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「道の駅っていいな…」
ふと、取材中に聞いたことばです。
その人は、こう続けました。
「施設運営をしつつ、地域のことを考えるのも仕事のうち。利益と公益をともに追求するから、仕事をつうじて、喜んでくれる人がたくさんいる。まずはお客さん。それから地域で農林業を営む事業者さん、観光業に従事する人、障がいのある人、そして未来の子どもたち」
今回募集するのは、滋賀県甲賀(こうか)市にある「道の駅 あいの土山」。
道の駅制度がはじまった1993年。全国で最初に登録された18の道の駅の1つとしてオープンしました。老朽化に伴い、隈研吾設計の建物へと生まれ変わろうとしているところ。
2025年4月をめどに、リニューアルオープンを予定。30人ほどが、直売所とレストランで働く予定です。
ここを運営する第3セクター「株式会社道の駅あいの土山」で、直売所の物販責任者を募集します。
まずは現店舗で働きながら、出荷者募集から売り場づくりまで、幅広く新店舗立ち上げ業務に携わっていきます。新店舗のオープン後は、店舗運営を中心に取り組んでいくことになる予定。
小売業の経験があり、できれば店長として働いたことのある人がよさそう。
生産者さんとひざを突き合わせながら農産物を届けたい。このまちが本当にゆたかになることをまっすぐに考えてみたい。そんな仕事になりそうです。
今回は、あわせて飲食事業、体験交流事業、総務で働く人も募集します。
米原駅で新幹線を降りて、車を走らせること1時間。
5町が合併して誕生した人口9万人の甲賀市へ。はじめに訪ねたのは水口(みなくち)町にある甲賀市役所。
庁舎からまちを見渡すと、家電量販店、ホームセンター、フィットネスジム、スーパー、郵便局。その合間に集合住宅も建ち並んでいる。
「スタバもありますよ」と市役所職員の服部さん。甲賀で生まれ育ち、ここでの暮らしに満足しているのが伝わってくる。
電車で約1時間の京都は、通勤・通学圏内。今回の募集についても、ご家族のいる人ならばアパートを借りて単身赴任、あるいは古民家を借りて家族で移住など、いろいろな形が考えられるそう。
ここで、道の駅 あいの土山の社長である甲賀市副市長の正木さんに話を聞く。
県庁勤務の経験もあり、多層的な視点を持つ人。その根底には、地元への思いがたぎっている。
今回募集する人のキャリアについて、2つの可能性を考えているという。
「まずは道の駅のスタッフとして長く活躍していただく。もう一つは、将来自分が起業することを見据えて、数年を修行期間と位置づけていただく。どちらもあると思います」
「お客さんは多いけれど、ライバルにも囲まれた都市部であたらしい価値を生もうと努力される。それもすばらしいですが、甲賀市は手付かずの資源がそこかしこにある宝の山。ここだからこそ、一番手になれる可能性があると思うんですよ」
現在、甲賀市は滋賀県一の工業地帯となっている。その起点となったのが、2008年の新名神高速道路の開通。2023年には新名神が6車線化して、さらに車の便がよくなった。
移動手段がますます便利になっていくなか、「食」は、甲賀市にみゃくみゃくと流れるアイデンティティ。
ここでお茶を出していただく。
この茶碗は、信楽焼(しがらきやき)…?
「そうです。甲賀市には、日本六古窯の一つである信楽焼があります。お茶も信楽町の朝宮(あさみや)茶です」
そしてお米。
「ほんとうにおいしいもち米(まい)ができるんですよ。というのは、甲賀市はかつて琵琶湖の湖底に位置していたんです。その堆積物でできた粘土質の土が、もち米づくりに合っているんですね」
地域の農産物を販売できる場をつくりたい。そうした思いから1993年に誕生したのが、道の駅 あいの土山。
全国の道の駅の約30%が赤字ともいわれるなか、コロナ禍を除き黒字経営を続けている。
「国道1号線沿いにある土山は、中部圏と関西圏の結節点。名古屋から大阪まで、リピーターの方に支えられてきたんです」
すぐ向かいに、地域では広く知られている田村神社があることも大きい。一般的には閑散期とされる冬期も、初詣がある。2月中旬には全国から20万人が集まる厄除大祭が開催され、参拝客が道の駅にも押し寄せる。
今回リニューアルを行う背景には、次のような課題もある。
現在の建物は、1981年に観光・農林振興を目的として建てられた「土山町自然休養村管理センター」を転用したもの。そのため、休日の昼には、1時間あたり120台を超える車の訪問があるものの、40台という駐車台数から、買い物をあきらめる人も少なくない。また、レストランのキッチンが手狭なため、地元食材を用いたメニューの提供が難しかった。
加えて、ここ数年、新規就農者が増えているため、産業振興という目的もある。
「農業を取り巻く環境が変わりつつあります。甲賀市の農産物販売の約50%を占めるのが米でした。野菜や果物や園芸など、ほかの農産物が薄かったんです。でも、女性を中心とする新規就農者がメロンやイチゴといった果樹栽培に取り組んでいます」
「でも、市場に出荷するだけでは経営が難しいところもあります。そこで道の駅が大口の販路の一翼を担えたらいいなと。地域産業をともにゆたかにしていきたいですね」
正木さんは、道の駅が今まで以上に小売業に励むことで、地域の事業者さんが農業を続けていける未来を描こうとしている。
そしてゆくゆくは、甲賀の食材からレストランのメニューや商品開発も行っていきたい。
たとえば、そば。
「甲賀には、おいしいそばを育てている人もいるんです。道の駅で茶そばにして出せないか、という話をしたこともあります。でも、販売するほどの生産量がないので、“ふるまい”になってしまうんですね。観光で訪れた人は、そういうものを味わいたいと思うんです」
ふるまいをなりわいに変えていきたい。甲賀の気候風土がつくり出す、胃袋に染みわたる一品を、道の駅から提供したい。そうすることで、甲賀からスター農家を輩出していきたい。
仕入れた商品を販売しておしまい、ではなく、販売を起点としたインキュベーション(創業支援)施設になることをめざしている。
正木さんは、甲賀市の観光にも注目している。これまでは、甲賀市の観光といえば信楽町だった。
けれども市内には水口宿、土山宿という東海道の宿場町がある。
「江戸時代、東海道を歩く人にとっては『三重県から険しい鈴鹿峠を越えてやっと平地に降りてきた』と、ほっとするところが土山宿だったと思います。ここから先はなだらかな平地が続いている。琵琶湖にも、京都にも向かっていけるぞ、と」
「道の駅を、現代における土山宿のゲートウェイと捉えると、宿場町もリニューアルしていけるんじゃないでしょうか」
東海道49番目の宿場町「土山宿」。
ここには、大企業でのキャリアを蹴って、ゼロからのチャレンジをはじめた人がいる。
2023年7月に地域おこし協力隊員として着任した飯田さん。
大阪出身で、現在54歳。ご自身の事業を、資料を用いながら市役所の担当職員である産業経済部の三日月(みかづき)さんに説明する姿が滑らかで。企業でもさぞ活躍していたことがうかがえる。会社にこんな上司がいたらよいだろうな、なんて思ってしまった。
飯田さん、なぜ宿場町へ?
「定年退職までの残り10年が見えはじめたとき。『このまま終わったら後悔するな』と思ったんです。給料に変えられない体験がしたくて、単身甲賀へ飛び込みました」
なるほど、飯田さんは東海道をチャレンジのフィールドと捉えているんだな。滋賀であれば、大阪にいらっしゃるご家族ともすぐに会えるということも、チャレンジを後押しした。
募集時の業務内容は、「土山宿の空き家活用」という裁量のあるものだったそう。そこから飯田さんは、「東海道再生」というミッションを組み立てた。
甲賀市が調査を行い、すでに空き家の情報は把握している。今後飯田さんが取り組んでいきたいのは、街道沿いにある空き家の利活用。
「家主さんと交渉を行い、売買や賃貸の情報を提供していきたくて。街道沿いに魅力的な飲食店が4、5軒ほど建ち並んでいくことで、道の駅を訪れた人が、土山宿を回遊する流れも生まれると思います」
飯田さんとは道の駅で一緒に働くわけではないけれど、まちのことや暮らしのことについて、すぐ話せる距離感だと思う。
土山宿にある扇屋伝承文化館から10分ほど歩いて、道の駅 あいの土山を訪ねた。現店舗のすぐお隣には、広大な敷地が広がっている。
ここに新店舗が2024年4月から着工開始。2025年4月にオープンを迎える予定。
現店舗の顔となっているのが、お茶。
土山茶と朝宮茶のブランドを有し、滋賀県全体のお茶の90%を生産する甲賀市。その商品もさまざま。
地域の生産者が連携して立ち上げたのが、「土山一晩ほうじ」。
そして、若手農家たちも独自の商品開発に取り組んでいる。バタフライピーを入れて青い緑茶をつくる人、ラテをつくる人、メッセージを書けるようにしている人…
今後は、お茶以外の農産物やレストランで提供するメニューにも“土山色”を濃く出すことで、より多くの人が訪れる場にしたい。
今回は物販責任者の募集。2024年春ごろから現店舗で働きつつ、新店舗の立ち上げに取り組むことになる。第3セクターということもあり、市と現場の足並みを揃える役割も大事になりそう。
最後に話を聞いたのが、新駅長として就任予定の小森一秀さん。今回募集する人の上司になる。
小森さんは神奈川県出身。2008年に一家で甲賀市へ。三重県内の農業生産法人で働いたのち、2017年に独立。滋賀県、愛知県などの国内のみならず、韓国や中国でも農業の六次産業化を実践してきた。
道の駅に移って感じたことをたずねると「道の駅っていいな…」という返事がかえってきた。
「民間企業だと、お店の信用も、広報も、ぜんぶ自分たちで取り組んでいく。けれど道の駅って、公の器なんですね。すでに信用が担保されているから、お客さんも安心して訪れる。まちの広報誌で紹介してもらえる機会もあります」
公の器だからこそ、自分たちの利益だけでなく、地域の公益追求が必要になる。
「道の駅として、めざしたい姿があるんです」と最後に小森さん。
「地元の人に信頼される道の駅。そして、子どもたちが『土山といえば道の駅があるところ』と誇りに思ってもらえる道の駅。そんな場所をめざしたいんです」
(2024/2/7 取材 大越はじめ)
道の駅あいの土山では、事業プロデュース会社のさとゆめが採用支援に関わっています。どのような考えで、地域おこし協力隊という制度を活用しているのか。コラムで紹介しています。
3月21日には、さとゆめの横山さんと一緒に、東京・清澄白河のリトルトーキョーでしごとバーを開催します。配信もあるので、よければ覗いてみてください。