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仕事も遊びも
まちで見つける
城下町の編集者

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「飲食店の仕事のほかに、スタートアップオフィスの運営やイベントの企画、さらにはみかん畑の世話までやっています。どれを誰がやると分担しているのではなく、みんなで分け合ってやっています」

取材前、そんな連絡をくれた株式会社b.noteの新井さん。

どんな話が聞けるんだろう?と、ワクワクしながら山口県の萩市へ向かいました。

鎌倉にある築100年を超える洋館「古我邸」で、レストランとウエディングを運営するb.note。

2018年から取り組んでいるのが、萩でのプロジェクト。地域に残る歴史ある建物を改修し、シェアオフィスやイベントスペース、飲食店、一棟貸しのホテルなどを続々オープンしています。

歴史あるまちを新たな視点で捉えて、価値を生み出していく。まちを“編集”するように、いろんなことに取り組んでいく仕事です。

 

山口県北部にある萩市。江戸時代には毛利家の城下町として栄え、松下村塾など明治維新とゆかりの深い場所も多い。歴史の文脈から、地名を聞いたことがある人も多いと思う。

県南部の瀬戸内海側にある山口宇部空港から、日本海側へ車で約1時間、県内を北上して向かう。

今回の舞台は、萩市浜崎町。

かつて北前船の寄港地だった商人のまち。町屋や蔵が数多く残るまち並みは、2001年に国の「伝統的建造物群保存地区」に指定されている。

「萩市内には、“伝建地区”が3ヶ所もあって。全国的に見てもめずらしいと思います」

案内してくれたのは、b.note代表の新井さん。4年前からここでさまざまな事業を展開している。

「浜崎には、今も町屋で暮らしている人がいます。空き家は市が管理したり、僕らが活用したり。ギリギリではありますけど、今もちゃんと生きているまちだと思います」

「初めて来たのは、鎌倉の古我邸がオープンしたすぐ後ですね。なんだか抜け殻みたいになっちゃって、リフレッシュのつもりで、会社員時代の先輩に連れてきてもらったんです」

独立前は、大手企業で不動産開発をしていた新井さん。

仕事柄、魅力的なまちを訪れると、「こうすればもっと良くなる」というイメージがどんどん湧いてくるんだそう。

「この建物をこう変えて、こんな人たちが集まったら、まちの魅力が最大化するんじゃないか、というように。浜崎に来たときもピンときたんですよ」

「偶然役場の人たちと接点ができて、後日プレゼンする機会をもらったんです。頭の中にあったプランを提案したら、『あるべき論じゃなくて、具体的に誰がどこの資金でやってくれるか聞きたいんだ』って言われて」

それなら自分が、と名乗り出て、事業に興味を持った地域の若手メンバーと建物の改修や運営に取り組みはじめた。

少しずつ、当時描いたプランが形になってきているという。

「ここが、最初にオープンした『ukishima』です。うちの会社も含め、何社かのスタートアップがオフィスとして使っていて。コロナ禍前は、地域で事業をはじめたい人たちのプレゼン会や、バーベキューイベントもやっていました」

建物の一部はDIY。コンポストを設置したり、薪ストーブの薪を置くための棚をつくっていたりと、メンバーが自由に場をつかっている。

さらに5分ほど歩いた場所にある施設が、「旧三浦金物店」。

その名の通りかつて金物店だった建物で、2020年にスタッフ総出でリノベーションした。キッチン付きのシェアスペースで、まちの人たちが物販やイベントなどに活用している。

この日は、数日後に控えたお祭りの出店に向けて、地域おこし協力隊の人たちが準備をしていた。

ほかにも鍋料理店の「いり吉」や、一棟貸しの宿「閂(かんぬき)168」を運営。

今年の夏には、築200年の空き家を「舸子(かこ)176」というスペースに改装し、中国茶が楽しめるカフェとお菓子の工房をオープン予定。月に一度鎌倉からシェフを招いて、フレンチ料理を提供する計画もある。

関わって4年、続々とまちに変化を生み出している。

通りを歩いていると、次々に声をかけられる新井さん。

「この建物がもうすぐ空きそうだとか、後継ぎのいない夏みかん畑を手伝わないかとか(笑)、いろんな話が入ってきますよ」

ちょっと新井さんに相談してみよう、と思われる存在なんですね。

「ただ、話をいただいても、自分やスタッフがそれをやりたいと思えるかどうか、結構こだわって考えますね。ここでの取り組みも全部、やりたいからやっているだけなんですよ」

やりたいからやっているだけ。

「僕は海が好きだから、浜崎に来て、海がきれいでいいところだなとまず思ったんです。不動産の観点だと、こんなに歴史ある建物が用途の制限なく使えることなんて、めったにない。このまちや建物にとって、一番いいかたちをつくってみたい、本当にその気持ちありきでした」

地域を盛り上げたいという想いでまちづくりに取り組む人は多いけれど、新井さんの場合は少し違うみたい。

「結果的にまちが賑わったらいいなと思うし、それが僕たちのおかげって言われたらもちろんうれしい。でも、それを目標に掲げているわけではまったくなくて。本当にただやりたいだけなんです」

「ひとつだけ思うのは、夜に家に灯りがついていてほしいなって。灯りって、そこで人が生きているサインだと思うので」

一緒に働くスタッフにも、やりたいことをやってほしい、と新井さん。

やりたいことをやって、仕事を楽しんでいる人たちがつくる会社は良いものになるし、関わるお客さんやまちの人もきっと喜んでくれるから。

「ただ、楽しめるかどうかって、やっぱり自分次第なので。一緒に働くなら、どんなことにも前向きに取り組んでくれる人がいい。僕らが楽しいと思ってやっていることを、同じように楽しんでくれるといいですよね」

新たにカフェと工房がオープンすることもあり、お菓子づくりが好きな人が来てくれたら活躍できそう、とのこと。

それに限らず、イベント企画や料理、接客販売など、これまでの経験や好きなことと結びつけて、ここでやりたいことを見つけられると良いと思う。

 

江戸時代の土蔵をリノベーションした宿「閂 168」で合流したのが、スタッフの小川さん。立ち上げメンバーで、スタッフ5人をまとめるマネージャーでもある。

日々、どんなふうに働いていますか?

「本当にいろいろやっていて。時間的に長いのは、しゃぶしゃぶ屋さんの仕事ですね。キッチンとホールを5人で分担して、昼と夜の営業をまわしています。料理が得意なスタッフがいるので、新メニューも自分たちで試作して考えますよ」

「それ以外だと、イベントがあればその企画や準備、集客をしたり、新しく施設がオープンするときは、コンセプトや内装を考えたり、DIYしたり。あとは夏みかん農家さんの手伝いもしているし、浜の掃除にも参加するし…」

いろんな仕事に取り組むフリーランスのような状況を、会社全体でつくっている。地域の細やかな活動にも、仕事として正式に取り組むことができる。

だからこそ、仕事と遊びの区別はあまりない、と小川さん。

「休みの日に地域の人と話していて、これ仕事のときと話す内容一緒やなって思うこともあります。私は楽しくてやっているから、忙しいとか大変だとか、まったく思わないんですけどね」

7年前、初めて萩を訪れた小川さん。

もともとは地元の奈良でアパレルの仕事をしていた。一人旅が好きだったこともあり、萩のゲストハウスの短期スタッフに応募することに。

「萩の人たちや風景がすごく好きになって、その後もパン屋のお手伝いやコンビニのアルバイトをしながら残っていたんです。でも、しっくりくる仕事となかなか出会えなくて、一度奈良に帰ることにしました」

奈良で暮らすか萩に戻るか、悩んでいたころに新井さんの話を聞き、鎌倉まで会いに行った。

「新井さんがやろうとしている事業にすごく興味を持って、一緒にやりたいです!ってすぐに言いました」

「私たち、自分たちの仕事を“編集”って呼んでいて。自分の好きなまちに、いろんな人に足を運んでもらえるように、建物と中身をつくっていく。やりがいがある仕事だし、日々年齢も職業もバラバラな人たちと関われるのが、純粋に楽しいなって思います」

思い出に残っていると話してくれたのは、「浜崎に初めて行列ができた日」のこと。

昨年「旧三浦金物店」で、萩出身の大学生が企画したコーヒースタンドと、地元の高校生がサラダボウルを販売するイベントを同じ週末に開催したそう。

「市内の人たちがたくさん集まってくれました。普段コーヒーとか飲まなそうなのに、昔からの知り合いらしいおばあちゃんたちが来て、大きくなったねえって声をかけていたりして」

「場ができるだけで、人が集まって交流が生まれて…。そんな光景を何度も見られるのは、ありがたいことだなあと思います」

新井さんが思い描いた空間をつくるところからはじまった取り組み。

小川さんの話を聞いていると、そこで活動したい人とつなげるところまで、今は仕事が広がっているんだとわかる。

「身近な人がイベントをやっているのを見て、自分もやりたいって動き出す人がいたり、まちに人が増えたからって、古かった暖簾を新しくした和菓子屋さんがいたり」

「初めて来たとき、浜崎って全然人がいなかったんですよ。それが、ここ2、3年はいろんな人が来て交わるようになって、“まちらしく”なってきているなってすごく感じます」

 

地域の人たちは、どう変化を感じているんだろう。

話を聞いたのは、浜崎で印刷屋さんを営む岩崎さん。

まち並み保存活動や観光ガイド、お祭りの運営などに取り組む「浜崎しっちょる会」の中心メンバーでもある。

市民の有志が集まり、活動をはじめて25年。目に見えて空き家が増え、建物が朽ちはじめる状況に、以前はどうすることもできない状態だった。

「困っていたところに新井さんが入ってくれて、非常にありがたかったですね。そうじゃなければ、今いるこの蔵も、崩れてしまっていたかもしれません」

「建物が守られるのはもちろんですけど、会社の若い人たちがまちを歩いてくれていることがうれしいんですよ。近所のおじさんおばさんたちと話をしているのも、これまでの浜崎にはなかった景色ですから。みんなすごく喜んでいますよ」

浜崎の人たちは、新しい取り組みに対しても寛容なんだそう。

「まちの人はイベントごとが結構好きで。小川さんたちに、施設案内のツアーをやってもらったときも、20人くらい集まりましたよ。地元のおじちゃんおばちゃんが、これからお客さんが増えるから、自分たちも知っとかないといけないってね」

「お土産屋さんや飲食店ばかりの完成された観光地にしたら、ここは面白くない。人が動いて、関わりが生まれるのが、浜崎らしいなって思いますね」

建物を直すことで、人が動き、まちが変わる。

その最中にある浜崎で出会ったみなさんは、前向きな気持ちに溢れているようでした。

ここで自分のやりたいことを見つけられそうだと感じたら、ともに変化をつくり出す一員になってほしいと思います。

(2022/5/20取材 増田早紀)

※撮影時はマスクを外していただきました。

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