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社会にあるさまざまな課題を根本から解決するためのキーワードは「教育」なんじゃないだろうか。
そんなふうに考えていたとき、海士町を訪れて、それは確信に変わりました。
海士町(あまちょう)は日本海に浮かぶ、島根県隠岐諸島の離島。西ノ島町、知夫村とともに島前(どうぜん)と呼ばれています。
人口流出や財政難などの問題を抱え、一時は高校が島からなくなる寸前にまでいたりました。
この島で10年ほど前にはじまったのが「島前高校魅力化プロジェクト」。
公立塾や島外から入学する生徒たちを受け入れる寮の設置、グローカル人財の育成など。人づくりから地域の未来をつくるため、さまざまな挑戦が行われてきました。
今では国内各地や海外からも生徒が集まり、推薦倍率は2倍に。卒業生も各地で活躍をしはじめています。
第2創業期を迎えているというこの場所で、学校、塾、寮それぞれの立場からこのプロジェクトに取り組む人を募集します。
飛行機、電車、船を乗り継ぎ海士町へ。3時間ほど船にゆられぼんやり水面をながめていると、緑があざやかな島が見えてきた。
待っていてくれたのは、教育魅力化プロジェクトの総務スタッフをつとめる高橋さん。
ここに来たのが1年ほど前。すっかり島の人として馴染んでいる。
「Iターンで移住して働いている人が多いこともあって、島の人が気持よく受け入れてくれます。島にはコンビニもないんですが、いろんなことに挑戦する人がいて、おもしろいんですよ」
最初に向かったのは島前にある唯一の高校、隠岐島前高校。「地域地球学」や「夢探究」など、あまり聞き慣れない科目が盛り込まれている。
のぞいた教室では「地域学」のグループワークが行われているところ。
「海士町の電力は隣の西ノ島町でつくられています。災害などがおこったとき最低限の発電ができるように、ソーラーパネルを導入する方法を考えています」
想像していた高校生の答えとは違う言葉がかえってきて、すっかり感心してしまう。
ほかの教室では「地域地球学」のグループワークが行われていて、地域の魅力発信をするため取材地を検討しているチームや、地域清掃のイベントを企画しているチームが相談をしている。
企画だけでなく、実際に清掃する場所を使うために役場への交渉、調整、実施までをすべて高校生が行うんだそう。
「島全体が学びの舞台です。いろんな子に活躍の場があるのが、ここでのおもしろさの1つだと思います」
そう話をしてくれたのは、教育魅力化コーディネーターの奥田さん。ふんわり優しい雰囲気で、生徒たちからは師匠と呼ばれることもあるんだとか。
いろいろな価値観を身につけてから教育に関わろう。そう考え、IT企業で経験を積んだあと海士町にやってきた。
「前回取材してもらった岩本が『日本や世界の教育を変えるかもしれない』と本気で語っていて。まっすぐな生徒たちと関わりながら、新しい教育をつくっていきたいと思いました」
学校の先生ではないけれど、奥田さんの席は職員室にある。
先生たちと相談をしながらカリキュラムをつくったり、授業の調整を行っている。担当を持っている授業もあるそうだ。
「個人的には島前地域はもちろん、日本全体の教育がよくなっていくことにアプローチしていきたい。やりたいことがたくさんあるんです」
学校のある高台をおりたところにあるのが公立塾の「隠岐國学習センター」。
塾というと学校とはまったく別のものというイメージがあるけれど、ここでは連携をとりながら授業内容を決めていく。学校の夜間部、のようなものなんだそう。
センター長をつとめる豊田さんは、大手情報出版会社に勤め、人材育成会社を経てここへやってきた。
高校魅力化プロジェクトがはじまったのは、今から10年ほど前のこと。
当時は入学してくる生徒があと7名減ると、統廃合により島から高校がなくなるという危機に瀕していた。
高校がなくなると、進学をしたい子どもは島外に出ていくことになる。島をはなれた子どもたちはそのまま本土で暮らすことが多く、人口は減っていくばかり。
今日本の各地域が抱えている課題を先取りしたようなこの場所で、学校と行政、そしてIターンで海士町へやってきた人たちが立ち上がり、プロジェクトがスタートした。
カリキュラムの改革や、島外から「島留学」してくる子どもたちを受け入れる寮の設置。公立塾を運営することで、この高校を「選びたい魅力のある学校」に変えてきた。
「今にもなくなってしまう、というピンチからは抜け出すことができました。まだまだ予断を許さない状況だと思っています」
教育による地域活性化の成功モデルとしてメディアなどで紹介されることも多いので、プロジェクトは安定期に入っているものだと思っていた。
「学校だけがよくてもしょうがないですよね。地域がいい状態で続いていくために、人づくりや教育的な観点からできることを考えています。これからはさらに地域を意識してやっていきたいんです」
地域の未来を支える人づくりへの挑戦は、今、新しいフェーズに進んでいるところ。
海外の学校との交流をおこなったり、島前の保育園、小中学校などと連携したプロジェクトを検討したり。さまざまな挑戦がはじまろうとしている。
外に向かっていくような印象を受けるけれど、1番に考えているのはこの地域の未来。
「生徒が自立できるように育てる教育はもちろん、地域に存在する課題に向き合うこと、一緒に未来をつくっていきたいという想いを伝えていくのは大切なことだと考えています」
島には大学がないので、高校を卒業したあと多くの生徒たちは島外に進学、各地で働くことになる。
これまでとすこし違うのは地域のことを学び、愛着を持っていること。
社会で活躍できるようになったころ、島に戻ってきて仕事をつくるのもいい。戻ってこなくても、国内外に強いネットワークができていくことは地域の強さになる。
「大学に進学して、島とのつながりをつくる活動をはじめる生徒も出てきています。それぞれの場所で、おもいっきり活躍してもらいたい。10年後にはさらに、いろいろなことが起きていると思いますよ」
新しい仲間にも本気で人づくりに取り組んで欲しい。それと同じくらい、この島で暮らすことも大切にしてほしい。
「地域をリスペクトできるかどうか…というか都会センスだけでなく、田舎センスが強い、強くしたいと思う人ですね」
都会センスと田舎センス?
「都会で生きていくには、資本主義の中で競争に勝っていくことが求められる。将来働く上でそれも重要なことかもしれないけれど、小さな島では限られた資源や人と生きていくために、ここで育まれてきた価値観があるんです」
たとえば、島ではお祭りをはじめとする地域行事がたくさんある。
続いてきた文化を継承していくのはもちろんだけれど、同じ土地で暮らす人たちが協力してなにかをつくりあげる機会は、一緒に生きていくために必要だから残されてきたこと。
「これまで以上に健やかに循環するお金の使い方。安全安心な食。持続可能な社会を共創していく感覚は、これからの社会で求められていくように思うんです」
「海士町に来てから、すっかり田舎センスを身につけたスタッフがいますよ」と紹介してもらったのが副センター長の中山さん。3年生の教科指導も担当している。
「地域行事にでるとか考えたこともなかったんです。ここでは地域に生かしてもらっている。同じ土地で一緒に生きているから、協力していくことがあたり前になっているのがおもしろいですね」
島で生きる、というとのんびりした日々を想像するけれど、中山さんの1日はめまぐるしい。
この日は高校の先生たちと生徒の状況を共有したり、今後の方針を相談するミーティングが3件。予習をして、生徒たちが主催するバーベキュー大会に顔を出した後、22時まで学習センターで生徒の指導を行う。
「中山さんは本当に努力家で、生徒一人ひとりのやりたいことや学力に合わせて、どの科目も教えられるように勉強をつづけているんですよ」とほかのスタッフが教えてくれた。
3年生はこれからが受験本番。教室にはいると、それぞれ黙々と机に向かっている姿に圧倒される。
別の教室では「夢ゼミ」が行われていて、それぞれ関心のあることをゼミ形式で学び、実践している。
正解を教えてもらうのではなく、たくさんの大人と触れ合いながらさまざまな価値観があることを知り、自分や社会の未来を考える。
必要な科目を学習することもそうだけれど、この島で生徒たちが学んでいるのは、課題を解決するために必要なコミュニケーション。これからの社会で生きていくためのスキルなんだと思う。
「生徒たちの話を聞いて、横にいてあげることができる人と働きたいです。科目を教えられるにこしたことはないけれど、なにより聞いてくれる大人が身近にいることが大切なんだと感じています」
仕事のあと、中山さんがスタッフやインターンと暮らしている家にお邪魔することになった。今は5人のメンバーが暮らしている。
「ここに来て酒が強くなりました。地域の人との関係ができて僕もうれしいし、生徒たちが地域に出て活動をしやすくなりますよね」
「将来、一緒に働いて社会をつくっていきたいと思える生徒たちに育って欲しい。最近は地元の宮崎と島前地域の高校生をつなぐ取り組みをはじめたところなんです」
そんな話をしていたら「釣れたよ!」と魚をかかえ、ご近所さんがやってきた。あっという間に食卓にお刺身やお味噌汁が並んで、わいわいと食卓を囲む。
これがこの島のおもてなし。
「確実にここから日本の未来、教育や人づくりの未来が開かれていくと思っています。トップランナーとして、一緒にやっていきましょう」
人口減少、少子高齢化、財政難。ここは、これから日本の各地で起きる課題に取り組む先進地です。
未来の日本を、離島からきり開いてみませんか。
まずは島を訪れてみてください。ここで紹介しきれなかった、たくさんの感動に出会えると思います。
7月20日には、奥田さんを東京・清澄白河のリトルトーキョーにお招きして、しごとバー「キンニャモニャ踊らナイト」
を開催するので、まずはそこで話を聞いてみるのもいいかもしれません。
どなたでもご参加いただけますので、お気軽にどうぞ。
(2017/7/13 中嶋希実)