朝一番。その日に出荷する魚を血抜きし、たっぷりの氷とともに一匹丸ごと箱に詰めていく。
そのあとは養殖池にいる、合計100トンの魚に餌撒き。
落ち葉などを掃除したり、サイズごとに魚を池から池へ移動させたり。午後に再び餌を撒き、夕方には仕事を終える。
そんな毎日を繰り返し、数年かけて大きくおいしく育てていく。それがサーモン養殖の仕事です。
富士山サーモン株式会社。その名の通り、富士山の清流を引き入れた養殖場で、サーモンの生産・販売に取り組んでいる会社です。
ここで日々、養殖業に携わる人を募集します。
頭と身体をつかって働き、しっかり休んで、また働く。そんな毎日を重ねて立派に育ったサーモンは、日本中、そして世界へと広がりつつあります。
若手メンバーを中心に、新たなチームづくりも順調に進んでいるところ。
異業種からの転職も大歓迎です。富士山サーモンという会社をより大きく育てていく一員として、真摯に仕事と向き合う人を探しています。
東京から新幹線で約50分の三島駅。
そこで代表の岩本いづみさんと合流し、車で養殖場のある富士宮市を目指す。
「富士宮は首都圏へのアクセスがいいから、第一次産業の事業者が多いんですよ。うちも、朝に注文いただいた魚を、その日のうちに豊洲市場に並べることができる」
「牛、豚、鶏・卵、それと魚。堆肥化ができる産業廃棄物業者もいるので、やむを得ず死んでしまった魚も有機肥料として、農家さんに使ってもらえる。そういう食の循環を実感しながら働くことができるエリアなんです」
富士山を横目に話を聞いていると、1時間もかからず富士宮に。
「今日は本当に富士山がきれいでしたね。まあ、いつどこから見てもきれいですけど」
岩本さんは、いろいろな話をマイペースに進めるけれど、核心的な部分は逃さない。そんな印象を受ける。
お父さんの跡を継ぎ、代表になって11年。富士宮に2ヶ所、伊豆に2ヶ所の養殖場を運営している。
まずは卵を仕入れ、孵化させる。そこから自社で取り組む養殖場はめずらしいという。
稚魚から手がけ、一番大きなサイズの魚が出荷できるようになるまで約2年。大切にサーモンを育てている。
「うちは、ずっと生産力はあったけれど、売る力のない会社だったんです」
営業未経験でありながら、お寿司屋さんなど飲食店を中心に新たな取引先を開拓し、利益を上げてきた岩本さん。
最近は、販売価格も自分たちの希望通りに取引できているという。
「魚の業界って、本来はそういうわけにはいかなくて。天然ものの価格が下がると、養殖ものの価格も下がるのが普通なんです」
「だけどサーモンの場合、生食用はすべて養殖。天然ものは加熱用にまわるので、すみ分けができている。漁に出られないような荒れた日もうちは出荷できますし」
1年中どんなときも同じ価格、同じクオリティのものが出せる。
それは養殖であり、かつ川で育てる強みでもある。
「富士山サーモン」としてのブランディングが成功し、それに見合うおいしさも評価されてきた。
来年には、豊洲市場の協議会の推薦で、ボストンの展示会にも出品することに。
「世界一のシーフードマーケットです。ノルウェーサーモンはステーキが有名。じゃあ日本の富士山サーモンは、和食の最高峰であるお寿司にマッチしますよってPRしてきたいなと」
「大間のマグロみたいに、世界一のおいしい寿司ネタとして、富士宮のサーモンが知られていく。それくらいになりたいと思います」
世界一のサーモン。
掲げる言葉は大きいけれど、岩本さんの話には地に足ついた説得力がある。
その理由のひとつは、対外的な動き以上に、社内で人を育て、会社の基盤を固めることに力を注いでいるのが伝わってくるからだと思う。
「いま社員は11人。この人数でもまわるけれど、もう少し増員して、休みを増やしたり、みんなが働きやすい環境を整えたくて。それで生産性も上げて、より安定して仕事に取り組んでもらえるようにしたいんです」
岩本さんの右腕として、力になっているメンバーの一人が山下さん。
入社して1年弱。最近は「ソリューション・コーディネーター」という新たなポジションも兼務している。
「池の仕事だけじゃなくて、営業先に同行したり、社内で新しい企画を提案したり。社長が一人でやっていた業務のサポートもしています」
「肩書きってうれしいじゃないですか。だからさらにがんばろうって思えますね」
もともとは大手新聞社の営業として働いていた。会社が変化するタイミングで力になってほしいと誘われ、入社することに。
養殖業はまったくの未経験。一方で、ビジネスの経験はほかのスタッフよりも豊富な山下さん。
「最近は対外的な窓口も任せてもらっていて、今日は餌の会社さんとの商談がありました。ここの餌は栄養の吸収率が高く、成長効率も上がるというデータも取れたので。新しく使ってみることになったんです」
社内向けにはプロジェクトチームの一員として、人事評価の基盤をアップデート。成長度合いの自己評価と、上司・同僚からのフィードバックの仕組みが生まれた。
また、マニュアルも整備し、新人でも仕事に取り組みやすくなっている。
「最初、自分が仕事を覚えるのに苦労した経験からマニュアルをつくりました。新しく入る人には、OJTで自分が教える機会も多いと思います。まずは一通りの仕事を一緒にやることからはじめていけるといいのかな」
異業種からやってきた山下さんに対して、魚の仕事を生業にしたいと、ここを選ぶ人もいる。
大谷さんは、養殖の専門学校出身。新卒で入社して4年、今は次期リーダー候補となっている。
「地元は富士宮です。別の養殖場で中学生のときに魚を食べたことがあって、こんなにうまいものつくれるんだ、魚を育てる仕事っておもしろそう、と思って。生きものが大きく成長する過程を見るのが好きなんです」
入社当時は今のような体制は整っておらず、新人研修などもなかった。
「昔ながらの一次産業って感じですね。仕事は見て覚えろっていう厳しさもあったし、感覚でやっている部分も多くて。つらいときもあったんですけど、1年で辞めたらほかに行く場所もないと思って。負けず嫌いなんです」
「ほかを考えたのは、最初だけですね。続けたら、それ以降はどんどん働きやすくなりました。別の仕事を考えるのは、じじいになって身体が動かなくなったときかなあ。そこまではがんばりたいと思います」
肉体労働なので、職場は20〜30代が中心。
大谷さんが働く養殖場では、とくに大きいサイズの魚を扱っていて、3キロ以上になるまでじっくり育てていくという。
「池が21面あって、成長するごとに移動させます。小さければポンプで吸い上げられるけれど、デカい魚は全部人力で移動させるんですよ」
一日に数トンの魚を移動させることもある。
「最初は体力面がきついかもしれないけど、俺たちでカバーするよって気持ちはありますね。楽するために、いろんな体の動かし方を覚えてきたんで、新しい子にはしっかり教えていけると思います」
仕事でやりがいを感じるのは、どんなときでしょう。
「魚の肉づきがよくなってる、うまそうに育ってる、っていうのがわかるとうれしくなりますよね。飼料効率も記録しているので、ちゃんと考えて撒いた餌が成果として表れているんだなって」
「データ上だけじゃなくて、1ヶ月くらいで、目に見えて変化するときもあるんです。自分がこの魚を育てたんだって実感があるのがいいっすね」
出荷量も、入社当時より大幅に増えている実感がある。
「どんどん売れるようになって。取引先も増えていくのは、こっちもつくりがいがありますよ。うちの魚は本当にうまいんで。自信を持って出せるのがいいなって思います」
手塩にかけて育てた魚が、そのまま商品となり、評価されていく。
日々の仕事を地道に続けるなかで、その手応えはきっとやりがいにつながるはず。
「どうしても仕事がしんどいときってあるんですよ」
出荷が立て込んでいるときには朝5時から稼働することもあるし、集荷の時間に間に合わなくなりそうというプレッシャーを感じる日もある。
「けど、やらなきゃいけない。そういうときに、『がんばりましょう』って声を掛け合えたら、俺もさらに元気出しますし、どんどんプラスな空気になるんじゃないかな。そういう人が来てくれたらいいな」
「僕はそんなに元気じゃないんで…。自分と逆の人が来たらいいのかも (笑)」
冗談半分にそう続けるのは、大谷さんと一緒に働く横田さん。
たしかに寡黙ではあるけれど、先輩たちの話を聞いて楽しそうに笑ったり、質問に誠実に答えてくれる姿が魅力的。
「出身は千葉県です。実家が農家で、生産する姿がかっこいいなと思って、養殖業に興味を持ちました」
北海道の学校を出て、三重の定置網漁業の会社に入社。その後、富士山サーモンへ。
日本各地を転々としていますね。
「住まいを変えることに抵抗はなくて。やりたいことがあるところに行っているだけなんだと思います」
前の職場では海面養殖を経験し、よりよい環境で養殖業を追求してみたいと思うようになった。
「生きものにとってもいい環境で、養殖に携わりたいと思いました。ここは富士山の川の水をそのまま使っていると知って、すごくいいなって」
入社は今年の9月。面接と池の見学をしたその日に内定をもらったという。
「一次産業でここまでデータをしっかり分析しているのはめずらしいし、指導も具体的でわかりやすいです」
「ひとつの池は3人で見ています。人数が限られているからこそ、ちゃんと仕事をさせてもらえる。新人でもいろんな仕事に取り組む機会があるので、やりながら覚えていけるのがいいですね」
自前で濡れないメモ帳を用意し、日々細かくメモをとっているという横田さん。
それぞれの池に何トンの魚がいて、餌をどれくらい与え、どれくらいのサイズに育ったのか。すべて記録・分析する必要がある。
「池ごとの在庫数や、撒く餌の量を毎日のように記録しなきゃいけなくて。計算が苦手なので、それには苦労してるかな。でも、聞けば丁寧に教えてくれるし、聞かなくても教えてくれることも多いので、働きやすいなと思います」
会社の雰囲気はどう感じているんだろう。
「組織を引っ張っている先輩たちを見ているとかっこいいなと思いますよ。自分はできるようになりたいけれど、そういうのは苦手なので…」
「いつか自分が中心になるときが来るのかと思うと、ちょっと不安ですね。でもすごく真摯に教えてくれるので、このままモチベーションを高く持って、ついていきたいと思っています」
キャラクターも、得意分野も、ここで働く理由も、さまざま。
でも、自分たちの仕事を大切に思い、誠実に向き合う姿勢は全員に共通している。心からそう感じることができました。
チームのみんなと手を携えながら、5年後、10年後の富士山サーモンというブランドを、大きく育てていってくれたらうれしいです。
(2024/11/28 取材 増田早紀)