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大きな社会不安に包まれたとき、アートやデザインの力で直接その原因を取り除くことは難しいかもしれない。
一方で、人々がその困難から回復していくために必要な、勇気やエネルギーの源になるのは、やっぱり優れたアートやデザインの存在ではないかと思います。
美しい作品に癒されたり、ユーモラスな表現に和んだり、驚きや、ときには物議をかもし、人の考えや行動に影響を与えることもできる。
多くの表現活動やイベントが、世界的に制約を受けた2020年。DESIGNART TOKYOは、なんとか安全に実施する方法を模索しながら、進んでいくことを決めました。
2017年にはじまったこのイベントは、現代アートや建築、インテリア、プロダクト、ファッション、工芸などあらゆるジャンルのクリエイターが垣根を越え、東京の街で一堂に会するフェスティバル。ショップや見慣れた風景が、作品展示を通して異なる表情を見せてくれます。
観客として眺めるだけでなく、アーティストとコミュニケーションをとったり、ときには作品を購入したり。これまで枠の外にいた人も巻き込みながら、人とアート、デザインの距離感にさまざまな変化を起こしてきました。
今回は、その運営をサポートするボランティアスタッフを募集します。事務局サポートやウェブ制作、デジタルPRなどに携わる予定ですが、リモートでの作業も含めてフレキシブルな関わり方ができるように検討しています。
アートやデザインについての経験や知識は問いません。真摯に楽しむ気持ちを持って、イベントをサポートしてくれる人を探しています。
敷居が高いと思われがちなクリエイティブ業界ですが、ボランティアの経験を通して最初の一歩を踏み出した人も少なくありません。きっと報酬に代えがたい経験ができると思います。
訪ねたのは、南青山にあるDESIGNARTの事務所。リモートで働いているスタッフも多いためか、いつもより静かな雰囲気。
まずは代表の青木さんにお話を聞かせてもらう。
DESIGNARTについての取材はこれで3回目。これまでイベントを開催するうえで、大きなテーマのひとつでもあったのが、パブリックアートの普及という視点。
つい先日もDESIGNARTのプロデュースで、東京に新しいアートスポットが誕生しましたね。渋谷MIYASHITA PARKの作品、Webで拝見しました。
「ありがとうございます。新しい渋谷のアイコンをつくるという意味もあって、現代アーティストの鈴木康広さんに制作をお願いしたんです。子どももお年寄りも、みんなが共感できる作品をつくれる方だから」
宮下公園は再開発によって、ひとつの都市公園から、ホテルや商業施設が一体となったスポットへリニューアルしたばかり。その一角に現れたのは、《渋谷の方位磁針|ハチの宇宙》と名付けられた大きな円形の作品。
「これは直径6mくらいの大きなベンチになっていて。宮下公園って、もともと南北に細長い形だから、鈴木さんはそこから着想してコンパスをかたどったベンチができたんです」
「そばにはコーヒーショップもあるし、夜になったら照明も入るので、友達と話したりデートを楽しんだりする場になったらいいなと思います」
その輪の中心にいるハチ公は、駅の改札ではなく空を見上げている。視線の先には、星になった飼い主の上野教授がいるというコンセプトなのだそう。
生まれ変わったまちのなかにも、みんなが知っている渋谷のストーリーが織り込まれていて、なんだかほっとする。アートがひとつあるだけで、空間に対する意識や、そこにいる人の気持ちも変わっていくような気がします。
「パブリックアートはこれからもっといろんな場所で必要とされるはず。まちの開発が進むと、グレイッシュなビル群になりやすいんですけど、アートがあることで記憶を呼び起こしてくれるきっかけになり、街全体の印象も変わってくると思います」
多くの人が行き交う東京の街が舞台のDESIGNART TOKYOはまさに、その可能性の広がりを示すイベントでもある。
ファッションブランドのショップや、インテリアのショールームなど、一つひとつが街の特色ともなるような個性ある空間に、新人から大御所までさまざまなアーティストやデザイナーが作品を展示していく。
ホワイトキューブではないからこそ、空間と作品がインスタレーションのような調和を見せたり、空間からインスピレーションを受けて作品が生まれたり。
ファッションやインテリア、アート、工芸など、さまざまなジャンルの人たちが出会うこのイベント。会期中のトークイベントなど、人とのコミュニケーションも、場の空気を醸成していく大事な要素のひとつ。
ただ今の状況では、例年のようにカンファレンスを実施するのは難しいですよね。人との交流がイベントの醍醐味でもあるだけに、開催に対して迷いもあったのではないでしょうか。
「そうですね。ただ幸いにも、DESIGNART TOKYOは分散回遊型のイベントなので、密集の状況を避けやすい。作品に出会うというフィジカルな体験の価値は残しながら、ディスカッションなどはオンラインを活用して進めていきます」
「僕たちはインディペンデントな組織だからこそ、現場で有効な安全対策を講じながら、この状況でも何かできるんだという、可能性を切り拓く役割を果たすべきだと思ったんです」
実施の方向性が定まってコンテンツを考えていくうちに、オンラインツールの長所も見えてきた。
対面のイベントよりも多くの人と同じ時間を共有できるし、これまで地理的要因で出会えなかった人とも、新たな接点をつくれる。
さらに今年は初めて、アーティスト本人による作品プレゼンを配信するための動画チャンネルを開設するなど、結果としてコンテンツが充実していくきっかけになった。
新しい試みが多いからこそ、現場で細やかな対応ができるボランティアスタッフの役割は大きくなりそう。
「特にデジタルPRの面では、とても期待をしていて。SNSって年代や人によって使い方も全然違うので、ボランティアの方からも積極的にアイデアを出してもらいたいんです。ときには広報のための撮影や、ライティングをお願いするかもしれない」
「言われた事をやるだけじゃなくて、自分も一人のクリエイターだと思って取り組んでもらえるといいですね。これから業界を目指す人にとっては、学ぶ機会の多い場だと思います。僕ももともと2000年前後で開催されていた『ハプニング』っていうデザインイベントのボランティア出身だからよくわかる」
ボランティアは、アートやデザインに関わる仕事の現場を経験できるだけでなく、実際にそれらの業界で働く人との出会いも多い。
同じプロジェクトに向かっていくなかで生まれる信頼関係が、仕事につながることもある。
10月の開幕に向けて、これから準備は佳境に入っていく。まもなく発表される今年の企画について、少しだけ教えてもらった。
たとえば、表参道のワールド北青山ビルで開催される「ニューホームオフィス」展は、今多くの人が関心を寄せているテーマに沿ったもの。
「今リモートワークといっても、ちゃんとしたデスクセットがないまま仕事をして、腰を悪くする人が増えている。それで最近、椅子の需要が高まっているんですよ」
展示ではヴィトラやムート、エミューなど、デザインと機能性に定評のあるブランドの家具を紹介。オフィスチェアだけでなく、テラスで使える屋外用家具なども並ぶらしい。
単なる商品紹介というよりは、そのデザインを通して、自分自身の働く環境についてイメージを膨らませるきっかけになりそう。
最近は家で過ごす時間が増えて、居住空間に対する美意識も変わってきましたよね。オンラインミーティングで他人に部屋を見られることもあったりして。
「そうそう。それで、自分の家に小さなアートピースがほしいっていう人も多くなってきて。最近は東京のインテリアショップでもアートを扱うお店が増えてきました。そういう環境の変化は、DESIGNARTを3年間やり続けてきた成果の一つかもしれません」
アートやデザインをもっと身近に感じてもらうタッチポイントであるために、取り組みを続けていくDESIGNART。
その初年度から関わっている山嵜(やまざき)さんにも話を聞かせてもらった。もともとはインテリアのバイヤーで、青木さんとは 20年来の仕事仲間だという。
山嵜さんが主に担当しているのは、どの作品をどの会場で展示するかというマッチングコーディネートの部分。
さまざまな個性が集まるイベントだからこそ、組み合わせを考えていくのは難しそう。
「人の相性から考えることも多いです。ただ、あまり当たり前のものを組み合わせて予定調和になるよりは、それぞれの可能性が広がるように、異なるものを交えながら考えています」
たとえば昨年は、インテリアショップ「B&B Italia」を会場に、ファッションブランド「SOMARTA」のデザイナーがインスタレーション展示を行った。
モチーフとなったのは、色とりどりのレザータイル。ただ平面上に並べるのではなく、立体的なオブジェとして空間に取り入れられた。
「カラフルな色使いも、ファッションデザイナーらしいですよね。私たちも長く同じ業界にいて、正解のパターンに頼ってしまいがちなんですが、もっと殻を破って新しい発想が生まれるような組み合わせを考えていくことが、DESIGNARTの役割なのかなと思います」
異なるバックグラウンドを持った人同士の発想が出会い、新しい変化を起こしていく。
クリエイターだけでなく、ボランティアとして参加する人が新しい視点を持ち込んでくれることにも期待したいと山嵜さんは言う。
「業界未経験の方でも尻込みせずに入ってきてほしいです。アートやデザインの入り口に立ったときの気持ちって貴重な意見だと思うので」
経験よりも大切なのは、このDESIGNARTという場を一緒につくっていきたいという、真摯な気持ち。
人が楽しむことを、自分の喜びに変えられる人なら、きっと力を発揮していけると思う。
「会場でお客さんと接することもあると思うのですが、そんなときに自分の笑顔や対応ひとつで、お客さんの体験をもっと価値あるものに変えられるんだという意識で取り組んでもらえたらうれしいですね」
多くの人が関わって、ひとつのイベントをつくっていく。
今年は例年以上にフレキシブルな対応を求められる場面も多いかもしれない。
揺れ動く社会情勢のなかにあるからこそ、あらためてアートやデザインの力が問われるとき。
これから業界を目指す人にとっては、ここでの経験が大きな糧になると思います。
(2020/8/7 取材 高橋佑香子)
※撮影時にはマスクを外していただいております。