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私が私になれるまち

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「あなたらしさはあなたがすでに持っているものですから、それをそっと取り戻すお手伝いができればと思っています」

長野県小海町が運営するセラピー事業「憩うまちこうみ」のサイトには、そんな言葉が書かれています。

湖畔での五感をつかったセラピーウォークや瞑想、季節の食材を取り入れた食事など。

小海町の自然を活かしたプログラムを通じて、本来持っている心と身体の健康を取り戻すことが、この事業の目指すところです。

今回は、この「憩うまちこうみ」事業の事務局を担う、地域おこし協力隊を募集します。町のセラピストと都市部の協定企業の間に立って、調整を進める仕事です。

自然や人との関わりが好きな人なら、きっとこのまちを楽しめると思います。

 

長野県の東部に位置する小海町。

八ヶ岳の麓にあり、紅葉の名所とされる白駒の池や松原湖など、豊かな自然に囲まれている。

町の中心部にはJR小海線が通り、東京から小海駅までは2時間ほど。

訪れたのは大寒で、一年のなかでも一番寒いとき。最低気温はマイナス17度。

山の天気はかわりやすく、さっきまで吹雪いていたのにすっかり晴れてきた。

小海駅から車で10分ほど離れた松原湖の畔に、憩うまちこうみの拠点施設がある。湖は一面氷に覆われていてとても寒いけれど、なぜだかずっと見ていられる。

「ここはもともと古い食堂だったんですよ。とても景色がいいので、松原湖が見えるように窓も大きくしたんです。山は毎日見ていても飽きないんですよね」

そう話してくれたのは、小海町役場の篠原さん。役場の縦割りをなくすための渉外戦略係で係長をしている。あまり馴染みのない役割だけど、さまざまな課を横断して橋渡しする、いわば何でも屋みたいな立場らしい。

憩うまちこうみ事業も地域おこし協力隊も篠原さんが担当なので、今回入る人にとっては一番身近な相談役になると思う。

憩うまちこうみ事業がスタートしたのは2016年のこと。小海町がまちづくり協議会を立ち上げ、地域住民と話し合いながら、小海の自然と人を活かしたプログラムをつくっていくことになった。

「当時は企業の健康経営が大事って言われはじめたころで。従業員が健康でなければ、会社もちゃんと育っていかないと。それで、都市部の企業の方に向けて何かできないかという話になりました」

小海町は東京からのアクセスもよく、キャンプ場やゴルフ場、冬にはスキーやスケート、松原湖ではワカサギ釣りなど、もともと自然を使ったアクティビティはたくさんあった。

そこで掲げたのが、「リ・デザイン セラピー」というコンセプト。心身の不調を治療するというよりは、自然のなかで自分を見つめなおし、自分らしさを取り戻す時間がつくれないかと考えた。

セラピープログラムを構成するのは、森や湖畔のなかで五感を開く「リラックス」、瞑想やヨガをする「メディテーション」、星空のもと焚火を囲んで仲を深める「コミュニケーション」、小海の食材を使った料理を食べる「デトックス」という4つの要素。

いずれも、専門的な講義や実技講習を通じ、正式にセラピストとしての認定を受けた小海町の住民たちが案内役を務めるそう。

都市部の企業と協定を結び、新人研修や管理職研修向けのプログラムを提供。3年前は5社だった協定企業も、今では19社に増えた。

「この事業は気づきっていうのがキーポイントなんですよ」

気づき。

「今って好きなときに好きなものを食べられて、夜になっても外が明るいと眠くならなかったり。それが当たり前だから、体内時計がずれてることにもなかなか気づけないんですよね」

「頭では大丈夫だと思っていても、体や心は疲れていることもあると思うんです。倒れる前にプログラムを通して自分の変化に気づいて、自分をもとに戻してほしい」

都市でもきっと気づくことはできるのだけど、自然のなかに身を置くことで、気づきやすくなることはいろいろとありそう。

実際に、モニターツアーの検証結果から、睡眠効率や集中力の向上などのエビデンスも取ることができた。

 

「松原湖を歩くセラピーウォークの前と後で、表情が全然違う方がいたんです」

そう話してくれたのは、セラピストの小山さん。

本業は歯科衛生士で、町の乳児検診などをフリーランスで請け負う傍ら、憩うまちこうみ事業ではセラピーウォークとヨガを担当している。

それは、ある協定企業の研修でのこと。

「自己紹介のとき、都会育ちの方に『私はコンクリートとビルが大好きで、自然は苦手なんです』と言われてしまって。虫も出るし、地面に座ってお茶とか飲めるかなと不安に思いながら始めたんです」

「でも歩くうちに『この石の上に乗っていいですか?』とか、『湖に石投げていいですか?』というように、どんどん興味を持ってくれて。本当に私がびっくりするくらい表情が変わったんです。最後のアンケートに『また来たいです』って書いてくれたのはうれしかったですね」

毎回さまざまな人の変化に立ち会う仕事。

一方で、セラピストである小山さん自身、知らぬ間に気づきを得ていることもあるという。

「セラピストになる前は、子育てしながら30年くらいずっと働いていて。当時は主人の単身赴任や仕事の疲労感で、うまく眠れない時期もありました」

「セラピストの仕事を通して、あのときは自律神経失調症気味だったのかなって気づけたんです。ここにいると気持ちが落ち着くし、私自身、森歩きをご一緒することが楽しいんですよね。今ではしっかり寝られるようにもなりました」

新しく働くことになる人も、仕事を通じて気づきを受け取る機会も多くなるかもしれない。

実際にはどんな仕事をするのだろう。

「主にはセラピストと協定企業の間をつなぐことです。協定企業さんによって、新人研修や管理職研修などの目的が違うんですね。その要望に合わせて、どのプログラムがいいのかを決めていきます」

日程の調整から宿泊施設への予約や食事の手配、研修当日の同行、施設の掃除なども業務のうち。

まずは町役場をオフィスに、プログラムや地域のことを知ることからはじめる。その後は憩うまちこうみの拠点施設で働いてもいいし、役場を拠点にし続けてもいい。

「企業の方全員がこのプログラムをちゃんと理解して来るとも限らなくて、アクティビティを楽しみにしている方もいます。なんのためにこの事業があるのかを見失わないで、その方たちにもセラピープログラムを取り入れながら楽しんでもらうことが重要ですね」

農業体験をしたい!など、既存のプログラムにはないような要望もある。そういう場合には、役場の篠原さんや地域の人に相談すれば、受け入れ先をさがしてくれる。

4つのプログラムの基本内容は決まっているものの、新しい提案をすることもできるそう。たとえばアロマや精油など、参加者が持ち帰って小海の自然を感じられる商品をつくるのも面白そう。

ほかにも広報や、企業への営業をすることもある。基本的にはどの業務も人とコミュニケーションをとりながら進めることがほとんど。

「セラピストの担当決めも、この企業にはこの人がいいなっていうのを調整できるくらいに人間関係を築けるといいですね」

セラピストの年代は、30代から60代まで幅広い。案内のしかた一つとっても、説明をしっかりするタイプの人がいたり、静かに見守るタイプの人がいたりと人それぞれ。

「性格の相性もあるので、すべての人といい関係を築くっていうのは難しいと思うけど。仕事とプライベートとか関係なく、地域の人にも心を開いてコミュニケーションをとれる方だと楽しめるかな」

地域のなかにはスポーツや手芸など、趣味のサークルがたくさんある。いろんなコミュニティに関わっていくことが、仕事もプライベートも充実させてくれる環境だと思う。

 

最後に話を聞いたのは、昨年度から地域おこし協力隊として活動する糸井さん。

後継者のいなかった小海町の「小山豆腐店」を引き継ぎ、特産の鞍掛豆を使ったお豆腐をつくっている。

小海町では8人の協力隊が活動していて、担当分野にかかわらず交流もあるという。糸井さんと今回入る人も、何かと関わりが多くなるかもしれない。

群馬出身で、20代のころは東京や福岡、宮崎などで蕎麦屋になろうと修行をしていた糸井さん。

「蕎麦とか日本酒ってローカル性が強くて、自分のオリジナルを目指さなくても、その土地にあるものでつくれば自然とその土地らしさが出ちゃう。そういう世界に魅了されたんです」

蕎麦の道は叶わず、会社員をする時期もあったものの、もう一度食の世界を夢見ていた。

「台湾を旅したときに飲んだ豆乳がおいしかったんですよ。それが忘れられなくて、日本に帰ってきてからも自分でつくって、毎日1リットルくらい飲んでました」

そんななか、日本仕事百貨で小山豆腐店の後継者募集の記事を読み、迷わず応募。

今は朝の2時に豆腐の仕込みがはじまり、夕方までの配達で大忙しだそう。

小海町で暮らしてみてどうですか。

「小海の良さって寒さに尽きると思うんです。スキーもスケートもあるし、温泉も薪ストーブもこの寒さがあるからいいんですよね」

町の中心には電車が走り、駅から歩いて10分ほどの役場周辺には地元の野菜が買える道の駅や病院、学校なども集まっているので、多くを求めなければ困らなそう。

「豆腐屋!とか、頑張ってるか!って皆さん声かけてくれて、全然よそから来たっていう感じはしないです」

小海町の人柄や人間性って、どんなふうに感じますか。

「うーん… 本当に一人ひとり、人によって違うので、僕は地域で分けることはあんまりしないんですよね。でも強いて言うなら、義理堅いですかね。お土産とかあげるとすぐに何かお返ししてくれます」

とても率直に答えてくれる糸井さん。憩うまちこうみ事業とも、何か関われないかと模索しているそうだ。

「都市の人がみんな疲れていて、田舎のほうがリフレッシュできるっていう単純な構図はしっくりこないんです。ちゃんと考えて行動したい。僕が関われるとしたら、癒しとかじゃなくて、一緒に豆腐をつくる体験とかかなと今は思っています」

何事にもまっすぐ向き合う糸井さんは、憩うまちこうみが大切にする「自分らしさ」をしっかり持っている人なんだと思う。

「わたしがわたしになれるまち」

セラピストの小山さんにもらった名刺の裏に書いてあった言葉です。

もし気になったら、まずは小海町の人に会いに来てみてください。

(2022/1/20 取材 堀上駿)

※撮影時はマスクを外していただきました。

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