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木を伐ること、森をつくることに興味があったとして。
自分でもできるのだろうか? 家族は心配しないか。それに、これで生きていけるという確証も、まだ持てない。
想像できないことが多くて、不安になる人もいるのではと思います。
ならば、3年間という期間を区切って、林業の世界に飛び込んでみるのはどうでしょう。
高知県北部、山間部に位置する本山町。県内でも有数の林業地として有名なまちです。
今回はここで地域おこし協力隊として働く、林業振興活動員と地域フォレスターを募集します。
林業振興活動員は山仕事を生業とする仕事、地域フォレスターは現場以外の立場から森づくりに関わっていく仕事です。経験はまったく問いません。
林業の傍らセルフビルドで家をつくる人、ツリークライミングのイベントをひらく人、薬になる木を育てる人…。
卒業生をはじめとして、まちにはさまざまな形で林業に携わる人がいます。木を伐るだけではない林業についても、学びと実践の機会が豊富にある環境です。
学んで、試して、考えて。頭と身体を動かしながら、3年後の姿を描いていきます。
一足はやく、一歩を踏み出した先輩たちに会ってきました。
大阪から車で3時間半。高知県に入ってほどなくの大豊ICで降りる。本山町へはここから車で10分ほどの場所にある。
このあたりの山はなだらかで、そびえ立つというよりは、まちと山が連続しているような感じ。陽の光がよく入り、気持ちがいい。
スーパーや学校、住宅などはまちの中心部にまとまっている。車はあったほうが便利だけど、気分転換に歩く日があってもいいかもしれない。
役場で待ち合わせ、移動しながら話を聞いたのは、一般財団法人もりとみず基金の立川さん。
地域おこし協力隊の卒業生で、林業分野の隊員の活動をサポートしている。
「2年前、取材に来てもらったときは町の森林ビジョンを定めたころで。実行が大事だと覚悟はしてたんですけど、一筋縄ではいかんなと感じてます。少しずつ変化は生まれているので、粘り強くやっていきたいと思ってますね」
以前は役場職員として町の林業政策にかかわっていた立川さん。本山町では長期的な視点に立った森林づくりを進めるため、50年後の姿を描いたビジョンを定めることにした。
森林が持つさまざまな豊かさを将来世代に引き継いでいく。町民と何度も議論を重ねて生まれたビジョンには、実現に向けた施策がまとめられている。
その推進役としておととし募集したのが、地域フォレスター。現場とビジョンを行き来しながら、理想に近づけるようにディレクションしていく役割だ。
「僕なりのフォレスター像はあったんです。ただ、新しく入ってきてくれた人の姿を見て、僕にない視点をたくさんもらって。いい意味で想定外なことがたくさんありました」
想定外?
「現場への意欲が高くて、休みの日にもアルバイトに入ってくれたり。これまで経営をされてきた経験をもとに、新しい事業を生み出そうとしてくれたり」
「僕も課題意識はあったけれど、自分自身、林業以外の経験がないので。新しい視点で動いてくださるのはすごくありがたいですし、僕も彼から学びたいなと思っているところですね」
たとえば獣害対策や、木材のブランド化など。新しく入る人も、自身の経験を活かして、新たな地域フォレスター像をどんどんつくっていってほしい。
一方の林業振興活動員は、いわゆる山仕事がメインになる。間伐、作業道開設、造育林など、卒業後を見据えて一通りの作業ができるようになるのが目標だ。
町には、個人で林業を営む人もいれば、事業体で大規模な林業をおこなう人もいる。やりたいことや相性をもとに指導役を紹介してもらい、仕事をともにすることが多いという。
「どちらも林業にかかわる経験はなくて大丈夫です。林業大学校での座学や技術指導を受けながら仕事に臨んでもらうので」
隊員は技術習得に必要な講義のほか、興味に応じて建築や木材加工など、活動時間のなかで自由に講義を受講することができる。
自分たちで研修を企画することもできるし、町で働く林業家がひらく研修も受けられる。最近ではツリークライミングや生木を加工するグリーンウッドワークの研修もあった。
「技術を身につけることも大事なので、座学と現場のバランスは、悩ましいところなんですけどね。協力隊のうちにいろいろなことを見聞きして、土台をつくっていってほしいと思っています」
話している間に車は山へ。現場で仕事をする2年目の隊員、3名に話を聞きに行く。
連れてきてもらったのは皆伐の現場。
木が生えていたら絶対立ち入らないだろうな… と思うような急な斜面にも、根っこが残っている。
エンジンの音に気がついて、作業をしていた隊員のみなさんが降りてきてくれる。
「すごいですよね。ここは最初道もなかったから、つけるところから始めたんです」
そう話しかけてくれたのは、林業振興活動員の郁さん。
東京生まれ東京育ち。大学では各地の伝統的な左官技術の研究をしていた。
建設会社と大学につとめたのち、心機一転、農業の世界へ。
林業に興味を持ったのは、自然農を実践している人をたずねたことがきっかけ。
「その方は畑だけじゃなくて、まわりの山林にも手を入れられていて。そんな暮らしができるようになりたいと考えていたときに、四万十市で林業の仕事を体験できる研修があったんです。何度か参加してるうちに、本格的にやってみたいなと思って」
移住先を探しているとき、紹介されたのが本山町。はじめて訪れた日、あっという間にまちのことが好きになった。
「立川さんにまちを案内してもらったんですが、行く先々でお会いする方が『聞いてたよ! 協力隊考えてる鈴木さんでしょ』って(笑)。人と人の距離が心地よくて、とにかくいい印象しかなかった。それに、まちがコンパクトで山に囲まれている安心感がありました」
1年目は林業大学校での講義が中心。徐々に現場にも入っていったけれど、最初はうまくいかないことも多かった。
「チェーンソーのエンジンが重くてかけられなかったんです。支えきれず思ったところにカットを入れられなかったり…」
「先輩たちの指導を仰ぎながら、ようやくコツをつかめるようになって。本当に… 成長。30代後半になって成長できてる自分、よかったなって思います(笑)。まだいける!って」
それまでは、自分の不出来をまわりと比べることが習慣になっていた。
でも、何十年選手でも「自分はまだまだ」という林業の世界。男性との体格差もある。まわりと比べても、しょうがない。
「いまは昨日の自分と今日の自分みたいなところで、頑張るモチベーションを保てているので… できることが一つひとつ増えていくのは、いいなと思います」
そんな郁さん、週4日の本業のほかに、町内の製材所でのアルバイトにも励んでいる。
「木の使われ方がわかると、伐るときのイメージも深まるというか。木の肌をじっと見る機会って、現場ではなかなか持てないので。地域の話も自然と入ってきますし、おもしろい時間ですね」
「山にいる時間も、まちのなかにいる感覚も。どっちも大事にしたいなと思うんです」
地域フォレスターの仕事について教えてくれるのは、石川さん。元建設業で経営を担っていた方で、ひょうひょうと、楽しそうに話す方。
きっかけは、ウッドショック。売上も落ちるなか、木材が手に入らない時期が続いた。
「これはまずいぞ、というときに、日本の森林率の高さに対して、木材流通は海外依存になっていることを知って。これ、林業やらんとあかんやん! と思い始めたときに、本山のことを知ったんです」
「町としてもビジョンをしっかり持っていて、コンサルやフォレスターの専門家などプロも入っている。フォレスターは自分がこれまで培ってきた経営のスキルも活かせて、ハマりそうだなと。成長できる環境が揃っていると判断して、本山へ来ました」
いま、力を入れて取り組んでいるのが現場の安全対策。
「やっぱり木を伐るのが山の仕事だと思うんですけど、少し間違えたら僕が郁さんを殺してしまう可能性もあるし、自分が死ぬこともある。命と直面している仕事だからこそ、怪我させたくないって思ったんです」
建設業と比べると、林業の安全対策は遅れているという。ただそれは、単に意識が低いということではなく、効率を求めてのこと。
「根本には『稼げない林業』があって。ここを変えないと対策も浸透しない。じゃあ稼げる仕組みをつくっていきましょうと」
たとえばウラジロガシという、枝葉が薬の原料になる植物の生産を進めたり、最新の測量機器を使って材積量をデータ化したり。現場に足を運び、あるときは専門家と意見を交わし、手がかりをつかもうとしている。
休みの日は、師匠と仰ぐ近所の大家さんとともに山に出かける。
動き回ってくたくたな日もあるけれど、「もっともっと上手くなりたいから」と、また足を運ぶ。
「僕自身、ここで一生を終えるんだって思っているので。みんな来いよ! と言えるような、みんなが憧れる本山にしてやろうって思ってます」
ふたりの話に何度もうなずいていたのが、林業振興活動員の外山さん。もともと建設関連の仕事をしていて、単身本山へやってきた。
「ほんま、本山のええところはチャレンジさせてくれるところですよね。やりたいことがあれば、やってみいやってチャレンジさせてくれる。僕なんか、自分のからだよりおっきい木でも『まあ伐ってみいや』って伐らしてもらったり」
「もちろん最初は失敗するんですけど、チャレンジしたことに対しては怒らないんです、誰も。どんどん伐っていきよったら、やっぱりね、上手になっていくし。チャレンジできる土壌があるっていうのは、すごくありがたいことです」
隊員の3人曰く、本山の人は「日がのぼってから暮れるまでずっと働いてる」そう。
「仕事せないかんっていう感覚じゃなくて、楽しんでる感じ。僕、お師匠さんにも『ただ仕事するだけじゃなくて、山を楽しめ!』って言われたんですよ」
そう聞いて、ふっと顔を上げる。
鳥の声、向こうの山で響くチェーンソーの音。刻々変わっていく太陽の位置。青々とした、初夏らしい山の色。
頭も身体も使って、自然と対峙する時間は、なにものにも代えがたいだろうな。
「夏の日はめちゃくちゃ暑くて、冬は凍えるほど寒い。それでも、おもしろいなーって思うんです、林業」
「だからね、仲間が増えたらうれしい。なにか一歩踏み出したいって思う人がおったら来てほしいよね。やりたいことがあったら応援したいし、ビビッときたら飛び込んでみてほしいです」
ときに厳しく、懐深く。それぞれの視点で、それぞれの歩幅で歩む人を、山はしずかに受け入れてくれる。
このまちで、一歩を踏み出してみませんか。
(2024/4/25、26 取材 阿部夏海)