コラム

自分でしごとをつくるには?
はじめるきっかけと
続くために大切なこと

地域で暮らしたい。

そう思ったとき、すでにある仕事に就くのではなくて、自分で新しくしごとをつくれたら。もしかしたら、暮らしの選択肢はもっと広がるのかもしれません。

そんなことを思って企画したのが「しごとをつくる合宿」です。

地域を歩き回り、その地に暮らす人たちと言葉を交わすなかで、地域の課題や可能性を見つけて“しごと”をつくる2泊3日のワークショップ。昨年11月に2回、茨城県北茨城市を舞台に開催したしごとをつくる合宿では、計8つのしごとが生まれました。

ただ、これはまだ種みたいなものです。つくって発表して、終わってはもったいない。ちゃんと水をやり、形あるしごととして育てていきたい。

そこで、合宿から3ヶ月ほどが経った2/9(土)に「しごとをつくる合宿-つくって終わるな、動かせ編-」と題した発表の場を設けました。

当日は東京・清澄白河のリトルトーキョーを舞台に、5人のプレゼンターが合宿で生まれたしごとのその後を発表。日本仕事百貨のナカムラケンタがファシリテーターを務め、発表者は会場からのフィードバックも受けながら、次なる一歩を考えました。

合宿で発表した事業プランは、その後どんなふうに動きつつあるのか。なかなか前に進めていないとすれば、どこでつまずいていて、どんなきっかけがあればまた一歩前進できるのか。もしかしたらそれは誰かの一言かもしれないし、スキルや経験を持った事業パートナーとの出会いかもしれません。

2時間にわたって言葉を交わすなかで、それぞれに見えてきた課題や気づき、新たな可能性。

このレポートで、少しでも当日の空気が伝わればうれしいです。

▼「しごとをつくる合宿の様子をまず知りたい」という方は、よければこちらの記事から読んでみてください。

https://shigoto100.com/column/shigotsuku-kitaiba-report1(前編)

https://shigoto100.com/column/shigotsuku-kitaiba-report2(後編)

 

1. 移動をデザインする「WORKSCAPE」

まず最初に発表してくれたのは、フリーランスで不動産の企画やコミュニティマネジメントの仕事をしている山中裕加さん。

東京から北茨城までの車移動にかかる3時間を、働く時間にしてはどうか?という提案でした。

大型バスの座席を改装し、広々としたデスクとWi-Fi環境などを整備。働いている間に北茨城の海辺や山間に到着するので、気分転換や新しいアイデアの発想にもつながるという、自身が場所を問わない働き方をしている山中さんならではのアイデアです。

実際にプランを一緒に進めてくれるバスの改造業者は見つかり、今は旅行業の資格を持っている人を探しているそう。バス購入費+改装費でおよそ1000万円かかるとのこと。

このプランに対して、ファシリテーターを務めたナカムラケンタは「自分が本当に利用したくなるものって、どういうものでしょう?」と投げかけます。

「車酔いして仕事にならない、という人もいると思います。料金も、あまりに高いと利用しづらい。『働く』というところから視線を一旦外してもいいかもしれません」

たとえば、企業の枠を超えた交流を生む福利厚生の一環として、このバスを複数企業でシェア。車内でのコミュニケーションを通じて、新たな仕事が生まれたり、事業の幅が広がったりすることもありそうです。

北茨城に限らず、1週間ほど全国各地を巡る長期プランがあってもよさそう。

「あいのり」のようだという人もいました。となると、バスではなくてキャンピングカーのような形態でもいいのかもしれません。

次々にアイデアが出てきたところでタイムアップ。話の続きは懇親会に持ち越しです。

 

2. 北茨城を撮りつくせ!

2人目は、今年北茨城市に移住予定の照明デザイナー・立川敦子さん。

海と山が近接しており、四季折々の風景がコンパクトに楽しめる北茨城の特性に着目。写真愛好家や初心者など、ターゲットに合わせたフォトトリップを実施するという提案です。

さらに、廃校を活用したシェアアートスペース「期待場」でフォトコンテストを開催。入賞した写真はクレジット付きで北茨城市関連の広報物やWebサイトに掲載します。

自身が照明の専門家であるため、ライティングに特化した写真講座のフォトトリップや、知人のプロカメラマンを巻き込んでの企画も行いたいと立川さん。現在は北茨城の写真を発信するFacebookページ「キタイバラキサイツ」を作成し、ひっそり運営しはじめたそう。

このプランにおいては、「一般的なフォトトリップやコンテストとどう差異をつけるか?」という議論が交わされました。

「旬やピークを伝えるサービスができるとよさそうですね」とナカムラ。

たとえば波乗り情報は、各地のサーファーが協力してその日の海を撮影し、共有することで少額の報酬を得られるプラットフォームができあがっているそう。たしかに、季節の草花の見ごろやサケの遡上などといった北茨城の旬の情報が細かく更新されていれば、写真好きとしてはピンポイントにいい写真を撮りにいけてうれしいかもしれません。

また北茨城市内の移動手段が限られており、レンタカーを借りられるところがないというネックもあるので、1人目に発表してくれた山中さんの“移動をデザインする”アイデアと組み合わさっても面白いかもしれない、と思いました。

 

3.「桃源郷芸術祭」をアップデートする
 

3人目は茨城県那珂市出身で、フリーランスのコピーライターとして働く寺門常幸さん。

寺門さんが着目したのは、昨年から北茨城を舞台に開催している「桃源郷芸術祭」、そして平潟港周辺に連なる20軒ほどの民宿。民宿街一帯を芸術祭の会場とすることで、まちを練り歩いてもらいつつ、アーティストと近い距離感で話したり、作品を購入したり。アートが少し身近になるような芸術祭の構想を発表してくれました。

しごとをつくる合宿後には、芸術祭を主催している地域おこし協力隊の都築響子さんと連携。今年度の会場を民宿街にすることはできなかったものの、寺門さんの書いたコピーが実際の芸術祭に採用されるなど、来年度以降に向けて少しずつ関係を構築しているところのよう。

岡倉天心や野口雨情をはじめ、芸術家や思想家を輩出している北茨城。市として「芸術によるまちづくり」を掲げていますが、それだけで芸術祭に人を呼ぶことは難しい。

たとえば、設営の段階から参加できたり、一緒に作品をつくったりできるような、参加型の芸術祭はどうか?という話があがりました。また、せっかく民宿街なのだから、作品を展示した客室に泊まれるのもいいし、そこで作品を買えたらなおいいという意見も。宿泊費や作品購入権をチケット代に含めたパッケージプランがあってもいい。アイデアはいろいろと浮かんできます。

どの意見にも共通していたのが、「いかに垣根を極力なくしてフラットな関係を築くか」という視点でした。お客さんとアーティスト、素人とコレクターなど。立場や経験を超えて、一緒に芸術祭をつくる、体験する。そこに価値が生まれるように思います。

 

4. 耕作放棄地を活用した有機農業 

4人目の中村正則さんは、建築業界特化型の営業支援・コンサルティング会社を経営している方。

事業プランは、土木技術を活かして耕作放棄地を再生し、持続可能な有機農業を振興していこうというもの。その背景には、公共土木事業の減少と耕作放棄地の増加、そして有機作物の需要の高まりという3つの要因があるようです。

すでに一般社団法人「アグReデザイン」を立ち上げ、田畑の整備から販路開拓まで一貫して行える体制を整えているそう。有機農業の指導者育成にも取り組み、ゆくゆくは全国的にフランチャイズ展開していきたい、と中村さん。

日本ではまだまだ小さなマーケットである有機農業の可能性を広げるとともに、公共事業に左右されがちな土木会社にとっても新たな市場を開拓することにつながります。

この発表を聞いていた参加者から、「ぼくのように有機農業を学びたい一般の人は、この事業を活用することはできるんでしょうか」という質問がありました。

「ゆくゆくは家庭菜園や市民農園にも広げていきたい」と中村さん。ただ、個人や小規模ではスケールメリットが見込めないため、参入障壁がまだまだ高いそうです。

また、つくった有機野菜をどう売っていくか?というのもポイントのひとつ。茨城県内で有機野菜を高値で販売できる場所は限られてくるため、まずは東京都内のマルシェやマーケットへの流通が主になりそうとのことでした。

将来的にはレストランを併設した拠点を構え、その地でつくった作物を地域内で食べ、さらに次世代へとつなぐ食育を行い…。まだこれからはじまっていく“しごと”だけれど、そんな循環まで想像を膨らませながら言葉を交わす時間となりました。

 

5. アノニマス既築再生サービス

最後の発表者となった松田祐光さんは、茨城県つくばみらい市で建築設計事務所を営む方。

事業プランは、既存建築の用途変更に際して、断熱性や耐久性、法適合など総合的にコンサルティングするというもの。建築基準法の一部改正に伴い、今後さまざまな形のリノベーション案件が増えていくという予想も、その背景にはあるようです。

ただ、松田さんにはもうひとつ別の想いがあるそう。それは「その土地の景観や風土によって育まれた建築を残していきたい」ということ。

築数百年の屋敷のようにわかりやすく“価値ある”建築でなくても、その土地に必要な機能から生まれた民家などには特有のよさがあると考える松田さん。既存の建築ストックを活かすとか、「そこにビジネスチャンスがある」というだけでない、情緒的な部分にフォーカスを当てた発表が印象的でした。

とはいえ、モデルケースがないまま「コンサルティングをお願いしよう」と思ってもらうことは難しい。ファシリテーターのナカムラは、「まずは町宿を一軒はじめてみるのはどうですか?」と提案します。

お風呂は銭湯に、食事は周辺の飲食店にと、まち全体をひとつの宿と見立てる町宿。今、全国各地に広がりつつあります。

たしかに、顔となるような場所がひとつでもあるとイメージが湧きやすくなるし、信頼感も増す気がします。

まず形にする、やってみる。都市部でも地域でも、しごとがはじまるきっかけは共通しているのかもしれません。

 

さて、5名の発表が終わりました。

合宿からおよそ3ヶ月。あの日あのときに生まれた“しごと”のその後を見られたのは、とてもうれしいことでした。

とはいえここからが本番。日本仕事百貨としても今後、みなさんの取り組みをさまざまな形でサポートしていきたいと思っています。もしも今回の5つのしごとに関わりたいと思ったら、問い合わせページから声をかけてもらえたらうれしいです。

また、北茨城市を含む茨城県北には、地域の事業者の困りごととクリエイティブなスキルを持った人をつなげる「きっかけワーク」のほか、「期待場」のようなシェアアトリエ・シェアオフィスなど、一歩を踏み出しやすい仕組みや環境が整備されています。

「自分もしごとをつくりたい」「茨城県北地域に移り住みたい」という方、詳細は茨城県北クリエイティブプロジェクトのWebサイトをご覧ください。

>>茨城県北クリエイティブプロジェクトWebサイトへ

(中川晃輔)

発表のあとには、北茨城を舞台に活動するアートユニット「檻之汰鷲」の石渡のりおさん・ちふみさんご夫妻をゲストに、しごとバー「生きるための芸術ナイト」を開催。

ふたりが世界を旅したときの話、「芸術によるまちづくり」を掲げる北茨城のこと、生きるための芸術とは?など、もりだくさんの2時間でした。

冒頭のおよそ30分にわたるトークはこちら。よろしければこちらもどうぞ。

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