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お店の軒先に貼り出された求人や、ゲストハウスに並んだフライヤー、あるいはまちなかの掲示板など。
インターネットが発達した今、そうした情報の届け方は非効率的にも見えます。でも、たまたまその場にいて、ふと見かけた何かに心が動くような、偶然の楽しみもある。
Webの利便性とリアルの偶発性、両者のいいとこ取りをしたようなサイトがつくれないか。
ここ数年、関係人口創出プロジェクトに取り組んできた長野県塩尻市のみなさんが、また新しいことをはじめるようです。
大企業のリーダー人材育成と地域の課題解決を目指す官民協働プログラム「MICHIKARA」や、いずれも大手人材会社と企画・運営してきた「複活」や「iXハイクラス副業」、副業・リモート・3ヶ月で地域課題解決に関わる「MEGURUプロジェクト」、会員制のオンラインコミュニティ「塩尻CxO Lab」など。
その時々の熱量そのままに、塩尻では関係人口創出のためのさまざまな企画が展開されてきました。ただ一方で、「複雑でわかりにくい」「どうしたら自分も関われるのだろう?」といった声が増えているのも事実。
また、副業の場合、ひとつのプロジェクトに100名を超える応募があっても、1〜2名しか採用できないというジレンマもありました。
そこで今回、この課題を一緒に解決していく地域おこし協力隊を募集します。
方策のひとつとして、今まさに制作中なのが、イベントやオンラインセミナー、副業プロジェクトなどといった、さまざまな関わりしろを紹介するポータルサイト。塩尻に関心を持った人がまず訪れ、段階的に関わりを深めていけるようなサイトにしていきたいとのこと。
協力隊には、そのディレクションや記事の執筆、SNS運用、Slackを用いたファンコミュニティの運営などを主に担ってもらいます。ゆくゆくは、PRイベントの企画運営などを通じて、塩尻に興味をもつ人と地域をつなぐ窓口の役割を担ってほしいそうです。
特別な経験はなくても大丈夫。塩尻で日々起こることや、たくさんの人との出会いをおもしろがれる、“まちの情報屋さん”みたいな人が向いていると思います。
新宿駅から特急あずさ号に乗って塩尻へ。
この季節、山頂に雪をたたえた山々が見えてくると、長野にやってきたなあと感じる。
2時間半ほどで塩尻駅に到着。扉が開き、流れ込むすーっと冷えた空気を吸いたくて、少しだけマスクを外す。
駅から線路沿いに5分ほど歩くと、シビック・イノベーション拠点「スナバ」が見えてきた。
ここにはコワーキングスペースがあって、80名を超える多種多様な人たちが日々集まり、それぞれ仕事したり、イベントに参加したり、薪ストーブを囲んで団欒したり、思い思いに過ごしている。
今回募集する人は、市内のどこで働いても自由だ。スナバのメンバーとなって、ここで働くのもおもしろいかもしれない。
入り口をはいってすぐのスペースで、まずは前任の協力隊の横山さんに話を聞いた。
大手人材会社のパーソルキャリアと協力隊の二足のわらじで、副業を実践してきた横山さん。3月に任期を終えたあとも、自ら立ち上げたNPO法人MEGURUの代表として、引き続き関係人口プロジェクトに携わっていく。
これから協力隊になる人の先輩であり、よき相談役やパートナーにもなってくれると思う。
そんな横山さんの変わらないテーマのひとつが、「人」に関わるということ。どうしてそう考えるようになったのか、さかのぼって聞いてみる。
「小さいころから先生になりたいと思っていたんです。先生にはずっと恵まれてきたので、憧れもあって」
大学では教育学部に通い、実習に行って教員免許もとった。でもそこで、自分がやりたいのは教科指導というより、進路やキャリアに関わることだと気づいたそう。
「ちょうどそのとき、『プロフェッショナル 仕事の流儀』で森本千賀子さんの回を観て。伝説の転職エージェントの方なんですけど。こんなふうに人の人生を変える仕事があるんだ、と思ったんです」
ゆくゆく先生になるとしても、まずはいろんな人たちのキャリアの変容に伴走するなかで、社会を知りたい。そんな想いでパーソルキャリアに入社した。
個人のキャリアに関心があったものの、配属されたのは法人の採用支援をする部署。ここでの経験も、のちに塩尻での活動へとつながっていく。
「塩尻のような地方って、企業がそこにただ登記しているだけでなく、地域と密接に結びついているんです。雇用を生み出しているし、地域の資源も活用している。一社への支援が、地域全体へもダイレクトにつながっていくところにおもしろみがあると思っています」
たとえば、市内の木曽地域にある会社の社長の話。
2人の子を持つ社員から、ある日退職の相談があったそうだ。
その地域の小学校は、一学年10人ほどの規模。転校がもたらす影響は大きい。
「それでなぜ辞めたいのか聞いてみたら、社内にとどまらず、もっと自分でいろいろやってみたいと思っていたらしく。結果的にその社長さんは、独立を支援して、もとの仕事も業務委託で一部お願いしながら、オフィスも社内に間借りさせてあげたそうです」
いやあ、すごいですね。
「その方への愛情はもちろん、地域に対して、会社としてできることを考えた末のことだよなって。なかなかできないですよね」
「協力隊として入ったばかりのころは、3年後、自分が塩尻に居続ける確信もなかったんです。でも、地域を自分ごと化した人たちと関わりながら、手触り感のある変化を一緒に起こしていける。そこは塩尻に関わり続けたいと思う大事なポイントだったかもしれません」
2020年11月にはNPO法人MEGURUを設立。近々塩尻に家も建てる予定で、静岡に住むご両親も呼び込む予定とのこと。
この地に根付いていこうという気持ちを感じるし、そんな先輩がいることは、これから入る人にとっても心強いことだと思う。
今回募集したいのは、どんな人でしょう?
「主に担当してもらいたいのは発信の部分です。塩尻に関わりたいと思っている人たちの窓口となって、接点をつくっていただきたいなと」
その動きに今まさに関わっているのが、協力隊の上田さん。
日本仕事百貨の記事をきっかけに、半年前に大阪から移住してきた。
この半年間、プロジェクトに関わってきたなかで、2つの課題を感じているという。
「ひとつはPRの強化です。地域の外だけでなく内側に向けても、関係人口創出事業は何をどんなふうにやっているのか、しっかり伝えていきたい」
「もうひとつが、地域側の関わりしろづくりです。たとえば副業で関わりたいと思う人がいても、地域側に副業の仕事がなければ成り立ちません。その発掘やコミュニケーションは、今後わたしと横山さんを中心に進めていきたいと思っています」
今回入る人の主な担当は、前者の発信の部分。
絶賛制作中の、note proを活用したポータルサイトがそのプラットフォームとなる。
具体的には、どんな内容を発信していくイメージでしょうか。
「学ぶ・関わる・働くっていうふうに、関わりの深度別にコンテンツを載せていきたくて。まずはオンラインのイベントや勉強会に参加して塩尻で起こっていることを知ってもらって、興味がわいたらツアーで現地に来てもらい、ゆくゆくは副業で関わってもらう。段階的な関わりしろをつくっていく感じですね」
これまで塩尻で取り組んできた副業プロジェクトは、しっかりとつくり込むぶん、気軽に参加することはむずかしかった。
今後は、たとえばスナバで「最近こんなことで困ってて…」とか、「こんなことできる人いない?」といった声を耳にしたら、すぐにポータルサイトで記事化して、副業で関わる人を募ってみるのもおもしろいかもしれない。
さらに、Slackを活用した塩尻のファンコミュニティを構築し、ポータルサイトと紐づけることも考えているそう。やりたいことはいろいろとある。
「塩尻の協力隊って、良いのか悪いのかわからないけど、事前に聞いていた仕事内容から変わることも多いんです(笑)」と横山さん。
「新しいプロジェクトに取り組むなかでは、やってみないとわからないことが多いし、世の中の状況も常に変わっていきます。それに、協力隊自身の意志が反映されることで、何をすべきか明確になっていく側面もある。固定のミッションを用意されて、3年間これをやってくださいっていうより、ぼくはある意味親切だと思います」
協力隊としての活動は週19時間で、その他の時間は自分なりに使い方を考えることができる。副業で何か別のことに取り組んでもいいし、プロジェクトの延長線上で新しいチャレンジをはじめてもいい。
サイト運営はあくまでひとつの手段なので、自分で考えて動くことが求められると思う。
上田さんを中心に進めているポータルサイトの制作。ここにも、現在2名の方が副業で外部から関わっているという。
おひとりはコワーキングスペースのコミュニティマネージャーをしていた方。そもそもどんな人に、何を届けたいの?という方向性の壁打ちをひたすら行っているそうだ。
そしてもうひとりが、ライターの杉山さん。Zoomをつないで少し話を聞かせてもらった。
東洋経済やNewsPicksなどビジネス系の媒体を中心に、かれこれ26年ほど記事を書き続けてきた杉山さん。自身で「30sta!」というメディアも運営している。
「30代後半~40代になると、いろんなことにチャレンジしづらくなるじゃないですか。その閉塞感を打破する選択肢として、社会人インターンや地方での副業があると思っていて。塩尻の取り組みを取材したのがきっかけで、少しずつ関わるようになっていきました」
新しいポータルサイトは土台づくりまで副業で関わり、その後の運営にはどっぷり携わるわけではないそう。とはいえ、立ち上げ期にはいろいろと相談できると思う。
サイトをつくっていくにあたって、杉山さんはどんなことが大事だと思いますか?
「コツコツと、丹念に発信していくことですかね。Twitterの運用なんかも、マメじゃないとむずかしい。それが苦にならない人がいいのかなと」
たしかに、質も大事だけれど、ほどよい量のアウトプットをちゃんと続けていくことは欠かせない。
人の懐にするっと飛び込んで、企業を見学したり、取材したり。その人自身がまず地域とのいろんな関わりしろをつくれる人だといいのかもしれません。
「そうですね。塩尻に関わっていて思うのは、心理的安全性が高いんです。ぼくも好き勝手言ってますけど、みなさん受け止めてくれるので。受け身にならずに、自分からアイデアなり意見なり、どんどん出していける人がいいんじゃないかと思いますね」
塩尻のみなさんと話していると、まだ名前のついていない役割や出来事について話が及ぶことも多い。
わからないけど、やってみよう。どういうことなのか、言葉にしてみよう。
そんなふうに、先陣を切って問い、「こんなふうに関わってみませんか?」と提示していく人が今回求められているのかなと感じました。
地域と人の新しい関わりをつくる。まだまだ、可能性はたくさんありそうです。
(2021/12/14 取材 中川晃輔)
※撮影時はマスクを外していただきました。