※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。
なぜ? どうして?小さな子どもは、私たちにとって“当たり前”のことでも、理由を知りたがる。
当たり前すぎて、今まで考えもしなかったこと。ちゃんと向き合ってみると、大人にも意外な発見があったりする。
そんなふうに、ストレートな疑問を投げかける存在は、働く現場にも必要なのかもしれません。
平成医療福祉グループでは、3年ほど前から、福祉業界以外のキャリアを持つ人たちを積極的に受け入れ、その視点を活かした事業づくりに取り組んでいます。

たとえば、就労支援施設でカフェを運営するときは、そのメニューやオペレーションなど企画を整えるだけでなく、現場のスタッフの悩みに耳を傾けたり、必要なツールを手づくりしたり。
なかでも最近は、デザインの力を必要とする場面が多くなっています。見せ方、伝え方の工夫は、福祉の現場をもっと楽しくするための、のびしろを秘めている。
今回はこのサービス企画課でデザイナーとして働く人を募集します。机に向かって制作をするだけでなく、人と話し、一緒に考えながら、課題解決の手法としてデザインの力を活かすような働き方になるはずです。
今回は、オンラインで話を聞かせてもらいました。
まずは介護福祉事業部の部長を務める前川さん。はじめて取材したときから、一貫して「福祉の“当たり前”を変えたい」と話していた。

「それで『どうせ言っても変わらない』と違和感を口にしなくなったり、そもそも違和感を感じなくなったり。私自身も長く現場に身を置きながら、そのことに危機感を感じていました」
もっと第三者の目で見た新鮮な気づきを、現場に活かしていきたい。
そこで前川さんたちは、あえて業界未経験の人たちに門戸を開くことに。
福祉の仕事は資格が必須というイメージもありますが、実際にさまざまなバックグラウンドを持つ人たちを迎えてみてどうでしたか?
「日々、たくさんの気づきを与えてもらっています。なかでも新鮮だったのは、利用者さんとの関係性です。私たちはどうしても、病気や障害を持つ人に何かしてあげたいという発想が染み付いているんですけど、新しく入ったメンバーは必ずしもそうではなくて」

そもそも3年前に募集した「サービス企画課」のポジションは、グループ内では新設の部署。
介護施設や就労継続支援B型など、福祉施設の運営に関わることは決まっていたものの、具体的な仕事内容は、新しく入ったメンバー自身が現場で探りながら形にしていく必要があった。
「新しい環境で、役割を自分で見つけていくのは大変だったと思いますし、私たちもうまくフォローできるか不安はありました。でもみんな、こちらから言うより先に自分で考えて動いてくれて、本当に助かっています」
前川さんたちが、サービス企画課を通して取り組みたかった課題のひとつは、福祉施設の利用者と地域の関係づくり。
「私たちは今まで、それを大きく捉えすぎて動き出せない面があったんですけど、企画課のメンバーは、ご近所さんと一緒に施設の障子貼りをしたり、お向かいの公園にいる人に声をかけたりしながら、少しずつ地元の輪のなかに入っていて」

サービス企画課で主にデザインを担当している木村さんにも話を聞く。みんなからは太一くんと呼ばれている。

ここでの仕事は、福祉施設でつくられるお菓子のパッケージや、広報ツールの制作など、デザイナーらしいものもあるけれど、それ以外にも幅広い。
「ちょっと特殊なのでいうと、“犬”ですかね。高齢者施設で飼っているゴールデンレトリーバーがときどき、ほかの施設にも巡回訪問するんですけど、電車に乗せられないので僕が車で送迎するんです」

「もともとは企画課で『特養のなかに犬がいたら、利用者さんが、施設に来る前に過ごしていた日常に近づけられるんじゃないか』っていうアイデアが生まれて。それを実現するための、環境づくりやトレーナーの採用などを企画課が主導して行った名残で、送迎の仕事が今も僕の手元にある感じです」
デザインではない仕事もあるんですね。
「その過程では、犬が来ますよっていう告知ポスターをつくるなど、デザインワークもありました。でも捉え方によっては、犬と高齢者が暮らせる環境を考えるっていうことも“犬の存在の仕方”のデザインだと思います」

バックオフィスの一角やロビーなど、現場の人が行き交う空間で過ごすことが、仕事のヒントになるからだ。
木村さんは今、板橋区にある障害者支援施設「ココロネ」で週に1度、知的障害を持つ人のためのアートクラスも担当している。
「粘土を使って細かい作業に集中するのが得意な人もいれば、絵の具や水を大胆に使って表現する人もいて。毎回、想像を超えたものができあがるので、僕も見ていてすごく楽しいです」
一人ひとりと向き合う時間は、デザインにも活かされている。
ココロネ板橋で、グラノーラを製造販売することになったとき、木村さんはそのパッケージに利用者さんが書いた手書きの文字を活用した。

「以前から、面白い字を書く人がいるのを知っていて。それを自然な形で伝えてみたかったんです。僕が一人でデザインするよりも、いいものができた気がします」
福祉の現場で働くようになってから、実は自分の生活圏にも同じような施設がたくさんあることに気がついたという木村さん。
意識しなければ、気づかれないし、関わりも生まれない。
その隙間を埋めるために、デザインが果たせる役割はきっと大きい。
たとえば製品のパッケージも重要なタッチポイントだし、“犬の存在”も地域とつながるきっかけになるかもしれない。
アートクラスの作品の写真も、Webサイトで見れたら楽しそうですね。
「そうですね。福祉の世界のなかでデザインってどういう役割を果たせるのか、新しく入る人と一緒に考えていけたらいいなと思います」

「僕たちは怖いもの知らずなところもあって、自由にアイデアを出していくんですが、施設の職員さんたちは現場を知っているだけに、イレギュラーなことを不安に感じる面もあるみたいで」
「ココロネ板橋には、利用者さんが働くカフェもあるんですが、最初はそもそもカフェなんて無理だっていう意見もありました。あとは、施設でつくった商品は安くしないと売れないっていう感覚とか、そのギャップを埋めるためのコミュニケーションは、なかなか難しいです」
今まで、別々の業界で仕事をしてきた人同士が出会い、一緒に場をつくっていく過程では、価値観がすれ違うこともある。
ただ、本来は同じ目的を持った人同士。粘り強くコミュニケーションを続けることで、お互いに新しいアプローチを見つけられるはず。
「自分で提案したことが、現場で受け入れられないことはよくあります。そういうときでも凹まずに向き合い続けようと思えるのは、やっぱり同じ企画課の仲間の存在が大きくて。いつも、いろんなことを相談したり、励ましあったりしています」
サービス企画課には現在8人のスタッフが在籍している。もともと、福祉の現場の経験がある人もいれば、木村さんのようにまったく違う業界から加わったメンバーもいる。
そのうちの一人、水戸さんも以前は、地方の移住促進や人材交流などの仕事をしていた。

もともと福祉に携わりたいと思いながら、資格のハードルを感じて踏み出せなかったという水戸さん。
入職して約2年、現場はどうですか。
「そうですね。意見がぶつかるのは当たり前くらいに思ったほうがいいと思います。だけどそれは悪いことではなくて、考えの違いに気づいて、お互いの思いや意見を伝え合える関係性を育てていくプロセスに、大きな価値があるはずだから」
「それって福祉だけじゃなくて、社会のどこにでも通じるものですよね。今、私たちが現場で体験していることは、実は、多様性を認める社会をつくるためのヒントになるんじゃないかな。最近はそういうことを思いながら、日々、ぶつかり稽古中です(笑)」
最後の一言には、サービス企画課のリアルが集約されていたような気がします。
自分とは違う“当たり前”で生きてきた人同士が出会えば、驚きや戸惑いが生じるのは、ごく自然なこと。
摩擦は、次のステップに進むための突破口。たしかに、その積み重ねが、社会を少しずつ柔らかくするような気がします。
(2022/1/20〜24オンライン取材 高橋佑香子)
※写真は以前の取材で撮影したもの、ご提供いただいたものを使用しました。