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もくもくと手を動かして、何かをつくる。
一針一針、糸を縫い付けたり、ビーズをつなげたり。わざわざ手間をかけて、ものをつくりたくなる気持ちはなんだろう。
今回紹介するのは、そんな「つくる楽しさ」を伝える仕事。
老舗ビーズメーカーの株式会社MIYUKIで、デザイナーとして働く人を募集します。
職人の手で丁寧につくられるMIYUKIのガラス製ビーズ。ビーダーと呼ばれる手芸の愛好家や、アパレルのデザイナーなど、その道の人たちからは、すでによく知られた存在ですが、まだまだ届けたい人はいる。
今回募集するデザイナーは、ビーズや手芸の楽しさに出会うきっかけをつくっていく仕事です。カタログやチラシ、パッケージ、Webコンテンツなどの制作に携わりながら、見せ方、伝え方を考える。
自社製品のPRというよりも、どうすればものづくりの裾野を広げていけるか、そんな視点でデザインしていく役割です。
MIYUKI FACTORYは、浅草橋駅から歩いてすぐ。神田川にかかる橋の手前にある。
大きな窓から棚にずらりと並んだビーズが見える。
以前は、浅草橋駅を挟んだ反対側にお店があり、今年の1月に移転、リニューアルオープンしたばかり。
前の店舗の、所狭しと商品が並ぶ感じも好きだったけど、新しい店舗はギャラリーのようにゆったりした空間。窓から入る自然光で、色や形を吟味しながら、気兼ねなく長居できる。
棚に並ぶビーズはざっと数千種類はありそう。でも実は、ここにあるのはMIYUKIが持つ製品の一部分。
全部は無理でも、なるべくたくさんの種類をお店で手に取ってもらえるように。
そんな思いで、店舗のリニューアルを進めてきたのが、副社長の勝岡隆史さん。
「もともとビーズづくりは、うちの曽祖父が戦前にはじめた事業で、時代とともに、いろんな種類のビーズを生み出してきました。広島県の福山に本社と工場があって、職人がものづくりをしています」
ガラスを細い管状に伸ばし、小さな粒にカットしてつくられるビーズ。MIYUKIの製品は、その品質の高さから海外にも多くのファンがいる。
30年ほど前には、福山と東京にファクトリーショップをオープンし、ユーザーとの接点を広げてきた。
「東京のお店をリニューアルしてから、新しいお客さんも増えました。もともとこのエリアで長く商売をやってきたんですが、『MIYUKIの直営店があるとは知らなかった』って言われることもあって」
「やっぱり、まだまだ出会うべき相手はたくさんいると思うし、伝える工夫が必要だなと実感しています」
そういえば、MIYUKI FACTORYのWebサイトも、新しくオープンしましたね。
スタッフの方がビーズの魅力を紹介する読みものも、おもしろかったです。最近の記事だと、「お米に似ているビーズがある!」って、書き手自身が素材をおもしろがっている感じが伝わってきました。
「商品のPRをするだけじゃつまらないから、ものづくりをする人が『あるある』って共感できるような話題を織り交ぜてネタ探しをしています。Webの読みものの制作も、今回募集するデザイン室のスタッフが担当しているんですよ」
勝岡さんがデザイン室を発足させたのは、3年前。
当時は新設の部署ということもあり、具体的な役割や業務内容はスタッフが入ってから一緒に考えていきたいという話だった。
3年経ってみて、デザイン室はどんな部署になりましたか。
「デザイナーとして入社したスタッフが、割と幅広くできる人だったので、さっき話したWebもそうだし、カタログやリーフレット、ポップなどの紙媒体、商品パッケージ、ときにはビーズキットの企画まで、いろいろやってくれています」
今はデザイナーのほか、ショップスタッフの1人が写真撮影やイラスト制作をサポートしているので、デザイン室は実質1.5人体制。
今後は展示会のブースデザインなども担当することになるので、その役割は大きくなっていく。
「小さい会社なので、本当に幅広く関わってもらうことになると思います。基本的なデザインソフトの操作は必須だけど、+αで何ができるかっていうのは、その人の経験やスキルに合わせて柔軟に分担していけたらいいなと思っています」
手芸やビーズを使った制作が得意な人も、未経験の人も、それぞれ活かせる視点がある。大事なのは、ものづくりが好きという気持ち。
3年前に入社したデザイナーの坂元さんも、ビーズについては、入社してから知識を深めてきた。
「私はもともと趣味でイヤリングをつくっていたんですが、本社のスタッフは本当にビーズに詳しくて。刺繍のテクニックとか、加工の種類とか、いろいろ教えてもらっています」
以前はデザイン会社で、長くクライアントワークを続けていた坂元さん。
忙しく働く日々の気分転換としてはじめたのが、ビーズを使ったイヤリングづくりだった。
「普段デザイナーとして、誰かに依頼されたものをつくる仕事をしていたので、ビーズで自分のつくりたいものをつくる時間が、いいリフレッシュになっていました」
さまざまな業界のクライアントと関わるデザインの仕事は、とても楽しかった。一方で、残業が続く日々に体力的な限界も感じていたという。
「今後どうしようか迷っていたときに、MIYUKIが求人していることを友達から聞いて、『なに?!』って(笑)。その日の帰宅する電車のなかで、志望動機をまとめて応募したんです」
坂元さんが入社したのは、ちょうど店舗のリニューアル計画が動き出したころ。
はじめての仕事は、新しいロゴマークのデザインだった。
「お店のリニューアルでは、売り場の陳列も一緒に考えました。膨大な種類のビーズがきれいなグラデーションに並ぶように、微妙な色の違いを見ていく。そうやって色に溢れた空間で仕事ができるのは楽しいです」
「入社する前は正直、インハウスデザイナーって同じ分野の仕事ばかりで飽きちゃうかなって思っていたんですけど、全然そんなことはなくて。記事を書いたり写真を撮ったり、想像以上に幅広く任せてもらっています」
商品を伝えるツールをデザインするだけでなく、ときには商品そのもののデザインに携わることも。
坂元さんが企画から制作まで手掛けたのが、おでかけブローチというキット。
「こういうビーズ刺繍って、一からつくろうと思うと、いろいろ道具が必要なんです。このキットは、フェルトに図案がプリントされているので、初心者でも塗り絵感覚で簡単にブローチをつくることができます」
「もともと社内で、女の子の絵柄のブローチをつくろうっていう企画があって。『動きのあるポーズも可愛いんじゃないですか?』っていう意見を出したら、『じゃあイラストを描いてみて』っていうことになり、そこからビーズ選び、説明書、パッケージ、チラシと、フルで担当することになりました」
手芸店などで見るキットって、材料と説明書がビニールに入っているだけのものが多いイメージでしたが、これは箱入りパッケージもかわいいですね。
友達へのプレゼントにも良さそう。
「パッケージデザインを考えるときは、手芸に馴染みがない人にも興味を持ってもらえるテイストを意識しています。ただ、パッケージに凝りすぎると単価にも影響するので、バランスが難しいです」
「今回は普通の白いボール紙の裏面を表にして、クラフト感を出して。あとは、商品写真をシールにすることで、3種類展開でも共通の箱を無駄なく使えるとか、実は小さな工夫がいろいろあるんです」
このブローチのように、数ヶ月単位でじっくり商品企画に向き合うこともあれば、突然チラシの修正依頼が入ったり、商品の納期に合わせて、スケジュールが変更になったり。
普段から、いくつもの仕事を並行して担当している坂元さん。
クライアントワークをしていたときは、ワークライフバランスもネックになっていたという話でしたが、今の働き方はどうですか。
「うちは基本、“ノー残業”なので、生活のゆとりはかなり増えました。一方で、本当はもっとやりたいけど、時間が足りなくて、手が回らないっていうこともあります」
本当はやりたいこと。
「たとえば新しい商品を出すとき、今は商品本体のデザインで精一杯なんですけど、本当は、営業さんがプレゼンに使う資料とか、店舗に飾るポップとか、お客さんの手に届くところまでフォローできたらいいなと思っていて」
「手芸の市場は縮小していても、まだデザインにできることは残されている気がします。MIYUKIは歴史の長い会社だけど、お店をリニューアルしたり、デザインに力を入れたり、新しいことがどんどん生まれていて。そのなかで自分に何ができるか考えるのは、ワクワクしますね」
自分もチームのなかにいるからこそ見えてくる課題。
言われたことだけじゃなく、全体を見て「そもそも」から考えられるのは、インハウス、特に中小企業のデザイナーとして働く醍醐味なのかもしれない。
坂元さんは普段から売り場にも顔を出し、お客さんやスタッフの会話に耳を傾けている。
「売り場のリアクションが、デザインのヒントになることもあります。たとえば、『カラーパレット』という商品も、発売後にパッケージを改良したんです」
カラーパレットは、有名な絵画のイメージから組み合わせた5色のビーズがアソートになっている商品。普段自分では選ばないような色合わせの楽しみに出会ってほしい、と企画されたものだった。
発売当初に坂元さんが意識したのは、ギフトにも選びやすいような、しっかりした形のパッケージ。三角形で自立するので、ディスプレイにも映える。
「売り場で足を止めて下さるお客さまは多かったんですが、三角形の隙間から覗き込まないとビーズの色がたしかめられなくて、なかなか購入につながらなかったんです」
「そこでビーズが一目でわかるように、干し柿みたいに一本の糸で吊るす形のパッケージをつくって隣に並べてみたら、お客さんは干し柿パッケージで色を確認して、三角のほうを買ってくださるようになりました」
何がネックになっているのか、自分の目で確認して、デザインに反映できる。フットワーク軽く、いろんな案を試してみられるのは、この環境のいいところですね。
「これからデザイン室に新しいメンバーが増えたら、見て感じたことをお互いに相談しながら、進めていけたらいいなと思います」
つくったものを納めて終わりではなく、その先まで一緒に考えていく。
そんなふうにデザイナーの役割をとらえられる人なら、じっくり取り組んでいける仕事だと思います。
(2022/8/4 取材 高橋佑香子)
※撮影時はマスクを外していただきました。