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染まり、にじむ甘さ

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

守破離(しゅはり)という言葉がある。

剣道など修業の場での師弟関係の在り方を示すもので、まずは師の教えを守り忠実に学ぶ。その後さまざまな要素を取り入れて、覚えた型を破っていく。そして、独自のものを生み出していく。

決して古い言葉ではなく、組織に入って人と一緒に働くときには大切なことのように思います。

それは今回紹介するダニエルで働く人にも言えること。

ダニエルは神戸・芦屋で30年続く洋菓子店。親しみやすさを大切にしつつも、常にあたらしいことに挑戦し続けてきたお店です。

洋菓子店のほかに淡路島で貸別荘を運営していて、2019年春にはカフェを併設予定。今回は、貸別荘やカフェを運営していく人、パティシエとして働く人を募集します。

オープンまでの期間にはカフェのことを考えつつも、宿の運営をしたり、洋菓子店で研修をすることになります。

貸別荘の清掃を行うパートスタッフも募集中。

これまでダニエルが培ってきたものを素直に受け入れつつ、自分なりに場のことを考えながら動いていける人を探しています。

  

向かったのは兵庫・淡路島。

新神戸から高速バスに乗り換える。明石海峡大橋を渡ると、青い海と鮮やかな山の緑が目に入ってくる。

1時間ほどで東浦バスターミナルに到着。

海を背にして、山側へ道を登ったところにあるのが La Terrasse Awaji。

ホテルと呼ぶ大きな木造の宿泊施設と、その横にあるコテージを、それぞれ1組限定で貸別荘として運営している。

きれいに手入れされた庭のハーブと、掃除の行き届いた空間が心地いい場所。

最初に紹介するのは中村さん。

La Terrasse Awajiのオーナーであり、洋菓子店ダニエルを築いてきたパティシエでもある。

調理学校で学び、フランスへの留学やレストランで働く経験を経て、独立したのは29歳のころ。

「レストランのデザートをそのままテイクアウトできるようなことを考えたんです。常識に感化されずに自由な発想でできたことが、よかったんじゃないですかね」

それ以来大切にしてきたことは、今までにないものをつくること。

「カスタードクリームだったら卵黄の旨味と牛乳の風味。砂糖は極力少なくして、素材の味を前面に出すのが基本です。ただ甘いだけではないので、大きくても食べられるんですよ」

洋菓子店にとどまらず、レストランを出したり、東京や名古屋への出店に挑戦したこともある。常に新しいことをしていくことで、常連さんを飽きさせることのない、また行きたくなるような場所をつくってきた。

その結果、常に右肩上がりの経営が続いているそう。

淡路島のこの場所を購入したのは16年ほど前のこと。最初は自分たちの別荘として使っていたものを、4年前から貸別荘として運営するようになった。

「普通に貸別荘として打ち出してもつまらないから。友人や家族と自由にパーティーをする場所にどうですか、と呼びかけるところからはじめました」

週末は予約で埋まることが多く、時期によっては連日お客さまを迎えるために清掃やメンテナンスが大変なこともある。

宿のスタッフは臨機応変に、その都度やり方を考えながら、オペレーションや建物の維持管理をする方法を考えてきた。

貸別荘という形態のため、お客さんと話をするのは基本的にチェックインとチェックアウトのときだけ。もてなす気持ちを空間で伝えるため、最近では地域で育った植物をしつらえているんだそう。

ここで新たにはじめたいと考えているのが、カフェをつくること。宿泊したお客さんが朝ごはんを食べたり、日帰りでこの場所を訪れる人が楽しめるような場所をつくりたい。

「芦屋のお客さまがリゾート気分で淡路に来たときに、いつものダニエルの味を楽しめたり。この地域の食材を使ったメニューがあってもいいかもしれませんね。お客さまの反応を聞きながら、柔軟に考えていきたいです」

計画は数年前からあるものの、土地の整備や近隣との調整が必要なこともあり、今のところ2019年の春のオープンを目指しているそう。

地元で採れる新鮮な魚や野菜をつかったサンドイッチや、自分たちで育てたもち米入りのおにぎり。ダニエルで人気のカヌレを、身近にある植物の形にして焼き上げてもいいかもしれない。

話を聞いていると、中村さんからはあたらしい場所のアイディアが次から次へと湧いてくる。とても楽しみにしている場所なんだということが伝わってきた。

ダニエルもLa Terrasse Awajiでも、自分が考えながら新しいことに取り組んでいくことが求められると思う。

それは「なんでも自由にしていい」ということとは、意味合いが違うよう。

「最初から自由にやっていいですよ、と言っていた時期もありました。でも最近は、まずはダニエルの色に染まったところからスタートしてもらうほうがいいかもしれないって思うんです」

ダニエルの色、ですか。

「これまでいくつかの場所をつくってきて、僕なりに考えてきた路線は間違っていないと思っていて。ダニエルの考え方を理解してもらった上で、あたらしいことを一緒に考えていかないと、お互いがハッピーな関係にならないんだとわかってきました」

宿の運営を任せていたものの考えが合わなくて続かなかったり、洋菓子店での研修が厳しく仕事をはなれてしまった人もいる。

常に新しいことに挑戦し続けていくために、昨日決めたことを今日には変えていくこともある。

まずはこの場所やダニエルが考えてきたことを、素直に学ぶ。

根っこの部分を理解した上で、自分なりの考えをにじませていけると、うまくいくのかもしれない。

  

ダニエルの色に染まり、そこから自分らしさを出していこうと試行錯誤しているのが、以前「育てるパティシエ」という記事をまとめたときに話を伺った内田さん。

ふだんは芦屋のテラス ダニエルという店舗で、主にパンの製造や販売を担当している。

「自分がつくるもので人に喜んでもらいたい、と思ってお菓子の道に進みました。働いてみて、想像以上に体力面がしんどいなっていうのは正直なところです」

パティシエの仕事は体力勝負。朝も早いし、重たいものを運ぶことも少なくない。

ダニエルは地域のなかでも人気のお店で、看板商品でもあるカヌレは、いくつつくっても売り切れてしまうほど。現場ではいつも慌ただしく働いているそうだ。

「大変なところばかりを見ていてもしょうがなくて。つくるもので喜んでもらいたいっていう気持ちは4年働いても変わらないんです。それが続けられるのは幸せなことだと思っていて。ポジティブに考えて、改善できるところを見つけるようにしています」

内田さんはスコーンやパンの新しい商品をつくる役割も担っている。

中村さんから伝えられるイメージを実際に形にしていくときに、意識しているのは「ダニエルっぽさ」なんだとか。

「親しみやすいけれど、ほかのお店にはない。新しい商品だけれど、派手すぎない。ずっとあったようで新しい。言葉にするのって難しいですね」

「シェフがいいと思うものからずれたら、それはダニエルっぽくない。こっちのほうがきれいに見えるかなとか、こうしたら効率良くできるかなとか。微々たることかもしれませんが、自分で考えて動くようにしています」

新しく入る人の仕事はカフェについて考えたり、La Terrasse Awajiの宿業がメインになる。ただ、ダニエルらしさを学ぶためにも、最初は店舗で働く時間も多くなると思う。

「職人の世界というか、技術職なので。まずは人に言われたことを素直に受け入れられないと、自分も嫌になってきてしまうと思うんです。素直に謙虚に、まずは受け入れて、自分の力にしていける人がいいと思います」

  

知らない土地で、中村さんのやり方に学びながら、自分でも考えて行動していく。

そんなときに相談相手の1人になってくれそうなのが、La Terrasse Awajiのすぐ近くに住んでいる落合さん。

地域とのパイプ役であり、ダニエルで使う食材を自分たちで育てるプロジェクトに協力してくれている方。

当然、La Terrasse Awajiの人たちのこともよく知っている。

「ずっと教員として働いてきました。家が代々農家だったこともあって、もともと農業に関心があったんです。定年を機に、果樹を中心に植えてみて。実がなるまでは何年も時間がかかるので、根気がいる仕事ですよ」

イメージしているのはイタリアの小さな農家。目の届く範囲で果樹や野菜を育てる生活をしようと、農業に取り組んでいるんだそう。

「変わったものをつくって注目を浴びようとか、そういうんじゃなくてね。無理せず、自然に家の周りが豊かになって生活できるくらいがいいなと思っていて」

中村さんと最初に取り組んだのが、黒イチジクの栽培。自分たちで育てた黒イチジクを使って、オリジナルの洋菓子をつくる計画は着々と進んでいるそうだ。

「自分でできる範囲でお手伝いをしています。自然で快適な暮らしがここにもあるっていうことは、ダニエルを通して、都会の人にも知ってもらえたらいいですよね」

最近は淡路島に移住してくる人もいて、作家活動をしていたり、四季を大切にした飲食店を営んでいる人もいる。地域の人たちと協力することで、新たなおもてなしを考えることもできるかもしれない。

  

アイディアはいろいろ膨らむものの、洋菓子店や宿、そしてカフェでの仕事は、どれも地道な積み重ねの連続です。

まずはダニエルのやり方に、そして淡路島の色に染まってみる。そこから自分らしい甘さを日常ににじませていく。そんな仕事になるんだと思います。

(2017/7/4 取材 中嶋希実)

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