19世紀の英国、ヴィクトリア女王が統治していた時代の家具は、修復しやすい構造になっているといいます。
それは、職人が手作業で頑丈につくり、何世代にもわたって使い続けることが前提だったから。
「どう直すか」だけでなく、「どうすれば使い続けられるか」を考える。
Lloyd’s Antiques(ロイズ・アンティークス)は、製造されてから100年程度経過した英国製家具を軸に、北欧やイタリアなど、ヨーロッパ各地で買い付けたアンティークやヴィンテージ家具を修復し、次の使い手へとつなぐインテリアショップ。
時代や国を超えたミックススタイルを提案しています。

今回は、木工・塗装と椅子張りの2職種を募集します。
経験は問いません。
どちらも、新品を一からつくるのではなく、あるものを残して再生していく。傷や汚れをあえて活かすこともあります。
100年以上も前の家具に向き合い、「どういう仕組みなんだろう」、と考えるところから始まる仕事。プロセスに自ずと興味が湧く人は、とことん突き詰めていける環境です。
ヨーロッパ各地に年間多くの買い付けを行っているロイズ・アンティークス。
横浜・鶴見区にある「ロイズ・アンティークス ウェアハウス」は、買い付けられた家具すべてが集まる場所。ここで修復を施され、全国6つの店舗へ搬出される。
大きな倉庫の入り口へ近づくと、重厚なキャビネットや椅子がどしりと構えている。

ラジオが流れ、その合間にトントントンと金槌を叩く音が鳴り響く。
「中へどうぞ」、と案内してくれたのは代表の久保さん。空間に溶け込む素敵なスーツがよく似合う。

1988年に久保さんのお父さんが創業したロイズ・アンティークス。
「父が学生時代にヨーロッパを旅して、とくにイギリスで古い家具が代々受け継がれていく文化に惹かれたんです。それらを買い付けるところから始まりました」
当初は英国のクラシック家具のみを扱い、時代とともにその幅を広げていく。
北欧やイタリアをはじめとした、ヨーロッパ各地のアンティークやヴィンテージ家具。久保さんに代替わりしてからは、ブラジルで仕入れたものも取り扱い始めた。日本国内でもトップクラスの品揃えだ。
イギリスに関連会社を構え、買い付けの拠点とし、技術や価値観も共有している。

「アンティーク家具屋や、北欧ヴィンテージ家具屋といった専門店はほかにもありますよね。私たちの違いは、その“幅”で」
「大きな特徴は、ミックスカルチャーという考え方。ひとつの様式に統一するのではなく、異なる時代や国の家具を組み合わせて、現代の暮らしのなかに取り入れていく提案をしています」
今回募集するのは、幅広く家具の修復を行う職人。買い付けてきたものもあれば、お客さんから依頼が届くこともある。
「単に古いものをきれいに直すだけではないんです。傷やムラも含めて、その家具が歩んできた時間の痕跡なんですよね。強度に問題がなければ、ほぼすべて残すこともありますよ」
「西洋磨きの最高峰」とも言われるフレンチポリッシュという技術で磨かれた天板。タバコの焼け跡が残っていても、鏡面のように輝く。

こういった職人の仕事は、感覚的な手作業の積み重ねに見えるけれど、久保さんは、「知的な仕事」だと表現する。
「手を動かす前の段取りがほぼすべて、と言ってもいいくらい、頭を使う仕事だと思いますよ。たとえば、剥離して白木の状態に色を入れてからトップコートを施すまでに乾燥時間が必要で。その間にほかの5つもの家具を同時に進行していくこともある。段取りがうまくいくと、仕事が気持ちよく回るんですよね」
買い付け後、コンテナで運ばれてくる家具は、一度に200点以上にのぼる。
状態も背景も異なる一点ものばかりだから、異なる判断と技術が求められる。だからこそ、飽きがなく、長く続ける人も多い。
そしてこれからは、若手も育てていきたい。
平川さんは入社して15年目、木工・塗装の大ベテラン。
「木工ならなんでもできると思っています」
いわゆる寡黙な職人像とは違って、気さくでテンポよく話してくれる方。

幼いころから美術や図工が好きで、20歳のころに江戸指物の工房で約2年間、木工の技術を学んだ。次にオーダーメイドキッチン家具の会社で、製作から納品まで一貫して携わったものの、より腕を磨きたいと、転職先を探すことに。
そこで出会ったのがロイズ・アンティークス。
「それまでは一から家具をつくってきましたが、『修復』というワードに引っかかって」
椅子やテーブル、照明に大きなキャビネットや引き出しのシリンダー錠の修復など、ロイズに入社して修復した家具は2万点以上にものぼる。
最近手がけたのは、滑らかなラインが特徴のアンティークジュエリーキャビネット。

「海外のお客さんからの依頼で、引越しで日本に運ぶ途中に脚が全部折れてしまって。1本はつくり直して、残りはジグソーパズルみたいに組み直しました」
高級家具に使われる木材は、マホガニー材やオーク材など硬いものが多い。加工には時間もかかり、刃物もすぐに傷む。それでも、修復は1日ほどで完了したという。
大変だったと言いつつ、そのスピードに驚く。
「メモも図面もないですね。まずは30分とか1時間、ひたすら観察して考える。お風呂のなかでも寝る前もずっと考えていると、やり方が浮かんでくるんです」
「そこからは、もうえいやーって(笑)。感覚的だから言葉にするのがむずかしいですね」
経験があるから、感覚的に手を動かしていけるんだと思う。でも、経験が浅い人はどんなふうに身につけていけばいいんだろう。
「ここまで大がかりな修復は年に一度くらいですし、まずは小さな傷や歪みを直すところから慣れてほしい。わからなかったらどんどん聞いてほしいですね」
「木工の担当は3人いて、すごく慎重に進める人もいれば、僕みたいにえいやーとやっちゃうタイプもいる。向き不向きはあると思うので、やりながら自分の強みを探してもらえたらいいと思います」
まず初めにやってもらうとしたら、と紹介してくれたのが「ベントウッドチェア」。蒸気で柔らかくした木材を、型枠に沿って曲げてつくられる椅子で、手がけるなかで基本的な形だという。
軽くて丈夫な性質から、日本でもカフェやレストランでよく使われていて、修繕の依頼も多い。

まず、脚のぐらつきを確認し、歪みを見ることから。細かな割れを補修し、最後に塗装へと進む。状態によっては、塗装をすべて剥がし、白木の状態から塗っていくこともある。
分解すると、昔の技術に出会うことも多い。
ちょうど脚の部分を取り外していたら、螺旋状にねじりが入っているビスのようなものが出てきた。

「これ、ビスに見えるけど釘なんですよ。この釘だと次に直すときに大変なので、木ねじに変えます」
釘といえばまっすぐでツルツルしたものをイメージするけれど、ねじりのような反しを入れることで、抜けにくくなっている。
1900年代前半ごろにつくられた家具は、この釘が多く使われているそう。近年はプラスネジが主流だけれど、マイナスネジなのも特徴。
釘ひとつに時代を感じる。普段は意識しない部分に、ものづくりの歴史が宿っているんだな。
「100年使っていた家具を修復して、次の100年も使えるようにすることが僕たちの仕事。そのためには、直し方も時代によって変えていく必要があるんですよね」
木工・塗装が、本来の輝きを蘇らせる仕事だとしたら、椅子張りはどんな仕事なんだろう。
椅子張り職人の野村さんに聞いてみる。
作業場の白い板張りの壁には、道具や資材が整然と並び、UKロックが流れている。落ち着きと力のある佇まい。

「木工・塗装は、直して100年先にも残る。けれど椅子張りで直す座面は、どうしても汚れたり破れたり消耗していくもの。だから100年後には残らないんです。その代わりに、張り替えると新品のように綺麗になるし、座り心地もいい。その一瞬の喜びがあるんです」
学生時代は建築を学び、北欧の椅子のデザインに惹かれデンマークへ短期留学したこともある野村さん。ロイズに入社して12年、椅子張り職人としては20年ほどのキャリアを持つ。
それでも平川さんと同様、昔の技法や構造にいまだに驚くことが多い。
「はがしたら、支えとして必要な木がなかったり、折れていたり。日本の家具では考えにくい構造も、ヨーロッパの古い家具ではめずらしくない。都度、方法を考えながら修復していくんです」
この日は、お客さんから依頼が来た椅子の修理。座面の生地が綺麗だったため、丁寧にはがして再利用する。

椅子張りの作業は、既存の張り地をはがすところから。
その後は、ウレタンを除去し、新しいものに取り替え。生地を引っ張りながらタッカーと呼ばれる工具で底張りしていく。もっと古いものだと一つひとつ釘で打つこともある。
パチンパチンとリズムよくタッカーの音が鳴り、ものの数分で作業が完了。見せてもらうと、打った針が均等になっている。

簡単そうに見えるけれど、生地を均等に引っ張りながら固定する力加減や、角がシワにならないように調整するのは、集中力も丁寧さも問われる。
「しばらく経ってまた張り替えるとき、底張りを見ると自分がやった仕事ってわかるんです。底張りを見れば、大体その人がどういう仕事するかわかりますよ」
「布やレザーは伸び方がそれぞれ違うので、感覚的な部分も大きい仕事です。普段から布が好きだったり、ミシンを使うのが好きな人はいいかもしれませんね」
面白さと大変さが混ざっていると教えてもらったのが、あるレディースカウチを手がけたこと。
自身のブランドを展開する日本のファッションデザイナーとコラボレーションした企画だった。

曲線的なデザインが特徴で、横になってくつろげるよう、一般的なソファよりも座面が大きい。
「曲線なので、薄い生地だと張りにくいんです。でも、デザイナーさんのこだわりに合わせてなんとか張って。縁にある黒い鋲は4000個くらい打ちましたよ(笑)」
「大変だったけれど、展示初日のレセプションで購入してくれる方がいて。本当にうれしかったですね」
野村さんや平川さんたち職人が積み重ねてきた丁寧な仕事が、大きな案件へとつながっている。
一点物と向き合いながら、自分の技術を試し続けられる環境は、職人にとって大きな魅力。
「自分自身もそうですが、完璧になることってないですよ」
「だけど経験を重ねると、完璧のラインがわかってくる。そこを目指すんです。失敗を恐れないで、挑戦する人であればどんどん成長していくと思います」
何年経っても完璧まで辿り付かない。
それでも試行錯誤して理想を目指していく。
必要なのは、時間を重ねて腕を磨く覚悟というより、まず過程そのものを楽しむことだと思います。知的に、感覚的に。ミックススタイルを味わってみませんか。
(2026/04/03 取材 大津恵理子)


