コラム

“木だけを触っててもダメなんですよ。キッチンで鶏肉を触ったり、暖炉に火をくべたり、窓を開けて風を流したり、布団を干したり。それを丁寧に、しかも真剣にやることで、ようやく木が削れるんです。”

木を料理する 』 より
laboratory 主宰 田中英一さんの言葉

コラム「大切にしたいことばたち」では、いろいろな人が大切にしたいと思っている言葉を紹介しています。

laboratory 田中さんの言葉を選んだのは、日本仕事百貨の編集長 中川。どうしてその言葉を選んだのか、聞いてみました。

これはどういう意味だろう?何度も反芻している言葉です。

オーダーメイドの木工家具工房「laboratory」を主宰する田中英一さんの言葉。

「木を触る(削る)」という言葉を自分に置き換えるなら、編集・ライターの仕事は文章を書いたり、インタビューしたりする時間にとどまらない、ということになる。

はじめ、それはすごくつらいことなんじゃないかと思いました。なぜなら、ずっと気を張っていなきゃいけないような印象を受けたから。スイッチを入れて走り続けるようなイメージです。

でも一方には、仕事とプライベートの区切りはどこにあるのだろう?とか、オン・オフの境目は?というふうに、何かと何かを“切り分ける”考え方に疑問もあって。

たとえば、銭湯にぼーっと浸かっている間にいいアイデアが浮かんで、頭が回転しはじめたり。たまった洗濯物を洗って干して、荒れ放題の部屋を片付けるうちに考えがまとまっていったり。あるいは、帰り道のなんでもない空の色や、毎日の水やりの時間が元気をくれたり。

オンでもオフでもない時間がぼくは好きで、大切なものなんじゃないかと思っています。目の前の「仕事」にだけ向き合っていたら気づけないこと、表しきれないことが、きっとたくさんある。

実は今、laboratoryのみなさんに自宅用のテーブルをつくっていただいています。

取材で足を運んだ工房に、今度はお客さんとして訪ねて。これまでのライフスタイルやワークスタイル、これからどう暮らしたいかについて、ざっくばらんに話を聞いてもらいました。仕事も暮らしも切り分けることなく、まるごとの自分を知ってもらえた気がして、うれしかったのを覚えています。

テーブルの完成は秋ごろの予定だそう。今から受け取りにいく日が楽しみです。

(日本仕事百貨 中川晃輔)

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