求人 NEW

美ら海のまちの
子どもたちに
あざやかな思い出を

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

美しい海に囲まれた南の島、沖縄。

なかでも、あざやかなエメラルドグリーンの海が広がる本部町(もとぶちょう)が、今回の舞台です。

沖縄美ら海水族館や離島など、観光資源にもめぐまれた本部町。この町の子どもたちに、ここでしか体験できない学びを届けようと、オリジナルの地域学習プロジェクトがはじまっています。

小学校では、サンゴ礁やウミガメ、琉球藍といった自然資源に加え、町内で活躍する企業など、町のさまざまなものや人、文化を見て、聞いて、体験する。中学校では、町への理解をさらに深める課題を通して、自分の頭で考え、周りに伝えるおもしろさを知ってもらう。

新しい教育が芽吹きはじめたこの町で、小中学生向けの地域学習を担当するコーディネーターを募集します。



梅雨の晴れ間の沖縄。

朝晩は涼しい本州とは違って、こちらは朝から蒸し暑い。歩いていると汗が噴き出てきて、真夏の気配がする。

人でにぎわう那覇で高速バスに乗り、島の北部へ。街中を抜けてしばらくすると、窓から海が見えてきた。

海は、北に行くほど透き通っていく。2時間後、本部町のビーチでバスを下りると、白い砂浜の向こうにエメラルドグリーンが広がっていた。

「このあいだ、高校のコーディネーターがドローンを飛ばして『本部高校の魅力はまずこの海!』と動画をつくったんです。そしたら子どもたちは『海なんか当たり前すぎて誰も何も思わないよ、新しい魅力考えて!』って(笑)。もう本当に素直というか、何というか」

町の教育委員会に到着すると、小路(しょうじ)さんが迎えてくれた。

小路さんの本職は先生で、2年前に教育委員会に出向するまで、7年間本部中学校で教えていた。今でも町の人からは、「小路先生」と親しまれている。

「ここの子はやんちゃな子も多くて、授業がつまらなければすぐにやーめたと鉛筆を放り出すんです。でも僕らがおもしろい授業をしたら、どんどん手を挙げて、前のめりになる。沖縄の中でも根がまっすぐな、素直な子たちだと思います」

「それに“やんちゃ”も表面的なものだと思っていて。一人ひとりとよく話すと、『どうせ俺なんて、私なんてダメだから』という気持ちがあることに気づかされます」

「南の楽園」のように語られることも多い沖縄県。

その一方で、家庭の貧困率が高く、子どものおよそ3人に1人が経済的な貧困状態にあるという。

子どもにかけられる時間やお金がほとんどない家庭。家に帰ってもご飯を食べられない子、当然のこととして高校に進学しなかった子。

さまざまな事情から、自分に自信を持てずにいる生徒を、小路さんも多く見てきた。

「もっと勉強しろとか、言われたとおりにやれとか、一方的に押し付けるのは絶対に違うと思っていて。まじめに勉強をがんばりたい子も、高校に行って何の意味があるの?という子も、自分はこのために学校に行くんだ、勉強するんだと思えるような環境をつくりたかったんです」

「子どものころからいろいろな体験をして、自分はこれが好き、これをやってみたい!とやる気スイッチがオンになるような経験と、自分の頭で考えて、小さな成功体験を積める環境。このふたつが子どもに届いた先で、将来の目標も見えてくるんじゃないかなと思っています」

そこで町は2年前、本部町教育魅力化プロジェクトを立ち上げる。

プロジェクトの柱の一つが、子ども一人ひとりへの学習支援。

今は、中高生対象の公営塾があり、子どもたちは学校の復習や宿題、受験勉強など、スタッフと一緒に取り組んでいる。

そしてもう一つの柱が、小学校から高校まで一貫した、本部町をフィールドにする地域学習。

具体的には、「総合的な学習の時間」を使って校外学習に出かけたり、地域の人を招いた授業を展開したりしている。

「たとえば5月は、伊豆味(いずみ)という地区の小学校で『伊豆味すてきマップ探検』をやっていました。伊豆味は古くから琉球藍の産地として知られていて、マップに載せるために、藍農家さんや染織家さんの工房を子どもたちと一緒に訪ねて」

畑で藍の葉っぱをつぶして「緑から青になった!」と驚く子。染織家さんの工房で、畑で見た藍がきれいな糸や布に変わる物語を真剣に聞く子。

子どもたちは五感をつかって、この町のことを吸収している。この日体験して感じたことを、それぞれのマップにどう描くだろう。

「プロジェクトメンバーのみなさんが来てから、新しい視点やアイデアでどんどん子どもたちを外の世界に連れ出してくれています。子どもたちにとっては、親でも先生でもない、謎の大人ですよね(笑)。その関係で風を吹かせてくれる大人こそ、この小さい町に必要なんだと感じます」

「大人と喋って緊張した、ビーチでいっぱい生き物を見つけた、アイデアを褒めてもらえてうれしかった。子どもにはそういう思い出をたくさんつくってほしいです。それが将来自分の背中を押してくれるだろうし、いつか本部に帰ってきたい、本部に関わりたいと思ってくれることを願っています」



今回はコーディネーターとして、町内の小中学校の地域学習を担当する人を募集したい。

コーディネーターは、学校と地域とを結ぶ大切な役割。その一人、吉村さんの仕事内容や姿勢は、きっと新しく着任する人の参考になると思う。

吉村さんは生態人類学の研究者で、本部町は研究者としてスタートした場所だったそう。

前職で学生向けの出張授業をおこなっていた経験も活かし、現在はコーディネーターとして、3人のチームで町内の小中学校を担当している。

「僕たちは、小中一貫したプログラムをつくるミッションがあります。小学生は見る、聞く、体験する、調べることを通して、いろんなものに気づく。中学生は、その気づきをそれぞれの関心のなかで深める、というテーマをもって授業に落とし込んでいます」

プログラムをつくるにあたっては、「学校の先生がどんな授業をしたいか、どんなことを考えているか」というヒアリングも大切。

吉村さんが担当するうちの一校では、最終的に地域活性化案を発表することを目標に、中学3年間で下地をつくることにしたそう。

「地域活性化はすごくむずかしいテーマで、ワークショップを一日やっても深みのある案は出ないと思います。だから生徒たちは地域学習のほかにも、常識を学んだうえで疑うこと、アイデアの出し方や伝え方などの練習もしていて」

「2年生は明日、職場体験に行ってきます。職場体験自体は以前からやっているんですが、今年度からやり方を変えて、どうしてそこに行きたいのか、全員にプレゼンをしてもらったんです」

へえ、プレゼン! 子どもたちはどんな様子でしたか?

「生徒それぞれですね。友だちと一緒のところや、水族館、動物病院などイメージしやすい場所を選ぶ子たちもいました。一方で、職場体験を自分の将来設計図にしっかり位置づけて話す生徒もいて」

たとえば、「将来、英語の先生になりたいから」と、小学校の見学を希望した生徒がいたそう。

「何年生を見たい?と質問したら、『1年生』と返ってきて。なんで?と聞くと、『1年生は幼稚園から上がってきて最初に勉強に触れる。その子たちに、先生方がどういうアプローチをするか見てみたい』と」

「緊張したでしょうけど、ちゃんと自分の理由をもって、大人顔負けの質疑応答ができている。すごいなと驚きましたし、やればできる子たちだと感じました」

このプレゼンは、同じくジョブシャドウイングや職場訪問を予定している小学6年生、中学1年生もチャレンジしている。

まだ発表がつたない子も多いけれど、回数を重ねるうちに自分で考えて発表することに慣れていく。職場体験も「なんとなく興味のある場所に行けるイベント」から、理由や目的をもって参加する行事に変わっていくはずだ。

「中学生はほとんど地域のことを知りません。本部を楽しくするアイデアを考えようという課題でも、ずっと鉛筆が止まっている生徒もいます」

「だからこそ小学生のうちからいろいろなものを見聞きして、引き出しを増やせれば、数年後にはかなり違う結果になっていると思うんです」

小学校の総合学習も、コーディネーターの提案でアップデートされている。

たとえば小学3年生は、昨年度は1回しか行えなかった校外学習を7回まで増加する予定。そこでは、藍染、モズク工場など、その月々で見られる「旬」に焦点をあて、町内をめぐっていく。

こうした授業は、コーディネーター自身の日々の活動や、プライベートで参加するコミュニティのなかで出会った地域の方が引き受けてくれている。

ただ室内で机に向かってプログラムを考えていても、授業はつくれない。

今回募集する人もまた、地域の人と関係性を築きながら、子どもたちに還元していくことになるのだと思う。

「地元の方がこうしたお願いを受けてくれるのは、後継者を少しでも増やしたいとか、地域のことを知ってほしいなど、何らかの思いがあるからだと思います。そこを無視して、子どもたちのためにと一方的にお願いするのは決してしてはならない。せまく濃いコミュニティですから、感謝や尊重の気持ちがないと続かないと思います」

「むずかしい話ではなくて、周りの方と対話しながら、本部を楽しむ気持ちがあればいいのかなと思います。何が楽しかったのかを子どもたちに伝えることが、地域学習でいちばん大事なことなんじゃないかな」

生徒たちはいつも吉村さんを質問攻めにするそう。「自分でも何を質問しているか分かっていない子もいるけど、それを含めてかわいい」と教えてくれた。

 

昨年の夏、本格的に始動したプロジェクトは、今や全国から12人のスタッフが集まるまでに成長した。

その初期から活動している一人が、プロジェクトの「何でも屋さん」としてメンバーの相談相手にもなっている推進部の後藤さん。昨年は中学生対象の公営塾スタッフとして働いていた。

「最初は、学校の先生や子どもたちも、『ないちゃー(内地の人)が来た』と警戒していたんじゃないかなと思います。私、はじめて塾で中学生に挨拶したとき、無視されたんです。でも一人ひとりに話しかけたら、もじもじしながら答えてくれて。あとで『なんで最初無視したの?』って聞いたら、恥ずかしかったから!って(笑)」

吉村さんたちコーディネーターも、最初は学校の先生たちからも、どこかお客さんのように思われていたそう。

足しげく通って、先生たちの“ゆんたく(おしゃべり)”に参加し、職員室に机を置いてもらい… と、少しずつ関係性を築いてきた。

メンバーのほとんどが0から少しずつ町の人と知り合ってきた。東京から単身やってきた後藤さんも、今では町のあちこちから声をかけられている。

「本当にみなさんやさしいです。ごはん食べにおいでとか、一緒にイベント出ようとか。子どもたちには生意気言われて口喧嘩もしてきたけど(笑)、ほんとに素直で愛らしくて」

「上から目線は決してせず、自分から心をひらいて、相手の文化や考えを尊重するのが大事なのかなって思います」



美ら海のまちの大人と子ども、外からきたプロジェクトスタッフたち。

ともに歩み寄りながら、この町の新しい景色をつくっています。

(2023/06/12 取材 遠藤真利奈)

この企業の再募集通知を受ける

おすすめの記事