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移動販売でどう生きる

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田舎には仕事がないというけれど、本当にそうなのだろうか。

いろんな地域に滞在してみると、仕事の種になりそうな地域の困りごとに出会うことがあります。繁忙期だけ人が足りないとか、獣害が多いとか、町にパン屋さんがないとか、買い物に行けないとか。

課題ばかりに目が行きがちだけど、それって仕事を生み出すチャンスでもあるのかもしれない。

目の前で困っている人のために何かできたら、それは充実した仕事になっていくと思います。

今回募集するのは、人口約4500人の長野県小海町で移動販売を担う地域おこし協力隊。

ただ、現状は移動販売だけで生計を立てるのは難しく、ほかにも仕事をもつ必要があります。どこかの会社と雇用関係を結んでもいいし、自分で新たに仕事をつくってもいい。業務委託の形をとるので、自由度は高いです。

さまざまな仕事を組み合わせて生きていきたい人には、ぴったりの環境だと思います。

 

小海町へは東京から車で3時間ほど。町の中心には千曲川が流れ、それと並走するようにJR小海線が走っている。

冬晴れのこの日、空気が澄んで気持ちいいけれど、川からの風はとても冷たい。冬になると、最高気温でも0℃を下回る日も多いそう。

まず小海駅の近くにある町役場でお話を聞いたのは、地域おこし協力隊担当の篠原さん。

小海町には篠原という名字が多いので、役場では下の名前で呼び合うことが多いそう。それもあってか、役場は和気あいあいとした雰囲気を感じる。

「ぼくは制度設計をしているときが一番楽しいんですよ。誰か一人が困っていることは、ほかにも困ってる人がいるんです。その問題の本質はどこで、具体的な課題はどこで、何が足りないんだろうって考えるのが楽しいですね」

そんな篠原さんが準備段階から関わってきた移動販売事業。始まったのは2019年のこと。

「この町にもだんだん買い物弱者が増えてきて、以前はいかに店舗をつくるかっていう対策だったんですけど、最近はその店舗にも自分で行けない方が多くなってきました」

「免許返納や公共交通網も脆弱になっているのが現状で、主に高齢者の生活の一助になればと、移動販売をすることになったんです」

移動販売の役割は、買い物の機会を提供するだけではない。

住民とよく話すことになるので、役場への要望や困りごとなど、いろんな意見を聞く機会が多くなる。

「毎週同じ時間に、同じ場所を回るので、お客さんの顔を覚えるんですよね。とくにご高齢のお客さんが多いので、見守り的な役割も果たしていると思います」

地域で一定の役割は果たしているものの、利用者も限られており、移動販売だけで生計を立てるのは難しいのが現状。

これから入る人は3年後の独立を念頭に、それまでは地域おこし協力隊として町から年440万円の委託費をもらいながら活動していく。

3年後に移動販売だけで生活していけるように試行錯誤するのもいいし、ほかの仕事との複業をしてもいい。

「福祉との相性はとてもいいので、見守りの仕事を請け負いながら、移動販売をするのもいいと思います」

移動販売で地域の人と話すなかで、新たな仕事のヒントが得られることもあるかもしれない。

とはいえ、大切なのは買い物へ行けない人に、買い物の楽しみや商品を届けること。

はじめは移動販売に専念するのが良さそう。

「初めての土地で3年で独立って、結構大変だと思うんですよ。ましてや町が何年もかけて解決できていない問題なので。地域に馴染むだけで1年くらいかかるんじゃないかな。まずは仲良くなることから始められるといいですね」

そのためには小海町のことを知ることも大切。

今でも町には、さまざまな郷土料理をつくる人が多いので、季節ごとの商品の需要もある。

「たとえば、フキが採れる時期にはホタルイカと一緒に煮て食べるんです。だからそのタイミングでホタルイカを仕入れるとか。そういう小海の暮らしに根ざしたものを売ってほしいですね」

自分でも暮らしを楽しみながら、お客さんからいろんな情報を聞くうちに、仕入れの精度もだんだん高くなっていくと思う。

 

実際にはどんな仕事をするのだろう。

現在、移動販売を担当している地域おこし協力隊の岡田さんに話を聞いた。

「もともとお菓子をつくるのが好きで、いつか自分でつくったものを移動販売したいと思っていたんです。そんなときに小海町の移動販売の仕事を見つけて応募しました」

協力隊1年目で、まだまだやりたいことはあったものの、家庭の事情で今年の5月頃を目途に実家に戻る予定。今回募集する人は、岡田さんの後任として働くことになる。

この日は福祉施設を回るということで同行することに。

移動販売の合図である「小海音頭」の音楽をかけながら準備をはじめると、待ってました!と言わんばかりの勢いでお客さんやってきた。

家との往復ばかりで、なかなか買い物に行くことがない施設の利用者さん。自分の好きなように買い物をできる移動販売をとても楽しみにしているそう。

「なによりお客さんに楽しく買い物してもらうことが一番だと思っていて。商品もお客さんの要望で小さいお豆腐を仕入れたり、仕入れ先の商店と相談して靴下を増やしたり。会話のなかで少しずつラインナップを変えています」

ほかにも、節分のときは恵方巻、冬は伝統食の凍み豆腐を販売している。

回るのは1か所につき多くても週1回。一人暮らしの人は、岡田さんとの会話を心待ちにしている人も多い。

「会話のきっかけになればと思って、最近は月1回、スケジュールやクイズを書いた『およりなんし通信』っていうのを発行しています」

手作りお菓子の販売も構想していたけれど、1年目は業務や暮らしに慣れるだけで精一杯だった。

「ただ、やりたいことを形にできる環境はあると思います。加工場をつくろうと思えば空き家はたくさんあるし、やりたいって言えばいろんな人が協力してくださる雰囲気はすごく感じます」

着任当初、地域の事業者に向けて協力者を募ったところ、10件ほどの商店が手を挙げてくれた。

町民も、篠原さんをはじめとした役場の人も、頼れる人はたくさんいる。

一日の仕事はどんなふうに進んでいくんですか。

「まずは朝8時すぎに事務所へ行って、地域の商店さんが納品してくれた商品に値付けをします。そのあとトラックに積み込んで10時に出発です。だいたい一日で7か所くらい回りますね。忙しい曜日だとお昼も仕入れに行くこともあります」

曜日によって回るルートと時間は決まっていて、現在は火曜日の午後から金曜日の夕方まで営業している。

「事務所に戻ってきてからは、今の時期だと水物は凍っちゃうので、トラックから降ろしたり、商品の整理をしたり。そのあとはお金の清算をして、翌日に仕入れたい商品を各商店にFAXして終わりです」

新しく移動販売を担う人は、ルートも仕入れ先もすべて自分で決めることができる。岡田さんが築いた関係もうまく活かしながら、試行錯誤していくのが良さそうだ。

町には、県外からもお客さんが買いに訪れる人気のパイ屋さんや、農家がはじめたケーキ屋さんなどもある。そういうお店から期間限定で商品を仕入れるのも面白い。

ほかの協力隊が主催する湖畔祭や、2日間にわたる星フェスなど。町外から人が訪れるイベントで出店することもできる。

「夏にキャンプ場でバーベキューセットを販売したり、許可を取ってお酒を販売したり。売り方を工夫したら、もう少し稼ぎになると思います」

小海町が移動販売をはじめて4年。任期後も移動販売を続けてほしいという町の想いはあるけれど、現状、移動販売だけで生活するのは難しい。

だからこそ3年間の任期中に、地域にすでにあるものや潜在的なニーズに目を向けることで、小海町で生きていく糧を見つけることができるかもしれない。

 

最後に話を聞いたのは、昨年度から地域おこし協力隊として活動する松澤さん。

後継者のいなかった小海町の「小山豆腐店」を引き継ぎ、特産の鞍掛豆を使ったお豆腐をつくっている。松澤さんと一緒にできることもあると思う。

小海町では7人の協力隊が活動していて、担当分野にかかわらず交流もあるという。任期を終えてからも小海町に残って独立している先輩もいるので、移動販売や、ほかの仕事の相談もできる相手がいて心強い。

大学在学中に豆腐づくりに興味をもち、日本仕事百貨の記事を読んで、豆腐屋になろうと決めた松澤さん。深夜2時から夕方までお豆腐と向き合う日々を送っている。

「最近は、この油揚げをもう少しよくするためにはどう油を切ったらいいかとか、そういうことを考えて試行錯誤しています」

小海町に暮らしてみてどうですか。

「よく温泉に行くんですけど、そこで会う常連さんと話すようになったりして。自然に人とつながれるのがいいですね」

最近は、近所の方からたくさん野菜をもらうので、それを使った料理にはまっているそう。

そんな松澤さんに、地域で複業の一つになりそうなことを聞いてみた。

「たくさんありますよ。道の駅の方々が、一晩凍らせたお餅を干して『凍み餅』っていう保存食を毎年つくるんですけど、このあいだもそのお手伝いをしてきました」

「ほかにもスーパーで人手が足りていなかったり、仕事になるかわからないけど、小海の郷土食を冊子にまとめる活動を頼まれたり、なんならうちの豆腐屋ももう一人入れたいなと思っているくらいです」

豆腐屋の仕事が忙しく、ほかのことまでなかなか手が回っていないものの、地域で求められることは意外とあるそう。

移動販売車の空いたスペースにお豆腐を乗せて、配達の仕事を請け負うこともできるかもしれない。

移動販売についてはどう思っているのだろう。

「必要な人はいるけど、とても少ないので、事業を続けていくのは大変だと思います」

同じように豆腐屋の事業を継続することがミッションの松澤さん。

「やっぱり好きが大事ですよね。私は豆腐が好きだから働けているんです。給料とか考えたら大変ですけど、好きに勝るものはないなと」

「地域おこし協力隊」というより、「豆腐屋」として生きている松澤さんからは、事業を続ける覚悟が伝わってくる。

移動販売をする人も、人と話すことや、人を喜ばせること、こだわった商品など、何か一つでも“好き”があるといいと思う。

移動販売のやりかたも、ほかの仕事との組み合わせかたも、自分で決められる。その分責任もあるけれど、やりがいも大きい仕事です。

何かをはじめるには勢いも大切だと思います。

おもしろそうだと思ったら、まずは小海町を訪ねてみてください。できることのヒントが見つかるかもしれません。

(2022/1/21 取材 2023/2/13 更新 堀上駿)

※撮影時はマスクを外していただきました。

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