※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。
りょくけん東京は、松屋銀座に店舗をかまえる八百屋さん。
お店には、全国各地でおいしいものをつくる農家さんから届く野菜と、シンプルに調理した無添加のお惣菜やお弁当が並んでいます。
募集しているのは、厨房で調理をする人と、お店で販売する人。
今回出会ったのは、野菜好きな正直者でした。
開店前の朝9時。
この日は仕込みの様子を見学させてもらえると聞いて、松屋銀座のスタッフ出入り口へ。
入館証をもらって地下の共同キッチンに向かうと、和食、中華、洋食と、さまざまな店舗の方々が、開店に向けて仕込みに追われている。
東京のど真ん中で、つくりたてのお弁当が並んでいることにびっくりしながら、りょくけん東京のブースへ。
ふかしたジャガイモを潰してポテトサラダをつくる横では、整然と並んだトレーのなかに、人参、卵、大豆、スナップエンドウ、トマトが並べられ、あっという間においしそうなお皿になっていく。
ここでは毎日、12品の惣菜、120食ほどの惣菜や弁当をつくっているそう。
チャキチャキとお弁当ができていく様子をたのしく眺めていると「あ、しいたけが3食分足りない!」という声。
そこに「あーごめん、それ仕込んだの僕だ」と正直に名乗り出たのが、代表の大森さん。
すべての商品がお店に並んだのは、開店5分前。
オープンと同時に入ってきたお客さんが、あちらこちらの店舗に散らばって、一気にデパ地下の風景に。
「銀座には人が戻ってきました。感染症が広がったとき、明日からお店を閉めますってことになったと思ったら、通販ががーっと伸びて。一緒に働くみんなにも負担をかけながら、こんなに大変なのに会社をやっていく意味ってあるんだろうかって、悩んだこともありました」
「若いメンバーが、私たちの仕事は日本の農業を支えているし、おいしいと喜んでくれるお客さまがいる。それって存在意義じゃないですかって言ってくれて。そうだよなって思い出しながら、ここまでやってきました」
大森さんがりょくけん東京に関わることになったのは、今から18年前。
前職ではユニクロを運営するファーストリテイリングで、食事業の立ち上げに携わっていた。
「自分で手をあげて必死にがんばったんですが、残念ながら1年足らずで撤退することになりました。最後にお客さまに『ただの八百屋さんがなくなっちゃうのが、こんなに悲しいことはない』って言われたのは忘れられません」
「この業界から離れようかと思ったこともあります。だけど、その店に野菜を卸してくれていたりょくけん東京が、松屋銀座に出店すると聞いて。その仕事は僕にやらせてください!って頼んで入社したんです」
店頭に並んでいるのは、大森さんが産地を巡って出会った300人もの農家さんから届く野菜。
なかには見たこともない名前や形をしているものもある。
「安心できる農法で、地道に農業をしてくださっている方々です。自分がつくったものが銀座に並ぶことを誇りに感じてくれている方もいて。いいものをつくってもらって、僕らはそれをちゃんと売る。安定した農業を続けるために、僕らも買い支えているという自負があります」
自然のものなので、どんなに努力しても同じ味の野菜ができるとは限らない。
うまくいかなかった年があっても、おいしく食べるための工夫をしながら、お互いに商売を続けていける関係を育てていきたい。
「野菜ってごまかしがきかないんです。どう育てるか、どう人の手を加えるか、つくった人の想いがストレートに味に出る。同じ品種のリンゴでも、つくる人によって見事に味が違うんですよ」
農家さんの話をしている大森さんは、なんだかたのしそう。
野菜を仕入れて販売するだけでなく、農家さん同士を引き合わせて、品種や技術を継承する手伝いをすることもあるんだそう。
「愛媛に、中学生からみかんをつくり続けているというおじいさんがいて。その生き様みたいなものがすごいし、もちろんみかんもおいしいんです。一方で若手の農家さんが、ほかとの差別化をどうしていくかって悩んでいて。これは、俺の仕事なんじゃないかと思って紹介しました。ちょうど定植したって連絡が来たので、うまくいくといいんですけど」
「なにごとでも、一番を目指すって大事だと思うんです。僕は、野菜って言ったらこの人に聞けばわかるよね、みたいな存在になりたいんですよね」
次に話を聞いたのは、先ほどキッチンでお弁当を詰めていた、厨房長の片岡さん。
野菜についてきた泥を落とすところから、日々の料理、メニューの考案など、お惣菜・お弁当に関することには、役職に関わらず、みんなで取り組んでいるという厨房チーム。
リーダーを務める片岡さんは、どこかで料理の経験を積んでからりょくけんに来たんですか?
「いえいえ、料理を仕事にしたのはここがはじめてなんです。父が食道楽で、子どものころからいろいろなところに連れて行ってもらっていた記憶はあります。ただ、それを仕事にしようとは思っていなくて。最初は宝石の販売をしていました。きれいなもので女性を元気にする仕事がしたいと思って」
「働いて疲れてくると、食べるもので翌日の体調がぜんぜん変わってくるんですよね。自分自身もそれを実感することが増えてきて。どういうものを食べたら自分たちがより元気になれるのか、人を元気にしてあげられるかと考えていたときに、りょくけん東京の募集を見つけたんです」
最初は販売のアルバイトとして入社。
社員になったタイミングで、一通りの仕事を経験するため、厨房に入るようになった。
「正直、包丁は持てますけどってくらいのところからスタートでした。ベテランのパートさんが多いので、教えてもらいながら、支えてもらいながら今に至るという感じです」
「私は何も知らないところから、人参を同じ大きさに切ることができない状態からスタートだったので。日によって大きさも形も違う人参をいろいろなメニューに使うために、できる限り無駄を出さずに切るにはどうしたらいいか。お店に並ぶことを考えると、できるだけ大きさや形も揃えていきたい。毎日、パズルをするような感覚で野菜を切ってます」
キャベツを3玉千切りしたり、ヤングコーンを100本むいたり。
以前若いメンバーが「もうオクラを見たくありません」とこぼしていたこともあった。
「基本的には毎日同じ仕事の繰り返しです。スピードが早いに越したことはないですけど、乱暴な仕事をされるよりは、ゆっくりでもいいからクオリティを大切にしてくれる人がいいですね。単純作業のなかにも工夫をしたり、チームで動く楽しさを感じられる瞬間があって、意外とおもしろいんですよ」
朝7時から夕方16時過ぎまで。
繁忙期以外は残業も少なく、リズムの整った生活を送ることができているそう。
「農家さんとお客さまをきちんとつなげるために、お野菜の濃い味がわかるようにしたい。味を重ねていくというより、できるだけシンプルな調味料を使ってシンプルに料理するのが大森のこだわりなんです。飲食店を経験してきた方は、最初は戸惑うこともあるかもしれません」
そのときに届く野菜を組み合わせて、季節ごとにメニューを変えていく。
マヨネーズに卵を使ったり、ソースでアンチョビ、チーズを使ったりはするものの、基本的に肉や魚は使わない。
この日のメニューは、具がたっぷりの中華丼。
「エリンギにホタテのフリをさせるために輪切りにするとか、たけのこは外せないね、とか。豚肉もなければイカもないなかで、どうやって中華の味を出そうかってみんなで相談してつくりました。最初はけっこう試行錯誤でしたよ」
「私は、食べ終わったときに、おいしかったなって感じてもらえればいいかなと思っています。お肉もお魚も使っていないので、物足りないって感じる方もいるかもしれません。だけど、ちょっといいものを食べたなっていう満足感があるものが、この店なりのおいしさだという感じがするんです」
シンプルでおいしい野菜。
片岡さんがつくる味にひかれてここで働くことになったのが、接客を担当している木村さん。
今は接客を中心に、発注やチラシの制作、SNSでの発信なども担当している。
「この会社ってまだいろいろ整えている最中で、決まったマニュアルはないんです。SNSがあったらいいなと思ってはじめてみたら、みんなからも応援してもらえて。まだ試しながら、マイペースにやってみているところです」
積極的に取り組んでいることを、ちょっと照れながら話してくれる木村さん。
大学で食と健康の関係について学んだものの、ここだ!という就職先が決まらなかった。
日本仕事百貨でりょくけん東京の記事を見つけたときも、最初は銀座で働くことがイメージできず、応募を踏みとどまっていたそう。
「社長のブログを読んだら、野菜のことだけじゃなくて、日々の大変なことも赤裸々に書かれていて。なんかおもしろいなって思ってはいたんです。応募する前に、すごく緊張しながらお店に来てみて、麻婆ナス丼を買いました」
大きなナスに、刻んだきのこをひき肉に見立てたお弁当。
野菜だけだから、ちょっと物足りないかもと思いつつ、屋上で食べてみた。
「そしたらもう、めちゃくちゃおいしくて。冷めているのにごはんもナスもおいしいし、しっかりと野菜の味がする。ラベルを見ると本当に添加物も入ってなくて。野菜だけでこんなにおいしくできるんだって、衝撃を受けました」
新卒で入社して6年目になる木村さん。
長く働くスタッフが多いこともあり、社員のなかでは未だに一番の若手なんだそう。
「接客も野菜の並べ方も、基本的には決まりがないんですね。それでいて、お客さまと話したり、袋詰したり、店頭でやることがたくさんあって。最初はどうしたらいいのか戸惑いました」
「あたふたしていたら、先輩が、自分らしい接客をすればいいんだって声をかけてくれて。今はお客さまの話をじっくり聞くとか、逆においしい食べ方を教えてもらいながら接客するのが私なりのやり方というか、役割なんだと思えるようになりました」
天候などさまざまなことが影響して、同じ農家さんから届く野菜でも、年によって味はそれぞれ。
ちょっと今年はイマイチかも、と思ったら、お客さんにも正直に伝えているそう。
「おいしくないのにおいしいって売ったり、添加物がいっぱい入ってるのに健康にいいって話したり。そういうのは嫌だなと思うんです。常連の方から『あなたたち正直だから信頼できる』って言ってもらえたときはうれしかったですね。正直でいられるのは、私にとってはすごく心地がいいんです」
取材を終えて、これまでに聞いた話を思い出しながら、ついつい野菜とお惣菜を買い込んでしまいました。
翌朝蒸して食べたスナップエンドウ、甘くておいしかったな。
野菜好きからのご連絡、お待ちしています。
(2023/4/21 取材 中嶋希実)