※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。
以前、江戸切子の職人のもとを訪れたことがありました。
切子の器を渡され、削ってみてごらん、と。
回転する機械にガラスを沿わせ、線の通りに削っていくのだけれど、それがむずかしい。これを一日中やって、どれも変わらない品質で仕上げる。
職人の凄さと、仕事の尊さをあらためて感じた瞬間でした。
今回募集するのは、その切子をつくる職人です。
募集元は、江戸切子をはじめとするガラス製品の卸売りをしている、株式会社タブロー<太武朗工房>。
昨年からは自分たちの工房を立ち上げ。自社で切子職人を育成し、商品の製造事業も始めています。
今年から働いている職人二人は未経験で入社し、今まさに学びながら腕を磨いている最中。
今回は第二期生として、切子職人となる人を募集します。もちろん未経験で構いません。
必要なのは、職人になる覚悟と根気。まずは一期生たちがどんなふうに働いているのか、知ってほしいです。
あわせて、商品管理とEC・WEB管理担当も募集します。
タブローの事務所があるのは、東京の東側、平井駅から歩いて10分ほどのところ。まわりは住宅街で、静かな雰囲気だ。
入口を開けると、真正面の椅子に代表の竹田さんが。「おひさしぶりです」と挨拶をして早速話を聞く。
「昨年取材に来てもらって、応募者はけっこう来たんですよ。そこから絞って四人かな。実際に来てもらって、説明会をして」
「職人さんの仕事も見てもらいました。そこでの様子とか、本人の意思とかを再確認して決めたのが、今働いてくれている二人なんです」
タブローは、主に江戸切子などを扱うガラス工芸品の販売会社。社内に切子職人はおらず、外部の職人さんとパートナーシップを組み、オリジナルの商品をつくってきた。
ただ、職人の高齢化が進み、なり手も減っている。このままだと安定して切子をつくり続けることがむずかしくなるかもしれない。
切子づくりを続けていくためには、職人を育てるところから取り組む必要がある。そうして始めたのが、自社での職人育成。昨年に職人候補を二名採用して、場所や設備など、工房の準備を進めてきた。
工房が完成したのは、今年の9月。すでに二人の職人は作業をしているところだそう。
「昨年取材してもらった、職人の木村さん。そこの奥さんも言っていたけど、いかに根気強く、妥協しない仕事ができるかどうかが大事だと。一期生の二人はそういうところがバッチリ合っていたんですよ」
「といっても、最初は止めたんです。給料は前職より下がるだろうし、今の仕事を辞めてやる覚悟があるの? って。20代の若いやつだったら辞めたってやり直せるけど、二人とも30超えてたからさ。それでも覚悟があった。だから一緒にがんばっていこうと」
工房が完成するまでは、職人さんのもとで学んだり、スクールに通ったり。技術と知識を学んでいった。
「まだまだ一人前とは言えないんだけれど、工房もできたから二期生を募集したくて。それでお願いしたんです。本格的に自分たちで製造を始めて、まだ一ヶ月くらいしか経ってないんだけど、ぜひ二人の話を聞いてほしいね」
9月にできたばかりの工房は、事務所から歩いて2分ほどの場所。早速行ってみますか、と竹田さんについて向かう。
到着すると、中からはガーッと作業の音が聞こえる。
竹田さんと一緒に中に入る。二人は作業の真っ最中。
作業の手を止めてもらい、まず話してくれたのは佐々木さん。
今はなにをつくっているんでしょう。
「これは冷酒杯ですね。作業の工程としては、粗ずり、石がけ、磨きっていうおおまかな順番があって。二人で一つの製品を手分けしてつくっています」
「どっちかがこの工程専任とかはなくて。二人とも同時に学んできたので、どちらもすべての工程ができる状態です。いかに効率よくつくれるかを話し合って工夫しています。今の気分は… 緊張してます。何話せばいいのかなって(笑)」
すこし恥ずかしそうにしながらも丁寧に話してくれる佐々木さん。
前職では金属加工の製造業をしていたそう。15年間勤めていた。
「量産機をオペレーションして、一晩で小さい部品を1000個自動でつくるとか、そういうことをやっていました。長く働くうち、機械じゃなく、手仕事でのものづくりを経験してみたいと思って、転職を考え始めました」
「それで日本仕事百貨でタブローの記事を見つけて。自分でもチャレンジできるんじゃないかと」
どういうところに惹かれたんでしょう。
「工房をゼロベースからつくりあげる、というのがいい経験になると思いました。それが決め手でしたね」
「説明会のときに、社長から根気の話があったんですが、自分は前職がそういう仕事だったので。ずっと同じ作業やるのは得意だったから、それも問題ないだろうなと」
実際にやってみると、手仕事のむずかしさに戸惑ったそう。手元のちょっとした力加減で、1個目と2個目がまったく異なるものになってしまうこともあり、苦戦中だ。
「同じようにしているのに、ちょっとしたことでずれてしまう。手仕事のむずかしさをもろに体験してます。安定してつくるためには、技術はもちろん、工夫も必要だと思っていて」
「できるだけ体の力を抜いて、筋肉を使いすぎないこと。職人さんもそういう話をしていました。自分の体を使ってつくるってこういうことなんだなって、実感する毎日です」
つくるための技術を学ぶだけでなく、工房の準備も自分たちでやってきた。必要な機械の見積もりをとったり、配置を考えたり。
「会社として事業を新しく立ち上げるって、けっこう大変なことじゃないですか。だから社長も一緒になって、三人で一緒にがんばろうって声をかけてくれて。それが印象に残っています」
「細かいことでも、相談すると社長はちゃんと返してくれるんですよ。情報の伝達とか共有がスピーディーなのはいいところだなと思います」
今作業しているものは、商品として出す予定。納期に間に合うように、二人でがんばっているところだ。
今の目標は、安定して品質の良いものつくること、と佐々木さん。今も、外注先の職人さんに教えてもらうなど、学びを深めている。
言われたことをするだけでなく、自主的に向上心を持って成長していく気持ちが大切なのだと思う。
「まだまだ稼働したばかりで、準備したり、効率よくする方法を考えたりしないといけないものがたくさんあるんです。とくにオペレーションを確立させないと、次の後輩たちが困ってしまうので」
たとえば道具の置き方一つでも、場所を工夫したら数秒でも時間を短縮できるかもしれない。
そういった小さいことの積み重ねが、大きな改善につながっていく。そんな発想ができる人だったらいいのだろうな。
職人としての資質、みたいな面ではどうでしょう。
「妥協しないっていう点ですね。このくらいまできれいにできればいいか、ではだめだって。最初は時間かかってでもいいから、諦めず丁寧につくる。それができる人が向いてるんじゃないかなと思います」
未経験でもいいというのは、単にハードルが低いというわけではない。入ってからしっかり努力する必要がある、ということだ。
それを承知の上で、一緒にいいものを妥協せずつくれる人に届いてほしい、と佐々木さんは話してくれた。
最後に話を聞いたのは、同期の田口さん。
聞くと、前職では百貨店の化粧品売り場で20年働いていたという。
「20年経って、ちょっと働き方について考えて。今の仕事も好きだけど、自分がやりたかったことをやってみようかなって。それが、ものをつくるお仕事で」
「ものづくりのなかでも、伝統的な何かに関われたらいいなと。そんなときに、日本仕事百貨さんのサイトでここの募集に出会いました」
ちょうどいいタイミングだったんですね。
「本当にそうで(笑)。たまたまなんですけど、ちょうどその時期に、江戸切子をいただく機会があって。手に取ったときに、これだ!って思ったんです。私これをつくりたい!って。もう運命的ですよね。募集を見つけたのも最終日でしたし」
「今は、やりたいお仕事がやっと見つかったと感じています」
仕事は9時から18時まで。今日だと、冷酒杯のガラス器に「矢来」という伝統的な模様を、底には菊の模様を入れる作業をしている。
カットして削って磨いて艶を出して… と、一連の作業があり、カットにもあらゆる工程があるなど、やるべきことは多い。
「工房ができるまでは、職人さんに見てもらいながら作業して。自分だけでつくれるようになったのはうれしいです。まだまだですけど、形になりつつあるかなと」
どの作業がむずかしいですか?
「うーん… どの作業もむずかしいですね。最初に割り出しって言って、目印の線を引くんですが、それもすでにむずかしくて」
「ペンで引くんですけど、そのペン先も揃えないといけなくて。ペン先がつぶれてくると先端の形が変わるから、持つところを一切変えずに引かないとずれてしまう。こんなところまでこだわるんだなとびっくりしました」
田口さんは、どんな人と一緒に働きたいですか。
「根気は絶対必要です。あとは学ぶことが好きな人が向いているんじゃないかな」
「最初は全然できなくて落ち込んじゃうかもしれないけど、だんだんとちょっとした成長を感じられるので。それを楽しめたらいいと思います」
今は楽しめてますか?
「楽しめてます! やればやるだけ、さっきよりうまくできた、っていうことが増えてきたので。職人さんも、上手くなる秘訣はないと。ただ練習のみ。数をこなすしかないと言っていました」
話を聞いたあと、作業の様子も見せてもらった。
真剣に削っている二人。機械が作業の順番に並べてあるので、横に移動するだけで次の作業に移れるようになっている。
日報もつけていて、この作業に何分かかった、というのを記録しているみたい。作業の改善につなげている。
すると一緒に見ていた代表の竹田さん。
「いろんな工夫をしながら、自分たちのやり方を確立させてマニュアルにしたくて。あとは、今までは製品だけを売っていたけど、これからは人と製品を一緒に世の中に届けていきたい。単に江戸切子としてではなく、太武朗工房<TABLEAU>のガラス作品として、ブランドストーリーも届けたいんです」
「昔ながらの堅物な職人としてではなく、あらゆる表現・感性を持ってモノづくりに向き合ってほしい。タブローの新しいブランド価値を一緒につくり上げていくつもりで」
つくった人、ブランドのストーリーが見える切子。買う人にとっても愛着がわくし、ブランド自体に関心を持ってくれるかもしれない。
「そのためにはいい職人になってほしいなと思います。もちろんぼくもしっかりサポートするので」
竹田さんは、二人がこの近くに引っ越してくるときには一緒に物件を探すなど、手厚くサポートしたそう。今回入る人用にも、物件はすでに目をつけてあるのだとか。
「いずれにしても、根気と覚悟ですよね。乗り越えるっきゃない、みたいな気持ちで取り組んでくれる人に来てもらいたいです」
職人育成をするという大きなチャレンジ。この挑戦を竹田さんたちを中心にタブローのスタッフみんなで進めていく。
ものづくりに妥協せず、想いを持って取り組める。そんな人を待っています。
(2024/10/24 取材 稲本琢仙)