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机に向かうだけが
学びじゃない

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高校生のころ、数学の塾に通っていました。

とても苦手だったので、同じことを何度も質問したのですが、先生はいつも分かりやすく答えてくれて、少しでも点数が上がると一緒に喜んでくれました。

何かお返しをしようと思って、学校であった楽しいことを話したり、学校の近所のおいしいパンを買って行ったりしたのも、良い思い出。

高校生にとって、等身大で向き合える大人はとても貴重な存在だと思います。

北海道白糠町(しらぬかちょう)。太平洋に面したこの小さな町に、『久遠塾(くおんじゅく)』という塾があります。

町唯一の高校、白糠高校に通う生徒たちのために設立されたこの塾。生徒は放課後の勉強の場として、そしてスタッフとおしゃべりできる居場所として、自由に訪ねているようです。

今回はこの塾のスタッフを募集します。生徒と一緒に歩める人であれば、経験は問いません。

(取材はオンラインで行いました。写真は、過去の取材で撮影したものと、ご提供いただいたものを使用しています。)


白糠町は、釧路空港から車で30分ほどに位置する町。

一次産業が盛んで、魚介や羊肉、野菜などおいしい食べ物が盛りだくさん。しそ焼酎の『鍛高譚(たんたかたん)』には、白糠産のしそが使われている。

以前、取材で白糠を訪れたのは一年前のこと。ちょうどテスト期間の直前で、放課後に生徒たちがわいわいおしゃべりしながら、楽しそうに勉強していたっけ。

「今年の後期中間試験は3週間前に終わりました。テスト期間はみんな必死に勉強していたんですけど、今は勉強より体育祭の練習に夢中みたいです」

そう教えてくれたのは、白糠高校の校長、田村先生。白糠高校には2020年の春に赴任した。

「春休みに来たときは部活動もなくて静かだったんですけど、緊急事態宣言があけてから少しずつ活気が戻ってきて。中止になってしまった学校祭も、生徒会が『学校を盛り上げよう、みんなで楽しもう』と、代わりのイベントを企画したんですよ」

どんな企画だったんですか?

「テレビ番組の『逃走中』に似せた企画で、校舎中に隠されたカラーボールをハンターに見つからないように集めていくんです。プレイヤー以外の生徒と先生は体育館に集まって、Zoom配信で盛り上がりました。ちゃんとコロナ対策をしながらイベントを成功させていて、とても頼もしかったですね」

現在、1年生から3年生まで84人が通う白糠高校。

白糠町にとって唯一の高校で、町は奨学金の支給やタブレット端末の貸与など、さまざまな面から生徒の学びを支えてきた。

その柱となっているのが、3年前に誕生した公営塾の『久遠塾』。

町の公民館と高校の空き教室、2箇所が塾として開放されていて、生徒は昼休みや 放課後に利用することができる。

「赴任当初は、高校の中に塾ってどういうこと?って驚いたんですけど、今はもう違和感がないですね。塾スタッフの皆さんも、この学校をともにつくる一員だなと感じています」

「公営塾は全国的に見てもまだ珍しいので、最初は塾も学校も大変だったろうと思います。今は塾のスタッフが日替わりで授業のサポートに入ってくれたり、本校の先生が塾に教えに行ったりしていて。先生たちも、同僚のように感じているのではないでしょうか」


久遠塾で働くスタッフは現在4名。

スリランカで薬用植物の研究を手伝っていたこともある高校の元校長先生や、生徒からお姉さんのように慕われているスタッフなど、個性豊かなメンバーが集まっている。

そのうちの一人である野木さんは、もともと青年海外協力隊としてラオスの小学校で働いていた方。

前回取材でお会いしたときは、働きはじめて半年のタイミングでした。この一年、いかがでしたか?

「だいぶ慣れました。今年は教室を開けられない時期もあったんですけど、その間も生徒とLINEでやりとりしていて。学校にいるときもよく話しかけてくれて、最近は『今読むべき漫画は鬼滅より呪術廻戦だよ。読みな!』って教えてくれました」

自学自習のスタイルが基本の久遠塾。

生徒は教科書や宿題などを持ち込んで、わからないことがあれば野木さんたちスタッフに聞くことができる。

野木さんの担当教科は、主に数学。苦手にしている生徒の多い科目だ。

「おそらく小学校でつまずいてしまって、そこからなんとなく苦手意識を持っている生徒が多いと思います。分数の掛け算とか、大人でもしばらくやっていないと忘れちゃいますもんね」

わからない問題があれば、わかるところまで一緒に戻る。ときには小学校の算数を振り返ることもあるという。

「自分一人では立ち止まってしまう問題でも、一緒に考えていけば正解までたどり着ける。生徒は四苦八苦しながら少しずつできることを増やしていて、本当によく頑張っています」

白糠高校では、就職希望の生徒のほうが多いそう。

ただ、将来について早くから定まっている人は少なく、就職と進学で悩む生徒もいる。「今自分が何をしたらいいかわからない」という声も聞くという。

勉強を身近に感じ、将来について考えるきっかけをつくれたら。そんな想いもあって、久遠塾主催のゼミを定期的にひらいている。

野木さんの担当は、町内で働く人を講師に招いたゼミ『白糠の仕事人』。

「最初は受け身だった生徒も、だんだん『次はこんな人の話を聞きたい』ってリクエストしてくれるようになって。じゃあ今度は〇〇さんを呼んでみようか、というふうに、準備段階から一緒に進めるようになりました」

あるときは、将来料理関係の仕事に就きたいという1年生の女の子2人が、企画運営に手を挙げた。

町内のシェフに講師を依頼するところから、当日のゼミ運営、実施後のレポート作成まで。野木さんのサポートを受けながら、自分たちでやりきったそう。

「シェフも快諾してくださって。どんなきっかけで料理人になろうと思ったのか、どんな勉強をしてきたのか、今はどんな仕事をしているのかなど、いろんな話をしてくれました」

「生徒も真剣に聞いていて、女子を中心に『シェフ、イケメンだし話の内容もカッコいい!』と盛り上がって(笑)。今年はコロナの影響で生徒主体の企画はできていないんですけど、またやりたいですね」

ゼミには、学校の先生や町の大人もよく参加してくれている。

高校生にとって、先生以外の大人と接する機会はそう多くない。ゼミの準備や運営を通じていろんな大人たちと会話するうちに、きっと生徒たちの引き出しも少しずつ増えていくんだろうな。

開塾から3年を迎え、ノウハウも溜まってきた久遠塾。より多くの生徒を受け入れられるように、今回新たなスタッフを募集することになった。

とくに、数I、数II、数A、数Bを教えられる人であればとても助かるそう。

「仮に数学担当だとしても、テスト前は情報や家庭科についても質問されますし、勉強以外にもたくさんの話をします。なので、勉強だけを教えに来るというより、社会のことや自分の価値観など、生徒たちとたくさん話したいと思ってくれる方がいいですね」



そして昨年の春、久遠塾に新たに加わったスタッフが大門さん。

もともと道内の高校で国語を教えていて、次のステップを考えるなかで久遠塾の存在を知り、応募したそう。

「学校の先生とは違う立場で生徒と触れ合えることがすてきだなと思いました。ただ、着任後すぐに休塾してしまって、生徒にも会えなくて。慣れない自粛期間を過ごす高校生の力になりたいと思って、『白糠の仕事人』をInstagramで始めてみました」

町で働く大人と、高校生へのメッセージを紹介するこの企画。町長や商店街の店主、チーズ職人など、100名以上が協力してくれたそう。

「協力をお願いした新聞記者さんがこの企画を新聞で取り上げてくれたり、過去のゼミで講師をしてくれたみなさんがメッセージをくれたり。協力してくださる方が途切れなくて、今も続いているんです。ありがたいですね」

そして5月からは、塾も再びオープンした。

「最初は生徒にどう接したらいいのかわからなかったんですが、生徒のほうから『大門さん、単語覚えるの手伝って』って私の隣に座ってくれたり、何気ないおしゃべりで盛り上がったりできるようになってきて。これからもっと距離を縮めていきたいです」

大門さんが担当しているのは、主に国語。漢字検定に向けた練習、小論文の作成など、生徒たちの希望に応じて、大門さんのサポート内容も変わるという。

大門さんからみて、久遠塾はどんな場所なんでしょう。

「久遠塾は、生徒のやりたいこと、学びたいことはなんでもフランクに受け入れている感じがあって。ピアノを弾いてみたいという生徒には野木さんがピアノを教えているし、この間なんて、自動車学校の学科試験の勉強も一緒にしたんですよ(笑)」

「生徒に勉強することを押し付けるんじゃなくて、のびのび一緒に学んでいく。公営塾はほかの地域にもあるけど、ここはちょっと雰囲気が違うというか… 久遠塾は久遠塾だな、って思っています」

これまでほかの公営塾も取材してきたなかで、たしかに久遠塾はちょっと「雰囲気が違う」感じがする。

生徒たちとの関わり方やスタンスも柔らかく、やさしい印象。それは大門さん自身、望んでいたことでもありながら、一方で葛藤する部分もあるという。

「まだわかりやすい手応えがない、というか。生徒は毎日必ず塾に来るわけではないし、先生というわかりやすい立場ではないぶん、“ただその辺にいる大人”にもなれてしまう」

「本当に生徒の力になれているのかな、という不安は今もまだ感じています」

でも、そんな立場だからこそ、生徒たちが自分の考えや想いをストレートに伝えてくれることもある。

印象に残っている、一人の生徒とのやりとりについて教えてくれた。

「ついこの間まで、受験生の小論文指導をしていたんです。私は最初、これまでしてきたように『ここはこう書いたらいいよ』ってアドバイスしていたんですけど、その子は『自分の言葉で書かないとダメだよ、これじゃ大門さんの文章になっちゃう』と言って」

「私の考えた表現を教えるんじゃなくて、彼女の頭の中を整理して、彼女自身の言葉で語るサポートをしないといけないんだって気づきました。今までの指導方法や生徒との接し方が通用しなくて、すごく悩みましたね」

毎日、放課後から21時まで二人で小論文に取り組む。その時間は受験の直前まで続いたそう。

「いざ受験が終わったとき、もうあの時間がなくなっちゃうんだと寂しく感じて。悩みも多かったけれど、それ以上に二人で話すのはとても楽しかったんです」

「大人のような、子どものような生徒でした。自分の考えを自分の言葉で書きたいって、本当にその通りだなと思います。私のほうが彼女に教えてもらいました」

きっと、教科書に書いてあることだけが学びではない。この塾は、目の前にいる生徒と向き合いながら、一人ひとりの持っている力を引き出していく場所なのだと思います。

一緒に勉強したり、おしゃべりしたり。久遠塾のスタッフはこれからも、生徒の隣で歩んでいくんだろうなと感じる取材でした。

(2020/12/18 オンライン取材 遠藤真利奈)
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