「ドラえもんのポケットのように、何が出てくるかわからない、おもしろさがある場所なんです。個性的なスタッフさんがいて、さまざまなことを話したり、相談したり。人の化学変化が起きる場所だと私は感じます」
自己免疫疾患により、6歳から重度の身体障がいがある明石さんは、専用のPCマウスを通じて、こう文字にしてくれました。

会話のツールだったそのマウスは、いま、データ入力やデザイン業務のツールとして、彼女の働く間口を広げています。
テクノベース株式会社は、就労継続支援B型事業所です。
親会社のテクノツール株式会社で開発された、マウスやキーボードなどの入力ツールを使い、これまで働く機会がほとんどなかった重度の身体障がいのある人へ選択肢を切り拓いています。
今回は、利用者に業務を教えたり、操作をサポートしたりする就労支援スタッフを募集します。
専門の経験は問いません。問われるのは、正解を出す力ではなく、一緒に考え続ける姿勢です。
障がい、福祉、働く、生きる。さまざまな壁を、ツールと働くベースの力で超えていく仕事です。
テクノベースの利用者は、横浜の事業所へ週5日通う人もいれば、週に2日在宅で働く人など、それぞれの心身の状況に合わせて働き方が異なる。
スタッフは事業所に勤務しつつ、月に1度、在宅で働く利用者のもとへ訪問する。
横浜から電車で約1時間半の、千葉県のとあるまち。利用者のなかで一番遠方で働いている明石さんのご自宅へ。
チャイムを鳴らすと、お母さんが出迎えてくれ、明石さんの部屋へ案内してもらう。

ベッドの隣にスタッフの菅さんが座り、いつものように話しかける。
体調のこと、業務のこと、その日にあったこと。一方的な質問ではなく、テンポよく会話が進んでいく。
うなずきや、かすかに息とともに発せられる言葉。
汲み取り、わからなかったら「もう一度いいですか」と意思表示する菅さん。口話の聞き取りがむずかしいときは、明石さんが一つひとつマウスで打ち出して会話をする。

菅さんが「支援」という言葉だけでは捉えきれない、現場の感覚について教えてくれる。
「人って、言語だけで考えているわけじゃなくて、感覚の受け取り方とか、世界の見え方そのものが違うと思うんです。その違いを一緒に体験させてもらっている感覚に近いですね」
「部屋の明かりひとつでも、自分の言葉をどう受け取って、どう咀嚼しているのかも含めて、全然違うんだなと感じます。私は鈍感なほうなのですが、そういうのって、障がいがあるとかないとかは、あまり関係ないと思うんですよね」
聞き漏らさないように復唱したり、少しずつ身体の距離が近くなったり、意思疎通できたときにははっきりとした声色になったり。
相手に合わせようと意識しなくても、自然と体がそうなってしまう。
コミュニケーションは「目の前の人を知りたい」という気持ちから始まるんだと感じる。
ヘルパーさんが来る時間が決まっていることもあり、1時間の面談はあっという間。後ろ髪をひかれながら、近くのカフェに移動して、テクノベースの近況を聞くことに。
まずは、代表の島田さん。こうして話を聞くのも3回目になる。
「僕、話すと堅いって言われるんですよね。でも伝えたいことはたくさんあるので、話していかなきゃって。雰囲気を変えるために髪を明るくしてみました(笑)」
真面目な雰囲気はあるけれど、ジョークを交えてくれるから、いつも親しみを感じる。

「最近考えているのは、『隣で寄り添い、離れて眺める』ということ」
「この仕事に、共感はマストじゃないと思っていて。さっき菅さんが言っていたみたいに、人の感じ方はわからないことのほうが多い。でも『その特性や積み重ねてきた経験があるから、そう感じるんだな』と納得することはできる。僕はそういう考え方が大切だと思っています」
テクノベース開所から3年で、利用者は新規受け入れを一時停止するまでに達した。親会社のテクノツールや、別の会社へ就職した人もいるという。
利用者同士が休憩中に趣味の話で盛り上がったり、先輩利用者が新メンバーの仕事の質問に答えたり、関係性も生まれている。
「ほかの事業所は、食品加工や手芸とか、チームプレーの仕事が多い。でも、テクノベースはパソコンで完結する作業。業務はそれぞれの身体の状態に合わせて決めるので、個人作業がほとんどです。常に一緒に何かをするというよりは、必要なときに自然と声をかけ合うような関係性になっているのかもしれません」
テクノベースでの業務は、データ入力やCADを使った図面作成、ホームページのアクセシビリティを検査する仕事など、パソコンで完結できるものばかり。
通所の利用者はスタッフと並んで働き、在宅勤務の利用者もバーチャルオフィスを通じて同じ空間にいるような形で業務に参加している。
「一見すると一般的なオフィスみたいで、見学の方が驚かれることもありますよ」

一方で、重度の身体障がいのある人の就労支援の前例が少ないために、乗り越えなければならない課題も多い。
「生産性って、一定時間内にどれだけアウトプットできるかだと思うんです。重度の身体障がいのある人は、データ入力のように数をこなす仕事だけでは評価しづらくて」
「生産性で比較されてしまう単純作業だけでなく、いかにユニークな仕事をつくり、工賃の向上につなげられるか。今は種まきをしているところなんです」
たとえば、重度身体障がいのある人が持つ経験そのものを、価値として捉え直すこと。
「五体満足の人とは違う経験を積み重ねているわけで、そこから生まれる言葉や考え方には独自の感性があると思うんです」
「それを福祉っぽいメッセージではなく、陶芸家や、シェフやバリスタ、コピーライターの人たちと一緒に、クリエイティブな形で表現することで、生産性という枠組みを越えられるかもしれないなって。今、香川のクリエイターさんと進めているんです」

ほかにも、ロボットを遠隔で操縦するプロジェクトが立ちあがろうとしている。
「重度身体障がいのある人たちが、社会と接続する仕事をつくりたい。同時に、ほかのB型事業所でもできるように幅を広げていくことも大事だと思っていて。“テクノベースだからできること”にしちゃうと、参加できる人が少なくなりますよね」
「一人ひとりの人生に関わる福祉的な側面と、まだ世の中にない事業をつくる側面。その両方を同時にやっている。そこをおもしろがってくれる人が来てくれるとうれしいです」
隣で話を聞いていた就労支援スタッフの菅さんは、まさにおもしろがって働いている人。

愛媛の特別支援学校で教師をしていた菅さん。進路を生徒と一緒に考えるなかで、卒業後も支援したいと思うようになり、昨年テクノベースへ転職した。
前回話を聞いたときは、入社して3週間ほど。これから暮らしも仕事も慣れていこうとしているタイミングだった。
「最近は、利用者さんがコーヒーが好きだから、好きな豆やカフェを紹介し合う部活のようなものをつくりたいって話してくれて。個人のやりたいことがよく発言されるようになってきたなと感じます」
スタッフの主な仕事は、利用者の業務支援。マニュアルがあるため、CADやデータ入力は未経験からでも教えられるようになる。

ほかにも、在宅勤務のメンバーと通所のメンバーを交えた交流会も年に2回実施。最近は人数が増えたことで音声が重なり、雑談が成立しにくくなる場面も出てきたという。
「次は、1日場所を借りてできたらいいなと考えているのですが、制度の仕組み上、ヘルパーさんと一緒でないと外出がむずかしい方もいて。これまでやったことがないから、そういう問題も見えてきましたね」
支援の質を保ちながら人数を受け入れるため、業務の効率化や運営を工夫。スタッフの会議や事務作業の時間もきちんと確保できる体制にしているところ。
「楽しいんですよ。一人ひとりと話して一緒にやったらおもしろいかも、みたいな関わりしろを探すことがすごく楽しいんです」
たとえば、動画編集をしてみたいと話すメンバーさん。自分の意思とは関係なく体が勝手に動いてしまうことがあり、細かな操作を前提とする作業はむずかしい。
「ご自宅に訪問したときに、iPadを使って本人が動かしやすい体の部分はどこなんだろう? って探したり。仕事になる手前のことなのかもしれないけれど、近づくために一緒にやっていこうって」

本人のやりたいことが、そのまま仕事や収入につながるとは限らない。だからこそ、その人なりのやり方で取り組めるように、一緒に方法を探していく。
「支援の対象と呼ばれる人たちから、むしろもらうものが大きいと私は感じていて。新しい何かを生み出したいとかじゃなく、テクノベースで仕事をしながら生まれるコミュニケーションそのものに価値があることを伝えられたらいいなと思うんです」
制度や現場に向き合いながら学び続けている菅さん。
サービス管理責任者とデジタルアクセシビリティアドバイザーの資格を取得しようとしている。
そんな菅さんの姿を見て、「衝動的にやらずにいられない感じがある」と島田さん。

「親会社のテクノツールは、もともとは身体障がいのある僕の姉がきっかけで、父が立ち上げた会社。その意思を受け継いで、テクノベースも立ち上げました」
「ただ、根底にあるのは、僕自身がこの世のなか気に食わねえぜって、ずっと抱えてきた社会とのミスマッチで。障がいによって制限されることと重なる部分もあるんですよね。それがモチベーションなのかもしれないです」
菅さんも続けてこう話す。
「私は、働きたいという思いがある人の選択肢を増やしたいと思っていて。その延長で、今はより重度な方にも目が向いています。発語がない方も含めて、支援を受け続けるだけではない形ってつくれないのかなって」
働く悩みは、誰しも一度は感じたことがあるものだと思う。
テクノベースでは、その悩みをできるだけ分解しながら、一人ひとりに合う働き方を探していく。その過程は、きっと障がいの有無関係なく、誰しもの生きやすさにつながるのかもしれません。
ピンと来るものがあれば、まずは話を聞きにいってほしいです。
(2026/05/26 取材 大津恵理子)


