「この壁、ぼくが塗ったんだよ。いま立っている床も、友だちと一緒に貼ったんだ」
そんな体験が幼いころにできたら、家で過ごした時間が一生の思い出になると思う。
今回紹介するのは、自分の手でつくる楽しさをたくさんの人に届ける仕事です。
株式会社中田製作所は、住まい手となる施主が参加できる家づくりをおこなっている建築設計事務所。
住宅をメインに、商業施設、宿泊施設などの案件にも対応。理想を叶える建築を施主さんと一緒につくりあげています。
今回募集するのは、設計から施工までを一貫して手がけるメンバー。実務経験を積んだ人はもちろん、未経験からの挑戦、時短勤務も歓迎します。
中田製作所だからこそ形にできる建築の魅力を、まずは知ってほしいです。
JR品川駅から横須賀線に乗って、約1時間で逗子駅に到着。
駅を出ると、商店街には地元の魚屋さんが並び、まちの人が立ち話に花を咲かせている。
8分ほど歩くと、あっという間に中田製作所の事務所に着いた。
中をのぞくと、スタッフのみなさんが集中して会議している姿が見える。
真剣な表情だけど、雰囲気は終始なごやか。みんな仲が良さそうだな。
「逗子までようこそ」と迎え入れてくれたのは代表を務める裕一さん。
大手ゼネコンで施工管理を経験したのち、2010年に中田製作所を立ち上げた裕一さん。
20代のころ、自分でつくった部屋に住んだ経験が、創業のきっかけになったという。
「ある団地を借りるとき、どうせ誰かが直すなら、全部自分でやってみたいと思って、設計図を描いて大家さんにプレゼンをしました。それでつくってみたらすごく面白くて」
大学の同級生や、職場の同僚を呼んで、みんなで壁を壊すところからはじめた家づくり。
床の張り替えから壁の塗装に至るまで、仲間と一緒につくりあげた。
「実際に住んでみると、はじめての施工で塗装の粗さや床の隙間など、気になる箇所はたくさんある。でもそこにも愛着が湧いて自分の家が好きになったんです」
「そんなふうに、住む人も含めてみんなでつくりあげる家づくりがしたいと思って、中田製作所を立ち上げました」
自身の経験からはじまった、施主参加型の建物づくり。
参加の仕方は人それぞれ。どんな暮らしがしたいか妄想して、設計から関わりたい人もいれば、DIYを楽しむように家づくりに関わりたい人もいる。
「大人も子どもも一緒になって、家の柱梁(ちゅうりょう)を1から建てることもあれば、外壁に使用する杉の木を施主さんに焼いてもらうこともありました」
一般的に「設計」と「施工」は担当が分かれていることが多い。一方、中田製作所は「設計」から「施工」まで同じメンバーが一貫しておこなっているため、施主さんが家づくりに参加しても安全に進めることができる。
「予算やスケジュールをすべて自分たちで管理しているので、現場で確認してから調整ができる。施主さんの理想を最後まで形にできるんです」
「たとえば、キッチンや窓の高さを確認して決める、友人家族も呼んでウッドデッキを追加でつくる、なんてことにも対応しています」
施主、現場管理、設計士、職人が、直接面と向かって話す機会は少ない。けれど、中田製作所が大切にしているのは、みんなが同じ目線で話すこと。
施工にたずさわる全員が入ったLINEのグループを作成して、工事の進捗や写真を施主さんに共有するなど、毎日の会話を欠かさずにおこなっている。
普段からよく会話をすることもあって、中田製作所の現場では、施主さんと設計施工メンバー、みんなが顔見知り。
そのため近くに住んでいるお子さんが、幼稚園帰りに現場に入ってくることも。現場にいるメンバーに見守られながら、子ども現場監督として一緒に建物をつくっている。
施主参加型の家づくりを続けて気づいたのは、つくる人にも家に愛着が生まれるということ。
「お互いの関係性ができると、つくり手も情が湧いて取り組む姿勢が変わってくる。この家に住む家族、お子さんのために綺麗につくってあげたいって気持ちになるんです」
住宅産業では施主と職人の顔が見えないことからトラブル発生することも多い。一方で中田製作所の住まいづくりでは、そういったクレームがほとんどないそう。
「最終目標は、つくるプロセスをみんなで共有して、良い家だなって施主さんに思ってもらうこと。だから日々のLINEやコミュニケーションこそ、ぼくらの仕事の醍醐味なんです」
そんな想いから、建物の引き渡しの際には、施工過程を1冊にまとめたアルバムを施主さんに渡している。
「現場で友だちとカレーパーティをしたり、疲れた子どもたちが現場で寝ていたり。アルバムを見返すたびに『いろんなことがあったな』って思い出すんです」
「最近はリピートのご依頼も増えていて。またみんなでつくりたいと。ほかの建築事務所も検討した末に、自分たちを選んでくれるのはすごくうれしいですね」
家が完成した後も、施主さん家族と週末にBBQをするメンバーや、施主さん家族が旅行で家を長期間空けるときには、好意で泊まらせてもらうメンバーもいるのだそう。
こうした建物づくりを続けてきて15年目。7年ほど勤めた中堅スタッフの卒業にともない、設計施工のスタッフを新しく募集することになった。
「ぼく自身、子どもが生まれてから働き方が難しくなったこともあって、時短や業務委託での働き方も柔軟に受け入れていきたいと思っています。理念に共感してくれたら、まずは気軽に遊びに来てほしいですね」
みんなが同じ目線で一つの建物をつくる。そのプロセスやコミュニケーションを楽しめる人があっているんだろうな。
続いて話を聞いたのは、裕一さんの奥さんの理恵さん。
建築の企画設計に携わるかたわら、母校の大学で建築設計の講師をつとめている。
東日本大震災のときには、仮設住宅でも暖かく住めるようにと、手軽な材料でつくれる「ソクセキ断熱」を考案した理恵さん。
そのときの経験から、夏に涼しく、冬に暖かい住宅づくりができるように、断熱気密を学ぶ省エネ建築診断士の資格を取得するなど、建築への熱意あふれる方。
裕一さんと一緒にプロジェクト全体のマネジメントも担当しているので、今回入る人は主に理恵さんから仕事を教わることになる。
「みんなでつくるって住宅だけに限らなくて。宿泊施設や飲食店、歯科医院といった施設も手がけています。自分たちでつくることで愛着が湧いて良いお店になるんです」
象徴的なものが、今年で13年目を迎えるシーサイドリビング事業。
裕一さんと理恵さんが2人で建てた海の家。ここで自分たちが結婚式を挙げたことをきっかけに、毎年、企画から運営まで自分たちでつくりあげている。
「今年はどんな海の家にするか企画して、6月にはメンバーみんなで建てる。8月まではアルバイトの人と一緒に営業して。参加は必須じゃないけど、つくったものをみんなで運営する経験は、私たちの建物づくりにも活きていて。これからも続けていきたい事業ですね」
これまでは全員で海の家をつくり、運営してきたけれど、これからは希望に合わせて関わり方を選べるようにしていきたい。
「運営するなかで建物の用途が変わることも、これからの時代は増えてくると思っていて。先日も九州の離島に呼ばれて、企画の相談を兼ねた視察に行ってきました」
その島で、使われなくなった公共施設をどうするか。みんなが使いたくなる場所とは何か。建物の価値を再考する段階から企画に携わっている。
これまで培ってきた経験を活かして、今後は公共施設のプロジェクトにも挑戦していきたいと理恵さん。
「施主参加型を市民参加型にした公共施設をつくりたいんです。みんなの場所をみんなでつくることができたら、その場所に愛着を持てる。最近は東逗子にある駅前公共施設の設計者選定にも応募しました」
みんなでつくることの楽しさを、少しずつ広げていきたいという熱意を感じる。
「私たちの事務所では新卒も受け入れています。実務経験がなくても、学校で建築を学んでいたり、設計の知識はあるけど手を動かしたことがなかったり。そんな人でも、熱意や興味があれば歓迎しています」
そう紹介してもらったのが、中田製作所に新卒で入社した英里子さん。
大学院まで建築を専攻し、設計施工として働いて4年になる。明るい雰囲気で親しみやすい方。
「学生時代、課題でずっと図面を描いていたけど、実際にどうやってつくるかにも興味があって。そんなときにHandiHouse Projectという小さな建築設計事務所が集まったグループの存在を知って、ワークショップに参加したら、担当が中田製作所チームでした」
真夏の新宿で1ヶ月、トレーラーハウスを使った店舗づくりに参加した英里子さん。暑さよりも、楽しさがまさり、中田製作所の取り組みに興味を持った。
「現場にはエアコンがないので、すごく暑くて(笑)。でもみんなで協力して一つのものをつくりあげる学園祭みたいな一体感があって、楽しかったんです」
「私は設計もやりたいし、自分で手を動かしてつくることも好き。自分が描いた図面をみんなで一緒につくることが自分には合っているかなと思って、入社を決めました」
入社するまで、工具の使い方はほとんど知らなかった英里子さん。
「試作を事務所でつくる機会もあるし、入社後の研修で自分の部屋をつくるので、工具は自然と扱えるようになっていきました」
自分の部屋?
事務所から原付で5分ほどの距離にあるアパートを会社で購入。その部屋をスタッフが直して住むのが中田製作所では新卒研修になっている。
どのように暮らしたいかを考えて、自分で設計して見積りを作成し、裕一さんと理恵さんにプレゼン。1ヶ月ほどで完成させて、その部屋に住むことになる。
「建具に入っていたガラスをキッチンに再利用したり、現場で余ったタイルを持ち帰って洗面台に敷き詰めたり。自分の理想がつまった部屋をつくれるんです」
「住んでいて、気になった箇所は自分で直せるし、失敗にも気づける。自分の手でつくる楽しさを体感できて、最初の仕事としては最高の学びになっていますね」
たとえば、と紹介してくれたのは、とある宿泊施設をつくったときのこと。
「納期は決まっているけど、あれもこれも追加したいとなって。気づいたら最終日の夜に、施主さんと一緒にタイルカーペットを切り貼りしていたこともありました」
「研修での経験があるぶん、施主さんの気持ちはすごく分かるし、できる限り応えたいから、『夜は一緒に頑張りましょう』って。体力は必要だけど、完成したときは自分のことのようにうれしかったです」
話していると、施主さんとの思い出話がたくさん出てくる。
みんなでつくることの楽しさを、自分たちで体現している姿が印象的でした。
中田製作所の建物づくりに興味が湧いたら、まずは気軽に現場に遊びにきてください。
(2024/11/26 取材 櫻井上総)