※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。
黒、紺、それとも明るいグレーにしようか。無地だと地味すぎるかな。チェックかストライプか。縞の太さはどれにしよう。裏地、ボタン、襟の形は、シルエットは……。身体をこまかくメジャーで測って、好みと用途のバランスを探る。
丁寧につくられたオーダーメイドスーツは、着る人の身体とこころにスッと寄り添います。

本当にいいものを大切に届ける。
そんな働き方をしたい方がいたら、ぜひ読んでください。
新宿から二駅。若松河田駅で降りる。
駅から少し歩くと、閑静な住宅街の中にFILOはありました。
入り口ではバラとブドウの木がお出迎え。
実は、以前日本仕事百貨でもご紹介した不動産会社「日本ビルディング経営企画」が母体になっている会社なんです。
不動産と、オーダースーツ……?
どのような関係があるのでしょうか。

そう話すのは日本ビルディング経営企画の代表、千葉さん。
羅紗とは毛織りもののことで、スーツなどに使われるウールの生地。
FILOでメインに取り扱っているイタリアの高級服地「エルメネジルド・ゼニア」を、大正時代からなんと100年以上、日本で一番最初に輸入し、取り扱ってきた歴史があります。
そして、時代の流れとともに腕のいい仕立て職人が減り、どこのテーラーでもその扱いに困ったという相談が多く寄せられたため、高級服を縫製するための工場「ジェンツ」をつくりました。
普段は不動産の仕事をしている千葉さん。
分野があまりにも違うのではないかと思いましたが、親孝行の気持ちから、アパレルの世界に足をふみ入れることになったそうです。
今では生地の取扱量も増え、特に「ゼニア」とは親しい間柄。先日もイタリア本社の社長からプライベートな招待を受けて、本社や織物工場を訪問してきたそうです。
不動産とオーダースーツをつなぐものは、「親孝行」と「イタリア好き」だったんですね。
「縫製工場であるジェンツは、百貨店や有名ブランドからの特注品のオーダーを受ける工場に育っていました。だけど、実際にはどのようなニーズがあるのか」
「直接、お客様から生の声を聞くことができる小売店をつくれば、よりよいスーツを仕立てられるんじゃないか。そんな想いからはじまった、アンテナショップがFILOなんです」
ビルの上にあるサロンでお話を伺いました。

バースペースに、テラスやピアノなどもあって、なんだか別荘みたい。
「お客さまに、リラックスして楽しみながらオーダーいただけるよう心がけています」
そう話すのはFILOの店長、大木さん。

そこのお客さんだった千葉さんに声をかけられ、一緒にFILOをいちからつくり上げてきました。
今年で14年目になります。
大木さんはどうして服の販売をはじめたのでしょう。
「高校のとき仲良くなった英語の先生が、元々アパレルにいた人で、そこから洋服にはまっていきました」
「将来はFILOというシャツ屋さんをやろうとおもっていたんです。イタリア語で糸、という意味のことばで。最初から、とか原点に戻る、という意味もあります」
これに千葉社長も共感してくれて、そのまま社名になったそう。
メインとなる生地はイタリアの高級生地「ゼニア」と「ロロピアーナ」。
このサロンでどの生地にするか選び、サイズなどを測って、縫製工場ジェンツへ出す。
ジェンツは、主に百貨店の高級ラインなどもつくっている三ツ星認定工場。そこで縫製したものをチェック、納品する。
「生地も縫製も、質は間違いありません。だけど価格は一般的なものの3分の1ほど。自社でまかなうことによって抑えることができるんです」
セールは一切しないし、値段は上げも下げもしない。
ただ安いというわけではなくて、間に入る手数料を取り除くことができるから、この適正価格でお出しできているのだとか。
お客様は、経営者の方や、医師や弁護士、アナウンサーなど、40〜60代男性が中心。
紹介が紹介を呼び、支持は増え続けました。口コミは何ものにも代えがたいといいます。
やっぱりかっこいいスーツだと、仕事もうまくいくのかな。
こだわりをつめ込んだ、自分だけの戦闘服。ぴしっと背筋が伸びそうです。
サロンに来てもらうだけではなく、要望があれば大木さんが直接お客さまのご自宅や会社などへ伺うこともあります。
有名な保険会社の営業マンやお坊さん集団、京都の料亭のご主人に呼ばれて、若旦那衆にスーツを仕立てるなんてことも。
「どういう場面で着るスーツなのか。講演が多い方は立ち姿が綺麗に見えたほうがいいし、座ることが多ければゆったりしたほうがいいかもしれない。着る人が、より素敵に見えるスーツを目指しています」
次は、入社4年目、同僚となるフィッターの廣野さんにお話を伺いました。
「地元が大分の湯布院で。地元のホテルや旅館で働くために、まずは東京のホテルに就職したんですけど、やっぱり好きな洋服に携わりたいという気持ちが強くなりました」

FILOでは年に2着、ユニフォームとしてゼニアのスーツが支給されるそう。
細い糸でできた生地はしなやかで柔らかいけれど、その分デリゲートなところもある。
そこで、自分たちでも本物を身につけ、よしあしを知った上でお客さまに販売しているというわけ。
「これだけ良い生地のスーツを着られるとは思いませんでした(笑)」
照れながら笑う廣野さん。本当にうれしそうです。
出張先でのエピソードを聞かせてくれました。
「採寸して、つくったはいいんですけど、サイズ感がイマイチだと返されてしまって。フルオーダーなので、ただサイズぴったりにつくるだけではだめだったんですよね」
「それからは、これくらいのゆとり量でいいのか、どういったときに使うものなのか、お客様の好みなどを丁寧に伺うようにしています」

ミシンで縫って、後ろを向けばすぐにアイロンがかけられる。無駄のないコンパクトな空間は、なんだかコックピットみたい。
モデリストの植木さんにもお話を伺います。
モデリストとは、パターンを考え型紙をつくり、生地を裁断して、一着のスーツに縫い上げ仕立てる仕事です。
普段は、工場からあがってきたスーツにアイロンをかけたり、サイズに間違いがないか細かくチェック。女性物のオートクチュールは、工場には出さず、植木さんが直接仕立てます。
「親がテーラーをやっていたので、前の東京オリンピックのときに洋服の世界に足を踏み入れて、社長の義父の元で長年働いていたところFILOに呼ばれました。もう70歳なので、50年ちょっとになりますね(笑)」

時には工場での縫製がうまくいかないこともある。たとえば夏は湿気が多く、生地が動きやすくなるそう。
「いい生地だからこそ、扱いは難しいけれど、こんなにいい生地ばかり扱っているテーラーはほかにはないから。柔らかい生地をずっと触っていられて幸せですよ(笑)」
やさしい笑顔に、こちらまで笑みがこぼれてしまう。
「ああ、この人たちに頼みたい」そんな純粋な気持ちでいっぱいになった。
FILOは、質がいいのはもちろんのこと、さらにみなさんそれぞれの人柄が、ブランドをかたちづくる上で大きな役割になっているように思う。

「やっぱり児玉清さんかな」
児玉さんといえば、アタックチャンス。スーツを着ている印象も強い。
千葉さんのご親戚である製薬メーカーのCMに出演されたことがきっかけで、スーツは毎回FILOで仕立てていたそう。
「とてもおしゃれな方で、スタイリスト任せにせず、スーツは全て自前でお揃えだったんです」
紺と、黒と、濃いグレー。似ているようで、少しずつ仕様が異なるスーツを、数え切れないくらい仕立てたと言います。
「児玉さんは最後に旅立つときもうちのスーツを着てくれたんですよ」
最後に、どんな方に来てもらいたいかを大木さんに伺いました。
「洋服が好きな方が、やっぱり一番いいと思いますね。フットワークが軽くて、人と話すことが好き。お客様との出会いを楽しめる方」
ある程度は、採寸やコーディネートのご提案もできたほうがいいけれど、好きという気持ちがあれば、働いていくうちに出来ていくと思う。
今回募集する人が働くことになるのは、出来たばかりの路面店、神楽坂店。

はじめはサロンで勉強してから、神楽坂店で働くことになる。

「あとは、車が好きな人もいいですね。スーツを納品するときの車がアルファロメオなんですけど、この車で届けてくれた、とお客さまも喜んでくれます」

FILOでなら、今よりも丁寧な関係が築けるかもしれない。
大変なことも多いけど、最高級のスーツに触れられる時間はやっぱり特別だと思う。
気になった方はぜひ応募してみてください。
(2016/10/14 今井夕華)
※募集要項が変更になり、経験を問うものではなくなりました。(2016/10/24)