでいたという。

「学校関係の担当だったので、中学生のキャンプでよく来てましたね。久住山も一緒に登ったりして。それほどハードな山でもなく、歩いていて非常に気持ちがいいんですよ」

コロナ禍の打撃を受けた会社を早期退職し、縁あってここで働くことに。宿泊業は未経験だった。

働いてみて、どうですか?

「旅行会社で30年以上、お客さんと身近に接して、喜んでいただく仕事をしてきたもんですから。受け入れる側の立場になっても、そこは変わらず楽しいですね。ホスピタリティを活かせる仕事だったというのも、違和感なく転職できたひとつの要因かもしれません」

「とはいえ、まだ慣れない面も多くて。朝が早くて夜も遅い、昼間は何もないという特殊な勤務体系も、未経験の人にとっては慣れるまで時間がかかるかなと」

フロント業務と食事の準備・片付け業務はシフトによって分かれており、忙しいときは互いにサポート。掃除だけはいつも全員で行うようにしている。

「肉体労働も多いですね。週に2回は温泉のお湯を全部抜いて、高圧洗浄機で洗います」

「あと驚いたのは、コンクリートをひっくり返して、自分たちで配管も直すんですよ」

あ、そういえばさっき、駐車場で作業してましたね。てっきり業者の方かなと思っていました。

「お金がかかるというのもありますけど、できることはなるべく自分たちでやるのがこの宿のスタイルなのかもしれません。ツルハシとかスコップとか、久しぶりに使いましたよ。なかなか、普通じゃできないことも経験させてもらえますね」

館内の床暖房も、安部さんのお父さんの考案で、温泉の配管を通して暖めているそう。

元が山小屋と聞いてもわからないほど、今はきれいに整備されているのだけど、根底には設備まで自分たちでつくってしまおうというアグレッシブな姿勢を感じる。DIYが好きな人、ものに限らず何かを創意工夫して生み出すことが好きな人にとっては楽しい環境だと思う。

住み込みの人がほとんどということでしたが、生活面はどうでしょう。

「車で2時間ほどで地元の福岡にも帰れますし、自然がこれだけ豊かなわりに、ものすごく不便な秘境というわけでもない。ただ、買いものは九重のまちなかまで40分ほどかかります」

寮に暮らせば、家賃や水道代、電気代や光熱費がかからないのもうれしい。

「一人で過ごす楽しみも持っている人だといいかもしれませんね。登山やバイク、釣りとか楽器とか。国立公園のなかに住めることなんてまずないですし、こういう環境で暮らせるというのは、自分には合っていると思います」

今は少人数で運営していることもあり、スタッフ同士の休みが重なる機会は少ないとのこと。

だからこそ一人の時間を楽しめる人、ということになるのだけど、たとえば敷地内で畑をはじめるとか、料理好きな人が入ったら、一緒に賄いを食べるとか。共有できる趣味があると、コミュニケーションの機会も生まれてよさそう。

仕事と暮らし、自然と人がゆるやかにつながったまま、日々が続いていくんだろうな。

「忘れてはいけないのは、自然と関わるだけじゃなくて、それをお客さまに伝えていく仕事、という部分だと思っています。やっぱり、人と接することを楽しめる人がいいですね」

自然と人。それぞれに関わる仕事は、たくさんある。

でも、その間をつなげられる仕事って、あまりない。生きものに詳しい人も、景色が好きな人も、温泉に浸かりたい人も、都会に生まれ育った人も。いろんな人を受け入れられるのが、宿のよさなのかもしれません。

繁忙期限定で働く選択肢もあるそうなので、興味が湧いたら、まず飛び込んでみるといいと思います。

(2021/5/11 取材 中川晃輔)

撮影時はマスクを外していただきました。

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