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「子どもたちの生活のなかに、できるだけ『本当のこと』がたくさんあったほうがいいと思うんですよね」
本当のこと?
「登り棒やジャングルジムじゃなくて、木に登る。すべり台じゃなくて、自然の小山を滑り降りる。自然から抽出した形で遊ぶより、自然そのもので遊ぶほうが絶対にいいだろうなと思うんです」
空飛ぶ三輪車のみなさんとの、そんなやりとりが印象に残っています。
空飛ぶ三輪車は、東京・東村山で自然保育を行う保育所。四季折々の外遊びや園内の畑や田んぼづくり、生きものとのふれあいなどを通じて自然から学ぶことを大切にしています。
何かを教えてくれる“先生”はいません。大人も子どもも名前で呼び合い、同じ目線で日々を過ごします。
今回は、この園を一緒につくっていく人の募集です。
これまでは0〜6歳の乳幼児の保育が主でしたが、今後は小学生の放課後の居場所づくりも本格化していく予定。そのため、学童のスタッフやその基盤づくりに携わる事務スタッフも求めています。
東村山市内に2つある園舎のうち、秋津保育所を訪ねました。
都心から電車を乗り継ぎ、およそ1時間で新秋津駅に到着。同じ東京都内とは思えないような、ゆったりとした空気が流れている。
神社で太極拳にはげむ人たちを横目に、住宅街のなかを歩く。駅から10分ほどで秋津保育所が見えてきた。
園舎の建て替え中ということで、今は一時的にプレハブの建物で日々を過ごしている。新園舎での生活をはじめられるのは5月ごろだそう。
絵本の読み聞かせに釘付けな子どもたち。かわいいなあ。
でも、ここからが空飛ぶ三輪車の本領発揮。天気が悪くなければ、毎日のように外へ遊びに出かける。
2グループに分かれるとのことで、片方について八国山緑地へ。
ここは「となりのトトロ」の舞台にもなった場所で、だだっ広い公園内にはさまざまな生きものが棲んでいる。
到着するなり、子どもたちは四方八方に駆け出す。自作の風ぐるまを手に、走ったり、息を吹きかけたり、風向きを感じてみたり。どうしたら羽が回るかを試行錯誤しているみたいだ。
「仕事しているというより、この場所、この季節のなかで子どもたちと暮らしている感じに近いんですよね」
そう話すのは、八木田好葉(やぎた・このは)さん。昨年4月から空飛ぶ三輪車に加わり、子どもたちと関わりながら保育士資格の取得を目指している。
「園の畑で作物を育てたり、北風のなかで落ち葉のお風呂に浸かったり。年中ぐらいの子でも、縄をなえるのにはびっくりしましたね。その縄で縄跳びをはじめたりして」
高校生のころから自然教育に興味があり、大学でも教育学を専攻。
小さいころは「なんでも食べちゃう子」だった。
「この公園のこの木のさくらんぼはおいしいとか、ヤマモモはここにいっぱい成るとか。なんでも知ってましたね。晩ご飯のおかず採ってきたよ〜って言って、ノビル抜いたり、タケノコ掘って帰ったり(笑)。わたし自身、自然が好きだったので、大人になってもそのよさを伝えたいなあと思っていました」
そんな好葉さんでも、空飛ぶ三輪車の子どもたちには驚かされることが多いという。
「前にお泊まり保育で、磯遊びをしたんですね。その翌日に鴨川シーワールドに行ったんですけど、子どもたちが水槽の中を見て『これ、昨日とったお魚だよね?』って言うんです。で、ちゃんと合っているんですよ」
「子どもたちの中に、自然が先にある。それはスーパーの野菜がもともとどんなふうに植わってる?というのも一緒で。つくる過程や生きた姿に触れていることって、すごいなって。この子たち、生きているなと思うんです」
子どもや、子どもを介した自然から学びを得ることがたくさんある。
だから、空飛ぶ三輪車には「先生」がいない。年齢は違っても、同じひとりの人として関わり合っていく。
とはいえ、大人たちが責任を持つべき仕事もある。そのひとつが危機管理だ。
「わたしはまだ就職して1年も経っていないんですけど、慣れている職員の動きを見ているとまだまだだなって思わされますね。遊び方の大胆さとか、大事なときの注意の引きつけ方とか。言いたいことが伝わらなくて悔しいときもあります」
ルールや決めごとを増やさず、安全にどれだけ思いきり遊べるか。その塩梅は経験によって培われていく部分もあるし、時間をかけて関係性を築いてこそ、子どもたちに伝わることもある。
今回の募集も、できれば長く働ける人に来てほしい。
「大事なのは『子どもが好き』という気持ちだけではないような気がします。子どもたちと、この野山と季節の中で一緒に暮らしをつくっていきたい。そんなふうに思える人に来てもらえたらうれしいですね」
続いて、もうひとつのグループが向かった運動公園へ。
林道を歩いていくと、向こうから何人かが走ってきて「原っぱ行こー!」と連れていかれる。
子どもたちに囲まれながら話を聞かせてくれたのは、一由明(いちよし・めい)さん。
結婚を機に引っ越すため、もうすぐここを離れることが決まっている。
「もともと保育の学校に通っていて。実習先の先生が常に怖い顔をしていたんです。それで、保育士になってどういうところがよかったと思います?と聞いたら、『子どもを自分色に染められること』って返事がかえってきたんですね」
「先生ごとにクラスの特色って出るじゃないですか。きっとそういうことだろうと思うんですけど、深くその真意まで聞けなかったのもあって、その言葉が衝撃的で」
一時は保育士になるのはやめようかな、とも思ったそう。
そんなタイミングで、日本仕事百貨の記事を通じて空飛ぶ三輪車の取り組みを知ったのが5年前。
まずは見学に来てみることに。
「その日はちょうどお誕生日会をやっていて。1つ歳を重ねる子たちが、家族のように総出で祝福されている。その温かい雰囲気がすごくいいなと思いました」
その後も何度か遊びに来るうちに、子どもたちが自然と戯れながら遊んでいる姿に心惹かれたそう。
「昨日も、朝露がついて凍った葉っぱを探しに行って。それを子どもたちは、宝石を見つけたかのようにキラキラした目で見ていて。ねえ、見て見て!っていう、その目のほうが輝いてるんですよ(笑)」
「日々何かしら起きるので飽きないですね。大人だって一人ひとり違うけれど、子どもには常識では隠れない自由さがあって。そこが難しくもあり、面白いところでもあります」
以前は虫が苦手だったという明さん。
部屋に出てきたら今でも嫌だけれど、林や原っぱで子どもたちと一緒にいる間は、だんだん面白く見えてくるのだとか。
「こんなところに目がついてて、こんな足の生え方しているんだ!って。子どもの目線だと見れちゃうし、触れちゃうんですよね。気持ち悪い…より面白い!が勝つというか」
空飛ぶ三輪車を卒園した小学生が遊びに来ることもある。
人日の節句に、七草を摘みにいったときのこと。
「小学3、4年生の女子って、おませさんじゃないですか。『え〜、どの草…?』みたいな口調なのに、ガシガシ森に入っていって最後まで真剣に探してるのはその子たちで(笑)。ここで過ごした時間がしっかり根付いているんですよね」
七草を採り終えたら、園に戻って七草粥に。普段の食卓にも、種まきから収穫まで自分たちで育てた野菜がずらりと並ぶ。
自分の手でつくったり採ったりしたものだからこそ、給食をみんなよく食べるし、好き嫌いも少ないという。
こんなふうに続いていく出来事の一つひとつが空飛ぶ三輪車の日々であり、仕事であり、暮らしでもある。
ほかの園から移ってきた保育士からは、「わたし遊んでいるだけなんですけど、いいんですか?」と言われることさえあるそうだ。
「自分の子どもを通わせながら働いている人も結構います。保育の現場での親子関係は難しいという声もありますけど、わたしはそれはいいことだと思っていて」
「ともに育つ、育てるというのが、空飛ぶ三輪車がここまで続いてきた根源だと思うので。たとえば今小さなお子さんがいて、これからどうやって育てていこうかと考えている人なら、ここで働く意味を感じやすいかもしれないですね」
話すことや歩くこと、自然のなかで遊び方を見つけること。新しい気づきや学びにあふれたこの時期を、我が子と一緒に過ごせる仕事ってなかなかない。
仕事と暮らしや子育てとのバランスをとるのではなく、互いに混ざり合うような働き方を模索できる環境だと思う。
園に戻って最後に話を聞いたのは、秋津保育所の施設長を務める横須賀麻衣さん。
麻衣さんは空飛ぶ三輪車の一期生。園の成り立ちから今に至るまでを見てきた。
「楽しいとか、きれいだなとか、おいしいとか。そういう気持ちがないと、何事も続かないですよね。農的な暮らしも、子どもと一緒だから成り立っていると思うんです」
大人だけだと真剣になりすぎてしまうところを、子どもたちがその無邪気さで和らげてくれることもある。
「毎年植えるミニトマトを、子どもたちは大人の目を盗んでこっそり食べに行く。赤くなるのを今か今かと待って、にかーって笑いながら、半分ぐらい緑色なのに食べちゃう。…もちろん、全部バレているんですけどね(笑)」
「そういう姿を見ていると、今一番大事なことを経験しているんだなと思うんです」
とはいえ、園の運営には課題も感じているという。
「わたしたちの取り組みってコストが大きいんですね。農業だって種まきから子どもたちと一緒にやろうとするから、本業の農家さんのやり方からすれば何倍も時間がかかります」
「アナログの価値を残していくためにも、書類の整備や契約の手続きなどはデジタルに落とし込んでいきたいですし、これから小学生の放課後の居場所づくりもはじめます。そのあたりの整備を進めてくれる事務スタッフが今必要で」
一般的な基準よりもスタッフの数が多い空飛ぶ三輪車。見守ってくれる人が多いのは子どもたちにとってよいことだけれど、なかなか給料を上げられないというジレンマも抱えている。
事務作業を効率化し、設備や仕組みの面でも体制が整ってくると、そのジレンマを少しは解消できるかもしれないし、子どもたちと向き合う時間をもっと増やすこともできそうだ。
「保育になんらかの課題感を持っていて、自ら変えていきたいという人と働きたいですね。ここで学んで次の場所に向かう人よりは、ある程度定着して一緒にこの園をつくっていきたいという人が来てくれたらうれしいです」
東京都内で自然保育を続けること。自然豊かに見える東村山市でも、それは少しずつ難しくなってきているといいます。
最近も遊び場のひとつだった林が立ち入り禁止になってしまったそう。
でも、だからこそ、ここでやることに意味があるのかもしれません。
子どもたちと一緒に、楽しみながら暮らしをつくっていく。きっと飽きることはない毎日が待っていると思います。
(2019/1/11 取材 中川晃輔)