求人 NEW

遠く、広く、タネを飛ばす
農家と花屋の
たのしい計画

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

最近、ちょっとした贈り物に花を選ぶことが増えた。

相手を思い浮かべながら花を選ぶ時間も楽しいし、何より、花に接したときの人の表情が好きだ。

色や香りだけでなく、花弁や葉のみずみずしさ。「植物っていいなあ」と思うようになったのは、1年前、秋田緑花農園と出会ったことがきっかけのひとつかもしれません。

秋田緑花農園は、東京・東久留米ののどかな環境のなかで花苗を育てる農園。代表の秋田茂良さんは、この土地で代々農業を営んできた12代目です。

人の心を癒すような、かわいい花を届けたいと、スタッフさんたちと一緒に生産に力を入れてきました。

今回は、ここで花苗の生産に携わりながら、全国の花屋さんに直接花を届ける仕組みづくりを一緒に担っていく人を募集します。体を動かす作業だけでなく、データをまとめたり、写真を撮ったり、仕事は多岐にわたります。

花が好きなら、未経験でも大丈夫。むしろ事務など、他業種での経験が活かせる面も多いと思います。

前回の取材から約1年。花を育てるよろこびを広く伝えていくために、新しいプロジェクトがスタートしたと聞いて、ふたたび農園を訪ねました。


都心から秋田緑花農園へは、田無駅から路線バスというルートが一般的。私は家が近所なので、今回も自転車を漕いで向かった。

西武新宿線と並行して走るバイパス道路は交通量が多いものの、一本脇道に入ると、穏やかな住宅街。ところどころ野菜の直売所もある。キャベツ畑には白い蝶が飛んでいた。

しばらく行くと、農園の大きなハウスが見えてきた。

5月の連休が終わってまもないこの日、農園のなかは、思わず圧倒されるほどの花、花、花。

一番手前のハウスでは、赤やピンクのゼラニウムが風に揺れていた。

ハウスから少し離れたところには一般の人も立ち寄れるガーデンがあって、バラのトンネルやいろんな色のパンジーが楽しめる。脇道に植えられたツツジに、かわいい実をつけた金柑。農園のなかを歩いているだけで、みずみずしい植物の姿が次々目に飛び込んでくる。

うわぁ…。もう、全方位が鮮やかすぎてちょっとクラクラします。虫の目線ってこんな感じなんですかね。

そんな冗談を笑って聞いてくれたのが、前回の募集で農園に加わった野中さん。みんなからはノンちゃんと呼ばれている。

「この時期は特に、花の成長が早くて。休日明けに出勤したら『君たち、いつの間に咲いたの!』って焦るくらい。みんな一番きれいなタイミングで出荷してあげたいから、ハウスのなかに出荷してほしがっている子はいないか?って、いつも気を配っています」

秋田緑花農園では、年間を通して100種類以上の花を育てている。品種を交配して、独自の色味を開発することもある。

スタッフは、それぞれの花の特徴を理解しながら、水やりをしたり、苗の植え替えをしたり。ときには、土やケースのような重いものを運ぶ仕事もある。

「ここの農園にいると筋肉がつきますよ。私もすごくたくましくなりました。夏は暑いし、冬は寒い。体を動かして汗をかきながら仕事ができるので、自律神経は整いそう(笑)」

もともとは地元静岡で、病院の栄養士として働いていた野中さん。年中、空調の効いた建物のなかにいるときは、季節を感じることもなかったという。

ハウスのなかでそんな話をしていると、屋根を叩く雨音が聞こえてきた。

「私は田舎育ちなので、この環境が好きです。東久留米は東京だけど、意外と車移動が多いところも地元と似ていて落ち着くし。まあ正直、去年記事を読んだときは、農園でのんびり働くところをイメージしていたんですが、この1年間で思いのほか、いろんなことに挑戦させてもらっています」


というのも、ちょうど野中さんが入社した去年の夏、農園ではあるプロジェクトがスタートしていた。

その中心的な担い手となっているのが、副社長の小森妙華さん。

小森さんはもともと、福岡でハナモミジという花屋を営んでいて、自分の好きな花苗を組み合わせてつくる“ブリコラージュフラワー”というアレンジで、暮らしに花を取り入れる提案をしてきた。

秋田緑花農園とは、6年ほど前から苗の仕入れ先として付き合いがあったそうだ。

「秋田さんが育てたお花は、本当に元気でかわいいから。うちで売るだけじゃなく、もっともっといろんな人に知ってもらいたいなと思うようになったんです。秋田さん自身もずっと、いろんな街に花を届けたい、小さな子どもたちも花に触れてほしいっていう思いを持っていて」

「だけど、生産しながら発信もするっていうのはなかなか難しい。だったら一緒にやりましょう!ってことで、去年の6月から業務提携して、一緒にプロジェクトをスタートしました。今は私もこの近くに家を借りて、福岡と二拠点生活です」

デザイナーの経験もある小森さんは、自分のことを「IT花屋」だという。ハナモミジでも、インスタライブをしたり、オンラインショップや遠隔レッスンの仕組みをつくったり。

お店で待っているだけでなく、自分から価値を発信することでつながりを広げてきた。

そんな小森さんが農園に来て手がけているのが、全国の花屋さんが市場を介さず農園の花を仕入れることができる、B to Bの直売サイトづくり。

「市場ではだいたい1ケース24個入りの花苗セットが流通しているんですが、小さな花屋さんはそれだと置き場所がなくて、2〜3種類しか仕入れられない。そこで私たちは、24個入りのケースに一列ずつ違う花をアソートで組み合わせて発送する仕組みをつくろうと思っていて」

「そうすれば、小さな花屋さんでもいろんな花が並んで楽しいでしょう。そうやっていろんなところで、花っていいよねっていう共感を広げていけたらいいなって。秋田さんと私は、それをよく『全国に癒しのタネを飛ばす』って言っているんです」

ただ、このアソートシステムがこれまで行われなかったのは、それだけ生産者の手間がかかるから。

そこを乗り越えて販売体制を軌道に乗せるためには、普段の農園の業務をもっと効率化する必要がある。

「今までは秋田さん一人が全体を把握して、みんなに指示を出すっていうやり方でした。もっと一人ひとりが考えて動ける体制にしていくためにも、まずは秋田さんの頭のなかにあるデータをクラウドにアウトプットして、みんなに共有することにしたんです」

その運用準備を任されたのが、先ほど紹介した野中さん。実際に使っているアプリの画面を見せてもらった。

それぞれの花の植え付けから出荷までのスケジュールと、実際に作業をした記録が比較できるように並んでいる。ふたたび、野中さんに説明してもらう。

「うちのような多品種の農業にフィットするアプリってなかなかなくて。プロジェクト管理のアプリを自分たち用にカスタマイズして使っているんです。まずは社長にスケジュールを打ち込んでもらって、スタッフが作業記録を入力していくような使い方をしています」

作業の進捗を可視化して、データを蓄積していけば、翌年からは作業予定も立てやすくなる。

さらに、出荷時期が予測できれば、会員になった花屋さんへのお知らせもスムーズになる。

「今までは手書きのメモでやりとりしていたので、みんなが抵抗なく操作できるように、まだ調整を続けていて。これができたら次は、品種ごとに原価や経費を計算して、コストパフォーマンスが比較できるような仕組みもつくろうと考えています」

農園に就職して、まさかクラウドの管理システム担当になるとは思わなかった、と野中さん。

やっていることは、いわゆるマネジメントですよね。花の計画に合わせてチームの動きを考えていくような。

「そうなんです。入って間もないころ、小森さんから経営の本が送られてきて。それはちょっとびっくりしましたけど、こうして1から体制を整えていくことにやりがいも感じています」

「今は私が一番の新人だけど、こうやって新しい仕組みを提案したら、スタッフはみんな使ってみてくれるし、『ありがとう、便利になったよ』って、温かい言葉ももらえて。自分が必要とされている感じがうれしくて、また頑張ろうって思いますね」

小森さんと野中さんが加わってもうすぐ1年。少しずつ農園の仕事に余裕が生まれ、発信することにも時間を使えるようになってきた。

サイトに掲載する写真撮影も、野中さんの仕事。

小森さんに教わりながら、カメラの扱いは1から覚えた。かわいく撮るだけでなく、大きさやボリュームなど、お客さんが知りたい情報が伝わるように工夫しているという。

「いや〜、ノンちゃん、写真上手になったよ!」と、そばで聞いていた小森さんも言葉を添える。

「小森さんは本当に、人に仕事を教えたり、振ったりするのがうまいんですよ。私も気づいたら、どんどん新しいことに取り組んでいて。あとは任せたよ、って言われたら、もうやるしかない!みたいな感じ。これから一緒に働く人も、そういう気持ちで楽しめる人のほうがいいと思います」

取材も終盤に差し掛かったころ、不意に「あ。取材中だけど、いいこと思いついちゃった」と、新しい仕事のアイデアを話しだす小森さん。

野中さんは「またですか?」と驚きつつ、うれしそうにメモを取っていた。

「こういうふうに新しいミッションが生まれることは、日常茶飯事。小森さんからアイデアをもらって、それをどう実現するか考えていく。自分一人でやるんじゃなくて、みんなで実現できる道筋を考えていく。私はそのポジションが性に合っているので、バランスがいいんだと思います」

「最初は、こういう働き方をするとは予想もできなかったけど、案外向いていたのかもしれない。逆に植物のことは、一年経ってもまだまだ、勉強することだらけなので、長く続けながら、自分の引き出しを増やしていきたいですね」

最近はちょっと忙しく、花が近くにあっても、ゆっくり見る時間がなかったという野中さん。一緒にガーデンを散歩しながら、「やっぱり、花いいなあ。もっと散歩しよう」としみじみ。

そうやって人の心を解いてくれるのが、花の力だと思う。

農園から全国の小さな花屋さんに。さらに、その先にいる人たちに。ふと、心和む瞬間を届けていく。

遠く、広く、タネを飛ばす。農家と花屋がタッグを組んだワクワクするような計画は、今はじまったところです。

(2021/5/7 取材 高橋佑香子)
※撮影時はマスクを外していただきました。
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