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SDGsの一つにあげられている、「ディーセント・ワーク」。
ディーセント・ワークとは「働きがいのある人間らしい仕事」と訳されます。
誰かのためになること、好きなことをやること、お金を稼ぐこと。
働きがいと聞いて想像するものは、人によってさまざま。
ディーセントワーク・ラボは、障がいの有無に関係なく、みんなが働きがいを得られる社会の創造を目指し、障がい者雇用コンサルティングをはじめ、さまざまな活動をしている団体です。
今回募集するのは、福祉施設のものづくりなどの仕事を改革したり、企業の障がい者雇用を円滑に行えるよう支援したりするコンサルタントです。そのほか、イベントやフェスの運営など、幅広い仕事を担います。
福祉業界の経験の有無にかかわらず、興味のある人にぜひチャレンジしてほしい仕事です。
東京工業大学が目の前にある、東急目黒線の大岡山駅。
駅から1分ほど歩いた場所に、ディーセントワーク・ラボの事務所が入ったマンションがある。
エレベーターで4階へ。扉が開くと、天井まで続く棚には福祉関係の本がずらりと並んでいた。
はじめに話を聞いたのは、代表の中尾さん。
快活でハキハキと話してくれる、気持ちのいい方。
大学院まで福祉を学び、卒業後は障がいの有無にかかわらず使いやすいものづくりの検証をする福祉系の会社に就職。
企業からの依頼に基づき、世の中の製品が、誰にでも使いやすいものになるよう、障がいのある人とともに提案する仕事をしていた。
「日本って、電化製品の操作などのハード面はすぐ改善されるんですよ。でも、働く環境のようなソフト面は手をつけられていないことが多くて」
2009年当時、障がい者が働く就労継続支援B型や授産施設などの1ヶ月の工賃は、1万2千円程度だった。
「もし自分が同じ立場だったらって考えると、どうにかしたいと思って。ただ、施設はあくまでも障がい者の支援をする場所。福祉のプロはいても、ものづくりや営業のプロはいなかったので、そこをサポートしていきたいと思ったんです」
障がい者の工賃を上げるためには、つくるモノの質の向上に加え、販路の開拓にも取り組まないといけない。そのため、お菓子ならパティシエ、雑貨ならデザイナー、販路開拓にはデパートの担当者など、さまざまなプロフェッショナルが関わりながら、障がいのある人が働きやすく、彼らの特性や個性が活きる仕組みが必要だと考えた。
そこで約13年前に立ち上げたのが、施設とプロをつなぐ事業。これが今のディーセントワーク・ラボの前身となっている。
「さっきもデザイナーさんと新商品の打ち合わせをしてきて」と、見せてくれたのは、equaltoという小物ブランドのパンフレット。
カードケースや石けんなど、デザイン性の高い雑貨が紹介されている。
これらはすべて、中尾さんたちが間に入りながらデザイナーと施設側が話し合って考え、なおかつ障がい者一人ひとりの特性や個性を活かしてつくることができるように、製造過程が工夫されているもの。
たとえば、と教えてくれたのは、equaltoの人気商品の一つである革でつくられたペン立て。仕切りが波打つような形になっていて、細やかな作業が必要そう。
「複雑な形ではあるんですが、ガシャって1発で抜けるような型抜きをつくって使ってもらっています」
「こういった型抜きひとつをつくるのにも、どうしたら障がいのある人にとって作業しやすいものになるか。デザイナーさんにも入ってもらって、試行錯誤していきます」
たとえば、手元がぐらついて作業がむずかしければ、それを解消するような自助具からつくる。施設に任せきりにするのではなく、どうしたらつくり手である障がい者や施設の職員にとって最善か。そしてどうしたら市場で販売するための質を担保できるか。
「長いものだと、商品ができるまでに1年以上かけてつくることもありますね」
そこまで共に考えて丁寧に伴走支援するのが、ディーセントワーク・ラボの特徴だ。
「障がいのある人たちが、自分ができることが増えていく姿を見ていると、すごくうれしくて。いいものをつくって喜んでいるときは、つい私も一緒に笑顔になっちゃうんですよね」
関わっている人たちのポジティブな変化が、自分にも伝播していく。
「人間ってどこか根底に、誰かのために何かをしたいとか、誰かの喜ぶ顔が見たいとか、そういう気持ちがあると思うんです」
障がいのある人もない人も、みんながその気持ちを感じられることが働きがいにつながる。
障がいのある人ができることが増えたり、目つきが変わったり、休みがちだった人が毎日のように来るようになったり。
日々変わっていく人々の様子を目の当たりにして、これはなんだろうと考えていたときに、「これがディーセント・ワークじゃないか」と恩師から教えられた中尾さん。
みんなが働きがいを感じられる社会を実現していこうと、施設とプロをつなぐ事業に加えて取り組んでいるのが、障がい者雇用を促進したい企業をコンサルティングする事業。
ハード面とソフト面の両方から、どうしたら障がい者も加わった社内の人たちが、働きがいをもって仕事をすることができるか。企業に伴走しながら考えていく。
たとえば、朝どうしても起きられない人にはシフトを柔軟に変えられる仕組みの相談を。モチベーションを感じづらい人には、やり終えた仕事を具体的に書き出す、作業の見える化を。
「誰にでもある得意なことや苦手なことを、障がいの有無に関係なく認め合う。そしてみんなが安心して働けて、これまでよりも少し難しいことにも挑戦しながら働く喜びを感じられるような仕組みを、企業さんや障がいがある人たちと一緒につくっていきます」
今回募集するコンサルタントは、主にこの施設や企業に伴走支援する仕事に加え、ディーセントワーク・ラボが秋に主催している「トントゥ・フェスティバル」というイベントの運営も担うことになる。
「みんな ちがう だけど おなじ」というテーマで昨年から始まったこのイベント。
昨年はコロナ禍によってオンラインのみの開催になり、プログラムが限られてしまったため、今年はリアルで集まって実施したいと考えているそう。
“私らしさ”と“あなたらしさ”を感じながら、そのなかにある“ちがい”と“おなじ”を知って、発見して、社会やグループでの“役割”を見つけ合う。
そんなソーシャル・インクルージョンを目指したフェスティバルイベントだ。
そのイベントの推進担当を任されているのが長濱さん。広報やデザインの仕事をしながら、イベント担当も兼任している。
トントゥ・フェスティバルでは、障がいのある人もない人も参加できる音楽ライブや、「ディーセント・ワーク」「多様性」などのテーマについて対談するトークショー、パラリンピック種目の体験、福祉施設でのモノづくりを体験できるワークショップなど、さまざまな企画が用意されている。
「今はイベントのコンセプトに共感して、一緒に動いてくださる制作会社さんに声を掛けたり、出展してくれる団体さんをリサーチしたりしています。あとはどんなメディアを使ってどう広報をしていくか、それも並行して考えていますね」
学生時代はデザインを学んでいたという長濱さん。当時から、中尾さんと一緒に施設のプロダクトデザインを考える活動をしていたそう。
大学卒業後は3年間、メーカーでデザインの仕事を経験。デザイナーとしての実績は着実に積んできたけれど、学生時代に中尾さんたちと取り組んでいた活動がずっと心に残っていたという。
「ディーセントワーク・ラボの事業も徐々に大きくなってきて、フェスも開催して。会社として拡大していくこのタイミングだからこそ、デザインの力が活かせるかもしれないと思って、入社することを決めました」
実際に働いてみてどうですか?
「想像以上にいろんなことをマルチタスクでやらなきゃいけないんだなっていうのをすごく感じていて。施設や企業へのコンサルティングもするし、つくるものの質を向上させて工賃を上げるための取り組みにも伴走するし」
「それらと同時に、障がい者福祉、雇用に関わる研究や企画も動いているので、本当に事業が多岐に渡っていて。情報を吸収して勉強している最中という感じなので、まだまだこれからがんばらないとなと感じています」
印象に残っていると話してくれたのは、学生時代に中尾さんと取り組んだお菓子づくりのプロジェクト。
「お菓子を食べたとき、おいしさにびっくりしたんです。でも、こんなにおいしいのにパッケージは簡素なものが多くて、魅力がなかなか伝わらなくて」
「そういうところで、デザインの力が役に立つと感じたんですよね。パッケージデザインとかロゴデザインとか。ビジュアルのところをお手伝いさせてもらったのは、いい経験になりました」
福祉業界に縁がなかった人にとっては、最初学ぶべきことはとても多いと思う。それでも、知識と経験を積んでいくなかで、関わる人たちとともに自分も成長できる環境がここにはある。
最後に話を聞いたのは、前回の日本仕事百貨の記事を読んで入社した三浦さん。
もともと、福祉施設が運営するお店で、障がいのある人たちと一緒にお菓子の製造・販売をしていた。
そのなかで、製品の質を上げ、売り上げを伸ばしたいという思いを持っていたものの、どうしたらいいかわからず、モヤモヤを抱えながら働いていたそう。
「その状況を打開したかったんですけれど、施設の職員だけですべてを解決するのはむずかしくて」
「仕事百貨の記事を読んで、ディーセントワーク・ラボが取り組んでいることにすごく惹かれたんです。それまでモヤモヤしていた気持ちが、ワクワクするようになったというか。それで入社しようって決意しました」
入社して2週間。今は先輩スタッフのアシスタントをしながら、少しずつ実務経験を積んでいる。
「この前は、ある企業さんの障がい者雇用の打ち合わせに同席しました。はじめは企業さんも、どんな仕事をしてもらうのがいいのかが見えていない状況で。でも話しているうちに、『障がいのある人の能力を活かせそう!』ってピンとくる仕事が出てきたんです」
それは、倉庫にある資材を整理する仕事。一定の決まりに沿って荷物を整理するなど、障がいのある人も取り組みやすい作業が多く、それが会社にとっても必要不可欠な仕事だった。
「私たちは日々障がいのある人たちと関わっているから、どんな仕事なら特性や個性を活かせそうか想像しやすい。でも、そういう予備知識がない企業さんに対して、障がい者に寄り添った仕事であるけど、会社にとっても必要な仕事をどう提案していけるか。むずかしいけれど、ワクワクしながら働いています」
最後に中尾さんが話していたことが印象に残っています。
「私たちは誰かの働きがいをつくりながら、自分たちの働きがいもつくっているんです」
どんな人でも働きがいを感じられる社会。
その社会を実現する一員になりたいという方は、ぜひ一度話を聞いてみてください。
(2022/6/21取材 小河彩菜)
※撮影時はマスクを外していただきました。