求人 NEW

対話と傾聴
バラバラな世の中で
公共を創造する

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

役場や公園、公民館や図書館など。

公共施設を訪ねると、「いろんな人がいる」ことを感じる。年代も職業も、バラバラな人たちの集合でまちは成り立っているんだな、と実感します。

アカデミック・リソース・ガイド株式会社(arg)は、図書館などの公共文化施設をデザインし、プロデュースする会社です。

設立に携わった施設は、全国に30ヶ所以上。

地域住民とのワークショップで施設のあり方を考え、建築設計事務所とともにコンセプトやデザインを決定し、施設ができたあとに映像や冊子で記録を残すところまで。

さまざまな人と関わり、「いろんな」利用者のことを想像しながら、数年がかりのプロジェクトに携わっていきます。

今回募集するのは、全国で進行している各プロジェクトのディレクター。地域にたびたび足を運びながら、担当施設をじっくりと形にしていく仕事です。

(取材はオンラインで行いました。現地の写真は提供いただいたものを使用しています)



argのオフィスがあるのは、横浜市にある関内駅から歩いて5分ほどの場所。とはいえ、出張の多い仕事なので出社義務はなく、今はスタッフのほとんどがリモートワークなんだとか。

今回の取材も「このほうが普段の会社の雰囲気が伝わるから」と、オンラインで話を聞くことになった。

オンラインでのミーティングは毎日のようにあるものの、実際に顔を合わせるのは出張先が多いという。

「まだ直接会っていない先輩もいるし、それ以外の方も数回ずつしか会ったことがなくて。実際に会ったときに、ちょっと不思議な感じがします」

そう話すのは、昨年入社し、ディレクターとして働く小林さん。

場づくりの仕事に興味があり、新卒でデベロッパーに入社。5年ほど商業施設の開発に携わっていた。

経験を重ねるうちに、施設だけにとどまらず、まち全体を視野に入れた場づくりがしたいと思うようになったという。

「人口動態とか平均所得とか、施設開発のためのデータと向き合うことが多くて。もっとリアルにまちとつながっている実感がほしかったんです。それに商業施設はどうしても、限られたお客さまに向けてつくる場なので。公共施設なら、もっと広く、いろんな人たちが居心地のいい場所をつくる仕事に関われるんじゃないかと思いました」

「今はうまく言葉にできるけれど、当時はただモヤモヤしていただけで…。日本仕事百貨でargの求人を読んだとき、ここなら自分のモヤモヤを解消できるかも、と思ったんです」

「学問を活かす社会へ」というメッセージを掲げるargは、ヤフーのプロデューサーとして長年働いていた代表の岡本さんが、12年前に立ち上げた会社。

ヤフー時代に培った情報技術のノウハウを活かして、産官学民の連携事業や書籍・メールマガジンでの学術情報の発信など、アカデミックな分野でビジネスに取り組んできた。

小林さんが主に担当しているのは、公共施設のプロデュース。会社の柱となる事業のひとつだ。

「今は、いろんな段階の5つのプロジェクトに、並行して関わっています。たとえば、昨年秋に開館した鳥取県智頭町の『ちえの森 ちづ図書館』では、利用者にインタビューを行って図書館ができるまでの記録冊子を制作しているし、静岡県焼津市の図書館は開館直前で、運営の細かい打ち合わせが続いています。出張は月に2回くらい、週末にあることが多いですね」

新しく入る人も、同じような形でさまざまな地域の施設づくりに携わっていくことになる。

argの仕事は、フィールドワークや参考事例の収集など、綿密な調査研究からはじまる。

その後は、ワークショップやインタビューを通じて地域住民の声を拾い上げ、施設の方向性を検討。「施設でどのような活動をしたいか」「まちの解決すべき課題はなにか」など、産官学民の垣根を超えて考えるなかで、施設に活かすべき要素を抽出していく。

ワークショップを経て、今度は行政や建築設計事務所とともに、具体的な打ち合わせに入る。コンセプトやデザインはもちろん、サービスやシステム運用のあり方まで、施設づくりに関するさまざまな領域を横断していくのがargの特徴だそう。

完成まで数年単位のプロジェクトがほとんど。長いものだと10年近くかかることもある。

「今取り組んでいる鎌倉市のプロジェクトは、完成が2028年以降になる予定です。先を考えると、ちょっと気が遠くなることもありますね(笑)」

移転が予定されている現在の鎌倉市庁舎の跡地に、新たな施設を整備するこのプロジェクト。ようやく最初の市民ワークショップがはじまったところなのだそう。

立場も目的もさまざまな人が利用する公共施設について考えることは、商業施設とは違ったむずかしさがあると、小林さん。

「どの地域にもいろんな考えの人がいて当たり前なんですけど、鎌倉はとくに多様で複雑なまちだなあと感じます。一大観光地でもあるし、歴史の古いまちでもある。移住してくる若者もいれば、昔から住む高齢者の方も多い」

「ワークショップにもいろんな方が参加していて、そもそも市役所の移設に慎重な方や、観光客が多すぎるっていう鎌倉ならではの困りごとに直面している方もいます。それぞれの思いを受け止めながら、話し合いを進行していくのはむずかしいですね」

中立的な立場で、さまざまな意見と向き合いながら、施設の方向性を決めていく。ファシリテーション力が求められる仕事だと思う。

さらに今は、ワークショップをオンラインで行う大変さもある。対面のワークショップと同じようなコミュニケーションをとれないもどかしさも、やっぱりあるみたい。

「今こんな世の中ですけど、プロジェクトが進む7年後のことだって、全然予想できないなって思うんですよね」

「長いプロジェクトになるほど、不確定要素も多いけれど、『この部分はずっと変わらないだろうな』って思えるまちの根幹を抽出していけたら、どんなときでも活かすことができると思うんです。鎌倉でも、それを見つけていきたいですね」



「ワークショップでは意見がぶつかることもあるけれど、それは必要なことなんです」と話を続けるのは、小林さんより半年ほど先輩の有尾さん。

「話し合いがすべてうまくいくって、誰かが遠慮しているということなので。長い目で見れば、ちょっとモヤモヤした状態をちゃんと認識したうえで進めていくほうが、自由に話せる場を継続していけると思います」

本質的に大事なのは、完成してargが離れたあと、施設がどう機能していくかという部分。なんとなくきれいに収めるのではなくて、地域住民主体で話し合い、考えていくための土台をつくるのがargの仕事といえる。

前職では大手IT企業の総務部で働いていた有尾さん。当時からプライベートで「哲学対話」のイベントに参加するなど、人と関わり、対話する場に関心を持っていたという。

実際に入社してみて、どうでしたか?

「そうですね… 入社してはじめて地域の会議に出席したときは、なんだかバラバラだなあって」

バラバラ?

「図書館づくりを推進する会議なんだけど、つくりたい施設の方向性も、それぞれの経験や思い出のなかにある図書館像も全然違う。いろんな背景を持った人たちが集まる場で、ひとつの結論を出すのってむずかしいんだなと感じました」

「そのむずかしさをちゃんと噛み砕いて理解したいと思って。雑誌で特集するというかたちで、じっくり考える機会をもらったんです」

argが編集・制作する『ライブラリー・リソース・ガイド』(LRG)は、社員が持ち回りで企画や編集を担当している雑誌。

有尾さんは「みんなにとっての図書館」という特集を組んだ。

公共施設はみんなのものだけれど、その“みんな”って一体なんだろう。スタッフ同士で考えるだけでなく、さまざまな研究者にヒアリングを行い、その問いと向き合っていった。

「会議やワークショップで話がうまく進まないとき、ついきれいにまとめたくなってしまう。でも『“みんな”は多様で、ひとまとめに捉えることなんてできない』と自分に言い聞かせておくことで、うまくいかなさを受容できるようになる気がしていて」

それでも、どこかでうまく合意形成を図りながら、進めていくしかない。ある意味矛盾するようなことを、同時にやっていくむずかしさがありそうですね。

「そうですね。ごちゃごちゃしたまま進めていって、なんとか先につながる形を見出していく。むずかしいけど、それをやりきれるだけの力をつけていきたいと思います」



小林さんや有尾さんの話からは、自ら問いを立てて深く向き合う姿勢が伝わってくる。

そんなおふたりの話を聞いていた、代表の岡本さん。

「二人とも誇らしいくらい働いてくれています。これから入る人は、彼女たちとチームを組むことになるので、刺激し合いながら楽しく動いていってほしいですね」

「公共施設づくりって、世の中のありのままを丸ごと受け止める仕事なんですよ」と、岡本さん。

それは、地域の生々しさにも泥臭く向き合っていくということ。

「たとえば沖縄の仕事のときには、地域のおじいと飲みに行って、はじめて得られる信頼がたしかにありました。カジュアルな飲み会のなかでも、絶対どこかで戦争の話が出てきて、それに対して向き合える人間なのかが問われるんですよね」

「かっこいい最先端のものや人だけを相手にする仕事では決してなくて。誰も取りこぼさないように、対話的に傾聴的に、世の中と向き合っていく。公共分野の大変さやおもしろさは、その広さと深みが味わえるところだと僕は思います」

コミュニケーションを重ね、施設づくりに向き合っていくことで、プロジェクトが終わったあとも通い続けたい地域が日本中にできていくという。

岡本さんが仕事をする上で大切にしているのは、現場での判断を尊重すること。各担当者には、かなりの裁量がある。

「小さい会社なんだから『一旦持ち帰ります』『上司に確認します』はやめようと。だって地域の人からしたら、いつも来ている人が責任者なわけですから。自律・分散・協調で動ける環境に、おもしろみを感じて来てくれたらいいですね」

ただ、経験が浅いうちは、プレッシャーに感じてしまいそうです。

「経験が長くても、わからないことはわからないし、むしろパターン化しちゃだめなんですよ。それぞれの地域の違いを見出す感度を損なわないよう、日々気をつけなきゃいけないのは、経験のある私たちのほうだと思っています」

未経験でも自信を持って飛び込んできてほしい。むしろ、それまでの自分の経験や培ってきた考え方を、argで存分に発揮してほしい、と岡本さん。

「多様な地域の人と関わっていくんだから、私たちも多様なほうがいい。今いるスタッフと指向性を合わせる必要もありません。まったく違う世界から来ても、何かひとつでも自分の関心とつながるものがこの仕事にあれば、なんとかなっていくものだと思いますよ」

いろんな人たちと深く向き合い、本質を考え続けるarg。

すぐに結果に結びつくわけではないけれど、興味関心を追求したり、地域に入り込むなかで気づきがあったり。

日々学問するように、自分たちも学び続け、変化し続ける仕事なのかもしれません。

(2021/6/15オンライン取材 増田早紀)

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