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聴いて、調べて、対話して
手探った先にある
「みんな」の公共施設

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

「施設の開館って、過程のひとつなんです。そのあとも、多くの人が関わり合いながら、みんなの緩やかなつながりの中で、施設はつくり続けられていく」

「なかには、完成した施設に納得いかない人がいるかもしれない。でも、それでいいんです。自分と違う意見の人の存在を知ること、お互いに対話を続けながら、関わりあっていくことが大切なんです」

そう話すのは、アカデミック・リソース・ガイド株式会社(arg)の李さん。

日本全国で、図書館をはじめとする公共施設づくりに携わる会社です。

今回募集するのは、ディレクター。

主に担当するのは、公共施設の基本計画づくりや、市民参加のワークショップのファシリテーション。さらには、設計やシステムなどの専門家と連携して、ひろく公共施設のデザインに関わっていきます。

さまざまな人たちと話をして、地域と深く関わりながら、数年にわたって新たな場づくりの舵取りをするこの仕事。

ひとつの施設ができるまでの話をじっくりと聞いてきました。

 

横浜の2駅隣にある、関内駅。

横浜スタジアムとは反対側、北口から歩いて5分ほど。小さな飲食店が点在する通りにある、ビルの一室にargの拠点がある。

「基本はリモートワークだし出張も多くて、オフィスにはあまり人がいないんです。ハンコを押したいとか書類を印刷するとか、そういうときくらい」

笑いながらそう話す李さんは、空間デザインにまつわる仕事を経て、2014年からargに参画してきた。

「今日は代表の岡本は出張です。社内でも圧倒的に出張の回数が多いんですよ」

代表取締役の岡本真さんがargを立ち上げたのは2009年。「学問を活かす社会へ」をビジョンに掲げ、主に公共に関わる分野での事業に取り組んできた。

産官学民の連携事業や、書籍やメールマガジンでの情報発信などに取り組むなかで、中核事業のひとつが、公共施設のプロデュース。

これまでに全国で40ヶ所以上を手がけてきた。

地域でのリサーチやワークショップを通じて、新たな施設に活かすべき要素を抽出。

それらを反映しながら、さまざまな専門家とプロジェクトチームを組んで、コンセプトや設計のディレクション、サービスやシステム運用のあり方まで、横断的にデザインしていく。

「これまでは図書館や図書館を含む施設の案件が多かったんですが、最近はそれ以外の公共施設の割合も増えています。たとえば市役所などの庁舎についても、単に手続きをするだけでなく、居場所や交流の意味合いを持たせたいという事例も増えていますね」

「我々の目指すものは、施設の完成ではなく、その先にあって、いろんな人たちの居場所をつくり、知る・参加する機会を広げていくこと。それは創業時から掲げている『学問』を、多元的に捉えたものだと考えています」

argのメンバーは現在7名。それぞれが、フェーズの異なる2〜3のプロジェクトを進行している。

計画が立ち上がってから開館まで、4〜5年ほどはかかるのが当たり前で、中には10年かかることもあるのだそう。

昨年9月にオープンしたのが、新潟県小千谷市の複合施設「ホントカ。」。老朽化した旧図書館を核に、郷土資料館、子育て支援機能、交流促進・創造機能などを集約するかたちで、市の中心部にある病院跡地に整備した。

「2020年度から動きはじめて、最初にフィールドワークに行ったのがその年の夏でした。コロナ禍の真っ只中で、どの施設にも体温計が設置されていたんですけど、外に長時間いたせいで体温が高くなって、入り口で引っかかったりして(笑)」

周辺にどんな機能の場所があるか、近隣の人たちは新たな施設についてどんなふうに考えているか。実際にまちを歩き、話をして、文献なども参考にしながら地道なリサーチを重ねていく。

「フィールドワークの目的のひとつに、まちの人たちの想いと施設のプロセスを分断させない、ということがあります」

分断させない?

「外から来た私たちが新しいものをつくろうとするとき、何も考えずにやったら、それまでの蓄積は反映されません。でも、地域の人の想いというのは、こちらの想像以上に強いもの。それを新しい施設にいかにつなぐかが、私たちのやるべきことです」

ホントカ。がつくられたのは、「小千谷総合病院」があった場所。

小千谷総合病院が特別な場所だった、という話を市民から聞く機会が多いものの、どんなふうに特別なのか、経験のある李さんでもすぐに捉えることができなかった。

「自分の身近には、病院でそんな場所はありませんでした。でも、時間をかけてコミュニケーションを繰り返すうちにピンときたんです。ここは、僕にとっての地元のあの百貨店と同じなんだって」

「子どものとき、行くのが楽しみでしょうがなかった場所。それは人によって異なると思います。小千谷の昔の子どもたちにとっては、病院の食堂がそういう場所のひとつだった。彼らのいう『病院』は、地域外から見ている人間がイメージする場とは全然違うんです」

まちの人たちの記憶に残る、大切な場所。

その跡地に新しく生まれる施設はどうあるべきか。丁寧にプロジェクトを進行していく。

 

施設づくりの過程を教えてくれたのは、入社6年目の有尾さん。

大手IT企業を経て、日本仕事百貨の記事をきっかけにargに入社。ホントカ。が、初めて最初から最後まで関わった案件だという。

「小千谷市の場合、『リビングラボ』という枠組みをプロセスに取り入れたことが、ひとつの特徴だったと思っています」

リビングラボとは、市民や事業者、大学教授・学生など、さまざまなステークホルダーがフラットな立場で対話していく場のこと。

単発で終わってしまうワークショップではなく、施設ができたあとも地域で対話を続けていってほしいと、この取り組みを導入した。

「小千谷の人たちは対話や議論に対して奥手なところがあると、市民の方々が度々口にされていました。ここでは施設整備を取っ掛かりとして、対話の文化を育てていけないか。異なる意見の人たちも同じ方向を向いて考えることができれば、想像を超えるものが生まれるんじゃないかと」

「第1回の開催で市民の方が発案した、『at!おぢや』という愛称もつけられ、17回以上のリビングラボを開催しました」

17回も。そこまで回数を重ねるケースは、きっとめずらしいですよね。

「多いほうだと思いますし、これからも長く続く場であってほしい。その想いは強くあります」

リビングラボでは、各回でテーマを設定。

施設の活用方法や設計について話し合うこともあれば、遊びの体験を共有したり、オリジナルの本棚をつくったり。一見遠回りなテーマをきっかけに、お互いの思考に触れていくものもある。

主な参加者は、まちづくりに関心の高い人や施設の近くで商売をしている人、建築に興味がある人など。年齢層が高くなりがちなので、多様な意見を反映できるよう、大学生や高校生も意識的に呼び込んできた。

有尾さんがとくに意識したのは、フラットな関係性で対話できる場をつくること。

「参加者と運営側というような、立場が明確に分かれないかたちにすることを心がけていました。私たち自身や市の職員のみなさんも、同じ輪のなかで対話していくとか」

「コロナ禍だったので、一定の距離をとる難しさはあったんですけど、規制が緩和されるにつれて仕切りをなくしたり、自由に椅子を寄せ合って話ができるようにしたり。進行もカチッとしすぎない、自由に話せる雰囲気を意識しました」

リビングラボでは、施設への直接的な要望を聞いたり、出てきた意見を集約することを目的としていない。

むしろ議論を広げていき、そのなかから必要なピースを拾っていくような感覚だという。

「なかには人の話を聞くという行為に慣れていなくて、どうしても話が一方向になってしまうこともあって。『対話』というかたちになりづらいシーンも当初は多く見られました」

「でも、初回から設定している対話のためのルールを毎回地道に呼びかけていたら、徐々に変化が現れていきました。参加者の方も根気強く参加してくださって。きっと最初はもどかしい気持ちもあったと思うんですが、だんだんと相手の話に自然と耳を傾けてくださるようになりました」

リビングラボを通じて見えたことは、ハードとソフトの両面で施設のデザインに落とし込まれていく。

小千谷の場合は、「いろんな体験が混ざりあう施設」というのがポイントだった。

「まちの人たちには、いろんなやりたいことがある。それぞれがやりたいことを受け止めながら、行動を起こすきっかけになるような施設にできたらと、さまざまな関係者の方々と検討を重ねてきました」

ホントカ。には、建築的なひとつの象徴として、フロートというレール上を動く書架がある。

空間を広げることで、イベントや講演会、コンサートなどの会場として図書館を使用できる。

「静かなイメージのある図書館でイベントが開かれていて、そこには本を選んでいる人がいたり、子どもが遊んでいたり。構想段階では抽象的にも感じていた『混ざり合い』が、開館後本当に実現していることに、とても感動しました」

公共施設は、地域に関わる「みんな」のもの。多様な人たちが、自由に、自分らしく関わることができる場所。

そのつくり方は、もちろん地域によって異なって当たり前。

「おおよその進め方は決まっていても、フォーマットはありません。毎回手探りなのですごくエネルギーがいるんですけど、当初想像もしていなかったものが出来上がっていくおもしろさもあります」

「個人的には、いろんな方の想いにどういう背景が存在しているのか、知っていくのが好きなので。ワークショップや調査を通じて、さまざまな地域の人たちの考えに触れられる刺激が常にあります」

話を聞いていると、とても根気がいる仕事だと思うし、人との関わり方を考える機会も多いように感じる。

有尾さんは、どんな人が向いていると思いますか?

「手探りなことや、いろんな人たちのあいだでの調整に、地道に取り組んでいける人。あとは、出張が月に数回はあります。対面のほうがコミュニケーションはとりやすいけれど、移動時間が長いぶん出張が増えれば作業時間は減ってしまいます」

「うまくバランスをとらなくてはならない局面が徐々に出てくると思うので、そのような心づもりは持っていただけたほうが良いかもしれません」

李さんにも、同じ質問を投げかけてみる。

「ディレクターの仕事には明確な定義がないので、自分で仕事をつくることを楽しめる人だといいですね。うちのメンバーって、前職も異なるし、性格や興味も全員がまったく違う。経営陣だけじゃなく、みなさんの意見を取り入れて、一緒に仕事をつくっている意識でいます」

会社が掲げる指針はあるものの、必ずしもそれに全面的に共感はしなくていい、と李さん。

「全面的な共感は、強い圧力になりますから。『関心はあるけど別の考え方です』っていう人がいてもいいと思う」

「僕と有尾さんもやっぱり違うから、彼女のいいところを受け取っている感覚です。多様性を大事にする社会であってほしいと思うなら、まずこの小さいチームでできないと、説得力がないじゃないですか」



誰も、同じではない。でも同じ方向を見つめ、対話を重ねていく。

argのみなさんは、お互いを受け止めること、そのためにどうするか考えることを、決して諦めない人たちだと感じました。

そんな姿勢で向き合い続けた先に、誰かの記憶に残る場所が生まれていくのだと思います。

(2025/1/10取材 増田早紀)

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