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季節を丸ごと包み込む布と
ものづくりの仕事

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

映画「となりのトトロ」のなかで、お父さんが寝室に「蚊帳」を吊るシーンがあります。

細い糸で織られたガーゼのような布を、布団の周りにテントのように吊るすことで、外の風を取り込みながら、虫を除ける。

エアコンのなかった時代、蚊帳は夏の必需品でした。

四季の変化に富む日本では、着る、包む、垂らす、敷くなど、「布」をさまざまに工夫することで、自然のそばで心地よく暮らす文化が受け継がれてきました。

その魅力を伝えるものづくりを続けているのが、井上企画・幡(ばん)のみなさん。

奈良で古くからつくられてきた布、麻と蚊帳のふたつをメインに、雑貨や洋服など、素材の良さを実感できるアイテムを届けています。

今回は、ここでものづくりに携わるスタッフを募集します。小さなメーカーなので、「〇〇職」というふうに、募集職種を限定するのは難しい。部署間のローテーションや、掛け持ちなど、一人ひとりが臨機応変に役割を担う姿勢が欠かせません。

スタッフの多くは総合職のような形で入社し、さまざまな仕事を経験しながら自分の役割を見つけてきました。生産管理、企画、営業、接客、広報やオンラインストアの運営、ときには、直営店に併設されたカフェで調理補助に入ることもあります。

だからこそ、ものをつくり届ける仕事のはじめから終わりまで、一連の流れを通して身につけられるのもこの職場のいいところ。

はじめて社会に出る人には、特に知ってほしい会社です。



JR奈良駅から車で市街地を走っていくと、当たり前のように鹿がいる。

初夏には、生まれたばかりの子鹿の姿も見られるため、地元の人たちは毎年この時期を心待ちにしているらしい。

幡の本社へは、市の中心部から15分ほど。京都との県境で、あたりには里山の雰囲気が残っている。

そばには川が流れていて、ときどき鳥の声が聞こえる。

幡のみなさんと連絡を取り合うときには、梅の香りが漂いはじめたとか、雲の形が変わってきたとか、都市部の暮らしで見逃しがちなことを教えてもらうことも多かった。

「キツツキやキジと遭遇したり、アナグマが顔を出したり。昨日も朝礼をしている最中に部屋にサワガニが入ってきて、それが本当に絶妙なタイミングだったので、みんな笑ってしまって」

そう話すのは、代表の林田千華さん。会うといつも、気さくに話をしてくれる。

「奈良の夏って、本当に蒸し暑いでしょう。私も若いころは、田舎で嫌だなって思っていたんです。だけど大人になってみると、建物が低いから空がたくさん見えるし、緑も多くて季節を感じられる。最近やっと胸を張って、奈良いいなって言えるようになりました」

「海外など遠くに暮らすお客さまにも、いつか奈良に遊びに来てほしい。この空気感のなかで、あらためて感じる素材の良さを伝えられたらなと思います」

幡はもともと、林田さんのご両親が35年前に立ち上げたブランド。

写真家の井上博道さんと、奈良晒の老舗に生まれ育った井上千鶴さんが、日本の伝統的な美しさを取り入れた暮らしの提案として、麻生地を使った生活雑貨をつくりはじめた。

麻の色や風合いを活かしたシンプルなテーブルウェアは、その当時からのロングセラー。

はじめは、百貨店のなかにある小さなお店から。やがてカフェやギャラリーを併設する直営店ができ、出会いの場を広げてきた。

10年ほど前からは、蚊帳生地を使った服づくりも始まった。

吸水、通気に優れた蚊帳の生地は、洗いを重ねると糸が膨らみ、独特の柔らかさが出る。家庭では布巾などの用途で使われることも多い。

当時、子育てをしていた林田さんが子供服をつくってみたことが、開発のきっかけだった。

「普段着として心地よく着てもらいたいというのはもちろん、やっぱり洋服って見た目でワクワクするとか、身につけて楽しい気持ちになるっていうことも大切だと思うんです」

そんな思いもあり、幡の「かやシリーズ」には、20色近くのカラーバリエーションがある。

どれも日本の伝統色を意識した配色で、単体でも組み合わせでも楽しむことができる。

シーズンを重ねるごとにファンが増え、生産の規模も拡大。昨シーズンからは、洋服をつくるときに出る裁断クズを集めて、製品としてアップサイクルする取り組みもはじまった。

「コロナ禍の2年間は不自由も多かったですが、今まで目を伏せていたことを考える時間を持つことができました。ただ、やっぱり人とのコミュニケーションという面では、はやくもとの生活に戻りたいです」

幡では今まで、社屋の1階にある大きなテーブルを囲んでお昼ご飯を食べるのが日常だった。コロナ以降は各自がデスクで食べるようになり、スタッフ同士でたわいない話をする機会は少し減ってしまったという。

「働く人たちが、お互いを知る時間ってすごく大切で。履歴書や面接だけでは、人柄ってやっぱりわからないですよね。それはスタッフ自身も同じで、実際に会社に入って働いてみないと、自分が社会人として何ができるのかわからないと思うんです」

私も実は学生のころ、ものづくりの仕事に憧れがあったのですが、「ものづくり=企画職じゃなきゃ!」っていうイメージに囚われすぎて、就活は難航しました。

「その気持ちは、私もわかります。メーカーの仕事って実際は、つくる、売る、伝えるっていうふうに、いろんなことが複雑につながってできていて。その全体像を理解するには、3年、5年かけて、いろんな役割を担ってもらうほうがいいと思うんです」

「若いうちは、未熟で当たり前。私たちは時間をかけて、その人のいいところを見て伸ばしたいので、素直な気持ちで入ってきてくれたらいいですね」

林田さんが若い人を見守るスタンス、聞いていていつもホッとします。

「いやいや、見守れてはいないです! 口出しはめちゃくちゃしますよ(笑)。でも、心のなかでは『自分もそうだった。しゃーない、しゃーない』って。新人さんに手取り足取り教えてあげるのは難しいけど、困ったときに質問しにくい雰囲気にだけは、しないように気をつけています」

幡の本社では現在、20代から70代まで、幅広い年代のスタッフが働いている。

庭付きの社屋はもともと住宅用のしつらえになっていて、どこか家のような落ち着いた雰囲気も感じる。

2階が事務所で、1階は裁断などの作業場。ここで迎えてくれたのは、入社して15年目になる武田さん。

「普段は納期に追われて忙しいこともあるんですけど、こうして反物が並んでいるのを眺めていると、やっぱりものづくりの仕事っていいなと思います」

武田さんが担う「製作」は、反物の仕入れや工場との折衝といった、生産管理のようなポジション。

在庫を見ながら生産の調整をしたり、パートや内職のスタッフとコミュニケーションをとったり。

「私が入社して3年目くらいのとき、縫製工場を新たに探すことになって。その問い合わせを任されたものの、当時は引っ込み思案で、なかなか動き出せずにいたんです。そうしたら、別の部署の先輩が『一緒にやろう』って、縫製工場のリストをつくってきてくれて」

「そうやって部署の垣根をこえて助け合う感覚は、みんなに共通しています。周りを見て、気づいたら手伝うのが当たり前というか」

新卒で入社したときは、どの職種につきたいという具体的な希望はなかったという武田さん。

先輩に勧められるまま、製作の担当になって15年。今は、これが自分の性に合っていたと感じている。自分の得意に気づかせてくれるのは、案外、他人の眼なのかもしれない。

「もともとものづくりは好きなので、自分が関わった商品が完成して、お客さんから褒めていただくのはうれしいです。あとは内職の方が『仕事がすごく楽しい』って言ってくださることがあって。そういうのを聞いたときに、ああ、よかったなと思います」

「やっぱり、この先何十年とものづくりを続けていくためには、工場さんや内職の方に無理をさせて泣かせるような状況ではいけない。お互い喜んで仕事ができるように、対等な関係を築いていくのが、製作の役割なのかなと思っています」



任されたことを素直にやってみる。その時間の積み重ねのなかで、仕事の醍醐味がわかるようになる。

入社して7年目になる鬼頭さんは、広報や企画など、いくつもの仕事を掛け持ちしている。

「もともと企画職を希望して入社したんですが、最初は店舗の勤務と出荷業務、その後会社に戻ってからは オンラインショップの運用や店舗のDMやポップのデザインをしながら、少しずつ服の企画に携わるようになりました」

「3年くらい前からは服の企画がメインの業務となり、最近は、店舗のPRや海外バイヤーへの営業やSNS運用など、国内外へ広報的な役割が増えてきました。」

最初から希望の仕事ができたわけではなかったんですね。

「それがもどかしく感じる期間もありましたし、仕事が増えてきて弱音を吐いたこともありました。だけど今となっては、いろんな仕事を経験したことが、企画の引き出しになっているのかなと思います」

企画といっても、新しい服をデザインするだけでなく、定番シリーズのシルエットや縫い方を改良していくのも鬼頭さんたちの仕事。

社内でいろんな年代、体型のスタッフに試着をしてもらったり、お客さんからの声を共有したり。そんなコミュニケーションがヒントになることも多い。

「海外向けに営業をするとき、バイヤーさんから言われた言葉の中には、アイテムのサイズ展開に今後生かしたいと思うこともありました。一見別々に見える仕事も、実はひとつにつながっていたんだなあって、最近は思います」

「私はもともと、このブランドの雰囲気や、奈良の風土に惹かれて入社したんですが、本当に幡の製品の良さがわかるようになったのは、最近かもしれないです」

製品の良さ。

「蚊帳の服は、もともと林田が子どものためにつくったものです。それと同じように、どのアイテムにも“人を想う”っていうコンセプトが共通していて。だからこそ、お客さまから『いいね』っていう言葉をいただけるんだなって、少しずつ実感しているところです」

結論を急がないほうが、大きな実りが得られる。

鬼頭さんは、最後にこんなメッセージをくれました。

「ときには『まあ、いっか』っていう気持ちで過ごすことも大切だと思います」

焦らず、じっくり。

古都のおおらかな自然に触れ、心動かされる時間もまた、ものづくりの糧になるはずです。

(2022/7/8 取材 高橋佑香子)

※撮影時はマスクを外していただきました。

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