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やると決めたらやる人たち
たなべで始める
暮らしとつながるまちづくり

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

地域活性化やまちおこし。全国各地で、地域をよりよくしたいという思いを持った人たちが活動しています。

一方で、思いだけでは続けていくことができないのも現実。お金や人、アイデアなど、さまざまなものが循環することで、地域は持続的に“活性化”していくのだと思います。

和歌山県田辺市(たなべし)。海と山に囲まれ、世界遺産である熊野古道のルートにもなっているまちです。

今回は地域おこし協力隊として、2つの団体でそれぞれ働く人を募集します。

ひとつは、みかんや梅の栽培、ジビエの活用といった事業に取り組みながら、新しい農業のあり方を模索している株式会社日向屋(ひなたや)。そしてもうひとつが、田辺市の北部、龍神村で新たな観光モデルづくりに取り組んでいる株式会社龍神村です。

どちらも地域住民が主体となって立ち上げた会社。今後より幅広く活動していくために、外からの視点をもつ「よそ者」を求めています。


田辺市へは、大阪から特急くろしおに乗って2時間。

JR紀伊田辺駅に到着して、まず向かったのは駅前のコワーキングスペース。ここで、田辺市役所たなべ営業室の平谷さんに話を聞かせてもらう。

「田辺市では過去に2度、地域おこし協力隊を受け入れています。当初から、市役所で働いてもらうのではなく、協力隊と一緒にやりたいことがあるという民間団体を公募して派遣する方式をとっているんです」

派遣先となる団体の選考基準は、公益的な活動をしているかどうか。そして外からやってくる協力隊が、熱意を持って取り組める仕事を用意できるか、という点だ。

過去には道の駅の企画運営やそばの栽培など、8つの団体が受入先になってきた。

任期が終了した5人のうち3人はそのまま田辺市に住み続けていて、今年度で任期が終了する3人もここで暮らし続ける予定だそう。

「事務作業だけとか、雑用係みたいになってしまうともったいないし、地域外から来てくれた意味がないと思うんです。地域に入り込んで、暮らしも仕事も地元の人と一緒になって活動してもらう。それがまちと協力隊、双方にとっていい結果につながると思います」

「それぞれの団体が熱い思いを持って活動しています。地域の人の思いと、協力隊としてチャレンジしたいという思い。両方を大事にしながら動いていける人が来てくれたらいいですね」


今回の公募ではふたつの団体が選ばれた。まずはひとつめの団体、株式会社日向屋を案内してもらう。

向かったのは、JR紀伊田辺駅から車で20分ほどの距離にある上芳養(かみはや)地区。果樹栽培が盛んな地域で、道沿いには梅林やみかん園が広がっている。

到着したジビエの加工処理施設「ひなたの杜」で迎えてくれたのは、日向屋の岡本さん。

「ここは上芳養のなかでも日向って呼ばれている地域です。僕は農家もしてるんですが、鹿や猪の鳥獣被害が深刻で、ひどいときはみかんも木ごと折られてしまう。なんとかせなあかんなと、若手農家が集まって4年前に狩猟チームを立ち上げたのが、日向屋のはじまりですね」

集まったメンバーで狩猟免許を取得し、鹿や猪の捕獲を進めていった。

ただ、農作物の被害は減ったものの、自分たちの手で動物の命を絶つやるせなさも大きくなっていったという。

「猪を捕まえてもその先がなくて、殺して埋めるしかなかったんです。猪を棒でどついたことないでしょ? 感触とか、そのときの感情とか… あれはやらんと伝わらんと思う」

命を無駄にせず、活かしていくにはどうすればいいのか。

そう考えてたどり着いたのが、ジビエとして食べてもらう仕組みをつくることだった。

地区の人の賛同も得て、民間のジビエ加工処理施設を誘致したのが3年前のこと。現在は解体の専門家やフレンチのシェフも仲間に迎えて、ジビエの活用と普及に取り組んでいる。

また、獣害と並んで地域の課題だった後継者不足や耕作放棄地の増加も解決しようと、狩猟メンバーを中心に株式会社日向屋を設立。

高齢で作業が困難になった農家さんから農作業を受託したり、みかんや梅、ジビエの加工販売に取り組んだりと、活動の幅を広げてきた。

今回協力隊に来てもらいたいのも、新しいチャレンジをするために外からの視点が必要だと考えているからだそう。

「Iターンで来てくれたメンバーのアイデアで、カフェをやってみようかって話が出ているんです。ほかにも、将来的にはゲストハウスもいいんじゃないかとか、地元の人間だけじゃ具体的にイメージできなかったアイデアを出してくれていて」

「地域に新しい風を吹かせるのは、よその人間だと思うんです。地元を知らない人に来てもらって、まずは日向屋の活動を通して地域のことを知ってもらいたい。その上で、こんなことしたいっていうアイデアを、一緒に形にしていけたらええね」


ここで場所を移動し、日向屋が管理している近くのみかん園へ。

作業をしていたのが、1年半前にIターンでやってきた中澤さん。

「日本全国、いろんなところを旅しながら働いていたんです。田辺の隣町で梅の収穫を手伝っているときに、知り合いから岡本さんを紹介してもらって」

「カフェとかゲストハウスやりたいなあ、でも農業にも興味があるなあ… と思っていたので、日向屋だったらやりたいことができそうだなって飛び込みました」

新しく来た人は、まず日向屋の仕事を一通り体験しながら地域を知り、ここにあるものと自分の経験を活かして何ができるか考えてほしいとのこと。

ずっと温めていたアイデアを、形にするチャンスもあるかもしれない。

「私も農業を勉強させてもらいながら、商品の企画とか、カフェのアイデアもちょっとずつ形にしているところです。これやったら面白いんちゃうかなっていうことを、一緒に考えて動いてくれる仲間がいるので。そこは安心して来てほしいなって思います」

ジビエの専門家やシェフもいるから、できることの幅は広いと思う。それにメンバーの多くは地元出身。地域とのつながりも築きやすそうだ。


続いて向かったのは、日向から車でさらに1時間弱山側に進んだ先にある龍神村。この村で活動している株式会社龍神村が、2つ目の受け入れ先になる。

龍神行政局で迎えてくれたのは、株式会社龍神村の大江さん。自営で林業をしながら、まちづくり活動に携わっている。

株式会社龍神村は、龍神村を活性化しようという目的のもと、2019年に立ち上がった組織。任意団体である龍の里づくり委員会の活動を事業として具現化するためにつくられた。

「3年ほど前に、役場の方が『龍神村の若い世代でなにか新しいことをやろう』って声をかけてくれたんです。村の若手が30人くらい集まって、龍神村でなにができるか考えていきました」

名物の温泉は、年々活気がなくなってきている。熊野古道が世界遺産に登録されたときも、龍神村は範囲外となってしまい、観光振興にはつながらなかった。

大江さんたちは地元の視点で、歴史や食、さまざまな角度から龍神村の魅力を掘り起こすことに。そのなかでコンテンツとして活かしていけるものをピックアップし、形にしてきた。

たとえば今年開催した「龍の造形大賞2020」。フィギュア製作で知られる株式会社海洋堂と協力し、龍をモチーフにしたアート作品を募集した。

全部で約130点の作品が集まり、それらは2021年に完成するミュージアムで展示予定だそう。

「空き店舗だった物件を活用して、ミュージアムの設計を進めているところです。株式会社龍神村の事務所も、そのミュージアム内に併設しようと思っていて」

ほかにも、高野山から龍神村を通って熊野本宮大社へ向かう「奥辺路(おくへち)」と呼ばれるルートを、メンバーのひとりが文献から発見。

歩いて5泊6日ほどかかるルートなので、宿泊とセットにしてパッケージ化しようと企画しているところ。


「道中、温泉などに宿泊しながら歩いていくんですが、2日目と5日目はどうしても山中泊になってしまうのが課題で。いま考えているのは、テント設営や食事の準備をぼくらでして、テント泊してもらうのはどうかなと。たぶんそんな体験ができるルートはほかにないし、面白そうじゃないですか(笑)」

今は道の整備と並行しながら、キャンプ泊のオペレーションを整えているところ。

協力隊として来てくれる人には、2021年の秋にオープンする予定のミュージアムの開館準備や、オープン後の運営・管理、奥辺路の企画やモニターツアーの実施など幅広く関わってほしいそう。

個々の活動は進んでいるものの、PRや広報に手が回っていない状態。たとえば、SNSでコンテンツづくりの過程から日々発信していく、といったことから始めてみてもいいかもしれない。

そのなかで地域とのつながりも増えていくだろうし、龍神村のことを知るきっかけにもなると思う。


「龍神村は昔から移住者が多いので、受け入れる土壌はあると思いますよ」

そう話に加わってくれたのは、龍の里づくり委員会で情報発信を担当している松本さん。普段は道の駅と、お父さんが運営する家具工房で働いている。

「私はUターンで龍神村に戻ってきたんです。それまでは大阪の広告代理店でバリバリ働いていました。10年ぶりに地元に戻って感じたのが、龍神村は暮らしと仕事が一緒になっているというか、ゆるやかにつながっているなって」

暮らしと仕事が一緒?

「家具工房にいると、近所のおじさんとかがよく来るんですよ。その度に、おとんが作業止めて話を聞いてあげて。最初は、なにこの時間…もったいないわ!って思ってたんです(笑)」

近所の人が職場にふらっと来る環境も、仕事の手を止めて会話をする場面も、都会ではなかなか見られない。

「でもね、そういう近所の人が、草刈りのやり方を教えてくれたり、野菜のおすそ分けをしてくれたりする。移住者とか地元とか関係なく、地域内で支え合う関係性があるんだなって気づいたんです」

「田舎の暮らし方って言ったら大げさかもしれないですけど、こういう時間もいいなって。気づかんところでお世話になってるかもしれないから、おじさんも無下にしたらあかんなって(笑)。そうやって考えられるようになってきましたね」

ちょっとした雑談も、地域とつながる大事なピース。これからやってくる人も、最初はやきもきするかもしれないけれど、大事にしてほしい時間だという。

「都会でせかせかしながら何十年も生きていくって、無理やなと思うんです。おじさんと話すのが面白いとか、野菜をもらってうれしいとか。そういう感覚を共有できる人が来てくれたら、暮らしも仕事も楽しみながら、龍神村を一緒に面白くしていけるのかなと思います」


地域を元気にしたい、自分の力でなにかしたい。

もちろんその思いは大切です。けれど、よそ者の熱量をどうやって地域に落とし込めるか。地元の人と一緒になって進んでいけるか。

まずは田辺での暮らしをまるごと楽しんでみたらいいんじゃないかな、と思いました。課題もいろいろとあるようだけど、フットワークも軽いし、ちゃんと実現していく力も持っている方々なので。

きっと楽しむうちに、次の一歩が見えてくると思います。

(2020/11/13 取材、2021/2/5 再募集 稲本琢仙)
※撮影時にはマスクを外していただいております。
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