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DIYで暮らしをつくる。
起業して仕事をつくる。
少しずつでも、自分の行動で世界を変えていくような選択肢が増えているのを感じます。
その流れをもっと加速させて、市民一人ひとりがまちをよくしていく当事者になれる未来を描いているのが、長野県塩尻市のみなさん。
役場の人、移住してきた人、高校生、経営者も、何が仕事かわからない人も。
会う人会う人ユニークで、話をしていると、働くとか暮らすとか、いろんなテーマに対する自分の線引きが曖昧になっていく。不思議でおもしろいまちです。
今回は、そんなまちの中心に位置するシビック・イノベーション拠点「スナバ」の運営に携わる地域おこし協力隊を募集します。
任期は3年ですが、長い目でこのコミュニティのことを一緒に考え、行動してくれるような人を求めています。
まずはスナバと、その周辺を取り巻く人たちのこと、知ってほしいです。
新宿駅から特急あずさに乗っておよそ2時間半で、塩尻駅に到着。駅から5分ほど歩いたところにある四角い建物がスナバだ。
コワーキングスペースのほか、事業やプロジェクトの伴走支援、協働のきっかけをつくるようなイベントやプログラムなども実施。「何かはじめたい」という人たちが集い、関わり合いながら、それぞれの想いを形にしていく場になっている。
経営者から中高生まで利用者層は幅広く、メンバーは現在80名ほど。実際にスナバを通じていろんな事業やプロジェクトが立ち上がりつつあるという。
3年前の立ち上げ時から何度か取材してきたけれど、スタッフのみなさんの口から想いや実例について聞くことが多かった。今回は、利用者であるメンバーさんはどんなことに取り組んでいて、スナバの存在をどう感じているのか、会いにいって聞いてみることに。
まず向かったのは、木曽平沢地区。全国的にも知られる木曽漆器の工房や店舗と並んで、「日々別荘」が見えてきた。
迎えてくれたのは、ここの家守の近藤さん。
「ここはもともと別荘でした。地域の人を巻き込むのが好きな家主さんで、お茶やお花、短歌の教室などをよくやっていたそうです。いろんな人がここで過ごした時間や記憶を受け継いで、これからも日々を積み重ねていきたいという想いで日々別荘と名づけました」
お花のインスタレーションをしたり、漆器とお菓子でコラボレーションしたり。
月に一度はオープンデイ。コーヒーやお菓子を用意しながら、誰でもふらっと訪れることができる場をつくっている。
さらに毎月第4土・日曜には、木曽街道沿いを舞台に、暮らしの道具のつくり手たちを集めた「木曽路わたし市」というイベント開催。行政区分が細かく分かれ、ともすると独立した活動になりがちな地域同士をつないでいくような取り組みをはじめている。
日々別荘からスナバまでは30分弱と、少し離れているものの、よく足を運ぶという。
「スナバは、何かやろうと思ったときに背中を押してもらえる場所だと思っていて。言葉に出して伝えておくと、関連することに巻き込んでもらえたり、新しいアイデアが生まれたり。ちっちゃな種まきをしている感覚ですね」
想いはあっても、最初の一歩を踏み出すのはなかなかむずかしい。
いろんなスキルや経験を持った人たちが集まり、お互いのやっていること・やりたいことをおもしろがり合いながら場を共有しているスナバだからこそ、その一歩も踏み出しやすいのだとか。
「あとはスナバに関わるようになって、週5日同じ企業に勤めるのが働き方のすべてではない、って思うようになったかな。自立した人が多いコミュニティなので、今回スタッフになる人も、スナバのためというよりその人自身がスナバを最大限活用できるといいのかなと思います」
続いて、木曽平沢から塩尻市街へ戻る途中にある贄川地区へ。
車を走らせてすぐに「坂勘(さかかん)」という変わった名前のシェアハウスに到着した。
築100年を超えるこの建物では、かつて「坂本屋旅館」という名前で旅館業と雑貨店を営んでいたそう。坂勘は、3代にわたって当主が襲名してきた「諏訪坂勘助」の愛称から。
なかは外観の印象とうって変わって、リノベーションされた空間が広がっている。
ここを運営しているのが、たつみかずきさん。
「今はスタッフや二拠点生活の入居者も含めて、24人がここで暮らしています。ほかにも古物の収集・販売とか、空き家情報のオープン化や商業利用を促進するような空き家バンクの制度設計、あとは近々、この地区で所有している空き物件で飲食店をはじめようと思っていて」
2019年に地域おこし協力隊として塩尻へ。そこから2年半という短い期間で、さまざまなプロジェクトを立ち上げてきた。
そしてじつは、スナバのスタッフでもある。
自身で事業を営みながら、半分メンバーのような形でスナバを活用してきたたつみさん。スタッフとしては、どんなことを意識してきたんですか?
「シフトに入った日は、ずっと誰かと話してますね。ぼくは基本的に、ああだこうだ言わずいいからやろうぜ、いつやる?みたいなタイプで。壁打ちというか、壁を叩き割る (笑)。一人ぐらいそんな人材がいてもいいのかなって」
「ぼくがやっているのは、一言でいうと遊休資産の再生、みたいなことで。それって空き家だけじゃなく、人のことでもあるんですよ。本当はやりたいこととか、自分のキャラクターがあるのに、それを抑えて生きている人がたくさんいる。その一人ひとりが“自分自身として”生きていったときに、塩尻でどんな未来が起こるのか。そこにぼくは興味があります」
根底にあるのは、“人を起点に考える”という価値観。それはきっと、スナバが目指す未来像ともつながっていると思う。
知識やノウハウを伝えて導くというよりも、その人のなかにある火種に息を吹き込むような。そんな伴走ができる人だといい。
坂勘をあとにして、スナバへ。今度は高校2年生の加藤さんとオンラインでつなぐ。
この9月からカナダへ留学中の加藤さん。スナバに関わるきっかけとなったのは、高校生の事業づくりに伴走するプログラム「エヌイチ道場」だった。
「中学3年生のときに環境活動家のグレタ・トゥンベリさんの活動を知って。わたしの2個上ぐらいの同年代の子が、なんでこんな活動をしているんだろうって、グレタさんという人にまず興味を持ったんです。そこから環境問題についても調べるようになって」
環境系のNGOで、大学生に混じって政策提言書を書いたり、オンラインイベントを主催したり、気候マーチに参加したり。
いろいろと動くなかで、ある壁にぶつかった。
「環境問題ってハードルが高いというか、どうしてもお堅い活動のように見えてしまう。もっと誰にでもできるアクションはないのかなって考えたときに、エシカル消費を広めたいと思って、その方向に活動をシフトしていきました」
エシカル消費とは、地球や人にやさしい、サステナブルな商品を選んで買い求めること。
加藤さんは、自分と同じ高校生や若い人たちに向けて、エシカル消費につながるような情報発信ができないかと考え、エヌイチ道場の門を叩いた。
参加してみて、どうでした?
「運営のみなさんがすごくフレンドリーで。先生と生徒みたいな形じゃなく、いろんな人とつなげてもらったり、ブレストの相手になってくれたり。対等に関わってくれたおかげで、大人との壁がなくなったように感じます。スナバがなかったら今のわたしはいないし、参加したことで世界が広がったなって」
その後加藤さんは、エヌイチ道場を通じてエシカル消費の情報メディア「Ethiteria」をオープン。個人事業主として、開業届も出して活動している。
今後は留学先のカナダをはじめ、海外のエシカルな情報発信や、EC機能を設けてサイト内で買いものができるような仕組みも整えていきたいそうだ。
最後に話を聞いたのは、運営スタッフの岩井さん。立ち上げ当初からスナバに関わっている方で、この日の取材も一日アテンドしてくれた。
立ち上げから3年が経ち、スナバは第二創業期とも言えるような、新しいフェーズを迎えているという。
「今向き合っているのが、シビック・イノベーションという言葉の意味です。わたしたちはチームでよく合宿をするんですが、今年の7月の合宿で、あらためてそこを突き詰めたいよね、という話になって」
シビック・イノベーション。直訳すれば、市民による革新だ。
でもそれって、どういうこと? どんな人が実際に起こしている?
国内外のさまざまな事例やデータを挙げながら、今まさに議論を進めているところ。
現時点で見えてきた方向性、みたいなものはあるんでしょうか。
「行政や他人任せにしないで、あなたこそこのまちに変化を起こせる主体なんだと、みんなが思える環境をつくる。草の根的な取り組みがあちこちで勃興して、まちの風景も変わっていく。そうやって、何かはじめたり挑戦したりするなら塩尻行こう、みたいな流れを生んでいきたいですよね」
スナバはそのきっかけを育み、加速させる場所。
エヌイチ道場や社会人向けの「スナバ・ビジネスモデル・ブートキャンプ」など、起業家育成プログラムはそれぞれ年一回のペースで実施。日々の対話やコミュニケーションのなかからアイデアが芽吹くことも多い。
そんななかで、イベントの企画はスタッフの大事な役割のひとつ。読書会や問いを持ち寄り対話するイベント、バーベキューなど、必ずしも事業には直結しないものも徐々に増えているという。
「たとえばバーベキューしながら会話が盛り上がって、何か一緒にやりましょう!みたいなことって起こりますよね。そういう余白をつくるような、文化的なコンテンツを意識的に企画しています」
さらに、オンライン上でメンバー同士のより自律的なつながりを生むため、メンバー専用のSNSのようなものをつくる「スナバリンク」プロジェクトも発足。
スタッフが介在しないところで、事業やプロジェクトが生まれ、育っていく余白や土壌をつくる。それは一見、スタッフの必要性と矛盾するようだけど、持続可能なコミュニティを築いていくうえではとても大事なことなのかもしれない。
「わたし、何かしようと思ってもすぐに飽きちゃうタイプで。自分の想定の範疇を超えないんじゃないかって思っちゃうんです。でもここにいると、自分だけでは見れない未来を見せてくれる人と出会える。だからわたしは、その人たちをロケットの発射台まで連れていって、一緒に新しい世界を見たいんだなって」
岩井さんは、どんな人と働きたいですか。
「自分という枠を超えたところで、人やコミュニティと向き合える人に来てもらいたいですね。同じようなビジョンをもって、長い目でみて一緒にコミュニティを育てていけるような人と出会いたいです」
自分だけ、スナバだけに目を向けていたら、つまらない。塩尻というまち、さらには全国や世界にシビック・イノベーションを広げていくためにも、このスナバで遊び倒してください。
(2021/9/22 取材 中川晃輔)
※撮影時はマスクを外していただきました。