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「たとえば、道端に生えている草花。かわいいな、きれいだなって思う以上に、なんていう植物だろうとか、どうしてここに生えているんだろうとか。ただの“好き”がどんどん深まっていくような。ここで働いていると、そんな感覚があるんです」これは、群言堂のお店で働く森田さんの言葉です。
麻を織り上げたワンピースや、ウールで仕立てたコート。柔らかい綿のストールに、島根・石見銀山で採取した梅花酵母の化粧品。
群言堂は、職人さんの手仕事でつくられた洋服や雑貨などを販売しているお店です。
母体となっているのは、石見銀山生活文化研究所。昔ながらの暮らしや文化を、石見銀山のある島根県大森町から発信し続けている会社です。
今回は、全国各地にある群言堂の店舗で働くスタッフと、本社で働くパタンナーを募集します。
取材に訪れたのは、神保町駅から歩いて5分ほどの場所にある群言堂の東京オフィス。東方学会本館という、大正時代につくられた建物の一室に事務所を構えている。
最初に話を聞いたのは、KITTE丸の内店で働く八巻(やまき)さん。
「小さいころから、お菓子屋さんになりたいっていう夢があったんです。群言堂に入社する前は、ケーキ屋さんや和菓子屋さんで働いていて」
「お菓子づくりはもちろん、お客さまと話すのが好きだったんですよね。和菓子屋さんで働いて5年くらい経ったときに、群言堂で働いている古くからの友人が『よかったらうちで働かない?』と誘ってくれたのが、入社する最初のきっかけでした」
ただ、接客業に長く携わってきたとはいえ、服や雑貨を販売する仕事は未経験。誘われたときは不安も大きかったそう。
「人生の岐路って、いろいろあるじゃないですか。お誘いをもらったとき、ちょうど50歳になるタイミングだったんです。50歳を越えると、体の不調が現れやすくなったり、働きたくても断られちゃったり…。そんな現実があるっていうことを、まわりから聞いていて」
「新しいチャレンジをするとしたら、今が決断のタイミングだなって思ったんですよね。むしろ『あ、これはチャンスかも』って」
チャンス?
「なんだろう…もう一花咲かせたいというか(笑)。洋服を売るのって、自分のなかですごく華やかなイメージがあったんです。その世界に立てるチャンスがあるなら、飛び込んでみるべきじゃないかって。今思い返しても、よく踏み切ったなって思います」
入社後はまず、吉祥寺店に配属された八巻さん。
働きはじめて、どうでしたか。
「掃除は本当にすごいなって思いました。毎日、開店前も営業中も、合間を見つけては細かいところまできれいにする。お客さまをおもてなしする気持ちを、まずお掃除で示すんです」
机は上に置いてあるものを一つ残らず持ち上げて拭いたり、踏み台がないと届かない場所や、試着室のマットなど、普段は目につかない細かなところまで気を配ったり。
掃除をすることで空気が変わる。
すっきりと澄んだ空間には、お客さんが自然と吸い込まれてくる。
「群言堂の雰囲気って、とてもあったかいなって思うんです。それはきれいな空間を保っていることもそうですが、“石見銀山の暮らしを伝えたい”という根っこが、私たち伝い手がいる場所にしっかり根付いているからだと思っていて」
石見銀山の暮らし。以前取材で大森町にある本店を訪れたときも、群言堂のみなさんは度々この言葉を口にしていた。
たとえば、古民家を改修してつくられた他郷阿部家という宿。
竃からパチパチと火のはぜる音が聞こえ、炊きたてのご飯をおむすびにしていただく。料理や掃除、生活のあらゆる部分に昔ながらの作法を取り入れながら、それだけに固執しない柔軟さを持って運営している。
土地に根付く暮らしが大元にあってこそ、伝えられることがある。この感覚を、群言堂の人たちは前提として共有しているのだと思う。
「わたしもここで働き始めてから、おうちでも一輪挿しを活けたり、暇がないと言ってしばらくやっていなかったお菓子づくりをまた始めたりして。自分の暮らしを見つめ直すきっかけにもなっています」
お店で過ごすうちに、働いている人も暮らしと仕事がゆるやかにつながっていくような。そんな場所なのだと思う。
続いて話を聞いたのが、日本橋のコレド室町店の店長を務める森田さん。
「以前はホットヨガスタジオでインストラクターをしていました。仕事と身体のバランスがうまく取れなくなってきたなと感じていたときに、ちょうど日本仕事百貨の記事を読んだんです」
「暮らしを大事にしているところとか、お店や働いている人の温度感とか。そういうものにすごく惹かれて応募しました」
入社してから4年間、ずっとコレド室町店で働いてきた森田さん。お店の雰囲気が気に入っているそう。
「一つひとつの商品に、背景とかストーリーがあるんですよね。それを知ることで商品に愛着が湧くし、そういう物に囲まれている空間にいると、なんだか落ち着くんです」
たとえば、石見銀山の里山で採れる植物を使って染めた服。学生時代に染色の勉強をしていた本社スタッフが、周辺で自生している植物を集めては煮出し、色を出す実験を繰り返した末に完成したものだそう。
よもぎや山桃、桑など…。 100種類以上の植物が織りなす色味は、機械では再現できないし、商品そのものに深みを与えてくれる。
そうやってお客さんに話せることがあると、聞いている側も自然と心惹かれて、自分から話し出しくれることもあるという。
雑貨でもそれはおなじこと。
森田さんがお気に入りと話してくれたのが、「おきあがりかあさん」。会津の起き上がりこぼしの職人さんと一緒につくったものだそう。
「お客さまには主婦の方も多いので、興味を持ってくれる方が多くて。『あなたはいつだっておきあがる』っていうキャッチコピーが、すごく素敵じゃないですか。お客さまと話していると、『いや、わたしは起き上がらずに寝ていたいなぁ』っておっしゃる人もいたり(笑)」
「あるときは、介護で苦労をされているお客さまが、この商品を手にしてすごく励まされたって涙ぐみながら話してくれたときがあって。そうやってお客さまとの間につながりが生まれるというのは、商品一つひとつに背景やストーリーのある群言堂だからなのかなって思うんです」
石見銀山の暮らしや、日本のものづくりのストーリーを伝える。すると、お客さんとの間で会話が始まり、自然と商品を手にとってもらいやすくもなる。
物語をゆるやかに共有する仕事。森田さんの話を聞いていると、そんなふうに思えてくる。
加えて、「スタッフ同士の関係づくりも大切」と森田さん。
たとえばコレド室町店では、森田さんの提案で交換日記のようなことをしているそう。
仕事以外で興味があることについて書いてみたり、お店のお気に入りの商品を取り入れたコーディネートを提案したり。負担にならず、みんなが楽しめるように工夫しながら取り組んでいる。
「“得意”と“好き”って、バランスがあると思うんです。たとえば陳列やPOPをつくるのが得意なスタッフがいて、全部任せちゃうことがあったりする。でも、得意だけどあまり好きじゃないことってあるじゃないですか。だからお互いをちゃんと知ることが大事で」
「今は店長をやらせてもらっていますが、わたしもグイグイ引っ張るタイプじゃないので(笑)。スタッフが好きや得意を生かしてそれぞれ引っ張っていけるような環境にできたらいいなと思って、“渡り鳥作戦”をやっているんです」
渡り鳥作戦、ですか。
「渡り鳥って、群れで逆V字になって飛ぶんですって。その一番先頭にいる鳥は、交代しながら飛んでいるって聞いたことがあって。一緒に働いていると、今日はいつも以上に接客がいいなとか、包むのが早いとか、調子のいいスタッフっているんです」
「そういうときは、その人に引っ張ってもらう感じでお店を回していく。だから、日によってチームの形を変えていく柔軟さも大事なんですよね。たとえば接客が重なってしまったときに、自然な流れでフォローできるとか。そんなふうになれたら最高だなって思います」
群言堂の名前の由来は、“みんなでワイワイ発言しながら、よい流れをつくっていくこと”。
今までと同じことを繰り返すのではなく、まわりに気を配り、より良くなるための方法を探るような。そんな心持ちがここでは大切なのだと思う。
そして今回は、本社で働くパタンナーも合わせて募集する。
店舗スタッフは経験を問わないけれど、パタンナーは実務経験が3年以上ある人が望ましいとのこと。
CADを使ってデザイン画を元に型紙をつくったり、生地の特徴を踏まえて縫い方を考え、仕様書を作成したり。石見銀山の空気を感じながら、一つひとつ時間をかけて服をつくり上げていく。
ファストファッションとは異なる、月日をかけて育てていくようなものづくり。そんなこだわりが持てるものづくりに興味がある人だったら、やりがいのある環境だと思う。
店舗スタッフとパタンナー、それぞれどんな人がいいだろう?と考えていると、取材に同席してくれていた人事の伊藤さんが応えてくれた。
実は、八巻さんを群言堂に誘ったのは伊藤さんだったそう。前職のお店での立ち居振る舞いや接客を見て、声をかけたという。
「八巻さんの人となりとかまじめさに惹かれたんですよね。まじめさに勝るものはないと、個人的には思っていて。あとは得意じゃなくてもいいので、人が好きで、興味を持って接することができるっていうのが大事だと思います」
「どうしたら石見銀山の暮らしを伝えられるんだろうって、不安に感じる人もいると思うんです。でも、お店で働いたり、研修で石見銀山の本店に行ったりするうちに、みんな空気に馴染んでいくというか。そこで感じたことを素直に表現してもらえたら、それで十分。経験や知識はあとからついてくるので」
単純にものを売っているだけではなく、商品の背景やスタッフの人柄。目に見えないものを通して伝わることが、みんなで共有できる。そんな場所なのかもしれない。
暮らしと仕事をひとつなぎに、みんなでよい流れをつくっていく。
大森町から遠く離れた東京のお店でも、その空気や価値観が共有されているのはすごいことだなと思いました。
日々の掃除やものとの向き合い方。お店のスタッフである前に、ひとりの生活者としての感覚を共有する。
その積み重ねによって、群言堂の雰囲気はつくられているのだと思います。
(2019/11/13 取材 稲本琢仙)