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「芸大卒で、こういうことしたいって想いはありつつ、働きながら趣味で活動を続けてる人。ほんまにみんな来たらいいのになって思うんですよ」
波佐見焼のメーカー・和山で働く野田さんは、そんなふうに話してくれました。
自身も芸大を卒業後、画家を目指しながら会社に勤めていたそうです。ただ、人生の多くを占める仕事の時間につまらなさを感じてしまった。
描くことを仕事にも活かしたい。そんな想いで和山の門を叩きました。
今は絵付けの仕事に携わりつつ、終業後の時間を使って自らデザインした器に釉薬をかけ、実際に窯で焼いているそう。入社して1年ほどでそこまでやれる環境は、同じ波佐見焼のメーカーを見渡してもかなり珍しいと思います。
今回は、野田さんのようにものづくりの現場に入っていく職人と、商品企画やデザインの担当を募集します。
50人ほどが働く和山は、波佐見焼のメーカーとしては比較的大きな規模の会社です。量産に特化した窯を使っているので、ある程度の量をつくることが前提。大企業のOEMの実績も数多くあります。
それと並行して、和山ブランドのオリジナル商品もつくっていく。量産と手仕事、両面の魅力もむずかしさも体感できる会社だと思います。
和山の本社があるのは、波佐見のまちなかを流れる川棚川沿い。
このあたりは焼きものを扱うお店や会社が多く集まる中心地で、波佐見を車で走るときにはよく通る。
「WAZAN OUTLET」
大きな赤い字でそう書かれた小屋が目に入る。和山のアウトレットショップだ。
そのすぐ隣にはショップと事務所、奥まったところに大きな工場が広がっている。
坂を少し下った工場の入り口で迎えてくれたのが、代表の廣田さん。そのまま敷地内をぐるりと案内してもらうことに。
1967年、廣田さんが生まれる1年前に創業した和山。
高度成長期の追い風を受けて規模を拡大し、一時は100人を超える人たちが働いていた。時代の変化を受けつつも、今でも50人ほどの規模で焼きものをつくり続けている。
特徴的なのは、「ローラーハースキルン」という窯を導入していること。横に長いトンネルのような形をしていて、通常の窯に比べて焼成にかかる時間を約10時間も短縮できるそうだ。
その量産体制を活かして、大手飲食チェーンの丼や大手航空会社の機内食用の食器、コーヒーメーカーのドリッパーなど。さまざまな企業の要望に応えるOEMを得意としてきた。
「以前はOEMオンリーで、うちの名前のハンコなんて打ったことがなかったんです」
「ただ、そればっかりだとつまらないっちゅうか。和山ブランドの食器をつくって、お客さんに直接求めてもらいたい。その想いで、今から12〜13年前に自社のオリジナル商品をつくりはじめました」
手描きの花や野菜がかわいらしい「W」シリーズや、絵柄や色の展開がたのしいそばちょこ、北欧風のデザインのマグカップや、マットな素材感を活かしたプレートなど。
ショップのなかには、多種多様な器が並ぶ。
「これなんかもおもしろいですよ」
そう言って見せてくれたのは、指先に収まるほどの小さな瓶。
「波佐見に金屋神社ってあるんですけど、そこのおみくじ用のケースです。紙をここに挿して、並べて。結構人気なんです」
お守りも同様に、和山で焼いているとのこと。いろんな色があって、思わず手に取りたくなってしまう。
おみくじを引いたあとは、小さな一輪挿しとして使えるのもいい。
もともとは地域おこし協力隊のアイデアからはじまったのだそう。焼きもののプロとしての知見を提供しながら、一緒につくりあげた。
「自社のブランドも高めつつ、波佐見自体のブランドを高めていかないといけない。波佐見のまちづくりにつながるような事業には、できるだけ協力するようにしています」
毎年ゴールデンウィークに開催される地域最大規模のお祭り「波佐見陶器まつり」の実行委員長も務める廣田さん。地域からの信頼もあつい。
今回は、自社や波佐見としてのブランド力を高めていくために、新しく仲間を募集したい。
どんな人を求めているんでしょうか。
「まずはデザイン室の担当ですね。OEMにも対応しつつ、自社のデザインもやってもらいたくて」
デザイン室のメンバーは2名。うち1名の方は65歳で、次の代を育てつつ引き継ぎをしていきたい。
また、これまでは手描きの作業が多かった。そのよさも残しながら、パソコンのソフト上でおこなうデザインも今後より必要になると廣田さんは考えている。
ECやSNS等での発信にも力を入れていきたいので、写真が撮れたり、Webデザインができたり。クリエイティブ領域でなんらかの専門性を持った人に来てもらいたい。
「あとは現場ですよね。生地の運搬から、釉薬をかける作業、窯に並べて焼く作業。どこも人は必要です」
自分の持ち場を中心に、忙しさに応じてほかの作業を手伝うこともある。全体の工程を理解して、柔軟に働けるような人を増やしていきたい。
また、デザイン室に加わる人も、少なくとも3年は現場で勉強しながらデザインに携わってもらう形になる、とのこと。
焼きもののつくり方や特性を知ることで、はじめてアイデアを形にすることができる。まずは現場での経験をしっかりと積んでほしい。
「焼きものに興味を持っていることは大前提。あとはチームワークよく働いてくれる人がいいですね」
今いる50人ほどのスタッフは、ほとんどが地元の方。
そのなかで唯一、遠方から移住してきて働いているのがスタッフの野田さん。
仕事や会社のことをとても楽しそうに話してくれる。
「うちは50人ぐらいいる会社ですけど、知らない人っていない。みんなよく知ってる人って感覚があって。違う工程の人ともコミュニケーションする機会が結構あるんです」
「わたしが移住者だから、みんな声をかけてくれるのかも。とにかく、寂しい思いはしないですね。都会にいたころのほうが、隣の人の顔も知らない感じやったので」
大阪から移住してきて、1年前に入社した野田さん。
今は絵付けを主に担当。週に2〜3回は、工業組合が運営する絵付け教室に通って技術を習得しているところだという。
「絵付け以外にも、ちっちゃい箸置きを指に乗せて、ピッピって釉薬をかける仕事とかも、入社してすぐにやらせてもらえました。『やりたいので教えてくれませんか?』って、自分から吸収しにいける人にとってはめっちゃいい環境だと思います」
終業後は、自らデザインした器を試作しているそう。釉薬も窯も、自由に使える。
「社長は『デザインしたかったらやってみなよ』って言ってくれますし、現場で何十年も働いてる人たちも、喜んで教えてくれます。みんな焼きものをいっぱい見てはるから、やっぱりセンスがある。こうしたほうがいいよとか、いいアドバイスをもらえますね」
野田さんの話を聞いてると、働く人にとってかなり恵まれた環境のように感じる。
釉薬も窯も自由に使えるって、なかなかないことだと思うのだけど、会社としてはなぜそうしているのだろう? 代表の廣田さんに聞いてみる。
「自分の作品をつくったりして、仕事を楽しんで。勉強しつつ長く働いてくれたら、そのぶんうちにとってもプラスなんで。そこから自社ブランドの新しいデザインも生まれるかもしれないですよね」
自由度の高い環境をつくることは、会社の将来に向けた投資にもなっている。だからこそ、長く勤めている人も多いのだと思う。
大阪の都市部から移住してきた野田さん。波佐見での生活面はいかがですか?
「交通アクセスはよくないですね。鉄道が通っていないので、友だちが遊びに来るときも結構大変で」
車の免許を持っていない野田さん、移動手段は自転車だそう。生活できないことはないけれど、車社会なので、できれば車はあったほうがいいとのこと。
「言い換えると、本気でそこにいきたい人しか行けない土地やなって思います。素朴な人柄もまちなみも、辺鄙な土地だからこそ残ってきたものなのかなって」
都会に比べて、ないものも多い。
ただ、そのデメリットを上回るくらい、ここにしかないものもたくさんある。400年以上続いてきた波佐見焼の文化やまちなみはもちろん、泉質のいい温泉もあるし、新しいお店も年々増えている。
イベントやお祭りも年間通じてよく開催されているので、日々生活していて飽きないんじゃないかな。
「彼女、いいですよね。すごく楽しそうに、いろんなことに挑戦していて」
そんなふうに野田さんについて話すのは、デザイン室の林さん。波佐見町が地元で、入社して11年になる。
デザイン室は、林さんとベテランのデザイナーさんの2名。得手・不得手に応じて、案件ごとに分担している。
「男性のデザイナーは、女性が喜んでくれるようなかわいいものをつくるのが得意で。わたしは使い勝手とか、実用面をメインで考えてつくっていますね」
たとえば、林さんがデザインしたこちらの器。スタッキングしても底面が触れないような構造になっている。
「食べ終わった器を片付けるときに、重ねると汚れがついて洗うのが大変ですよね。傷ついてしまうのも悲しい。だから絶妙に隙間があくようにしていて」
まずは日々生活していて「こうだったらいいのにな」と思うことを、アイテムに落とし込むところから。そこに流行も重ねて考えていく。
たとえば昔はマットな質感の器が敬遠されがちだったけれど、最近は人気がある。上から透明な釉薬をスプレーで吹きかけることで、異なる素材感を同居させたらおもしろいんじゃないか、とか。
個人としての視点とお客さんのニーズを行ったり来たりしながらデザインしているという。
「かなり自由につくらせてもらっています。社長は、一言目に『やってみたら?』って言うことが多くて。じゃあもっと自由に考えてみようっていう気持ちにもなるし、周りの人も応援してくれる。ものづくりの環境としては本当にいいと思います」
反対に、大変な点を挙げるとすればどんなことがありますか。
「一日に6000〜7000個を焼く窯なので、つくるうえでの手数を増やし過ぎないことが大事で。量産を視野に入れたデザインというのは、むずかしいポイントかもしれません」
「現場で作業しながら学ぶことも多いです。まずはなんでも自分でやってみて、吸収しながら力をつけていけるといいんじゃないかなと思います」
3名のお話に一貫して感じたのは、「どんどんやってみる」会社なんだな、ということ。
量産ならではの制約もあるけれど、窯の特性をよく理解すれば、いろんなものを生み出すことができる。工業的でありながら、つくる喜びをちゃんと感じられる仕事だと思いました。
(2023/10/31 取材 中川晃輔)
インターン内容について
釉薬をかけたり、はぎとったり。簡単な絵付けの作業も体験できそうです。
デザインに関心のある人は、デザイン室の見学も可能。どんなふうに和山の器が生み出されているのか、見て聞いて感じてください。