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「これは、藍染めの三重織でつくられたものです。経年変化といって、月日を重ねるごとに少しずつ、色や風合いが変わっていくんですよ」ブルーのシャツを手にとってみたら、店長の渡辺さんがそんな説明をしてくれた。

ここは、素材や製法にこだわった服をつくり販売している「群言堂(ぐんげんどう)」というブランドのお店です。
全国に30店舗ある直営店で働く販売スタッフと、営業担当、パタンナーを募集します。

今から28年前に、大吉さんと登美さんという石見銀山に住まうご夫婦が立ち上げた。
「中国の古書のなかに『服薬』という言葉があって、そこには『衣服は大薬なり』と書かれているそうです。服は心を整え、体を整える薬だと。わたしはその言葉を知る前からずっと、わたしの服は体を楽に心を元気にする、と言い続けてきた。だからみなさん、ここの服を着ると他の服を着られなくなるほど楽だって言ってくれるの」

石見銀山を訪ね、登美さんの言葉を聞いたとき、感動したと同時にある疑問が生まれた。
流行や民芸から生まれたのでもなく、どうやってこのコンセプトが生まれたんだろう。
登美さんの旦那さんであり会長の大吉さんが、それに答えてくれた。
「わたしたちは、ブランドをつくる前に、まず建物を一軒買って、茶室のようなものをつくったんです。電気もガスも水道も引かずに、ろうそくの灯りだけで過ごす静かな部屋。そのなかにいると、気持ちが穏やかになるんだ。自分がここでどんな服装でいたいかな、と想像したときに、男性だったらこんな服、女性だったらこんな服だよね、と発想が広がっていったんです」
和服でも洋服でもない、肩の力が抜けるようなリラックスした形と素材が浮かんできた。
「それが群言堂のはじまりです。服だけ売ろうとしても売れないんだ。服の後ろにはいつも、石見銀山で営むわたしたちの暮らしがある。そして生業は、その証のためにあるんだ」

織機は、最新の高速織機を使えば1時間で50m織れるけれど、あえて古い織機を使い、空気を織るように紡いでいく。
服の種類も多品種少量。ファストファッションの真逆をいっているけれども、ファンはどんどん増えていく。だんだんと、全国に店舗が増えてきた。
路面店のひとつである上野桜木店は、東京芸術大学や上野動物公園のすぐそばにある。ガイドブックに載っているようなカフェや雑貨屋さんが点在している地域。
お店に伺ってみると、まずは東京をベースに店舗開拓などを担っている福里さんが出迎えてくれた。

福里さんはどうして群言堂で働いているんですか?
「縁なんだよな。たまたま出会っちゃった」
「もともと、自分は百貨店の人間なんですよ。ちょうどマネジャーをしていたときに、群言堂を導入したの。そこで大吉さんと出会った。なんて面白い人なんだろう!と思って、それで会社を辞めたんですよ」
会社に辞表を出し、石見銀山の本社へ足を運んだ。
「そしたら大吉さん、『あんたいい判断したな』って言ったんだよ。かっこいいだろ」
会社ではそれなりの地位を築いていたし、家庭もあった。どうしてそんなに、思いきった判断ができたんですか?
「大吉さんが、『我々は先導者ではなく伴走者なんだ』と言ったんだよ。先頭に立つのではなく、隣にいて一緒に走る。そうして落っこちそうな人間がいたら支える。そんな伴走者でありたいと」
年功序列で学歴社会の世界にすっかり浸っていた福里さんにとって、大吉さんの言葉は衝撃的だった。
「この人と仕事したら楽しいと思ったんだよね。この人とだったら、あとの人生半分、違う生き方ができるんじゃないかって思ったんだ」
百貨店から1ブランドの営業担当へ。ときには百貨店に頭を下げることだってある。真逆の立場なのだから、はじめは勝手が分からず大変なこともあった。だけど、自分たちのやっていることを信じていたから辛くはなかったそうだ。

福里さんだけではなく、ほかのスタッフにも、縁や偶然の出会いから働きはじめた人たちがいる。バス停でバスを待っているところを大吉さんに声をかけられ、働くことになった人もいるのだそうだ。
店頭の販売スタッフを経て、今では営業担当である渡辺さんも、偶然の出会いがきっかけで入社したひとり。

勤めていた店を辞めるタイミングで、『うちに入れば?』と声をかけてもらい、働くことに。
「前の店では卸したものを売るだけだったので、ここは自分たちで売るものを自分たちでつくっているところがいいな、と思います。糸、布、織り、そういうところからこだわっているデザイナーさんや職人さんたちの顔が見えるので」
ひとつひとつに作り手の想いやこだわりがある。そのぶん、お客さんに伝えていくのが難しそうですね。
「ルールやマニュアルなどはないので、それぞれ感性の赴くまま、というとこともあるのですが…。ただやっぱり、お客様に知って欲しい情報は、お伝えするようにはしていますね」
例えば、麻の肌触りが苦手という方がいたら、肌に触れる裏地の部分は綿なので大丈夫ですよ、と伝える。表面上の情報だけでは伝わらないことは、しっかり説明する。

隣で聞いていた福里さんが、こんな話をしてくれた。
「西荻窪の店舗に、タカダさんというスタッフがいてね。もう60才を越えた方なのだけど、『店頭販売指導員』という役割をしているの。彼女が評価されているのは、売り上げじゃないんだよ。お客様にどれだけ感謝されているか、というところなんだ。うちのいちばんの見本のような人だね」
タカダさんは、話術が巧みなわけでもない。押し売りのようなこともしない。ただ純粋に、店に来たお客さんと仲良くなってしまうのだそうだ。
「旅行に行ったらお客様にお土産買ったり、お客様が『うちの庭でこんなきれいな花が咲いたからお店に飾って』と花を持ってきたり。タカダさんだけではなく、うちの販売スタッフのまわりには、そんな話がいくらでもあるんだよ」

働くうえで、大変なことも聞いてみた。
「多分、入ってきた人がいちばん苦労するのは、素材を覚えることじゃないでしょうか。素材についてだったり、製法についてだったり。やっぱり、お客様もこだわりがある方が多いので、聞かれることも多いんです。それに答えられない不安から、最初は接客に躊躇してしまうこともあるかも知れません」と渡辺さん。
展示会ごとに、素材について綴られた冊子が配られる。それに目を通しながら、ひとつひとつ理解していく。
「あとは、自分がお客さんになった気分で着てみることですね」
うん、これは大事なことかもしれない。着てみることで肌触りもわかるし、体感的に理解していくことができると思う。

「うちの会社では、汚れた空気のところにはお客様はこない、という考えから、お掃除を徹底しているんですね。なので、朝は掃除から始まるし、日中はおたたみやハンガー直しなどをこまめにして、常に空気を整えることを心がけています」
「自ら進んでお掃除ができたり、花が枯れていたら取り替えられるような、そんな細かいところに気付ける人が、いいんじゃないかと思います」
福里さんは、どう思いますか?
「うちは、ものだけを売っているわけじゃない。生き様や事柄を売っているわけだから、人の気持ちが分かるとか、ものに対する感受性とか、そういう人間力をみんなで養っていきたいと思っているんです」
「だから、人生をもっと変えたいと思っている人にきてほしいな。うちの会社は、色々なところでぶつかってきている人間が多いからね。色々な話が聞けるし、島根に行けば、大吉さんと登美さんにも会える。人生に前向きな人だったら、変われると思うよ」
どこへ行っても仕事が長続きしなかった人が、ここでやりがいを見出だすこともある。子育てが一段落した主婦が、カリスマスタッフになることだってある。
ここに来れば変えてもらえる、という考え方はよくないと思うけれど、今までと違う働き方がしたい人や、生き方をもっとよくしていきたいと思っている人ならば、ここは変わるきっかけになる場所なんじゃないかな。

「金を稼ぐために仕事をする。それ以外にもう1つ、生きがいがあったりプライドを感じられたり、そういうものを持つべきだと思うんだよね。自分は、人生賭けられると思ったから。だからここに来たんだよな。生きることに真剣な人がきてくれたら、うちの会社で生きがいを見出だせるんじゃないかな」
(2015/12/23 笠原名々子)