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24時間365日
窯の火を絶やさない

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

トロトロに溶けたガラスを高温の窯からすくいあげ、息を吹き込んで膨らませる。

ガラス製品をつくるとき、多くの人がイメージする光景だと思います。

では、その溶けているガラスの材料は?どんな過程を経て液状になっているのか? そこまで詳しく知っている人は多くないはず。

24時間、365日。休むことなく、窯の火とガラスの材料を管理し続ける人たちがいます。

大正11年創業の松徳硝子。

1mm以下の薄さを誇り、飲みものの味わいをダイレクトに楽しめると人気の「うすはり」をはじめ、高品質なガラス食器を職人の手作業でつくっています。

良質な製品に欠かせないのが、良質な材料。

今回は、ガラスの材料を生み出す溶融職人を募集します。窯炊きとも呼ばれ、昼夜、窯を管理し安定的な製造を支える仕事です。

夜勤もあり、お盆や正月も関係ないシフト制。決して楽な仕事ではありません。

それでも、働く人たちはどうして働き続けるのか。なぜこの仕事がとても重要なのか。松徳硝子のみなさんの話から、感じ取ってもらえたらうれしいです。

 

東京・南千住。駅から歩いて5分ほどで見えてくる、大きな建物が松徳硝子の工場。

4年前に移転したばかりなので建物は新しいけれど、入り口の看板は年季が入っている。きっと前の工場から一緒に持ってきたんだろうな。

中へ一歩足を踏み入れると、むわっと体感温度が上がる。

出迎えてくれたのは、代表の齊藤さん。

「暑い日に暑いところに、ありがとうございます」

そう言って、冷たいお茶を出してくれた。「基本的に隠すものはない会社なんで」と、話をはじめる。

齊藤さんが社長になったのは2019年。

先代までの生産体制は、製造効率が低く、なかなか収益が上がらない厳しい状況が続いていた。

「かつては、やってもやっても儲からんっていう状態。課題は山ほどあれど、高い品質を自負しているのに収益が上がらないってめちゃくちゃ悔しくて。それで、『儲かる会社』になることをずっと目指してきました」

組織体制づくりからはじめ、各部署のリーダー層と連携して、品質を担保しながらの生産性向上に徹底的に取り組んできた。

1日の製造個数や不良品率に明確な数字目標を掲げ、その達成に向けて各部署が自主的に工夫する。

そんな流れがうまく回るようなった最近は、平均年収も第一段階の目標値を達成したり、年間休日数を増加できたりと、目に見えて成果が出はじめている。

「次は賞与をもっと出したくて。そのためにも日々、目標個数を粛々と確実に達成していきたい。仕上がり数は溶融具合に大きく左右されるので、安定的な目標達成のために、溶融はとても重要なポジションなんです」

松徳硝子の製品はどれも、極限まで削ぎ落とされたシンプルなつくり。だからこそ、もとの材料の質がダイレクトに品質に結びつく。

「料理にたとえると和食に近いですよね。素材の質が思いっきり出るから、ごまかしが効かない」

「社内の役割の重要さに順位はないけれど、すべてのはじまりっていう意味では、溶融が最も重要と言っても過言じゃありません」

3人体制でまわしている溶融部門。来年、定年退職を迎えるスタッフがいるので、それまでにはどうにか新しい人を見つけたい。

経験はまったくの不問。まずは先輩のもとで一つずつ仕事を覚えていく。

「ガラス製造の事業は、不確定要素があまりにも多いんです。生産計画通りにいかないのが宿命で…」

毎日の気温や湿度、原料や窯の状態によって仕上がりが変わる。そのうえ松徳硝子の製品はシンプルなデザインが多いから、小さな気泡や溶けムラも目立ちやすい。

完全に取り除くことはガラスの特性上不可能で、いかに少なくとどめるかが重要だという。

「ただ、完璧は無理でも、そこに近づけることはできる。だから社員誰もが明確にわかる数字目標を掲げて、日々達成を目指しているんです。いい仕事して稼ぐって、職人の本質だと思うんで。そして、そのために陣頭指揮を執るのが経営者だと思っています」

とはいえ、ガラスの溶融は本当に特殊な仕事、と齊藤さん。

「めちゃくちゃ大変だと思います。今どき人が来てくれるのかなとも思っちゃうけど、絶対に欠かせない仕事なんです」

 

溶融部門の勤務体系は、夜勤も含むシフト制。

7日間夜勤で働いたあと4日休み、次は7日間日勤で3日休み。それを繰り返し、3週間でローテーションが一巡する。

窯の火を止めることはできないため、土日もお盆もお正月も、ほかの部署が休みのときも仕事は続いていく。

具体的には、どんなことをしているのだろう。

現場を案内しながら教えてくれたのは、溶融部門の田代さん。入社して9年半、この春から新課長に就任した。

「これは窯の温度を管理する制御盤です。現在の温度は、1380℃。夜中には最高で1500℃近くにする必要があるので、そこに向けて毎時何℃上げていくか、というような指定をしていきます」

工場内にある4つの窯の真裏に設置されたこの制御盤。

窯のすぐ近くなので、立っているだけで汗が吹き出てくるような暑さだ。

夜勤の仕事は、端的に言えば、ガラスの原料を窯に投入し、温度を管理して溶かすこと。翌日、吹きの職人たちが製造できる状態まで持っていく。

砂状のガラス原料と製造過程で出た不要な部分など、合わせて20キロ以上を筒状の道具に詰めて窯に投入する。

投入は一晩に3回。夕方から数時間に一度、徐々に窯の温度を上げながら投入し、ガラスを炊き上げていく。

「誤作動はないか、蓋はしっかり閉まっているか、要所要所でチェックしていきます。仮眠は取れるけれど、ちょっと寝て、うとうとしたくらいでまた起きて見回って、という感じですね」

炊き上がったら、今度は朝に向けて窯の蓋を開け、少しずつ温度を下げていく。

「日中の製造量によって投入量は変わるし、同時に投入しても、窯の調子や、坩堝(るつぼ)の状態によって煮上がるタイミングが全然違うんですよ」

「坩堝」とは、材料となる溶けたガラスを溜めておく入れ物のこと。

窯の手前にレンガとモルタルで固定していて、吹き職人がガラスをすくい上げるのもここから。

陶器製の消耗品なので50日ほどで交換が必要で、毎週末におよそ1つは交換が発生する。

「極端に温度を下げると窯の調子が変わってしまうので、交換のときもモタモタできません」

手づくりのため、どうしても個体差があるという坩堝。安定した溶融のクオリティを保つためには、交換のたびに見定めが必要となる。

「10年近くやっていても、うまくいかない日があって。今週はうまく溶かせたな、でも3週間前に担当したときはものにならなかったよな、っていう繰り返しです。日々勝負なんですよ」

ただ、それだと気持ちが続かなくなってしまう。だからこそ数字をベースに、「全員で目標数を達成できればOK、と考えるべき」というのが会社方針。

各々の経験や感覚に頼りがちな職人仕事において、明確な数字目標を掲げ、そのための施策をロジカルに管理していく。

「どんなペースで温度を上げ下げしたか、すべて記録に残しています。日勤スタッフは、その後のガラスの状態や見込みの生産量など、他部門からヒアリングしたことも含めて、随時記載する。お互いに共有していって、それが数珠つなぎになっている感じです」

 

「いいグラスがたくさん上がったときってうれしいですよ。直接自分が吹いてないけど、やっぱりうれしい。時間をかけた苦労が実になったんだなと」

単価の高いグラスや難易度の高いグラスが多く製造できたときは、普段以上に他部署のメンバーから声をかけてもらえるという。

「『計画以上の数量が取れたよ』とか『今週すごくきれいに上がってるね』とか。そう言ってもらえると、今週俺も頑張ったもんなって思えますね。その積み重ねがあるから続けられる。逆にダメだったときは、次に自分の番が来るまでに改善策を見つけるようにしています」

前職はハサミ職人で、その前も貴金属の加工研磨職人と、ものづくりの仕事に就いてきた田代さん。ただ、ガラスの仕事はまったくの未経験だった。

「当時は、特にガラスが好きってことはなくて。でも、入ってみたら最初から面白かったですね。日常生活では味わえない暑さとか、あっちい!って言いながら笑ってました」

夜勤もあるのは、大変じゃないですか?

「体内時計を夜勤に変えるのに、はじめは結構苦労しました。日勤も夜勤も7日連続なんで、やっぱり長い。ペース配分がわからずに、入社当初は何もかも一生懸命やっちゃうから、7日後にはもうカスカスでした」

「昼も夜も1人でやる仕事なんで、もし急遽休んだら誰かしらに迷惑がかかる。自分の健康管理をしっかりして、常に安定して働けることが一番大事だと思います」

 

材料の仕込みに注力する夜勤に対して、投入する材料を準備したり、坩堝を固定するためのレンガを切り出したり、さまざまな業務を担うのが日勤の業務。

この日、日勤で働いているのが眞田さん。

新しく入る人は、将来的には田代さんと眞田さんと3人でシフトをまわしていくことになる。

入社13年目の眞田さんは、ずっとガラス一筋。2社でガラスの吹き職人として働いたのちに入社した。

松徳硝子でも、もともとは吹き職人だったものの、10年前に自ら望んで溶融に異動したそう。

「吹いていたからわかるんですけど、材料のきれいさで生産量や仕事に向き合うテンションも変わります。昔、うすはりをお店で初めて見たとき、あまりにきれいで驚いたのを覚えていて。松徳硝子は材料がすごく良いから、どうやって炊いてんのかなって知りたかったんですよね」

ずっとガラスの仕事を続けてきた眞田さん。

どんなところに原動力があるんだろう。

「……うーん………」

長く考え込んだあとに、答えてくれる。

「前の会社も含めて、先輩のおっちゃんたちからいろんなことを教わったんです。今はほとんど使ってないし、この先必要かわかんない技術もあるんですけど、なかには長年キツい思いだけして辞めちゃった人も大勢いて」

「…この仕事やってるうちは、その人たちの存在が歴史に残る、消えて無くならない感じがするんですよ。それぐらいですかね」

以前勤めていた2社は、どちらも最終的には廃業してしまったという。

そんな経験があるからこそ、より良い方向へと成長している松徳硝子で仕事を続けられていることの意味は大きい。

眞田さんは。どんな人がこの仕事に向いていると思いますか?

「オタクっぽい人。好きなことを突き詰めてずっと一人で調べてるような人とか。個人で完結する仕事ではないのでコミュニケーションも大切だけど、そういう感じの人間じゃないと、たぶん務まらないと思いますよ」

そのほか出てきたキーワードは、「変態的」「極めて特殊」などなど。

変わった仕事という前提のうえで、やるべきことに粛々と取り組める人が向いているのかな。



決して誇張しないみなさんだけれど、溶融職人がいなければガラス製造は止まってしまいます。

自分の仕事が松徳硝子の商品の根幹になると言っても過言ではありません。

大変な仕事だけれど、大変なところだけを見るのではなく。プロフェッショナルとしてこの仕事に向き合ってみたいと思う人が、仲間になってくれたらうれしいです。

(2024/7/6 取材 増田早紀)

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