コラム

移り住む人たち
– 高松編 2018 – 前編
まちを愛するバスガイド

いつかどこかに移り住みたい。

日本仕事百貨を読みながら、漠然とそんなことを考えている方もいるのではないでしょうか。

とはいえ、なかなか決心はつかないもの。生きていくためには仕事が必要だし、暮らしやすさはどうだろう。地域のコミュニティにも馴染んでいけるだろうか。

そんなふうに考えはじめると、一歩踏み出すには勇気がいります。

実際に移住した人たちは、どんなふうに暮らしているのだろう。その背中を押したものは一体何だったのだろう。

香川県・高松市を訪ね、お話を聞いてきました。


▼ まずは高松のことを知りたい!という方は、こちらを読んでみてください。




今回話を聞いたのはお二人。一人目は、高松市で旅行会社に就職し、自分の好きなモノやコトを仕事につなげている小林さんです。




高松駅から20分ほど車を走らせ、小林さんの職場へ。ちょうどお昼休みが終わったところだった。

「今日8月2日はカレーうどんの日ということで、さっき会社の近くでカレーうどんを食べてきたんです。だからお腹いっぱいです」

にこにこ、という言葉が本当にぴったりくるくらい、小林さんは笑顔を絶やさない。なんだかまわりまで明るくするような、やわらかな空気を持つ人だなぁと思う。

小林さんが高松に移住したのは2年前のこと。新卒で高松の旅行会社に就職したのがきっかけだった。

もともと、高松市に縁があったんですか?

「うーん… あるような、ないような。私は徳島県の出身で、高松には小さいころから家族でよく来ていました。家は山の麓でイノシシとかが出るような場所だったので、買い物に行くってなると高松まで出ていたんですよね。だから馴染みはあったんですけど、土地で選んだというよりはやりたいことがあったので高松に来た、という感じです」

旅行が好きだったという小林さんは、学生のころから旅行会社で働きたいと思っていた。

「旅の中で、土地の文化に触れるのが好きなんです。たとえば美味しいものを食べに行くとか、そこでお店の人と話すのも結構好きで。大学では方言の勉強をしていたので、会話のなかで自分は使わないような言葉が出てくるのが面白いんですよね」

話をしているうちに、意外な展開につながることも旅の醍醐味だと、小林さん。

「以前小樽に行ったときには、地元の方が観光客の知らないようなカメラスポットまで案内してくださったんです。そんな経験も沢山していたから、やっぱり好きなことを仕事にしたいという気持ちが強くて。だから地元である四国の旅行会社に絞って就職活動をしていました」

念願叶って、新日本ツーリストに就職。現在は、自分でバスツアーを企画し、添乗員としてお客さんを案内するのが、小林さんの仕事。

バスツアーの参加者は、県外からきた観光客の人たち、というよりも地元・香川のお客さんがほとんどなのだそう。

「ふつう添乗員って、『バスガイドさん』って呼ばれるじゃないですか。でもうちではニックネームで呼んでくださいってお話していて、お客さまも里穂ちゃん、里穂ちゃんって声をかけてくれるんです。自分の母や祖母の世代の方が多いので『いつも大変やなぁ』って会社にお菓子を持って顔を出してくださったりします(笑)」

すごくお客さんとの距離が近いんですね。最近はどんなツアーを企画したんですか?

「最近は、御朱印集めのツアーを企画しています。京都や島根などいろいろな場所を巡っていて、もう次が第6弾。来てくださる方も常連の方が多くて。私もみんなと御朱印帳を見せ合ったりして、わいわいやっていますね」

ツアーの企画をするときには、まず自分の好きな場所や興味のあるものを思い浮かべて、形にする。だから観光情報誌に載っているメジャーな場所を巡るというよりは、ちょっとマニアックで個性的なツアーが多い。

たとえば、お城好きなプランナーがお城巡りを企画したり、温泉ソムリエの資格を取ったプランナーが、温泉同好会というシリーズものの企画をつくったり。夜に瀬戸内の島を訪れて、名画座で映画を見るというツアーもあるのだとか。

まずは自分の”好き”を形にして、次に思い浮かべるのは、いつも参加してくれる人たちの顔。

「本当に自分が行きたいと思えるものを企画して、次はどういう方が参加してくださるか考えるんです。あの人が来てくれそうだな、とか、この人に喜んでもらえそうだなって一人でも顔が浮かべば、そのツアーは実際に商品にできると思っています」

「ツアーの雰囲気づくりも、1からすべて私にかかっているので。どういうテンションで接するのがいいか悩むこともあります。いかに笑顔で帰っていただくか、その方法はいつも試行錯誤です」

小林さんは目の前の人たちのことを大切にしながら、いつも自分にできることを考えている。まるで贈り物をするように、自分の想いを仕事に繋げていける人なんだと思う。

でも、いろんな土地をめぐる旅行の仕事なら、拠点はどこにあってもできるはず。

小林さんがあえて高松を選んだのはどうしてだったんだろう。

「たしかに、もともとはこの土地に住みたい!というより、就職先がたまたまこの街にあったからというのが大きいです。でも、やっぱり暮らしはじめてから、この土地の人の良さというか、あたたかさみたいなものをすごく感じるんです」

人の良さ。

「お客さまのなかには、ときどきお手紙をくださる方もいます。ツアーの感想を書いてくださったり、見習いのころと印象が変わったねって褒めていただいたり。逆にもう少し御朱印のことを勉強して、きちんと説明してほしいというお叱りを受けることもあります」

いいことも悪いことも含めて、きちんと伝えてくれる。なんだか家族みたいですね。

「そうなんです。あと今住んでいる家のまわりが、いい人ばかりなんですよ。よくお昼を食べにいく喫茶店のマスターは、この前ランチの時間がもう終わっているのにハンバーグを出してくれて。『こんなのでよかったら、いつでもつくってあげるよ』って。あの日は仕事が立て込んでいて疲れていたから、本当にうれしかった」

「同僚たちとよく行くお好み焼き屋のおかあさんは、夜10時を過ぎたら自分もお酒を持ってきて、一緒に飲み始めちゃったりとか(笑)」

ふふ、とそのときを思い出しながら、すごく楽しそうに話してくれる。その人たちのこと、本当に好きなんですね。

「やっぱりそういう出会いがあって、この仕事も好きだから、この街にいたいって思うんです」

「ここでは自分のペースで進めている感じがします」

自分のペース、ですか。

「そうですね。都会だと、仕事も歩くのも、みんなせかせか速いじゃないですか。それについていかないとって必死になるけど、今の生活は、まわりで見守ってくれている人たちもいるからか、マイペースにやっています。島に近いっていう環境もいいのかもしれないです」

市街地に程近い高松港からは、7つの島へ渡航が可能。もっとも近い女木島へは、フェリーに乗ればわずか20分ほどで到着できる。

小林さんも休みの日には車で小豆島をドライブして、のんびり過ごしているのだとか。

「港の近くに灯台があって、そこにはふらっと散歩がてら行ったりします。夕日がすごくきれいだし、瀬戸内海は穏やかで、眺めているだけでもふっと力を抜ける場所です」

穏やかな気候や、自然を身近に感じられる環境。そんな土地の魅力も、高松への移住を考えるひとつのきっかけになるかもしれない。

一方で、小林さんが高松に愛着を感じるようになったのは、ゆるやかにあたたかく迎え入れてくれた高松の人たちの存在が大きかったのだと思います。

大きな変化を期待するよりも、出会った人との関わりの中で、少しずつ自分らしい高松の暮らしを見つけていくといいかもしれません。

(並木 仁美)

後編はこちらから



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