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1965年、東京の下町にある小さな工房で、ランドセルづくりをはじめた土屋鞄製造所。お子さんとランドセルを買いに訪れた家族からの「大人用の製品もあったらいいな」という声をきっかけに、15年ほど前からは、大人が楽しめる革鞄や小物もつくっています。
ランドセルも大人向けの革製品も、自社で製品企画・デザインを手がけ、一つひとつ職人が手づくりしてできあがる。
そんな土屋鞄のものづくりを伝えていくうえで、大切にされていることとは何か。
それは、お客さまとも一緒に働く人とも、互いの気持ちを分かち合い循環させていく姿勢だと、取材を通して感じました。
今回は、土屋鞄製造所の店頭に立つ販売スタッフを募集します。
ものを売るというより、接客を通して、土屋鞄の大切にしていることをお客さまに感じてもらう。お客さまの想いに寄り添う。
そんな仕事です。
訪ねたのは、大人向けの革鞄や小物をあつかう鎌倉店。
天井の高い気持ちのいい空間に、温かみを感じる什器。
その上には、使う場面を想像させるように製品たちが並んでいる。
この場所で、職人による実演製作のイベントを開催することもあるのだそう。
「イベントやワークショップでも、日々の接客でも。店舗という空間で、そのときしか味わえないような体験を、お客さまに届けたいと思っています」
そう話すのは、店舗運営課で課長を務める酒井さん。
入社したのは11年前。当時はWEBでの販売が主力で、実店舗は鎌倉店を含む3店舗しかなかったという。
「お客さまとの接点をつくろうと、少しずつ店舗を増やしてきました。現在は全国に21のお店を構えていて、今年10月には新しいお店もオープンする予定です」
お店を広げていく背景には、こんな想いがある。
「我々が販売しているのは、一つひとつ職人の手でつくられているものです。使用する革の素材や部位を選ぶところから、ちょっとした縫製の仕方まで。それぞれの製品には、職人の想いや工夫がちりばめられています」
商品の良さを支えている背景を知ってもらうことで、お客さまに愛着を持って製品を使ってほしい。土屋鞄のことをもっと好きになってほしい。
だから、直接お客さまに伝えたいと考えている。
ものづくりの背景も含めて製品の魅力を伝えていくと同時に、大切にしているのは、お客さまの声を聞くこと。
「毎日生活の中で使っていくものだからこそ、その方の生活に溶け込んでいくような製品であることが大事だと考えています」
「お客さまがどんなことを望んでいるのか。ちゃんと知りたいし、知った上でものづくりに活かしていきたいんです」
たとえば、今年新たに登場した「HINON(ヒノン)」というシリーズ。女性のビジネスシーンに特化したシリーズもほしいというお客さまからの声をもとにつくられた。
ほかにも、鞄の内側のポケットの大きさなど、細部の使い心地まで考えて改良を続けているのだとか。
「お客さまが望んでいることを形にできたら、よろこんで使っていただけるし、私たちもうれしい」
「我々の考えていることを発信するし、お客さまの気持ちもキャッチする。土屋鞄のものづくりは、かならず相互の関係があって、気持ちが循環していくようなあり方を大事にしています」
気持ちが循環していくようなあり方。
「キャッチボールするようにお客さまの気持ちを受け取って、一生懸命、反応を返していく。目の前の人がどんなことを考えているのか、前向きに知りたいと思える人と一緒に働きたいなと思います」
まさにそんな人だと思ったのが、板敷さん。
前回の日本仕事百貨の記事をきっかけに入社し、今年2月から童具店・横浜で働いている。
以前は、ヴィンテージの万年筆などを扱う筆記具店に勤めていた。扱っていた商品の中には、すでにメーカーが製造を終了している品もあったそう。
「お客さまから壊れてしまったとご相談を受けて、メーカーに問い合わせても、サポートを終了しているからどうにもできないと、対応されることもありました。それってどうなのかしら…?と思うところがあって」
土屋鞄は、製品を販売して終わりではない。
「持ち主の使い方によって、その人らしい味わいを生んでいくものだからこそ、長く大事にしてもらえるようにきちんとサポートする。それに、そうして使い続けられる製品のあり方に、お客さまも販売しているスタッフも『いいよね』と共感している。そんなところに惹かれました」
実際に入ってみて、どんなことを感じましたか?
「想像はしていたのですが、お客さまからの質問一つとっても、それに対する答え方は一通りではなくて」
「お客さま一人ひとり、言葉の裏側にある気持ちを想像しながら話します。いい環境だなと思いつつ、どう伝えたらいいのか考えていくことは、難しいですね」
たとえば、何色のランドセルが一番人気なのかと聞かれたら。
お客さまは一番人気のランドセルがほしいのか。あえてその色は避けたいのか。それとも参考に聞いているだけなのか。
一人ひとり違う気持ちにどう寄り添い、振る舞ったらいいかを、よく観察して判断する。
まずは、お客さまの小さな疑問や心配ごとをどうしたら解消できるか、自分で考えること。
そして、土屋鞄としての視点を持つことも大事だという。
具体的にはどういうことだろう。
「たとえば、ランドセルを購入した際にもらえるグッズがあって。以前は革製のネームタグだったのが、今年から革製の封筒とメッセージカードでつくられたレターセットに切り替わったんですね」
すると、兄弟のお子さんを持つお母さんから、どうして変わってしまったの?と聞かれたそう。
「お兄ちゃんのときは、ネームタグをつけていると土屋鞄のランドセルだって一目見てわかったから好きだったのに…とおっしゃっていて」
「土屋鞄のランドセルを好意的に思ってくださっている方だからこそ、グッズの形は変わっても、使っていただけたら。そう思って、土屋鞄の考えを自分なりに言葉にしてお伝えしました」
家族で手紙を送りあって楽しんでもらいたい、という想いを込めていること。
革製の封筒は、メッセージカードを使い切ってしまってからもカードケースにして長く愛用してもらえること。
伝え終えると、お客さまも、土屋鞄の考えを受け止めてくれた様子だったという。
「働いている一人ひとりの考えを活かしつつ、土屋鞄らしい雰囲気はまとっていなければいけないと思っています」
「どうやったらうまく伝えられるだろう?と日々考えながら、行動していますね」
まだまだ考え中かもしれないけれど、板敷さんが考える“土屋鞄らしさ”ってどんなところだと思いますか?
「そうですね…。人の温かみをすごく大事にしているというか。店頭には立っていない職人たちの雰囲気や想いが伝わるようなお店づくりに、表れているのかなと思っています」
土屋鞄では、入社してまもない社員は、西新井本店にある工房で研修を行い、自らものづくりを体験する。
板敷さんは、その経験が仕事のベースにあると話す。
「研修に行ったとき、石川さんという職人さんが近くにいて。ふわっとした自然体のベテラン職人で、ご機嫌そうに作業をされていたんですね」
「何をされているのか質問したら、『生地の断面に色をつけているんだよ。使い心地に変わりはないんだけど、やっぱりこっちのほうがいいと思うんだよね』と教えてくださって。本当にちょっとしたところにまで、こだわってつくっているのを実感したんです」
店舗は、土屋鞄のものづくりにかける想いを感じてもらう場所。
板敷さんの話を受けて、人事部の伊藤さんが言葉をつなぐ。
「だから、店頭に立つスタッフは、空気感もふくめてお店をつくる重要な役割です」
もともとは名古屋店に勤め、店舗運営部を経て、今は人事に関する仕事をしている伊藤さん。
店舗運営部にいた昨年、土屋鞄が大切にしていることについてまとめた冊子づくりに取り組んだ。
「それまでは、先輩から口伝えで教わったり、雰囲気を見ながら…という感じでした。ただ、人によって温度感も違うし、スタッフも入れ替わっていくもの。同じ方向を向けるようにと、言語化することにしたんです」
全店舗の店長から意見をもらいつつ、スタッフにも共有できるくらい腹に落ちる表現かどうか確認したり、何度も話し合い、内容を練り上げていった。
「ただ、これが絶対というものではなくて。つくる過程で大事にしていたのは、立ち帰る基準でありつつ、さらに良いものに変えていこうということ」
「今まで受け継がれてきたベースを共有した上で、自分なりのエッセンスをうまく融合していけるような方に来ていただけたら、店舗はもっと面白くなっていくと思います」
最後に紹介する杉田さんも、自分なりの工夫をお店づくりに活かしている方。
前職では、インテリア販売の仕事をしていて、店長も経験してきた。
昨年11月に土屋鞄に入社してから、横浜店や西新井本店、日本橋でのポップアップストアなど、いろんな店舗に立ってきたそう。
「そのなかで感じたのは、今のスタッフ同士のつながりを活かしつつ、さらに何かプラスすることで、土屋鞄のお店全体により動きが生まれるんじゃないかということでした」
杉田さんは、自発的にお店を活性化していくような仕組みをつくろうと考え、全国の店舗を取りまとめている酒井さんに提案。
具体的には、社内のコミュニケーションを円滑にするために土屋鞄で活用しているビジネス版Facebook上で、全国の店舗に勤める社員たちのグループを作成。気軽に相談やアドバイスできる環境を設けてみることに。
「というのも僕自身、前職では東京本社から離れた地方の店舗で店長を務めていて、距離感を感じることもあったんです。普段会うことのないお店のスタッフと気軽に意見交換できたら、より自分ごととして働けるんじゃないかと考えています」
お店での仕事は、基本的には毎日同じ業務を積み重ねていくものが多い。
そのなかでも、自分にできることを進んで見つけ、より良いお店をつくっていこうとしている杉田さんの姿勢が印象的だった。
そんな前向きな姿勢になれるのは、想いを受け止めてくれる人たちが身近にいるからかもしれない。
店舗スタッフは、全国転勤の可能性もあるとのこと。それは、いろいろな店舗を経験することで引き出しを増やし、お店づくりに還元してほしいという想いから。
ただ、すべての人が対象になるわけではなく、面談を重ねて決めていきたいそうです。
ここで働いている人たちは、お客さんとも一緒に働いている人とも、心地いい関係を育んでいると思いました。
8/31(金)には、土屋鞄の職人さんと店頭スタッフの方をゲストに、しごとバー「職人と仲間たちナイト」も開催します。
実際にお話しして伝わることが、きっとあると思います。
(2018/07/03 取材 後藤響子)