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入り口いろいろ
出口もいろいろ
みかん援農の冬

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

人の数だけ入り口があって、人の数だけ出口もある。

飛びこんでみると、自分では思いもしなかった何かがはじまる。それは、産地で仕事をつくることかもしれないし、軸足を地方に片足うつすことかもしれないし、日常の視点が変わることかもしれない。

そんなわくわくする “ハコ” を見つけました。

日本の冬の定番ともいえる「こたつにみかん」。その日常をつくるのは、産地のひと。

和歌山県海南市に位置する下津(しもつ)町には、晴れの日も、雨の日もおいしいみかんを育てる人たちがいます。

2024年11〜12月を中心に行うみかん援農の参加者を募集します。

産地の一年をうらなう収穫期。毎年70人ほどの参加者が、40組の農家さんの畑で収穫を行います。仕事が終わると、いただいた野菜でごはんをつくったり、海に浮かぶ満月をながめたり、地域の人と交流を重ねたり、休日には観光してみたり。

日数は、1ヶ月からが基本となります。というのも、収穫作業に慣れ、ある程度農家さんの力になれるまで、時間がかかるから。

仕事をやめて「これから」を考え中。大学を休学している。農業や食に興味がある。地方にちょっとだけ住んでみたい。土に触ったこともないけど、なんとなく面白そう。どんな人もお気軽に。

お金はちゃんと稼ぎつつ、これからを考えてみるのにちょうどいい時間だと思います。

 

向かった先は、和歌山県海南市・下津町。

JRきのくに線を加茂郷(かもごう)駅で降りる。駅のホームからも、みかんを育てるだんだん畑が見える。

みかんの生産量が全国一位の和歌山県。下津町は、収穫したみかんを蔵で貯蔵することにより熟成する「蔵出しみかん」の産地でもある。

このまちには、自身の感性と産地を組み合わせ、すくすくとはたらく人がいる。

下津生まれの大谷さんは、県外で働き、2007年に家業の農家を継いだ。それからの7年間、畑に立ち、菊の生産出荷を行いながら、土地と自身の表現が重なり合うところを模索していった。

2014年には「FROM FARM」ブランドでの加工業へと舵を切る。みかんやはっさく、柿、ぶどう山椒など和歌山県の素材を加工して、グラノーラやハーブソルト、ソースをつくりはじめた。

2017年に立ち上げたのが、みかん援農。

はじまりは「収穫期のはたらき手がいない」という地域の困りごと。

長年にわたって下津のみかん収穫は、まちのおかあさんたちの季節労働だった。だけど高齢化が進んでいくなかで、これからの産地を支えるインフラが求められる。

そこで大谷さんは、全国から援農者が集まり、下津の農家さんとマッチングする有料人材紹介業をはじめた。これまでに数百人が参加している。

「応募いただいた援農者のみなさんとは、一人30分ほど電話して。参加時期や人となり、それから参加理由を聞きつつ『この人には、あの農家さんが合うかな』とつなげていきます」

入り口のマッチングに加えて、現地での交流会も開くなど、援農者にとって大谷さんは「頼もしいお兄ちゃん」といったところ。

「産地である下津町は、いろいろな可能性がちりばめられた大きなハコ。入る人によって、そこで得られる経験も、出口も変わります」

「ぼくの場合、下津町というハコに入ったおかげで、FROM FARMやみかん援農という出口にたどりつきました」

ここ「KAMOGO」も、大谷さんがみかん援農をつうじて出会った建物。2019年にリノベーションしてカフェオープン。

「みかん援農に関わっている仲間が“下津町の農業のランドマーク” と表現してくれたことがあります」

びわのパフェにソルダムのパンナコッタ、みかんの収穫期にはフレッシュジュース。下津産の旬をまるごと味わえるKAMOGOは、週末になると県内外からの人でにぎわう。

また、お隣にある冷水浦(しみずうら)では大工の伊藤智寿さんが13軒もの空き家を管理。活用したプロジェクトを展開する。援農期間中は数軒の空き家が、援農者の滞在するシェアハウスとなる。

その一つであり、人と人がつながる”集落の居間”をめざす「チャイとコーヒーとクラフトビール」は、援農者たちの交流の場にもなる。

「来たら、ぜったい何かあるんですよ。パートナーと出会った人もいます。日常への視点が変わった人もいます。みかん援農を終えて自宅で過ごしてのこと。一次産業の現場を知ることで、食べ物の価値がよりよくわかるようになり、 “ながら食べ” をやめたんだって」

みかん援農は、入り口いろいろ、出口もいろいろ。

 

ここからはバンに乗り込んで、農家さんのもとへ。

「なかみち」と呼ばれる集落内に巡らされた道路を進み、すれちがう農家さんとあいさつを交わしていく。散歩している子どもに手を振る場面もあって、大谷さんのせなか越しに触れる下津のまちは、ほどよく肩の力が抜けて見えた。

5分ほど進んだところで、一人のみかん農家さんが迎えてくれた。下津生まれ下津育ちの榎本(えのもと)さん。

「今日は15時から雨予報だから、午前中に除草作業を済ませたところです」

3ヘクタールという広い畑を家族と手入れする榎本さんは、今年で26回目のみかん収穫を迎える。

さっそくみかん畑を案内してもらうのだけど、向かうまでのほんの100メートルの道も情報量が多い。まるでアトラクションのような坂道、足もとにいるカエル、そして突然現れる古墳。踏みしめる大地の感触もアスファルトと違って表情豊か。

みかん援農に参加すると、みかんを収穫するときだけじゃなく、下津に身を置く毎分毎秒から新鮮な気づきがありそう。

ちなみに榎本さん、農業未経験でも参加できますか?

「むしろ!未経験のほうがいいくらいです。今まで土に触れてこなかった人ほど、気づきが多いのではないでしょうか」

畑からの景色をずっと眺めていたくなる。仕事帰りの路地がきれい、毎日すれ違う小学生と友だちになった、おばあちゃんに野菜をもらった。

そうした援農者の声は榎本さんにとっても、発見の山。見慣れた下津の日常にひそむ感動に気づかされる。

「『大学を休学して地域を見に来ました』とか『季節ごとにはたらく場所を変えているんです』とか。ぼくが選ばなかった世界を、見せてくれるんです」

一方で、晴れの日も雨の日もみかんのことで頭がいっぱいの榎本さん。

おいしいひみつをこっそり教えてくれた。

「樹上で完熟したみかんを収穫しているんです。そのために、販売もスーパーへの直販を行っています。一番おいしいときに収穫して、すぐ出荷して、お店に並ぶ。お客さんの口に入るまでが農業だと思っています」

産地をとりまく環境も年々変わり続けている。榎本さんが小学生だったころと比べ、温暖化が進み、急な大雨も増えた。特にここ数年の天候には、みかんの木だって戸惑いがち。

「みかんの成長には、2種類あります。木の成長と、実の成長と。みかん農家の仕事は、親である木の健やかさを保ちつつ、子である実にもたっぷり栄養を届けることです」

母子ともに体調が整うよう、頭をひねる日々。

そんなみかん農家にとって、収穫は一年の通信簿。良いも悪いもすべてが自分に返ってくる。

「援農に来てくれるみなさんには、下津の日々を楽しみながら、仕事のときは真剣に。一番おいしいみかんを届ける手伝いをしてもらえたらうれしいです」

 

援農者のひとりであるノブくんは、2018年からみかん援農に参加している。毎年、榎本さんのみかん畑へ。

出身は大阪で、大学卒業後は銀行に就職。入社時は1ドル70円だった為替があっという間に120円になっていた。自分には手の届かない遠い世界の体制が変わるだけで、ぐらり揺らぐお金の価値。

「具体的な職業はわからなかったけれど、自分の手でつくりだせる人になりたいと思いました。将来食べるものはあるんだろうか?次の生き方を模索するなかで、2019年に奈良県でトマト農家を開業したんです」

11月いっぱいでトマトの収穫がひと段落を迎えると、12月いっぱい下津へ。一つの会社に勤め、春夏秋冬をつうじて一つの仕事をするよりも、1年という時間を小さく区切るライフスタイルが肌に合うことに気づく。

スモールビジネスを営むノブくんにとって、みかん援農は自分の価値観を広げて自分を蓄える時間でもある。

持参したトマトの加工品をKAMOGOで販売する。榎本さんに土づくりのヒントをもらう。そして、人と出会う。

「会社に勤めていたらなかなか出会えない人が集まって、重なりあうなかでこんな自由な生きかたあるんや、生きかたってなんでもいいんやと。お互いの生きかたがほぐれていく感じです」

 

KAMOGOへ戻り、ふたたび大谷さんに話を聞く。

「みかんってね、同じ品種でも育てる人や土地によって味も形も大きく変わるんです。今日は榎本さんの話を聞かせてもらったけど、農家さんもまさに十人十色です」

「参加する人だってみんな違います。みかん援農から就農した人だって、和歌山に移り住んだ人だっている。かと思えば、入り口はあいまいな人もいる。『楽しそうだったからなんとなく応募しました』という声も聞きます」

なんとなく。

「身がまえすぎないほうが、思いがけないものを得られるんじゃないかな。農家さんとのやりとりが楽しい人もいるし、はじめてのシェアハウス生活が “大人の修学旅行” みたいで案外楽しいとか、休日にまちの純喫茶でコーヒーを飲みながら今後を考えるとか」

 

KAMOGOをあとにして加茂郷駅へ到着すると、ざああっと雨が降りはじめました。今日は榎本さんもゆっくり過ごせるのでしょうか。

人の数だけ入り口があって、人の数だけ出口もあるみかん援農。

飛びこんでみると、自分では思いもしなかった何かがはじまる。それは、産地で仕事をつくることかもしれないし、軸足を地方に片足うつすことかもしれないし、日常の視点が変わることかもしれません。

9/26(木)には、大谷さんと援農経験者の櫻井さんをゲストに、しごとバーを開催します。こちらもあわせてご参加ください。

「しごとバー 援農で広がるふるさと」

(2024/7/11 取材 大越はじめ)

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