コラム

しごとをつくる合宿
ー北茨城編ー
イベントレポート 後編

このコラムでは、2018年の11/9〜11と11/23〜25の2回、茨城県北茨城市で開催した「しごとをつくる合宿 ー北茨城編ー」の模様をお届けしています。

まちを歩き、人と出会っておいしいものを食べまくった前編。後編では、フィールドワークを通じて得たアイデアがどのような事業プランになったのか、最終発表の内容を中心にお届けします。

北茨城という地域にどんなしごとが必要か、自分はどんなしごとをしたいのか。

最終日は、とにかく自分たちのプランを磨き上げていく。

教室というシチュエーションも相まって、テスト前のような雰囲気が漂う。外には気持ちいい秋晴れの空が広がっている。

発表の時間が近づくにつれ、少しずつ人が集まってくる。合宿中にインタビューした菊地さんや石渡さん、お隣の福島県いわき市から来てくれた方の姿も。

教室が独特の緊張感で包まれるなか、最終発表がはじまった。

1.移動をデザインする「気づいたら、キタイバ」

東京・上野駅と北茨城市内の各所をつなぐ直行バスを走らせるアイデア。車内にデスク環境を整備することで、東京から北茨城までの片道2時間半を気持ちよく働ける時間にしようというもの。

アイデアに行き詰まったクリエイティブ職の人や、仕事場を選ばないフリーランスの人にとっては、都内のカフェやコワーキングスペースを転々とする以外に働く環境を変える選択肢のひとつとなりうるし、地域とも自然に接点を持つきっかけになる。

移住者でありアーティストの石渡さんの話していた「ちょうどいい距離感」を形にした事業プランだと思う。移動にかかる時間をデザインする発想は、ほかの地域でも同様に求められるものかもしれない。

2.移住の入り口をつくる改修アドバイス

空き家の改修や旅館等の用途変更に際して、アドバイスを実施。断熱や耐久性などを総合的に助言する。

というのも、茨城県は冬季の死亡率が全国で2番目に高いそう。その一因として考えられるのが、急激な温度変化によるヒートショック現象。高断熱化住宅があまり普及していないことも、関係しているという。

たしかに、陶芸工房「土の夢」の菊地さんも「夏は冷房がいらないくらい涼しいけれど、冬が寒い」と話していた。安心して暮らせる土台づくりから、移住増や昔ながらの家屋が残る景観を守っていきたい、という提案。

3.桃源郷芸術祭をアップデートする

昨年、地域おこし協力隊の都築響子さんを中心に、市内外のアーティスト42名を集めて開催した桃源郷芸術祭。より独自性のある面白い場にしていくにはどうしたらいいか。

そこで、平潟港付近の沿岸部に点在する民宿を活用。宿場街全体を会場にしつつ、客室をアーティストの滞在制作の場にすることで、閑散期の空室改善と集客にもつなげる。

また、「アートの入り口。桃源郷芸術祭。」というテーマを掲げ、これから世に出ていくアーティストと、そこまでアートに造詣が深くはないものの、関心があってもっと知りたいという人たちとの商談の場づくりも目指していく。

“アートによるまちづくり”を掲げる北茨城市。つくり手が食べていくための場や機会をつくる、コーディネーターのような役割の必要性を感じた。

4.場の縁を伝える不動産屋「KITAI PLACE」

Web上で提供されている空き家情報は、不動産のスペックや概要は分かるものの、その周囲を取り巻く情報がよく分からない。

近所にはどんな人が暮らしているのか。自然環境も含め、どんなロケーションにあるのか。お祭りや地域活動など、そこに住むとどんなことが起きるのか。

「KITAI PLACE」は、不動産の周囲にあるさまざまな「縁」をWebで伝え、期待場の空き部屋である放送室で対面での相談にも対応。ゆくゆくは物件と人をめぐるツアーも企画・運営していくというプランだった。

ここで触れている不動産を取り巻く情報というのは、必ずしも物件探しをしている人だけが求めているものではない。ガイドブックにない観光をしたい人や、すでに北茨城に住んでいる人も、きっと知りたいことなんじゃないだろうか。

ここまでが第1回の参加者によるプレゼンテーション。ここから先は第2回の参加者が考えた事業プランとなる。

5.耕作放棄地を活用した有機農業

公共土木事業の減少と増え続ける耕作放棄地、そして有機農業の需要の高まりを受けて、耕作放棄地で有機農業を振興していこうというもの。

菊地さんの話にあったように、北茨城市の農業年齢は平均65歳を超えている。かつ、どれだけ手間をかけて農薬や化学肥料を控えても、既存の市場における有機作物の単価はなかなかあがらない。

田畑の整備や販路開拓まで一貫して行える法人を立ち上げることで、有機野菜がしっかりと売れる市場をつくり、土木会社が新分野に参入できるように仕組み化したいという。建築業界特化型の営業支援・コンサルティング会社を経営する提案者ならではの事業プランだった。

6.北茨城をとりつくせ!

東京からほど近く、四季を通じた海と山の魅力をワンストップで楽しめる北茨城の魅力に着目し、写真愛好家を対象にしたフォトトリップを企画・運営。

さらに、期待場でフォトコンテストを開催。入賞した写真はクレジット付きで北茨城市関連の広報物やWebサイトに掲載する。

たしかに、北茨城には写真に収めたくなる風景がたくさんある。アーティストの制作現場、季節の山野草、星空と海などなど。

まちを主語にしたときの魅力の発信と、撮影者を主語にしたときの撮影者自身の喜びが重なる。そんなところに“しごと”は生まれるのかもしれない。

7.芸術の学び舎「あかれんが」

多種多様なアーティストがいながら、まちのなかにアートを学べる拠点がないことに課題を感じたこのチーム。

大津港駅前のれんが造りの空き物件を芸術の学び舎「あかれんが」として、地域の人たちが芸術を学べる環境づくりを提案。講師は北茨城を拠点に活動している芸術家たちが担当する。

期待場では、すでに陶芸家による陶芸教室が開催されていて、参加者も多く賑わっているという。同様に、アーティストが自らの技術やノウハウを伝え、地域内外から学びに来る仕組みをつくれれば、“アートによるまちづくり”を本当の意味で実現することにつながりそうだ。

8.マキコミ研究所

最後に発表を行ったふたりのプレゼンは、これまでとは少し毛色の違うものになった。

この最終発表のような“まちづくり”の場には、関心を寄せている大人ばかりでなく、地域の未来を担う中高生にこそ参加してもらいたい。そのためにはどうしたらいいか?そんな問題提起のもと、まちへ繰り出したふたり。

すると、図書館に多くの中高生が集まっていることがわかった。しかし、掲示や場のつくり方に改善の余地がありそうなことも見えてきた。たとえば、館内のカフェで中高生を対象にした“しごと”のイベントを開催したり、アーティストと中高生が共同制作した作品を館内に展示したり。そんなことからはじめられないだろうか。

若者を巻き込むこと、それ自体がお金を生むことは難しい。けれども、“まちづくり”を考えるうえで、ある意味それはとても本質的な問いかけだと感じた。

全員の発表が終わり、懇親会へ。あっという間の2泊3日を駆け抜けた参加者のみなさんからは、さまざまな感想の声が聞こえてきた。

なかでも、何人かの方が言ってくれた「参加した当初は、こんなに本気で事業プランを考えることになるとは正直思っていなかったです」というような言葉が印象に残っている。

「しごとをつくる」と聞いたとき、パッと思い浮かぶのは起業や独立などの“明確な決断”の言葉だと思う。ただ、今は働きながらでも“しごと”をつくれる時代。副業やリモートワーク、多拠点生活などが、社会的にも少しずつ浸透しはじめているのを感じる。

しごとに限らず、“今そこにないから、選択肢から外している”ことって、実は多いのかもしれない。暮らす場所でも、道具でも。

「ないなら、自分でつくろう」

この合宿やレポートを通じて、ひとりでもそんなふうに思ってくれる人がいたらうれしいです。

今回の合宿で生まれた事業プランのなかには、実現に向けて動きはじめているものも。

そこで2月9日(土)の18時から、東京・清澄白河のリトルトーキョーにて、「しごとをつくる合宿ーつくって終わるな、動かせ編ー」を開催します。

合宿最終日のプレゼンから、どんなふうに進んでいるのか。はたまた、どんな壁にぶち当たっているのか。提案者のみなさんから赤裸々に発表していただきつつ、つくった「しごと」をどうやって動かしていくのか、一緒に考えていきましょう。

20時からは、合宿でもお世話になったアーティストの石渡のりおさん、ちふみさんご夫妻をゲストにお招きしたしごとバー「生きるための芸術ナイト」も開催!

合宿には参加できなかったけれど気になっていたという方や、自分のスキルや経験を活かして一緒に実現したいアイデアがある方、石渡ご夫妻と会ってお話ししたいという方も、ぜひお気軽にご参加ください。

(中川晃輔)

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