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和倉の夕日に染まる宿
四季折々の
能登に暮らせば

宿にはいろいろな役割があると思います。

旅の拠点としての役割。交流や出会いの場としての役割。あるいは、日常からひととき距離を置く役割もあるかもしれません。

能登半島の真ん中あたりに位置する石川県屈指の温泉街、和倉温泉。その奥座敷にひっそりと佇む「多田屋」が果たしている役割はなんだろうと考えてみると、「地域へといざなう宿」という言葉が浮かんできました。

今回はここで働く客室係を募集します。

どんな宿なのか。環境が素晴らしいところなので、本当は実際に泊まってもらうのが一番だと思うのですが、まずはこの記事を通して少しでも知ってもらえたらうれしいです。

 

能登空港から乗合タクシーに乗るか、金沢駅から特急に乗るか。

能登半島のほぼ中央に位置する和倉温泉駅までは、いずれを選択しても1時間弱で到着する。

駅からはマイクロバスで移動。七尾湾に面した温泉街のエリアには飲食店や宿が並んでいる。

かつては多田屋もこの中心地に宿を構えていたものの、昭和48年に少し離れた現在の場所へと移転。

その理由は、この眺めにある。

おだやかな七尾湾。遠くにのぞむ山々。ロビーから見える景色のなかで、飛び交う鳥たちと水面をゆく漁船以外にはほとんど動くものがない。

かと思えば、強い風が吹いて波が立ち、雷鳴がとどろく日もある。雨上がりにはよく虹がかかり、1日の終わりは夕日に染まる。

訪れる人にこの眺めを楽しんでもらいたい。そのための移転だったそう。

「こんにちは。わざわざ遠くまで、ありがとうございます」

ロビーのソファーに座りながらしばらく景色を眺めていると、そう声をかけられた。若女将の弥生さんだ。

もともと看護師の仕事をしていた弥生さん。6代目の多田健太郎さんとの結婚を機に、若女将になった。

「実家は小さな民宿をやっている」と聞かされていたものの、実際は明治18年創業の老舗。こんな道を歩むとは想像もしていなかったという。

「マニュアルもないので、最初はわからないことだらけでした。今もどういうおもてなしがいいのか、試行錯誤を続けていて」

たとえば浴衣合わせは必要なのか。お客さんによっては、部屋に数サイズ置いてもらって自分で選びたい、部屋にはあまり上がってほしくない、という人もいる。

ほかにも、食事や飲みものの注文にはiPadなどの機器を使ってもいいんじゃないか。予約管理のシステムを導入できないか。アクリル製のルームキーは、山や波の曲線をイメージした木製のものに変えよう。

“旅館のサービス”を一方的に提供するのではなく、どうしたらお客さんに喜んでもらえるかと考え、実践する。その繰り返しによって、少しずつ多田屋らしいおもてなしを形にしてきた。

新しい技術を導入したり、古い慣習を見直したり。

変化を遂げてきた一方で、多田屋が変わらず大事にしていることってなんだろう。

「わたしたちは一緒に働く仲間のことを、従業員ではなく家族だと思っています。新しく入社してきた人には、『多田屋ファミリーへようこそ』って言うくらい」

家族、ですか。

「仲良しごっこをしたいわけではなくて。たとえば、私生活が仕事に影響することって誰しもありますよね。そのときに『あの人機嫌悪いからほっとこう』じゃなくて、『何かしらあるだろうから今日はフォローするけど、わたしがしんどいときは助けてね』って。それぐらいお互いに関心を持って働きたい」

チームワークのよさは、お客さんにも自然と伝わるもの。

今回客室係として募集する人も、接客の経験やスキルは問わない。ここの雰囲気に親しめるかどうかが大事だと思う。

どんな人と働きたいですか?と投げかけると、弥生さんはじっくり言葉を選びながら、こう答えてくれた。

「何かにつまずいたことがある人のほうがいいかもしれない。挫折を知っている子は、やさしいんですよね。都会で心が折れたとか、自分の生活や生き方を見直したいなっていう、そんな気持ちでもいいと思う」

「わたしたちが何か言わなくても、この景色が癒してくれるし。空気も水も綺麗だし、温泉にも入れるし、食べものもおいしい。自分の失敗も、ここにいるとちっぽけに思えてくるんです」

 

続いて話を聞いたのは、客室係のチーフを務める山岸さん。

金沢出身で、信用金庫の窓口の仕事を経験したあと、多田屋へ。

小さいころから旅館やホテルで働きたいと思っていたそう。

「最初のきっかけは、映画か何かで見た外国のホテルだったんです。お客さんが来るときにおもてなしするドアマンがかっこいいなと思って」

入社後はいきなり客室係の仕事につくのではなく、フロントに立ったり、館内の飲みものを管理する料飲に関わったりと、さまざまな仕事を体験。

レストランでの誘導や料理のサーブなどの経験を積みながら、徐々に個室のお客さんの対応へとステップアップしていったそう。

「お部屋によって客層も変わってくるので、言葉遣いや振る舞いにも気を配ります。わたしの場合は、半年ほどで着物を着て個室に入らせていただくようになって、一番高いお部屋の接客までは1年弱かかりました」

失礼のないように、かつ親しみも感じてもらえるように。

お客さんの仕草や話し方、何より目をよく見ながら柔軟に対応していく。

「接客業ではありますが、話し上手でなくても大丈夫だと思います。わたし自身、宴会をわーっと盛り上げるのはあまり得意ではなくて、じっくりお話を聞くほうが向いていて。必ずしも明るい人でなくてもいいです」

大人数への対応、食事後の素早い片付け方、お酒に酔ったお客さんへのさりげない気配りや受け答え。ベテランのスタッフから学ぶことも多い。

反対に、IT化を進めている予約や注文のシステムなど、若い世代のスタッフが機器の扱い方を教える場面があったり、若手にこそ心を開いて語ってくれるお客さんもいたりする。お互いのできないことを補いつつ、できるところを活かし合えるのは、多世代が一緒に働く旅館ならでは。

また、客室係の特色のひとつが変則的な就業時間。

15時のチェックイン前に出社し、お客さんを出迎えて部屋までご案内。夕食の準備と提供、片付けをしてから21時ごろに帰宅。

朝は6時までには宿について、朝食の準備をする。チェックアウト時にお見送りをしたら、また次のお客さんのための準備をして、10時ごろからお昼休憩。一度自宅に帰ってお昼を食べたり、昼寝をしたり。そしてまた15時にチェックインのお客さんを迎える。

「とくにわたしは朝の早起きが大変で。生活リズムが変則的なので、そのサイクルに慣れるまでに時間がかかりましたね」

体力的に厳しい場面もありそうだけど、客室係として働く醍醐味はなんだろう。

「やっぱりお客さまからもらう言葉はすごく大きくて。わたし、山岸しほっていうんですけど、フルネームで名乗ると下の名前で呼んでくださる方も多いんです。『あなたのことは帰ってからも覚えてるよ』『また来たよ』って言っていただけるのはうれしいですね」

心に残ったお客さんとの出会いを、ノートに綴っている山岸さん。こんな話をしたとか、この言葉がうれしかったというふうに、記録をつけているそう。

その方と宿で再会したとき、「あのときあんな話をしましたよね」と思い出話をする時間がとても好きなんです、と教えてくれた。

 

客室係を経て、別の部署で活躍している人もいる。

現在は料飲担当として働く堀上さん。2年半前に日本仕事百貨の記事を読んで入社した方だ。

「それぞれ部署は分かれていますけど、ぼくがフロントや客室係のヘルプに入ることもあります。比較的新しく入ったスタッフを中心に、オールラウンドな体制をつくっているところですね」

もともと建築を学んでいた堀上さんは、その経験を活かして地元の若手建築家と共同でダイニングスペースを設計。

ほかにも、海外経験の長かったスタッフは外国人観光客からの問い合わせや各媒体の英表記に対応するなど、それぞれの得意分野を活かした働き方をしている人も。

堀上さんは、なぜここで働くことに?

「学生のとき、スペインやポルトガルの古い集落を見て回ったんです。それまでは建築が好きだったんですけど、旅を経て、形のない地方の豊かな暮らしに惹かれる部分があって」

「観光地化されていない無名の集落を回っても、修道院を改修したホテルやペンションがあって、その地で暮らすように観光できるヨーロッパの田舎の風景に感動して。能登にもそのポテンシャルがあるんじゃないかと思いました」

加えて、多田屋が運営するWebメディア「のとつづり」の存在も大きかった。映像や写真、文章を織り交ぜながら、能登の風景や文化、人など、四季折々の魅力を発信している媒体だ。

「その『のとつづり』の取り組みが、ぼくの考えていた一旅館のスケール感を超えていて。すごいなと思ったんです」

入社して2年間客室係として働き、今は料飲担当の堀上さん。

これまで働いてきて、感じることがあるという。

「正直に言えば、『のとつづり』の表している世界観と多田屋の空間には、まだ乖離があると思います」

七尾湾をのぞむ景観は素晴らしいし、料理には地元の食材をふんだんに使っている。ただ、能登の魅力を宿泊者に伝えきれているか?というと、改善の余地はある。

そこで堀上さんは、ドリンクメニューの改良に取り組んだ。

「果実酒や焼酎、日本酒など、能登でつくられているものばかりを集めて。各酒造の特徴や味わいについても細かく書いています。こうして一つひとつをブラッシュアップしていくことで、能登の魅力と宿が少しずつリンクしていくんじゃないかなと」

休みの日には能登のあちこちを旅して回るという堀上さん。最近は業務スーパーで水揚げされたばかりの魚を買って、さばくことにはまっているそう。

ここでの暮らしを楽しむことが、いい仕事につながっているのかもしれない。

「最近このあたりには、素晴らしいフレンチやイタリアンのお店が増えてきていて。自分で食べていれば、お客さまにも『ランチにいかがですか?』とご紹介できますよね。なので、なるべく足を運ぶようにしています」

「能登の魅力の発信源になることで、地域に愛される旅館をつくっていく。それも客室係のひとつの仕事だと思っていて。…なんて語っていますけど、実際はシンプルに楽しんでいるんですよね。話してるとつい真面目になっちゃう(笑)」

 

取材を終えて、一泊。

夕食は、能登の食材を一つひとつ紹介してもらった。ちょうどいい量を、ゆっくり食べたくなる食卓。

今年改装したばかりという温泉も気持ちがいい。

夜はぐっすり眠ってしまって、朝食ギリギリの時間に起床。

「今朝の虹、ご覧になりました?」

朝食の席で、そんなふうに聞かれた。ああ、見逃してしまった…。

「あら、残念。これからの時期はたびたび出るんですよ。また来てくださいね」

ぼくは見逃してしまったけれど、虹が見れるかもしれないし、冬の食材もおいしい季節です。

もし時間があれば、一度多田屋を訪ねてみてください。

(2018/11/1 取材 中川晃輔)

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