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「まちに観光に来た人がこの地域のことを好きになってくれると、地域の人も自信や誇りを取り戻せるんですよね。それが子どもたちにも伝播して、いい循環が生まれて、地域がよくなっていくと思うんです」
そう話すのは、一般社団法人南信州まつかわ観光まちづくりセンターの片桐さん。
名所を巡るだけの観光ではなく、地域の文化や自然、暮らしをのぞく旅のような観光からはじまる、持続可能なまちづくり。
まちに来る人も、迎える人も、だんだんとまちを好きになっていく体験プログラムを企画しています。
今回は南信州まつかわ観光まちづくりセンターでインバウンドを担当する、まちづくりコーディネーターを募集します。
海外からのお客さんが来られるようになる日のために、コツコツと準備を進めていく。
先が見えずに不安を感じることもあるかもしれないけれど、頼りにできる人たちがいるし、気持ちのいい自然もすぐ近くにあります。自然や地域の人との関わりが好きな人なら、きっとこのまちを楽しめると思います。
長野県松川町。
中央アルプスと南アルプスに挟まれた伊那谷(いなだに)のまんなかに位置し、東京からだと高速バスで3時間半ほど。
松川インターをおりるとすぐに果樹園が広がっていて、訪ねたときはちょうどサクランボが食べごろに色づいていた。
山に囲まれた段丘の地形を生かして、桃や梨、りんごなど、春先から12月ごろまでいつでも果物がとれるという。
観光まちづくりセンターの事務所は、松川インターから5分ほど山を登り、住宅街から離れた自然のなかにある。川のせせらぎと鳥のさえずりが聞こえて心地いい。
出迎えてくれたのは、事務局長を務める片桐さん。
2018年にまちづくりセンターを設立するタイミングで長年勤めた町役場を辞め、事務局長になった。
「今はスタッフが14人まで増えました。地元の方から移住をしてきた方まで、30代から60代の多様な方々が働いています。振り返ってみたらダイバーシティが生まれていたんです」
日本仕事百貨で取材をするのは、これで4回目。
はじめはスタッフひとりと片桐さんの2人だけだった。
2016年に松川町は観光を通じたまちづくりに取り組みはじめ、第三セクターとして2018年に一般社団法人南信州まつかわ観光まちづくりセンターを設立。
もともと果物狩りで人気の地域ではあったものの、観光バスでの日帰りツアーがほとんどだった。
「観光客を受け入れている農園の方は、自己肯定感が高いんですよ。ここはいい町なんだ!って。そんな人を増やすきっかけが観光交流であり、私たちの使命なんじゃないかと」
まちづくりセンターが目指すのは、観光によって地域経済を活性化し、松川町の人にまちへの誇りを持ってもらうこと。
そのために提案型の旅の案内所や宿泊施設であるツリードームをつくり、地域の自然や文化、暮らしを体験できる滞在交流プログラムを企画してきた。
お客さんの受け入れ体制が整ってきた矢先、コロナ禍の影響で観光事業は一時ストップ。
観光農園への影響も大きく、たとえば町全体で年間3万人ほどが訪れていたサクランボ狩りの観光客も激減した。
「昨年から観光業の支援ということで、サクランボの通販をはじめて。そのおかげで農家さんとすごく近くなれて、協力できることが増えました」
日帰り観光バスで一度にたくさんの人を受け入れるだけでなく、少人数でじっくり交流できる形を考えられないか。農家さんたちの意識も変わってきたそう。
「今は農家さんと一緒に、新しく子ども向けの体験プログラムを計画しているんですよ。これも以前はできなかったことだと思います」
地域の人とのつながりも増えていき、国内のお客さん向けのプログラムも充実してきた。今後は、海外からのお客さんが来る日のために準備を進めていきたい。
具体的にはどんな仕事をするのだろう。
インバウンドを担当する、大嶺さんに話を聞いた。
大学を卒業してから銀行、自然学校、CSRを推進する会社に勤めたのち、2018年に日本仕事百貨での募集を通じてここで働き始めた。
「いい社会をつくりたいっていう気持ちがあって。これまで働いたところは、手段は違うけど、目的は同じなんです。銀行は社会インフラの基礎ですし、CSRは企業の力で社会をよくしていく。ここでは観光という手段で地域をよくしていきたいと思っています」
地域おこし協力隊の制度を活用して、まちづくりセンターに所属している大嶺さん。3年の任期を終える今年の9月いっぱいで、地元の東京に帰ることになっている。
インバウンド担当の仕事のひとつは、今あるつながりを続けていくこと。
「松川町出身の方が、中国の深圳(しんせん)という都市で会社を経営しているんです。その方が地元に貢献したいということで、2019年に深圳の人たちをこちらにお招きできないかという話になりました」
そこから深圳の高校の修学旅行を、松川町で受け入れることに。その年だけで視察を含めて3度の交流が生まれた。
「まずは学校側に松川でやりたいことをお聞きして、こんなことができるんじゃないかと提案をして。スケジュールが決まったら、宿や農園への手配をしていきます。空き状況を確認して、費用はいくらかとか、実務的な調整を進めていきます」
受け入れ側と観光に来る側、両方とやりとりすることになる。生徒や先生とのコミュニケーションは英語が基本。通訳のような形で、帯同することもある。
まちの人たちも海外の人たちを受け入れるのは初めての経験だったので、習慣の違いに驚くこともあったそう。
「中国だとお肉でも洗うのが習慣らしくて、果物狩りしたときに彼らは洗って食べるんですよね。それを見て農家さんは『洗わなくてもおいしいから!』って勧めてましたけど、最終的には洗う人も洗わない人もいましたね」
プログラムを通して、生徒にも農家にも気づきがあることに面白さを感じるという大嶺さん。
「すべて向こうの文化に合わせて受け入れるんじゃなくて、来た人も松川や日本のことを少しでも学んでもらえたらと。それも押し付けであってはいけなくて、こちらも学んで相互理解していくのが大切ですね」
新しく働く人も、文化や習慣の違いを受け入れて、楽しめる人がいいかもしれない。
「次は深圳の企業に勤める方々にも来てもらおうと計画しています。日々忙しい方々が松川に来て自然や食事を味わったり、素朴な人々と交流したり。何もないところですけど、大都市に住む彼らにとってはすごく新鮮だと思うんです。中国に戻ってから、ここで感じた何かをもとにした新しい発想で、いい社会をつくってほしいと思います」
縁のあるところから広げていく取り組みとは別に、新たに開拓していくことも必要になってくる。
「中国だけでなく、台湾などほかの国からの個人旅行客も誘致したいので、まずは既にある中国語版ウェブサイトに載せる動画コンテンツをつくってもらいます。経験があって機材も自前で揃っているならもちろんありがたいですが、最初はスマホで撮影・編集するのでもいいと思っていて」
となると、英語だけでなく中国語のスキルも必要ですか。
「中国語も話せる人だとうれしいですね。英語はコミュニケーションがとれるくらいは必須かな。とはいえ、言語だけで採用することはありません」
コンテンツをつくるだけでなく、情報をどうやって広めるかも考えてもらいたいとのこと。
たとえば、県内の人気スポットである中山道の馬籠宿(まごめじゅく)などと連携してツアーを組んだり、お互いのサイトやSNSで広報しあう関係性をつくったり、旅行会社に企画を持ち込んだり。
「基本的に『今日はこれをやってください』っていう指示はないので、自分から動いて仕事をつくっていける人がいいと思います」
「インバウンド担当の専任はひとりですが、体験の中身はプログラム担当のチームと一緒に考えたりもします。そういう意味では、まったく孤独ではないですね」
その体験交流プログラムを担当する一人である、北原さんにも話を聞いた。
松川町出身で、小学生以降は東京で過ごした北原さん。いつか故郷に戻りたいという思いから、30歳のときに松川町にUターンした。
まちづくりセンターで働きながら、並行して自身で取り組んでいる活動があるという。
ひとつは、親子が森や田畑を使って自由に過ごせる場所づくり。もうひとつは、日本各地の農山村に旅をしてミュージカルをつくるプロジェクト。
「変な言い方ですが、もっと日本人になりたいんです。日本各地で受け継がれてきた行事やお祭り、文化的な暮らしなどを通して、日本人が大事にしてきたことに触れていきたいし、人に伝えていきたい。まちづくりセンターの仕事は、松川にある日本人の知恵や技を掘り起こして、体験として伝えていくことができるからおもしろいんです」
言葉の端々から、熱い思いが伝わってくる。
現在、体験できるプログラムは全部で13個。
地元ガイドと行くナイト登山や尺八奏者との尺八づくり、野菜の収穫体験など、松川の人たちとの交流を通じて、自然や文化、暮らしを体感できるものばかり。
「新しいものをつくるというより、もともとここにある日常を体験してもらえるようなプログラムをつくっています」
順調にプログラムは増えてきたものの、課題も見えてきたという。
「どのプログラムも奥が深くておもしろいんですが、紹介するときにどこまで、どんなふうに伝えたらいいのかを迷っていて」
「たとえば尺八づくりの方は、尺八を吹くことは瞑想に近いと言っていて。呼吸を感じて、自分とは何者なのかっていうところまで考える。そういう奥深さも伝えたいんですけど、紹介文で書きすぎても、少し敬遠されちゃうんじゃないかなって」
そのあたりはむしろ、日本の土着の文化に興味を持つ海外の人へのほうが伝えやすいのかもしれない。まずはインバウンド向けに伝え方を工夫することで、国内向けの発信に活かせることもありそう。
写真や映像でもいいし、読み物やキャッチコピーをつくったり、絵で伝えたり。自分だけで完結させず、企画して得意な人に任せるのもいい。
柔軟な考えでどうしたら伝わるか。インバウンド向け・国内向け問わず、編集者のような視点で考えるのが好きな人にとってはおもしろい仕事だと思う。
北原さんは、どんな人と一緒に働きたいですか。
「人を好きな人がいいですね。まずはこの地域の人たちに出会って、交流を楽しんでもらいたいです」
「松川の人は、向こうからがつがつ来ることはあまりないですけど、こちらから声をかけたら歓迎してくれる人が多いですね。どんなプログラムづくりも、地域の暮らしへの興味や共感からはじまっていくように思います」
人の縁から広がり、形になってきた滞在交流プログラムやインバウンド事業。
もしかしたら、新しく働くことになる人のこれまでの人脈が活かせることもあるかもしれません。
まずは松川町に縁をつくりに訪れてみてください。
(2021/6/16取材 堀上駿)
※一部、撮影時はマスクを外していただきました。