コラム

勝負の3年間

日本仕事百貨では、いろんな地域おこし協力隊を取材してきました。

卒業した人が定着し、毎年新しい人が入ってきて、いい生態系ができている地域もあれば、定着しなかったり、応募がなかったりする地域もある。

その違いってなんだろう。

さまざまな地域で協力隊の制度を活用しているのが、株式会社さとゆめ。

「ふるさとの夢をかたちに」をミッションに掲げる、事業プロデュース会社です。

地域の総合計画の策定で終わるのではなく、商品開発やホテルの立ち上げなど、事業をつくって黒字にするところまで、とことん伴走しています。

そんなさとゆめが採用支援をしている3つの地域で、協力隊を募集します。

全国で取材をしていると、「実はさとゆめさんに伴走してもらっているんです」と声を聞くこともしばしば。

どんなことを大切にしながら関わってきたのか。

働く側も雇う側にとっても、何かヒントになることが見つかるかもしれない。

そんな想いで、さとゆめさんに取材しました。

 

出張先の車内からつないでくれたのは、さとゆめ代表の嶋田さん。

「いろんな地域で感じているのは、人がいないこと。ちょっと前は、田舎には仕事がないって言っていたんです。でもここ10年ぐらいは、仕事はあるけど人がいない」

そのことを嶋田さんが痛感したのが、9年前に山梨県小菅村で道の駅を立ち上げたとき。

開業が迫るなか、運営するスタッフがいつまでも見つからなかったという。

人がいなければ事業は回らない。

知り合いづてになんとか人を探し、小菅村に派遣。そのときに活用したのが、地域おこし協力隊の制度だった。

「資本力の弱い会社や自治体が事業をつくろうとしたら、補助金を使うことが多い。そのことを批判する人もいるけど、あれこれ言わないで、使えるものは使おうと」

「それに加えて、起点となる人の人件費を賄えるのが、地域おこし協力隊の素晴らしいところだと考えていて。本来の使い方ではないと思うんですけど、当時はその制度に助けられました」

最後に人を探すやり方では、間に合わないことに気づいた嶋田さん。

熱意のある人を集め、その人とともに資金を集めたり、事業を運営してもらったりするほうがいいのではないか。

計画起点から人起点へと、考え方をシフトしていく。

これまでうまくいかなかった事例ってありましたか?

「ほとんどないんですよね」

どうしてうまくいくんでしょう。

「計画づくりとか資金調達は、終わってなくてもいいんです」

終わってなくてもいい?

「ただ、事業のコンセプトとビジョン。ここが決まっていないと、いい人材は集められない」

例に出してくれたのは、さとゆめが企画・運営に関わっているホテル「NIPPONIA 小菅 源流の村」。

コンセプトは、「700人の村がひとつのホテルに」。

村の空き家をホテルの客室に、村の物産館をショップに、温泉施設をスパに、そして村人をホテルのキャストに見立て、村全体でお客さんをおもてなしする。

この構想ができた段階で、ホテルのマネージャーとサービススタッフの求人をかけた。

すると、もともと高級ホテルで働いていた、現マネージャーの谷口さんの採用につながった。さらに協力隊として2名のスタッフも採用。

どの方も小菅村に来たことはなかったけれど、「村まるごとホテル」というコンセプトに共感して応募したのだとか。

これがもし、運営形態や仕事内容まで固まったプロジェクトだったら、同じ結果にはなっていなかったかもしれない。必要なのは、心が動くような新たな価値観や、ワクワクするようなテーマ、ビジョンを打ち立てること。

さらに言えば、3年間でたどり着くゴール、つまりミッションを明確にすることも大切。

「3年間の過ごし方を隊員本人に任せる自治体もあるけど、自分でゴールを探すことって結構しんどいと思うんですよ。ゴールを設定するほうが続くんじゃないかな」

「ただ、ミッションをしっかり伝えても、サポートがないと結局孤立してしまう。そのサポートも、我々の役割かなと思っています」

採用後もさとゆめがサポートに入る場合は、ほかの地域に研修に行ったり、ミーティングで相談できたり。

新しい取り組みが多いからこそ、相談相手が身近にいないプロジェクトも多い。さまざまな地域に関わってきた、さとゆめならではのネットワークを活かしつつ、壁打ちや息抜きの時間をつくるようにしているそう。

嶋田さんはこんなことも教えてくれた。

「将来何をやりたいのか、3年間で何を得たいのか。応募してくれた人にヒアリングする必要がありますよね。たとえば、大子町(だいごまち)に行ってもらってるIくんは、将来が明確です」

茨城県大子町では、古民家を活用して「集落まるごとグランピング」をコンセプトに事業を立ち上げているところ。

Iさんは、さとゆめの正社員でありながら地域おこし協力隊として半年ほど前に移住し、事業の立ち上げを担っている。

「彼はもともと、『全国どこでも事業を立ち上げられる、事業プロデューサーになりたい』っていう、明確なビジョンを持っていました」

ただ、当初は大子町ではなく、さとゆめ本社のプロデューサーとしていろんな地域に関わりたいと話していた。

「27歳ぐらいだったと思うんだけど、まだ若いし、事業の立ち上げ経験もない。地域とがっつり関わる経験がないなかで、いきなり事業プロデューサーになるのはもったいないと思ったんです」

「まずは3年間、1つの地域に入って、自分の代表作になるような事業をつくる。それからいろんな地域に関わるほうがいいと思うって伝えて。それはなぜかといったら、自分自身がそうだったから」

信濃町の癒しの森事業や、小菅村の村まるごとホテルなど。計画から事業の立ち上げ、そして事業を黒字にして軌道に乗せるところまで。

斬新なアイデアで代表作をつくりあげたことで、ほかの自治体からも依頼をもらうようになった嶋田さん。

「協力隊には、3年間が勝負だってことはよく伝えています」

「限られた期間で自分の代表作をつくる。そういう明確な目的意識が鍵になります。そこを外さなければ、移住したまちが好きになれなかったら辞めたいですとか、そういう話にはならないんですよね」

雇う側も協力隊員も、3年後のゴールを明確にイメージできるようにする。

Iさんの場合、1年目は構想を練り、2年目で施設の改修、3年目で開業して運営するところまでを考えているそう。

「仮に3年間経ってうまく軌道に乗っていなかった場合は、もう1、2年残るかもしれない。現場のマネージャーを採用する予定なので、それでほかの地域に行きますでも大丈夫。そこは実力次第だよって話しています」

誰もが3年間で結果を出せるわけじゃない。

本人の意向を大切に、状況にあわせた選択肢があることで、協力隊員にとっても焦ることなく目の前の事業に集中できると思う。

過去には、3年間で商品開発を実現して、一般企業に転職した人も。

応募する人は、その期間で何を得たいのか。さとゆめは、事業をどこまで進ませたいのか。

目的がしっかりとある上で、協力隊を手段のひとつとして考えているからこそ、ミスマッチが少ないのかもしれない。

 

とはいえ、Iさんの場合は、さとゆめの正社員として雇用しているため、手厚くサポートができるのは当たり前。

今回募集する人は、各地域での雇用になる。

さとゆめがサポートできるかどうか分からないとなると、やっぱり選考でのマッチングがとても大切になるはず。

次に話を聞いたのは、プロデューサーの横山さん。人事コンサルタントの経験があり、多くの地域で採用支援に関わっている。

選考では、どのようなところを見ているんですか?

「タフネスさと柔軟性は大切にしています。現地で事業を動かしていくって、やっぱりすごく大変で。しんどかった経験を聞くようにしています」

どんなところで、タフの資質を求めるんでしょうか。

「曖昧力って言うこともあるんですけど、曖昧な状況をポジティブに捉えて、どう前に進めるかが大切だと思っていて」

さとゆめが取り組んでいる事業は、社会的意義もはっきりしていて、傍目からだとキラキラして見えやすい。

一方で、事業を回していくには泥臭いこともたくさんある。

入ってすぐにやりたいことをできるとも限らない。

道の駅こすげの立ち上げ時、『村の資源を使って商品開発をしたい』という動機で入ってくれた協力隊員がいた。

ところが実際に入ってみると、最初のころは現場のスタッフが足りず、毎日ピザを焼いたり、レジに立ったりと、現場に入らなければいけなかったそう。

村長が変わって、事業が白紙になってしまう可能性だってあるし、さとゆめが採用後に関われないこともある。

「できるだけ採用後も伴走したいですが、契約解除してしまうと、どうしても難しくて」

「将来地域で起業したい、こんな暮らしをしたいとか。お互いの期待をすり合わせて、協力隊員と地域をつなぐことは絶対に必要だと思います」

 

協力隊の求人が難しいと感じる理由のひとつは、求人をする自治体内で、決裁者と実際の担当者が異なっている場合があること。

さとゆめでは、事業の立ち上げから採用支援まで通貫して伴走している。だからこそ、今どのポジションが必要で、どんな人に来てほしいのか、筋を一本通せるのは強みだと思う。

全国から依頼が絶えないさとゆめ。

どんなときに伴走することを決意するのか、さとゆめで働く人に聞いたことがある。

その人は、「地域で熱意のある人に出会ったとき」と教えてくれた。

今回募集する3つの地域は、課題も事業フェーズもそれぞれ違う。

ただ、どの地域にも、自分たちの地域が持つ課題に対して真摯に向き合っている人たちがいます。

その人たちとビジョンを共有しながら、一緒に走っていける人を募集したいです。

さとゆめという会社や、地域の課題解決に興味が湧いた人は、ぜひそれぞれの地域を取材した記事をご覧ください。

地域に入り込んでいく、勝負の3年間。あなたならどう過ごしますか?

 

(2024/01/30 取材 杉本丞 中川晃輔 槌谷はるか デザイン 浦川彰太 )

 

3月21日には、さとゆめの横山さんと一緒に、東京清澄白河のリトルトーキーでしごとバーを開催します配信もあるのでよければ覗いてみてください

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