こんにちは。日本仕事百貨の遠藤です。
いつかローカルを舞台に働きたい。ここで生きていけたら、と思える場所がある。
日本仕事百貨を眺めながら、そう漠然と考えている方もいるのではないでしょうか。私もその一人です。
就職するのも一つの手。ただ、理想のまちに理想の仕事があるとは限らないし、できればこれまで培ってきたキャリアも生かしたい。
それなら、自分で仕事をつくるのはどうだろう。
そう考えはじめたものの、どう動き出せばいいかよく分からない。お金のことも気になるし、そもそも自分の生かし方って?
そんな仕事が生まれるまでの等身大の話を訪ね聞いてきました。
舞台は大分県別府市。それぞれのやり方で仕事を生み出した三人が主人公です。
第一回は、映画ライターの森田真帆さん。とある映画館との出会いをきっかけに、東京と別府の二拠点生活をはじめた女性のお話です。
別府駅は平日も観光客であふれている。人混みを抜けて海へと続く坂道を下っていくと、一風変わった看板が目に入った。
ブルーバード劇場。70年の歴史を持つミニシアターが、この日の待ち合わせ場所です。
静かな館内にはポスターがびっしり。レトロな雰囲気にワクワクしながら、真紅の絨毯が張られた階段をのぼる。
そっと扉を開けると「あら、こんにちは」と朗らかな声が。
肩を寄せて話していたのはこのお二人。館長の岡村照(てる)さんと、森田真帆さんです。
真帆さんはフリーの映画ライター。毎月、東京と別府を往復しながらこの映画館の運営を手伝っています。
「私なんかの話でよければ、何でも使っちゃってください!」とあっけらかんと笑う、優しくて話しやすい方。
さっそく隣で話を聞いていきます。
「森田真帆です。38歳、シングルマザーで息子は高3です。ずっと映画ライターをしてます」
ずっと東京で働いていた真帆さんが、別府にはじめて訪れたのは5年前。「仕事もプライベートも、とにかく疲れちゃってた」時期だった。
「映画が大好きで始めた仕事なのに、もう映画を観るのも嫌になるほどクタクタで。インタビューは全然集中できないし、試写室でも息が詰まっちゃう。もう私、やっていけないんじゃないかなって」
そんなとき幼馴染に誘われた別府旅行で見つけたのが、ブルーバードだった。
「わあ、すごい気になる!って思って、恐る恐る階段をのぼって。そしたら窓口にちょこんとおばあちゃんが座ってて。チケットを買ったら、定規で切って渡してくれて」
「劇場内には私だけ。そしたら、さっきのおばあちゃんが食べる?ってお煎餅をくれたんです。いくら私だけとはいえ、煎餅なんてめっちゃ音出るじゃん!って(笑) 予告編もなくいきなり本編がはじまるし、とにかく自由すぎて」
懐かしい映画館の匂いに包まれて、煎餅をかじりながら過ごす、ちょっと変わった特別な時間。
「なんてサイコーな映画館なんだ!って思ったんです」
上映後に聞いたおばあちゃんの名前は、岡村照さん。39歳で旦那さんを亡くしてから、女手一つで二人の娘を育てながら40年以上劇場を切り盛りしてきた女性だった。
真帆さんは、そんな照さんと劇場に心底惚れ込んでしまう。
「素敵な場所なのに、自分一人しかお客がいない。すっごくもったいない気がして」
「そのとき私、この映画館のために何かできたら自分のこの苦しい状況を突破できるんじゃないか、何かが変わるんじゃないかって気がしたんですよね」
そこで真帆さんは照さんに「明日から手伝わせてください」と頼み、なんと会社を退職。フリーランスのライターとなり、別府にも家を借りて、東京と別府の往復生活をはじめる。
直感で就職先を決めました、という人には時々出会う。
とはいえ、フリーランスになって早々、別府での家賃や交通費、東京での生活費もかかるし、お子さんだっている。
というより、そんな大きな決断をすぐにするなんて…!
「あはは。もう失敗できねえぞって、逆にやる気が出たというか(笑)」
とにかく今は、この劇場にたくさん人を呼びたい。
上映ラインナップの編成や企画を任せてもらった真帆さん。アート系のミニシアターでかかるような「おしゃれな映画」をかけ始め、張り切ってチラシを配った。
ところが常連のおばちゃんたちの反応は、「おもろくない!」。
「全然刺さってなかったんです(笑) 私も面白い作品をブルーバードで上映できなかったら超悔しいから、前よりずっとたくさんの映画を観るようになりました。一本たりとも逃したくない。もう超真剣」
「このおもろい映画を観てもらうためにはどう伝えたらいいかな、どう紹介したらブルーバードに来てくれるかなって、すっごい考えるようになった。そしたら、なんというか、本業のライターとしての姿勢も変わってきて」
ライターとしての姿勢。
「そう。今までは、映画ファンの方たちや、周りの映画関係の人たちにどう思われるかばかり意識して、格好つけてレビューを書いて。でもそんなんじゃ本当におもろい映画だったとしても、全然伝わらないんですよ」
うん、うん。もっと詳しく聞いてみたいです。
「たとえばレビューを書くときは、前は監督の経歴とかそれまでの傾向とかの知識を並べがちだったんです。けどそんなの、おばちゃんたちは『誰? 何?』って話で」
「でも『“コクソン”って映画は、コメディかと思って観てたらどんどん話が変わって、気づいたらホラーになってて超びっくりするよ! なんの映画かわからなくなるよ、すごいんだよ!』って伝えたら、おばちゃんたちも『ええ?!そりゃおもしろそうやなあ』ってなって」
たしかに! そっちのほうが面白いし、親近感もある。
「それからは映画を紹介するときでも、別府のおばちゃんたちや照ちゃんが分からないって言ってた場面を手厚く説明してみたり。生の声が大きなヒントになって、伝え方がすごく変わりました」
「これまでは自分で原稿を書いていても、一体誰に向けて書いているのかブレブレだったんです。今は別府のおばちゃんたちのような、映画ファンでもなんでもない人たちが映画を観たいって思ってくれるようになれば嬉しいなって。だから私は映画の持つワクワク感を簡単な言葉で伝えるんだって思えたら、すごく楽になりました」
思わぬところで手に入れたスキルアップ。同時にコネクションも広がったのだとか。
さらに仕事で知り合った監督や俳優をブルーバードに呼んで、いつも数人しかいない劇場が満杯になった日も。メディアで照さんを取り上げてもらうことも増えていった。
ここまで聞いていると、なんだかとても華やかな話。
でも現実は、楽しいことだけじゃなかった。
「こういう活動って目立つじゃないですか。やっぱりやればやるほど『何あれ』とか『センスないんじゃないの』とか、叩かれたり、嫌なこと言われたりもして」
「嫌われるのはすっごく怖い。何より私のせいでずっと照ちゃんが大切にしてきたブルーバードの評判が落ちていたら、もう…。お手伝いはやめようかなって思ったことがあって」
そんなときに、クラウドファンディングの誘いがあった。
実は、ブルーバードを舞台に映画祭を開いていた真帆さん。ぜひ2回目を、という動きもあったものの、補助金もなくどうお金を集めればいいかまったくわからなかったそう。
「ほかの人に助けてほしいなんて言えなくて。また叩かれたら、ブルーバードの評判が落ちたらどうしようって。でも劇場の常連さんや周りの友達が『大丈夫だよ!頑張れ!』って助けてくれて」
「それに、照ちゃんの娘さんが『真帆が帰ってくるたびに照が喜んでいる。それだけでいいじゃない』って言ってくれたんです。ああ、もう私が集中しなきゃいけないのは、照ちゃんが幸せかどうかなんだって。色々言われようが、もう照フォーカスで行くぞ!って」
クラウドファンディングは無事成功。監督や俳優が集結したこのお祭りは、劇場の外まで行列ができるほどの賑わいに。
「この映画祭の目的は、ブルーバードをお客さんでいっぱいにして、喜んでいる照ちゃんを皆で見ようってことだったんです」
もちろんプレッシャーも感じていたし、辛いことも多かった。それでも照さんの「楽しかったなあ」のひと言で、そのすべてが吹き飛んでしまったそう。
「私は本当にポンコツで、知識もないしコンプレックスだらけ。ほかの人ともすぐ比べちゃう。でもこんな最高の劇場で、こんなおもろいことしているポンコツライターは私しかいないはずよ!って、自信を持って言えるんですよね(笑)」
「仕事のモチベーション、人とのつながり、自分のブランディング。私はたくさんのものを照ちゃんとブルーバードにもらったから、これからの照ちゃんの映画人生を照らしまくっていきたい」
今、真帆さんの名刺には照さんと娘さん、そして真帆さん三人のイラストが描かれている。
そして「映画ライター」の文字の横には、「ブルーバード劇場 館長補佐」の文字。
もう、真帆さんだけの肩書きですね。
「自分の色だよね。もうここは私の家だし、照ちゃんは私のおばあちゃんだから」
(2019/1/29 取材 遠藤真利奈)
真帆さんにとってブルーバードの活動は、「仕事じゃなくてあくまでもお手伝い」。
ここだという直感を信じ切った先で、自分だけの肩書きが生まれる。そんな仕事の広がりかたもあるんだな、と背中を押してもらったような気持ちになりました。
3/2(土)には、そんな真帆さんをお呼びしたしごとバーを開催します。ここでは伝えきれなかったブルーバードのエピソード、そして真帆さん個人のぶっちゃけ話。
どうぞ気負わずにお越しください。きっと楽しい夜になると思いますよ。
ブルーバード劇場と真帆さんをもっと知りたい方は、こちらからどうぞ。
◎ブルーバード劇場
http://www.beppu-bluebird.info
◎森田真帆さんのブログ
https://lineblog.me/moritamaho
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