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野菜は農薬を使っていないほうがいいとか、無添加のものを選ぼうとか、オーガニックコットンがいいとか。食べるものや身の回りで使うものを、社会や身体への負荷を考慮して選ぶ人は増えているように思います。
私もそうしたいと思ってはいるものの、その判断基準は「いいらしい」と人から聞いたり、情報として読んだりしたことがほとんど。
知識として知ることももちろん大切だけれど、自分の目で見て、手で触っていない限り、本当にいいものかどうかはわからないような気もします。

兵庫・西脇で続く播州織を再解釈。コットンを育てるところから、糸を染め、織り、縫い、販売するところまで、自分たちの手で行っています。
あたりまえを疑いながら、自分たちが正しいと思うやり方を追求していく。
その考えをさらに深めて、最近では作品に使う原料や自分たちで食べるものの自給自足を目指す「niime村」づくりも少しずつ進んでいるそう。
今回募集するのは、酪農、農業、そして料理について探求していく人。
誰でも最初は初心者なので、経験は問いません。とにかく自分で確かめてみたいという好奇心と、どこまでも深堀りしていく探求心のある人を探しています。
tamaki niimeの拠点であるShop&Labがあるのは、兵庫県西脇市。
市街地から少し離れた里山のふもとでは、スタッフが染めたり織ったり縫ったりと、せわしなく動きながら、色とりどりの作品をつくっている。
今回はオンラインで取材をすることに。画面をつなぐと、代表の玉木新雌さん、そしてブランドを一緒に立ち上げた酒井さんが、なんだか楽しそうに出迎えてくれた。

酪農、ですか?
「そう。4日くらい前からね、ここに2人の羊さんが来たんです。前からいた烏骨鶏ちゃんと一緒にいるんだけどね、すっごくかわいいの」
画面越しに見えるのは、広々としたベランダでのんびりしている羊たち。

「最初の最初は東日本大震災かな。日本ってすごく平和で守られてるんだけど、安全だって言われてることを全部鵜呑みにしちゃいけないんだって知ったんですよね。それからいろいろ考えるようになったし、自分でやってみないとなにもわからないんだって思うようになって」
当時は唯一無二のブランドを目指して、やわらかさと一点ものが特徴のショールを中心に、ワンピースやパンツなど、さまざまな製品をつくりはじめていたころ。
デザインして職人さんに発注するのではなく、機械を譲り受け、自分たちの手で実験を繰り返すようにものづくりをしてきた。
「どうしようって頭で考えるんじゃなくて、なにができるんだろうってまずは手を動かしてみる。糸を染めたり機械を触ったり、布を織ったりしながら、ずっとものづくりを続けてきました」

「素材から差別化したいなら、まず素材を知らないと。私は観察するのが好きだから、自分で育ててみるところからはじめたんですね。コットンってそういう理屈なのねっていうことがわかれば、やわらかさを出すためにはこういう気候でつくったほうがいいとか、どの農家さんにつくってもらうのがいいのかって、わかるでしょう」
コットンの畑を耕しながら、自分たちで食べる野菜や米を育てることにも挑戦。今では70名ほどのスタッフの食事が賄えるまでになってきた。
「やってみたらね、農業の大変さやおもしろさがわかるし、自然農法と慣行農法ってなにが違うんだろうって、自分から調べるようにもなる。教科書で知るんじゃなくて、リアルに感じることができた。そうしていくなかで、牛糞や鶏糞とか、肥料の考え方もいろんな角度から考えるようになったんです」

どうして羊なんですか?
「私たちの作品ではウールも使ってるんだけど、正直、コットンほどは勉強してなかったんですよ。ウールってほぼ外国産なんだけど、紡績会社とか、いろんな人に話を聞くと、日本でも羊を飼っていた歴史があるらしくて」
そこで、まずは羊2頭を飼ってみることに。
数を増やして作品の原料になるウールを自給することになるかもしれないし、逆にウールを使ったものづくりを辞める道を選ぶこともあるかもしれない。
自分の目で、手で確かめながら、この先どんなものづくりを続けるのか考えていきたい。

この2頭のめんどうを見るのはもちろん、近所で乳牛を育てている人と一緒に牛乳やチーズをつくろうという話もあるそう。
「やっぱり目指すところは自給自足。なにか起きても、生きていける状況はちゃんとつくっておきたいなと思っていて。それが『niime村』プロジェクトです」
「パン屋さんとか塩屋さんとか、マニアックなものづくり集団ができたらおもしろいでしょう。最初から自分でやる人がいたらそれでいいし、まずはうちで働いてから自立するのも大歓迎です」

そのためにも、まずやってみることを大切にしている玉木さん。最近は狩猟にも興味があるそうだ。
「少し前にね、ジビエのお肉を食べたんです。野生の動物のエネルギーってこういうことか!ってくらい、力をいただけたんですよ。西脇の山にもイノシシとか鹿が増え過ぎちゃってるって聞いて。いただくなら自分で獲らなあかん!ってなったの。それですぐ、いつでも山にいけるように車を買いました」
思い立ったら即行動。その後、狩猟をするには資格が必要なことがわかり、まだ実現には至っていないものの、勉強することは今も続けている。
「解体の現場に立ち会わせてもらって。頭でわかってはいたけど、生きているものとスーパーに並ぶお肉がようやくつながったというか、一緒のものなんだって腑に落ちて。やっぱり、やってみないとわからないよね。循環の一部として感謝しておいしくいただいて、私たちも元気になろうって思えました」

「うちはとにかくスピードを大切にしています。ごちゃごちゃ言ってないで、まずはやってみる。コロナ禍ではじまったマスクづくりやオンラインショップも、走りながら改善していくことで、どんどん良くなってきたんです」
玉木さんと一緒に働いているスタッフも、ルーティンワークをこなしていくというよりは、常に実験を繰り返しながら、より良いものづくりを探求するメンバーが集まっている。
「おかげさまで全国各地からおもしろい人が集まってきて、毎日たのしいですよ。ふつうの会社だったらはみ出しものみたいな人が多いけど、みんなで協力しながらやってます」
おもしろい人の1人、として紹介してもらったのが、料理を担当している上屋敷さん。3ヶ月ほど前、tamaki niimeにやってきた。

口下手だという上屋敷さん。料理の世界にすっかりハマり、そのままフランスに留学したそうだ。
「のんびりした性格なんですけど、調理場に入ると怒涛の勢いで動かないといけなくて。それが大変でした。だけど家族が、おいしいって褒めてくれたからかな。続けようと思いました」
tamaki niimeを知ったのは、帰国後どうしようかと考えていたとき。
友人から、日本仕事百貨で募集していた食の探求者の記事を紹介されたのがきっかけだった。
「自分たちでコットンを育てたり、染めもやっていたりして。食べるものも畑から育てている。なんだろうこの会社、と思って。来てみたら、みんな個性が強いなって。テキパキ働いているのが印象的でした」

春ごろにはお客さんにも食事をしてもらえるように準備を進めている。
この日は、上屋敷さんの献立でつくったまかないがはじめてテーブルに並んだそう。
「今日はわさびリーフとルッコラと、しゃもじ菜っていう野菜が届いて。もともと知らない野菜だったんですけど、食べてみて、胡麻和えにしてみました。その日ある野菜でなにをつくれるのか、もっといろいろ試してみたいと思っています」
「おいしいって言ってもらえるのもうれしいし、私の場合は、好奇心で料理をしてるところもあって。この野菜はどうやって育っているんだろうとか、どうしたらおいしくなるんだろうとか。知りたいし、試してみたい。一緒に働く人も、そんな人だったらうれしいです」

最後に、命について考えていることを玉木さんに聞いてみる。
「人間を殺しちゃいけないことは、道徳として刷り込まれてますよね。だけど戦争になったら、人間を殺しなさいって言うわけでしょう。原発も一緒で、なにが正しいのか、自分のなかで判断軸を持てるようになりたいですよね」
「やっぱり家で鶏を飼って、おかあちゃんがクビを絞めてたっていう時代が私は理想だと思う。命をいただいているんだっていうリアリティが目の前にあるし、おかあちゃんは、鶏にも食べる人にも、両方に愛があるじゃない」
「ものづくりも、人が手で触ってつくったものって、意識とは関係なく、念みたいなものが入る。愛情いっぱいのものを食べると人も元気になるでしょう。やっぱり伝わっていくものはあると思う。つくり手が健康な状態で元気につくって、それを着たり食べたりした人が元気になっていく。そういう循環を、あらゆるところで生んでいきたいです」
命、動物、食べること、つくること。
とことん試して、探求したい。そう思ったら、ぜひ応募してみてください。
(2020/12/19 取材 中嶋希実)