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伝統野菜と多国籍な食文化
あるいは、猫
好きを極めて生業に

「いつかは都会を離れて、田舎暮らしをしたい」

と言っても、都市郊外から山岳の秘境まで、日本にはいろんな田舎があります。

滋賀県湖南市は、田園風景と宿場町の名残が入り交じるまち。「地域コミュニティの距離感も、付かず離れずでちょうどいい」と、この街に移住した人たちは言います。

今回はこの湖南市で、未来の起業家として挑戦する人を募集します。事業のテーマはふたつ。

ひとつは、伝統野菜など湖南市で生まれたいくつかの「食」のプロジェクトを、さらに発展させるための「地域の食の相談窓口」を担う仕事。コンサルティングやプロモーション、商品開発に取り組みます。

もうひとつは、犬や猫などの動物と豊かに共生できる社会づくり。もともと市内には動物保護センターがあったことなどから、「こにゃん市」としてPR活動を行ってきました。その流れをくみながら、収益化を見据えた新しい仕事をつくっていくというもの。

プロジェクトに伴走するのは、Next Commons Lab(NCL)という組織です。全国12か所に拠点を構え、地域特性を活かしたローカルベンチャーの実践者をサポート。地域おこし協力隊制度を活用しながら、起業家の受け入れや中間支援を担ってきました。

NCL湖南が発足したのは4年前。すでにラボメンバーと呼ばれる先輩起業家たちが、さまざまな仕事を形にしています。

一人で地域に入り、起業するのはなかなかハードルが高いものですが、コーディネーターや起業家仲間がいることで、支え合える部分も大きいと思います。



朝の京都駅。通勤客の間をすり抜け、滋賀県方面の在来線に乗り込む。

湖南市の中心部にある甲西(こうせい)駅までは、乗り換えを入れても40分ほど。改札を出て振り返ると、線路越しに稲刈り前の田んぼが見えた。

NCL湖南の事務所は、駅の向かいの複合施設の2階。1階のコワーキングスペースの方が親切に入り口を教えてくれた。

階段を上がり、ワンルームマンションのような事務所で迎えてくれたのは、コーディネーターの光田さん。

市内の古民家で11匹の猫と暮らしている光田さん。あの手この手でご飯を多く食べようとする猫たちとの攻防を、愛おしそうに話してくれた。

「湖南市が“こにゃん市”としてPRするようになったきっかけは10年ほど前。観光協会の運営で、保護猫を『こにゃん市長』に推す選挙など、いろいろなイベントに挑戦してきました」

「公的な予算が動物福祉のPRに充てられるのは、全国的に見ても珍しい。その機会をもっと有効に活用していくために、今回あらためてプロジェクトを立ち上げ、起業する人を募集することになったんです」

実は以前にも、保護猫カフェをつくる計画があったものの、カフェの収益だけで運営を賄うのは難しく、なかなか実現しなかった。

協力隊の任期が終わったあとも事業を継続していくためには、収益が見込める活動計画が必要になる。動物と起業、具体的にどんな可能性があるでしょうか。

「まずはキャラを立てることかなと思います。たとえばこれ、NCL湖南のステッカーなんですけど、こうやって会社のロゴに猫が付いているだけで、じゃあ携帯に貼ろうかなっていう気持ちになったり、会話のきっかけになったりしますよね」

「猫をコンテンツとして、企業のPRやグッズづくりをお手伝いするコンサルティング業っていうのは、ひとつの可能性だと思います」

動物の愛らしい仕草や姿は人の気持ちを惹きつける。コロナ禍の混乱のなかでも、猫のキャラクター性は活躍した。

たとえば、「こにゃんエール」。外食が難しい期間に、市内の事業者が発行する先払いチケットを購入して応援するというシステムで、愛嬌ある猫のキャラクターがPRを担った。売り上げの一部は、動物の保護活動に寄付されるという仕組みだ。

また市内では、先輩ラボメンバーの一人がアートディレクターの経験を生かし、コニャンナーレというアートイベントを企画中。子どもたちと一緒に猫の顔をかたどった「猫ねぷた」を制作するなど、準備が進められている。

「社会のなかで、犬や猫と共生できる状態をつくるっていうのは、人間側の責任だと思うんです。動物たちが、愛情を持って育ててくれる人と結びつくように、PRしたりコミュニティをつくったりすることも、仕事として捉えてもらえたらいいなと思います」



今回募集するもうひとつのテーマ、「地域の食の相談窓口」について話を聞かせてくれたのは、湖南市役所でまちづくりを担当している宮島さん。

「まず湖南市には、5つの伝統野菜があるんですが、そのうち東寺の献上ごぼうと朝国(あさくに)生姜の2品種は、生産に手間がかかるために、今つくり手が途絶えていたんです」

湖南市の主な産業は米づくり。もともと野菜を育てる農家が少ない上に、手間のかかる伝統野菜を生産するのはリスクが高い。

一方で、伝統野菜にはそれぞれの魅力もある。それをまちの内外にもっと伝えていきたいというのが、宮島さんたちの願い。

「朝国生姜は、小ショウガと呼ばれる品種で、繊維質が少なく、ちょっと辛味が強いのが特徴です。甘酢生姜をつくって食べる風習もありました」

「ゴボウのほうは今、地域おこし協力隊の隊員が、生産からお茶やお菓子などの加工品づくりまでの6次化に取り組んでいて。ゴボウを粉末化する工程は、市内の福祉事業所と共同で行うなど、伝統野菜を通じて地域のあたらしいつながりも生まれてきています」

ほかにも湖南市では、10年前に就農を目指した女性2人組が起業し立ち上げた事業で「弥平とうがらし」を製品化していて、協力隊の一人が最近それを事業継承した。伝統野菜をつくり、届けていく道筋が少しずつできつつある。

こうした届け方や届け先のような「出口」が明確になっていけば、生産に挑戦しようと思える農家さんも増えるはず。

さらに湖南市には、近隣に自動車部品工場があることからブラジル人の人口がとても多く、外国の食材を扱うお店もあるほか、キャッサバも市内で栽培されている。

NCLラボメンバーの一人は、このキャッサバの株を分けてもらい、自ら栽培・加工する「タピオカ研究所」を発足している。

湖南で生まれている多様な食文化を知り、つくり手に寄り添いながら伝えていく。それが今回求める「地域の食の相談窓口」担当の仕事。

一緒に話を聞いていたNCLの光田さんはこう付け加える。

「今回はどちらかというと、販路開拓やマーケティング、プロデュース側の人を求めているんですが、もし畑からやってみたいという希望があれば、それも尊重します。ちょうど、ラボメンバーが共同で借りている大きな畑があるので、そこに一緒に入って体験してみるのもいいと思います」



その畑を借り受けたラボメンバーというのが、旧街道沿いでブックカフェを運営しているドリーさん。

「今はお店が忙しくて、畑に手が回らないところもあって。一緒にやってくれる人がいれば、それはもう歓迎しますよ!」

今、店舗兼自宅として使っている古民家は、光田さんたちも一緒に手を動かしながら改修してきた。

NCLは、こうしてメンバーの活動の後押しをしたり、役所との間に立って調整をしたり、事業計画の相談に乗ったり。一人ではくじけそうな部分をサポートする拠り所になっている。

「僕たちも単体で移住したら、ただのよそ者だったと思うんですが、ほかにもNCLのラボメンバーとして活動している人が同じ地域にいることで、初対面でも『ああNCLの人ね』って、信頼してもらえるところがある気がします」



さらにこの「地域の食の相談窓口」担当には、もう一人心強いパートナーがいる。

愛媛県にあるNCL西条で、同じく食のプロデュースなどの仕事を形にしてきたラボメンバーの長尾さんに後日、オンラインで話を聞かせてもらいました。

「私は今“ローカルすぎる地域商社”づくりを目指して、食のコンサルティングと、卸事業のふたつの柱で活動しています。商品開発から販路開拓までを一貫してサポートしていくようなイメージですね」

もともと学生時代から、地域と食の関わりに関心があったという長尾さん。地域産品の開発サポート、販路開拓を担う会社で経験を積んできた。

さらに、その後は流通などを学ぶため、大手スーパーの自社商品の開発を担う会社に転職。ジャムやワインなどの商品企画にも携わってきた。

「東京で働いていると、いろんな地域と幅広く関われる一方で、どうしても薄く広くになってしまう。実際にこうして地方に移住してみると、旬を逃さず現場に足を運べる良さを実感しています」

「私はもともと、食材と土地の関係にもすごく興味があって。その土地の環境や文化を紐解いていくことで、商品の魅力の伝え方を磨いていける面もあると思います。なので、こっちに来てからはずっと、朝から晩まで人と話しているような気がします」

もともと十分な経験を都市部で蓄え、地域で実践してきた長尾さん。湖南で新しく挑戦する人にも、相談に乗りながら伴走してもらう予定。

一方で、いきなり長尾さんと同じことをやろうと思うと大変かもしれない。

「もちろん、私も全部一人でやっているわけではありません。レシピをつくるときの微妙な味付けの調整は料理人さんと相談するとか、苦手なところは人に頼っています。そうやって人と補い合いながら、形にしていく意識が大事なのかな」

また、最初から自分でプロジェクトを立ち上げるのが難しい場合は、地域のメーカーや農家さんのところへ飛び込んで、そのなかで役割を見つけるというアプローチもある。

「たとえば伝統野菜の生産から携わってみるというのも、いいかもしれませんね。そうすれば、売れた分だけ自分の収益になって、自立の道筋も立てやすくなる」

「あとは、自分のなかで特化できるものを持つ。たとえば“お漬物”とか、何かひとつ突き詰めていけば、地域のなかでも重宝されますし、企業や生産者さんとコラボレーションが生まれることもあると思いますよ」

漠然とした質問にも、とても親身に答えてくれる長尾さん。話を聞いていくうちに、いろんな道が見えてきた気がする。

動物のプロジェクトは同様に、湖南の光田さんが伴走者として、一緒に考えながら進んでいく。地域のなかだけでなく、いろんな拠点にパートナーとして協力しあえるネットワークがあることは、NCLと一緒に挑戦する大きなメリットだと思います。

あとはテーマをどれだけ自分ごとにできるか。ずっとやりたかったこと、今まさに課題を感じていることとの重なりを感じたら、まずはNCL湖南のみなさんと話をしてみるとよさそうです。

(2021/10/12 取材 高橋佑香子)
※撮影時はマスクを外していただきました。

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