ものづくりの哲学を感じられるプロダクトは、そばにあるだけで心がうるおう。
椅子でも、服でも、ペンでも。
つくり手の想いや、仕上がるまでの試行錯誤。ここに至るまでに想いを馳せると、一層大切に扱いたくなる。
今回紹介するのは、デザインの力を使いながら、ものづくりに込められた想いを届けていくような仕事です。
ぺんてる、シヤチハタ、ゼブラなど。日本の著名な文具メーカーと提携し、オリジナル商品を企画・開発・販売しているのが、クラフトデザインテクノロジー(CDT)です。
募集は2職種。
ひとつは、国内向けの営業担当。取引先となる文具店やライフスタイルショップなど、担当者とコミュニケーションをとりながら売り場をつくっていきます。営業経験はなくてもかまいません。
もうひとつは、紙媒体や販促物、商品デザインなど、ブランド自体を“伝える”ツールを制作するデザイナー。独自のデザインコードに則りながら、ものづくりに込められた想いを伝えていきます。
グラフィックデザインなどの経験があればベターですが、0から1をつくることは少ないため、IllustratorやPhotoshopの実務スキルがあれば、学びながら成長していけるはず。
社員数は代表を含め、5人と少数精鋭のチーム。担当の仕事以外にも、商品の梱包をしたり、ほかの人の仕事を手伝ったり。マルチに働く環境を楽しめる人が向いていると思います。
文房具が好きな人はもちろん、人のために働きたいと思う人は、ぜひ続きを読んでください。
東京・人形町。
昔ながらの惣菜屋さんに和菓子屋さん。その近くにはチェーンの飲食店。今昔入り混じる通りは、平日にもかかわらずにぎやかだ。
駅から少し歩くと、「MUCCO」と書かれた看板が見える。
MUCCOは和物を中心とする雑貨店。CDTの母体である株式会社ミヤギが運営する店舗で、CDTの事務所もこの建物の中にある。
店舗の裏手に回り、エレベーターで5階へ。部屋へ入ると、CDTのみなさんが笑顔で迎えてくれた。
最初に話を聞くのは、代表の宮城さん。
文房具やオフィス家具を販売する株式会社ミヤギの4代目社長。雑貨店MUCCOの運営など、既存の枠組みにとらわれず、新しいことに挑戦してきた。
CDTの構想が持ち上がったのは、2005年のこと。文具を仕入れて売るだけでなく、自社でも開発できないかと考えていたときだった。
「文具業界では学童文具が中心なんです。だから色数が多いとか、キャラクターものだとか、そういったことが重視される。デザインは二の次だったと思います」
「だからか、いい文具を持ちたいという人は海外のものを選ぶことが多くて」
性能面では海外のものに負けず劣らずの高い技術があるのに、デザイン面で選ばれない。
さらに、価格競争の激しさから、海外工場での大量生産に舵を切るメーカーも増えていた。
このままでは、日本の文具メーカーの高い技術は廃れ、ひいては、文具業界そのものの衰退にもつながりかねない。
日本のものづくり技術を継承しながら、自信を持てる形で世界に発信していきたい。
そんな想いから生まれたのが、クラフトデザインテクノロジー。
本来競合である文具メーカー同士がアライアンスを組み、それぞれの技術を活かす。ひとつのブランドとしてオリジナル商品を制作・販売していくことで、価格競争に左右されない独自のものづくりを実現している。
「ブランドとして、デザインコードというものを設定していて」
「色は日本の伝統色のうち、この7色しか使わないとか、柄は真田紐のパターンで統一するとか、ブランドを形づくるルールを決めています」
白緑(びゃくろく)、黒緑、灰白… はじめて聞く名前だけれど、どこか懐かしく感じる色。
「立ち上げた当時、業界ではデザインコードという概念自体、馴染みのないものでした。アライアンスに参加してくれたメーカーさんには、こういう考え方があると、きちんと伝えるようにしていて。商品開発に外部の風を入れる動きも増えてきたように感じます」
「それで私たちがすごく儲かっているかというと、そうではないんですけど…(笑)。日本のいいものを世界に発信するという意味では、少しは貢献できているのかな、と思います」
立ち上げから19年。いまでは日本のほか、海外25カ国に展開しているCDT。
「高い技術を持つ職人さんがいるからこそ、僕らはデザインができる。ものづくりの源流にいる人たちに寄り添いながら、世界への発信を続けていきたいと思っています」
そう続けてくれたのは、アザミさん。CDTを立ち上げた一人で、代表とクリエイティブディレクターを務めている。
こだわりを発信することも大事だけど、世の中に必要とされるものをつくることもまた大切なこと。
ここ数年は、環境意識の高まりに応えて、再生素材を使った商品開発に力を入れている。
「このノートの表紙と中紙は、さとうきびの搾りかすからつくられた紙を使用しているんですよ」
と見せてくれたのは、白緑色が目にやさしい横型のノート。
トレーシングペーパーの帯が本みたいで愛らしい。
「ノートに帯ってなくてもいいじゃないですか。所詮は消耗品なので。でもこういうのがあると、丁寧にしまおうとか、扱い方が少し変わるかもしれない」
「愛着といいますか。ユーザーの手にわたって終わりじゃなくて、その後どう使われていくのかっていうところも含めて考えるのが、CDTらしさなのかもしれません」
クラフト、デザイン、テクノロジー、それぞれのこだわりが詰まったCDTの商品たち。
主な取り扱い店は文具店、書店のほか、ライフスタイルショップやセレクトショップなど。
これも一店一店リサーチのうえ選定。商品特徴をまとめた資料を商品ごとにつくるなど、想いをきちんと伝えている。
「そんなやり方だから、販売してくれる人の顔がなんとなく見えるんですよね。彼女たちが頑張って販売してくれているから、僕たちがある。だから商品一つひとつのことを、丁寧に伝えたいと思っているんです」
「僕らが大事にしている日本のものづくりに対しての矜持というか。一つひとつのものが持つ意味を大切に、ものへの愛着を共有できる人に来ていただけたらうれしいですね」
今回募集するのは営業と、デザイナー。どんなふうに働くんだろう。
後日、教えてくれたのは営業を担うふたり。左から国内営業を担当する林さんと、海外営業や商品開発を担当する仁科さん。
林さんとデザイナーの方が家庭の事情で退職するため、後任を募集することになった。
リュック姿で現れたふたり。ちょうどこのあと、日本橋の取引先を訪問する予定なんだそう。
「売り場のメンテナンスと商品の補充に行こうかなと。訪問のときはこうやって体の前に持ち替えて、作業するんです」
そう話す林さん。
リュックの中を見せてもらうと、サンプル用の替芯や、商品のプライスポップ、100均で見つけたというディスプレイ用の滑り止めなど。売り場をつくるためのいろいろな道具が手際よく収納されている。
メンテナンスや商品の補充もされるんですね。
「業界的に、書店さんや文具店さんはメーカーが行うことがほとんどですね。欠品しているとそのままということもよくあるので、こちらから確認しに行くことが大事です」
現在、国内で取引があるのは100店ほど。うち関東近郊の20店ほどは実際に足を運んでみずから在庫を確認したり、売り場をつくったりしている。
遠方の店舗へは電話やメールを使って状況を確認。ディスプレイが苦手な人でも売り場をつくれるよう、陳列の仕方を細かくまとめた指示書をつくって送ることも。
「置き方で印象って変わるんですよね。どうしたら商品が素敵に見えるか、お店の人もお客さんもうれしい環境を考えながらカスタマイズしていきます」
たとえば担当者が扱いたい商品があるとき。客層や売り場の動きから「売れづらい」と感じたものは正直に伝えるようにしている。
「この商品の魅力を伝えるにはこの面積じゃ足りないから、まずは手堅い商品で売上をつくってから検討しましょうとか」
無理矢理置くこともできるけれど、商品が動かないままだとお店との関係が続かなくなってしまう。それよりも、店の売上につながる提案ができるかどうかが大切。
しっかり貢献できているお店からは、売り場づくりを任せてもらえたり、新しいお店を紹介してもらえたりすることもある。
「誠実さが大事な仕事だと思います」
「いわゆるストイックに売り上げをつくる営業、というよりはコンサルに近いかも。担当者さんの困りごとや相談にしっかり応えていく。話し上手よりも聞き上手な人のほうが向いているかもしれません」
前職はアパレルで接客やECサイト運営を担当していた林さん。営業は未経験だった。
「対、人という意味では一緒だなって。あとは、営業に限らずいろいろやるよ、って言われたのがよかったかもしれない」
「営業ばっかりになっちゃうと、きっと煮詰まっちゃうなと思っていたので。ある意味ガス抜きできる環境は、自分に合っていましたね」
検品や商品の組み立て、梱包などは全員で作業している。多いときには月に2、3回ほど。突発的に発生することもあるから、柔軟に対応できる人がいいと思う。
一方のデザイナーは、デザインコードに則り、商品につけるポップや店舗用のプレスのほか、商品を紹介するタブロイド紙などを制作することになる。
「ベースとなる文章や使う写真は決まっているんです。ただ、店によって売りたいものや設置できるポップの大きさは異なる。限られた文字数でどんな要素を入れるべきか、都度相談して決めていきます」
ポップは自前で用意するお店もある一方で、「用意してくれると助かります」というお店も多い。
「ここがしっかりできてるとすごく喜ばれるんです。デザイナーとは二人三脚の関係ですね」
「チームで仕事することを大切にしてくれる人に来てもらえるとうれしいです。本当、そこに尽きますね」
林さんの隣で、仁科さんが優しく言葉を添えてくれる。
営業として加わる人は、タイミングにもよるけれど、林さんか仁科さんと営業先を回りながら仕事を覚えていくことになる。
デザイナーも、ふたりと会話しながら仕事を進めていく。
販促物デザインのほか、企業やショップ向けに制作しているオリジナル商品のデザイン開発、Webサイト・SNSの運営など。余裕があるときには、出向元のミヤギのメルマガ作成やホームページ更新を担当することもある。
話だけ聞くとたくさん仕事があって大変そうに聞こえるかもしれないけれど、ふたりの雰囲気はおだやかで、のびやか。どんなことでも話しながら、一つひとつ進めていけるといいと思う。
「社会人的な常識があれば、営業経験や文房具の知識はなくても大丈夫です。自分の仕事はここまで、と枠を決めずに働くことを楽しめる人に仲間になっていただけたら、それ以上のことはないなと思います」
想いの込もったものたちを、どのように伝えていくのか。
仲間とともに試行錯誤して、自分の幅も広げていく。好きなものに携わりながら、成長していける環境だと思います。
(2024/2/13 取材、2024/10/1更新 阿部夏海)