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「障がいのある方も、私たちも、変わらないんですよ」
今回お話を聞いたみなさんは、口を揃えてそう話していました。
この言葉を聞いて感じたのは、「できること」ではなく「在ること」で人を見ているということ。
人と向き合う上で大切なことは何か、あらためて考えるきっかけをもらった取材でした。
長野県佐久穂町。人口1万人ほどのこの町で、福祉に携わる地域おこし協力隊を募集します。
福祉分野への知識、経験は問いません。
障がいのある方が、地域と関わる機会を増やしていくこと。それが主なミッションです。
場づくりやイベント・雇用など、いろんな切り口から、企画を考え行動できる人を求めています。
佐久穂町へは、東京から新幹線と在来線を乗り継いで2時間ほど。
JR小海線海瀬(かいぜ)駅の改札を出て歩いていくと、どこからか水の音が聞こえてくる。
なんの音だろう?と思っていたら、大きな川が見えてきた。川の先には雄大な景色が広がっていて、思わず立ち止まってしまう。
向かった先は、駅から歩いて10分ほどの佐久穂町役場。
出迎えてくれたのは、今回募集する協力隊が所属する健康福祉課の小林さん。道中の景色を伝えると、まちについて教えてくれた。
「佐久穂町は、西側に北八ヶ岳・北側に浅間山があって、中心には南北に千曲川(ちくまがわ)が流れています。人口1万人ほどの、自然豊かな地域ですね」
「2019年には、日本初のイエナプラン教育を取り入れた私立小学校が開校しました。その影響で教育移住する人も年々増えていて、まちに新しい流れが生まれてきているんですよ」
イエナプラン教育とは、異年齢の子どもたちでグループを構成することで、教え合い、助け合いが活発になるとともに、お互いの違いに対する尊重心を育む教育のこと。
移住者を中心に、月に一度のマルシェが開催されているほか、この3年で新しいお店が立て続けにオープン。
ドーナツ屋やスパイスカレー店、カフェや本屋など。空き店舗が多かった商店街にも徐々ににぎわいが戻りつつある。
まちにいい動きが増えているからこそ、福祉担当の小林さんとしては考えてしまうこともあるという。
「障がいのある方も、もっと地域のみなさんと自然に関わりあえたらなって。町内にも福祉施設はいくつかあるんですが、施設内で交流が閉じているというか…。すごく閉鎖的なんです」
「障がいの有無に関わらず、どんな人も生きがいをもって楽しく過ごせるまちにしていきたい。そのために、もっと地域との関わりを増やしていけたらと思っています」
これまで、役場が主催してきた福祉イベントは、家族や関係者のみの来訪が多かったそう。
また、障がいの有無に関わらず、誰でも自由に過ごせる交流の場として「地域活動支援センター」という施設があるものの、まだまだ認知されていない状況なんだとか。
「今までやってきたやり方があるからこそ、なかなか行政だけでは新しい発想ができなくなってしまっていて。今回募集する地域おこし協力隊の方に、いろんな企画を柔軟に考えてもらいたいんです」
障がいのある方が、地域と関わる機会を増やしていくために。
まずは、これまでやってきたイベントや今ある施設のなかで、よりよい形を考えていくところから始めるのもいいと思う。
図書館や体育館・カフェもある町内の複合施設公民館に、みんなの居場所となるような、新しい交流拠点をつくりたいという話も出ているんだとか。
「居場所づくりについては、まだまだこれから話し合っていくところで。新しい人と一緒に考えていきたいですね。もちろんフォローはしますが、自分からいろいろ企画して動いてくれる人にきてもらえたらなと思っています」
今まで福祉に携わってきた人だったら、これまでの枠組みのなかで形にしきれなかったことを、佐久穂町で試せるかもしれない。
未経験の人も、外の視点だからこそ気づけることや、活かせる能力がたくさんあると思う。
“交流”というと、イベントや場づくりなど大きなものを想像しやすいけれど、もっと身近なところからできることもある。
たとえば、障がいのある方の「暮らし」の範囲を少しでも広げられないだろうか。
「スーパーへ行って、一人でお会計をするとか。今は難しくても、練習したらできるだろうなって方はたくさんいて。いつか一人暮らしをしなくちゃいけないときのために、少しずつ暮らしの練習をする機会をつくっていきたいんですよね」
まずは、スーパーへ一緒に行ってみる。もしかしたら、最初はもっと小さい範囲で、家の近くを一緒に散歩するだけでもいいのかもしれない。
近所の方とすれ違ったら挨拶をし、「あの人よく見かけるな」と思われる存在になることから、生まれるつながりがあるように思う。
「仕事」の面からも、何かアプローチできることはあるのだろうか。そもそも、障がいのある方は、どのように社会と関わっているんだろう?
そんな疑問をもちながら、役場から車で5分ほどのところにある「陽だまりの家」へ。
就労継続支援B型と呼ばれるこの施設では、軽作業などを通じて障がいのある方たちの就労訓練をおこなっているとのこと。
今回募集する人も、週1回程度ここへ通って、福祉の基礎を学んでいく。
出迎えてくれたのは、施設長の佐々木さん。
「ここには、知的障がいのある方を中心に、一日大体32名くらいが来ていて。薪割りや公共施設の掃除、ゴミの分別業務など、行政からの委託事業を中心に日々いろんな作業に取り組んでいます」
「家に引きこもっていた方が、少しずつここに通ってくれるようになったとか。そういう変化に立ち会うこともよくあるんですよ」
みんなで作業をしてお弁当を食べて。そんな活動が、利用者の日々の楽しみにもなっているとのこと。
一方、あくまで就労訓練の場であるため、どんなに時間のかかる作業でも、報酬はすずめの涙ほど。
全国的に見ても、陽だまりの家のような就労支援施設での作業対価は、月額平均約1万5千円というデータもある。
「利用者さんのできることをもっと広げていきたいんですが…。企業から仕事をいただくとなると、なかなか難しいんですよね」
作業部屋をのぞくと、利用者さんが段ボールを組み立てる作業をしていた。
作業スピードが速い上に、とっても丁寧。
少し見学させてもらっただけでも、細かくタスクを分ければ、担える仕事はたくさんあるように感じる。
人手不足の会社も多いなか、仕事を依頼する障壁となっているものは何なんだろう。
「やっぱり、知られていないっていうのが大きいんでしょうね。ここに通っている方について、偏見もいっぱいあると思うんです。でも実際に見てもらうと、私たちとあまり変わらないことの方が多くて。一人ひとり、個性や良いところがすごくあるんですよ」
地域の農家さんが加工商品の箱詰めを依頼してくれたり、陽だまりの家に通って作業スキルを身につけた人が、病院の掃除員として雇用されたり。
施設と接点を持ったことをきっかけに、そういう動きも少しずつ増えてきている。
陽だまりの家で過ごすうちに、利用者さんの得意な仕事が見えてくると思う。
加えて町内企業の困りごとをヒアリングできれば、施設でできることと企業が求めていることに、重なりを見つけられるかもしれない。
さまざまな可能性のある「仕事」という分野でも、まちとの関わりを少しずつ増やしていってほしい。
福祉分野での協力隊募集は、今回で2回目。
先輩協力隊である水谷さんは、2021年5月の着任以降、福祉と地域の関わり方を模索してきた。
「子どもが佐久穂町の私立小学校へ進学することになって、福岡から移住してきました。前職で保育士をしていたときから、発達が少し気になる子どもたちは、将来どんなふうに過ごしていくんだろうと気になっていて。そんなときに、協力隊の募集を見つけたんです」
未経験から、福祉分野に飛び込んだという水谷さん。
実際に携わってみて、どうでしたか。
「普通っていうと語弊があるけれど、すごく普通というか…。私たちと変わらないなって感じています。もちろん、障がいで大きな声が出ちゃう人もいるし、傷つきやすい人には伝え方を気をつけなきゃとか、難しいこともいっぱいあるんですけど」
「相手のことを理解しようとするとか、人の気持ちを想像して話すとか。大切にすることは結局、障がいに関係なくどんな人相手でも同じなんだと思うんです」
1年目は、陽だまりの家での勤務のほか、利用者が自由に過ごせる「地域活動支援センター」で過ごす時間が多かったとのこと。
手芸をしたりマンガを読んだりと、自分の好きなことに取り組む利用者さんたちに寄り添ってきた。
「みんなでトランプしたり、恋バナを聞いたりもすることもありましたね。料理教室を開いたり、ドライブに出かけたりもしました」
「佐久穂町で何ができるか考えるために、長野県のほかの施設へ見学に行ったり、講習会や研修に参加したり。あとは、農業分野での関わりを模索するために、町内の農家さんのもとへ週に一度お手伝いにも行かせてもらいました」
一次産業が盛んで、農家も多い佐久穂町。
利用者さんのなかには、家で農作業の手伝いをしている方も多いため、人との関わりが苦手でも入りやすい分野として、注目されているそう。
「私がお世話になった農家さんは、結構忙しい現場だったので、『利用者さんにはちょっと難しいかも…』と最初は思っていて。でも1年通っているうちに、農作業にもいろんな細かい仕事があることがわかったんです」
たとえば、出荷する袋一つひとつにシールを貼る作業や、袋詰めなど。
水谷さんが足繁く通ううちに、農家さんからも「こういう仕事だったらお願いしたいかも」と言ってもらえるようになったそう。
水谷さんが時間をかけて信頼関係を築いていったからこそ、提案につながったんだろうな。
「こんなことできるよって押しつけても、地元の方に受け入れてもらわないと、やっぱり動かないんですよね。この土地に住んで、地域の人に信頼してもらって。そこから少しずつ小さな提案をしていくほうがうまくいくんじゃないかなって、感じていますね」
水谷さんの話を聞いていると、まずは自分がこのまちできちんと暮らし、日々の生活を通じて地域の人と関係性を築いていくことから、すべては始まるように思う。
そうしたらきっと、福祉との関わりを相談したときにも「この人が言うなら、力になれることがないか考えてみよう」と思ってもらえるはず。
今回募集する人がハブとなって、まちの人の福祉に対する意識を少しずつ変えていけたら、つながりはすごく強固なものになる気がする。
「まちのスーパーに行っても、利用者さんと会ったことはほとんどなくて。土日に何をしていたか聞いても『家にいた』っていう答えしか返ってこない。施設で見ているような楽しそうな姿を、外でも見れたらいいなって思うんです」
まちとのつながりが増えれば、福祉の可能性も広がる。
自らの関係性を軸に、自由に事業をつくっていける面白さがある仕事だと感じました。
深いつながりを感じながら、誰かのために仕事をしたい人には、やりがいのある環境だと思います。
(2022/12/20 取材 鈴木花菜)
※撮影時はマスクを外していただきました。