富士山サーモンは、山々の清らかな湧き水を引き込み、サーモンを大切に育てている会社です。
半世紀以上続く養殖場ですが、現場では20代から30代の若いメンバーが中心。
感覚に頼りがちなノウハウをデータとして記録し、ロジカルに分析する。効率的で誰もが働きやすい次世代の養殖業の仕組みを、自分たちの手でつくっている真っ最中です。

ここで、養殖業に携わる人を募集します。
経験は問いません。先輩も、ITエンジニアや研究職などの異業種から飛び込んできた人ばかり。何か課題があれば、年齢や社歴に関係なく話し合い、よりよい方法を試していくチームとして働く面白さもあります。
代表のいづみさんに、現地に向かう途中の三島駅でピックアップしてもらう。養殖場のある富士宮市まで、車を走らせること1時間。
緑が濃い山道を登っていくと、窓から川の流れる音が聞こえてきた。
ついたのは、富士山サーモンの大倉川養殖場。たくさんの養殖池が並び、澄んだ湧き水が絶え間なく流れ込んでいる。

道中、ハンドルを握りながら気さくにいろんな話をしてくれたのが、代表の岩本いづみさん。
盛り上がったのは、最近読んだという本の話。

「日本仕事百貨の代表のケンタさんが書かれた本、ちょうどね、今朝読み終わったんです。タイトルにもある、『生きるように働く』って言葉すごく気に入って。仕事と生き方が重なって、自分の時間を生きている感じがすごくいいなと思ったんです」
富士山サーモンは、創業から50年以上の歴史がある会社。いづみさん自身も、先代であるお父さんから家業を引き継ぎ、この十数年で会社のあり方を根本からつくり変えてきた。
かつては、ゲームフィッシュとして釣り堀に向けて魚を出荷する仕事が中心だった。そこから、飲食店や市場へ直接届ける形へと大きく舵を切ることに。
当初は営業のノウハウもなく、自ら手紙を書いて営業したり、街を走る配送業者のトラックを車で追いかけて輸送の相談をしたり、泥臭く道を拓いてきた。
「売り先を開拓していくなかで気づいたんです。私たちはただ魚を育てる水産業じゃなくて、水産卸業なんだって。最終的に食べてくれるお客さんのことがわからないとダメだと気づいてから、やり方が変わりました」
魚の味に直結する餌を厳選し、水質や環境を徹底して管理する。そうやって育てた魚を「富士山サーモン」としてブランド化し、今では豊洲市場の厳しい目利きたちからも高い評価を受けている。

2022年には、赤身のサーモンだけでなく「ホワイト富士山サーモン」という新たなブランドも立ち上げた。
赤身と白身のサーモンを、それぞれお刺身で食べ比べさせてもらう。
口に入れると、さっぱりとしていながらも、あとから旨味がぎゅっと追いかけてくる。1秒間におよそ1トンもの富士山の湧き水が注ぎ込み、常に水が入れ替わる清潔な環境で育つため、川魚特有の臭みもまったく感じない。
「うちの魚が美味しいのは、やっぱり市場に鍛えられているから。私たちの仕事は、自然に淘汰されるんじゃなくて、魚屋さんに淘汰される厳しい世界なんです。だからこそ、美味しい魚をつくらなきゃいけない」
世界一のサーモンをつくる。 いづみさんが掲げたその目標は、日々の試行錯誤を通じて着実に形になってきている。
「私自身がゼロから仕事のやり方を変えてきたように、やっぱり自分たちで考えて、動かしていくことが面白いと思うんです。今は若い人たちが入ってきてくれて、会社の仕組みがさらにいい方向へ変わっているんですよ」
オフィスにお邪魔すると、ちょうどスタッフの方が打ち合わせの最中。細かく数字が並んだ表を見ながら議論しているようだ。想像していた第一次産業の現場とは少し違う、どこか現代的な風景。

「ここには、いつ入荷した卵で、今どの池にどれくらいの在庫があって、今日どの池に何キロの餌をまいたか。水温や魚の移動履歴、出荷量なんかも全部記録しています。過去数年分のデータを記録しているんですよ」
教えてくれたのは、現場の責任者を務めている修平さん。

もともとは大手アパレルブランドの店長を経験。異業種から、家業である養殖の世界へ飛び込んで4年。アパレル時代に培った在庫管理や売上分析の考え方を、養殖業の現場に持ち込んでいる。
「卵の孵化から出荷サイズに育つまでおよそ2年。常に異なる成長段階の魚を育てながら、出荷を見据えて日々の養殖に取り組んでいます」
「魚の成長を最大化するだけでなく、健康状態や飼育環境、生産効率まで考え抜き、目の前の魚を育てあげることが、富士山サーモンという揺るぎない価値につながっていくんです」
気温や天候に合わせて服が売れるように、水温や魚の成長度合いによって、魚が餌を食べる量も変わる。
これまで現場の肌感覚に頼っていた給餌量や成長スピードを、一つひとつ数値化。ノーコードのツールを使って自社専用の生産管理アプリをつくり、現場のスタッフがスマートフォンやタブレットから、その日の水温や給餌量などを一括で入力できるようにしたという。
「データが蓄積されれば、そこに再現性が生まれる。予測ができるということは、失敗を防げるということです」
そうすることで、若手のスタッフでも根拠を持って次の一手を考えられるようになる。
変化は現場でのコミュニケーションにも表れていて、養殖場にはたくさんの付箋が貼られたボードがある。
これは若手メンバーたちが自発的にはじめたもので、「池の仕切りの網目が破れそう」といった小さな気づきから、仲間へのポジティブなフィードバックまで、日々感じたことを共有しているのだそう。

付箋をもとに定例会議で、誰が・いつまでに・どう解決するかをスケジューリングし、自律的に次のアクションへとつながっていく。
結果、大倉川養殖場の出荷量は、修平さんが入社した当時の約2倍にまで増えている。
「僕は、みんなにただ与えられた作業をこなすんじゃなくて、当事者意識を持ってほしいと思っているんです」
当事者意識、ですか。
「日々のルーティンワークのなかでも『これで本当にいいのか?』『なぜこうなるのか?』と、自ら問いを立てる。大変な場面にぶつかったときも、ほかの誰かや環境のせいにするのではなく、どうすれば全体で前進していけるか考える」
「『命にふれる責任』というと重圧に感じるかもしれませんが、僕が求めているのはそういうプレッシャーではなくて。自分自身やチーム、そして魚が成長していくプロセス全体に、前向きかつ自分ごとにできる人と、一緒に働きたいですね」
現場の仕事について教えてくれたのは、入社2年目の勇斗さん。
大学院まで魚の生態や行動学を学んでいた研究畑の出身。魚に関わる仕事がしたいと、記事をきっかけに富士山サーモンにやってきた。

「学生時代はずっとデスクワークだったので、最初は体力的にきつかったですね。20キロ、30キロある魚の入った網を持ち上げるのを繰り返すので、すぐばててしまって」
養殖業の1日は、朝一番の出荷作業からはじまる。魚を水揚げし、血抜きをして氷と一緒に箱に詰めていく。
出荷が落ち着けば、池を回って餌を撒き、落ち葉などの掃除。
午後には、成長のスピードに合わせて魚のサイズを均一にするため、別の池へ魚を移動させる。ポンプで吸い上げられない大きなサイズの魚は、網で掬い上げて運ばなければならない。一人で1日に3トンもの魚を運ぶ日もあるというから、かなりの重労働だ。
「先輩たちを観察したり教えてもらったりするうちに、楽に網を支えるポジションや体の使い方がわかってきたんです。半年くらい経つと、体力的なきつさよりも、どう動けばいいか考えて仕事ができるようになりました」

体力以上に求められるのが、生き物と自然に対峙し続ける力。
山の清流を引き込んでいるため、台風やゲリラ豪雨で上流に温かい雨が降ると、池の水温が一気に上がってしまう。水温が上がると水中の酸素が薄くなり、魚が酸欠で死んでしまうのだ。
だからこそ、天気を予測し、数日前から餌を抜いて魚が消化に酸素を使わないように備えたり、大雨のなか泊まり込みで池のようすを見守ったりする。自然の変化を読み解き、先回りして行動することが、そのまま命を守ることに直結する。
現場には「OJTチェックシート」と呼ばれる100項目に及ぶリストが用意されている。自分が今どの段階にいて、次に何を覚えればいいのかが可視化されているから、教える側も教わる側も、感覚に頼らず仕事を進めることができる。

今では日々のルーティン業務をこなしながら、月2回の定例会議の運営も任されている。修平さんが不在のときでも、若手メンバーだけで生産計画を立て、次のアクションを決めて実行している。
「たとえば、『この池の魚、最近餌の食いつきが悪いからどうしようか』と話し合って、自分たちで解決策を出して実行する。間違いを恐れずに発言できるし、それを打ち返してくれる環境があるから、自信をもって進められるんです」
そんな現場の考える力を、さらに加速させているのが三上さん。勇斗さんと同じく記事をきっかけに入社。前職は、東京でITのインフラエンジニアとして働いていた。

「もともと水産業には興味があったんです。いい魚を育てるには現場の力はもちろんですが、データを分析してナレッジを貯めていくことも必要だと思って。自分がIT業界で培ってきたものが、ここで活かせるんじゃないかと考えたんです」
修平さんが整えたデータ管理の土台をもとに、三上さんは現場の情報をさらに細かく可視化していった。
毎日の給餌量や、それがどれくらい魚の肉になっているかという効率。それらを一覧できるようにし、気づきや課題があればチャットツールに残して進捗を管理している。ゆくゆくはこれらのデータをAIに読み込ませ、より精度の高い予測を立てることも見据えているそう。
「一次産業って、そういうITツールの活用がまだまだ浸透していない。だからこそ、挑戦できる余白がある」
「日々の作業を妥協せずに積み上げていきながら、カバーできない部分をデータで補っていく。それが結果的に、美味しい魚を育てることにつながっていくと思っています」
実際、若手メンバーの頑張りと業務の効率化によって、これまで月6日だった休みが7日になり、完全週休2日制の導入も現実的な目標として見えてきている。
一人ひとりが問いを立て、チームで解決していくからこそ、会社も、そこで働く人も、どんどん成長していくことができるんだと思う。

取材を終えた帰りの車内で、いづみさんがぽろっとこぼした言葉が心に残っています。
「データや数字の話ばかりになると、魚がただの生産物みたいに見えちゃうかもしれない。でもね、毎日様子を見ていれば動きの鈍い子がいたり、それぞれ顔が違ったりするんです。野菜と違って排泄もするから、環境への負荷も考える。私たちはどこまでも、命を扱っている。自然の循環のなかで、生かされているんですよ」
命ある生き物と、思い通りにいかない自然。その手ざわりや感謝の念が根底にあるからこそ、数字やデータが活きてくるのだと思う。
富士山の清らかな水が流れ続けるように、この会社も新しい仕組みとチームへと生まれ変わりつづけています。
(2026/08/18 取材 田辺宏太)